婚約破棄された悪役令嬢は、その愛に淑女の威厳を崩される
『生涯、君を愛して守り抜くから。この国とともに』
幼い日。花の香りに包まれた秘密の花園で、私に誓ってくれた貴方は、もういない。
――――――――あれから十年
「シンシア! 貴様の悪事も今日までだ! 今ここで、婚約を破棄する!」
壇上より私を指さして見下ろすのは、私の婚約者でもあり、この国の王太子殿下でもあるバルカン様。昔、私と国を愛して守り抜く、と言っていたのに。
金髪碧眼で、見た目だけは良い。頭は…………いつから、あんな残念なことになったのか。昔は神童と呼ばれ、将来を有望視されていたけど。
貴族が通う学校のホール。そこで私は今日、公爵家の娘として、将来の王妃として、優秀な成績をおさめ、卒業する予定だった。
あのバルカン……略してバカ殿下が問題を起こすまでは。
なんとなくこうなることを予想していた私は持っていた扇子を広げ、口元を隠して訊ねた。
「婚約破棄については、あとで書類を送ってください。両親と確認いたしますので。あと、悪事とやらについては別室でお聞きします。まずは、場所を移しましょう」
「ハッ! そう言って逃げるつもりだろうが、そうはさせん! ディアンヌへの嫌がらせ、暴力の数々! 証拠はあがっているんだぞ!」
そう言ってバカ殿下……っと、失礼。バルカン様は隣に立つ女子生徒の肩を引き寄せた。可愛らしい顔立ちの儚い雰囲気で、守ってあげたくなるような容姿。
名前はディアンヌ・ヴィラデスト男爵令嬢。成績の良さと、その強かさで、この学園に入学してきた。
ディアンヌ嬢が怯えた表情で私を見下ろす。でも、その瞳は獲物にとどめを刺さんとばかりに輝く。
(あら、あら。それぐらいの野心は隠せないと、この腹黒な貴族社会は生き残れませんよ)
お節介なことを考えながら私は提言した。
「本日の主役はこの学園の卒業生。この国の未来を担う方々です。その門出をこれ以上、私たちの私情で乱すわけにはまいりません」
「その心配はいらん。貴様の断罪が終われば、華々しくパーティーをおこなう。新しい王妃の決定を祝してな」
微笑み合うバルカン様とディアンヌ嬢。
(だから、主役は卒業生で、留年して卒業できないバカ殿下と、在校生のディアンヌ嬢ではないんです)
喉から出かけた言葉をなんとか呑み込む。王家の権力を使っても、どうにも出来ないバカっぷり。家庭教師もついているはずなのに、どうしてここまで……
この茶番劇を保護者たちがいない卒業パーティーでおこなう、という頭脳だけはあったらしい。たぶん、誰かの入れ知恵でしょうけど。
扇子の下からさりげなく周囲を観察する。驚愕する者、狼狽える者、状況を理解して静観する者……そして、口元を緩め値踏みしている者。
家柄とそれぞれの表情を照らし合わせて考察する。
(最近、貴族内にも新興勢力が現われたけど、それに関連している方々が中心のようね。そういえば、ディアンヌ嬢の家も……)
ディアンヌ嬢の祖父は不毛であった土地を数年で豊かな穀倉地帯に変え、その功績が認められて男爵という爵位が与えられた。そこから農業を中心に病気に強い作物や、新種の作物を生産して発展。貴族たちの間でも一目も二目も置かれる存在となった。
男爵は通常であれば一代限りの爵位。だが、ヴィラデスト家はその功績が認められ、特例で次代も男爵が続いている。今はディアンヌ嬢の父が当主だが、裏では強い野心家として囁かれており、要注意人物の一人でもある。
沈黙していると、ディアンヌ嬢が微かに手を震わせてバルカン様にすがりついた。その仕草にバルカン様の顔がほころぶ。
「あぁ、ディアンヌ。こんなに怯えて可愛そうに。すぐに終わらせるからな」
「私は大丈夫です、バルカン王太子殿下」
「そんな堅苦しく呼ばなくていい。君はもう婚約者だ。バルカンと呼んでくれ」
「嬉しいですわ、バルカン様」
甘く微笑み合う二人。一国の王ともなろう者が……時と場所をわきまえられないのか。もう、ここまできたら矯正は無理なのかもしれない。
すべてを諦めた私は扇子を閉じた。
「わかりました。これ以上、場を乱すのは不本意ですが、場所を移したくないのであれば、このままお聞きします」
「やっと観念したか。では、シンシア! 貴様はディアンヌに嫉妬して嫌がらせをしたな?」
「嫌がらせも嫉妬もしておりません」
シレッと答えた私にバルカン様が悠々と続ける。
「だが、証拠はあがっているぞ! 初学期にディアンヌの教科書が破られた事件! 授業の後、貴様が破いていたという証言がある」
「……私が、ですか?」
「そうだ」
「私が一人で、ですか?」
「そうだ!」
私は呆れながらも、優雅に再び扇子を広げた。公爵令嬢たるもの、どんなに呆れても、それを顔に出すわけにはいかない。
「では、こちらでも確認いたしましょう。公爵令嬢である私が学園の滞在中に一時でも一人になることがあったのか。バルカン様、あなたに必ず従者が付いているように、私もかならず侍女か誰かが付いております。もし、私が一人になる瞬間があったとなれば……それは、警備上での大問題になりますから」
バルカン様がポカンとなる。そこでディアンヌ嬢がすかさずバルカン様の袖を引っ張った。
「はっ! そ、それは勝手な言い訳だ! 見苦しいぞ!」
(せめて、話をすり替えるな、と言うなら分かりますが、言い訳とか見苦しいとか……バルカン様の方が見苦しいです)
またしても喉から出かかった言葉を呑み込む。すると、ディアンヌ嬢が肩を震わせて、蚊がなくような声を出した。
「学期の半ばでは階段から突き落とされました。幸い、ケガはいたしませんでしたが……とても、怖かったです」
「そ、そうだ! ディアンヌを突き落とした! 他にも目撃者がいる!」
私はスッと目を細めた。そう、その出来事で私はディアンヌ嬢に疑いの眼差しを向けるようになった。
「それは不運な事故、としか言いようがありませんわ。そもそも、私は広い階段の端、しかも壁側を登っておりました。そこに手すり側を走って降りていたディアンヌ嬢がわざわざ私の側まで来て、階段を踏み外しました。階下まで残り二段のところで」
突き落としたというには、かなり苦しい状況。でも、それ以上のことが出来なかったから仕方ないのだろう。
これ以降、私は階段を使う時には前後左右を侍女や学友で固め、ディアンヌ嬢が直接近づけないようにした。そして、ディアンヌ嬢の動向を把握するように。
すると、故意にこちらに近づいてくる、近づいてくる。そのすべてを華麗にかわして学園生活を送るのは、暇つぶし程度の楽しみにはなりました。
しかし、なにを思ったのかバルカン様が嬉しそうに意気揚々と声をあげる。
「突き落としたことを事故と言い換えたな! 罪から逃れようとしたな!」
「……」
あまりにもご都合主義的な思考回路に私は絶句した。
「ですから、私は突き落としてなど……」
「王家の宝石を盗むような低劣な者が言いそうなことだ!」
「は?」
これはさすがに呑み込めず、口から出してしまった。表情も少し崩れてしまったかもしれない。
「知らないと思ったか!? 貴様が盗み出した宝石の数々が商人に売られていたのを私が見つけて回収したのだ!」
腰に手をあててふんぞり返るバルカン様。いや、まさか……私を陥れるために、自作自演の盗みを……?
斜め上すぎる衝撃に落としそうになった扇子を持ち直す。
「し、失礼いたしました。そのことについては初耳で、正直、驚いております。そもそも、なぜ私が王家の宝石を盗み、売るようなことを? 我が公爵家は金銭に不自由はしておりませんので、そのようなことをする理由がございません」
「だから、それは嫉妬からだ! 私の注意をひきたくてしたのだろう! 宝石を売られた商人は貴様が売りに来た証言しているぞ」
私はふつふつと湧き出る感情をこらえながら訊ねた。
「私が売った、と言われたのですか?」
「そうだ。貴様が一人で現われて、こっそり売ったと」
「では、その商人にも確認しましょう。私が顔を合わせる商人は公爵家と長年取引をしている者だけ。その者たちとは必ず公爵家の屋敷の専用の部屋で顔を合わせますから」
「なにをとぼけたことを言っている! 貴様が一人で店に行って売ったのだろう!」
ここで私は分かりやすく大きくため息を吐いた。
「私は公爵令嬢。いついかなる時も命を狙われる危険があります。ですので、一人で外出するなどありえません。それと、バルカン様は一つ、大きな勘違いをされています」
「な、なんだ?」
私はピシャリと大きく音をたてて扇子を閉じた。
「私は嫉妬していない、と最初に申し上げました。動機が嫉妬というのは、お止めください」
どうしても、これだけは譲れない。
(このバカ殿下を愛するなんて、ましてや嫉妬するなんてプライドが許さない)
しかし、私の言葉が信じられないのかバルカン様が目を丸くして私を見る。
「貴様は私を愛していないというのか? 王太子である私を!? 皆から好かれている私を!?」
どうやったら、ここまで自意識過剰の自己肯定感満載の人間が育つのか。
私は努めて淡々と説明した。
「これは政略結婚。国を維持し、繁栄させるため。そこに個人の愛は必要でしょうか?」
バルカン様が顔を真っ赤にして声を震わせる。
「どいつも、こいつも政略結婚、政略結婚……なぜ、愛がある結婚をしたらいけない!? なぜ、国のために自分を犠牲にしなければいけない!? 本のように、すべてを叶えた世界があってもいいだろ!」
その言葉につい冷めた視線になった。そういえば、バルカン様は物語、とくに純愛小説が好きで。その結果がコレ。純愛に暴走した、と。
「嫌ならば国を捨てて自由に生きればよろしいでしょう。でも、この贅沢な生活は捨てたくない。でも、愛は欲しい。それは、自分の責務から逃げている、ワガママな子どもの言い訳です」
そこでバルカン様が聞いたことがないほどの大声で怒鳴った。
「五月蠅い! うるさい! ウルサイ! 私を侮辱したな! 不敬罪だ! 斬首だ!」
幼子のように喚き散らすバルカン様。とても見ていられない。
「お話は以上でしょうか? 私は場を乱した責を負いまして退室します」
優雅に膝を折った私は踵を返した……ところで、二人の生徒に道を塞がれた。
「なにか、ご用ですの?」
背中からバルカン様が命令をする。
「そいつを捕まえろ! 縄で縛り上げて即刻、首をはねろ!」
「そのようなことが出来るわけ……えっ!? 痛っ!」
生徒の一人が私の腕を締め上げ、もう一人が縄で縛り上げた。
一気にホール内がざわつく。数人の生徒が外へ出ようとしたが、別の生徒が剣を手出して阻む。安全のため、学園内は武器は持ち込み禁止なのに。
「まさか、ここまで準備して!?」
私は罪人のように連行され、壇上から降りてきたバルカン様の前で両膝を床につかされた。バルカン様の手には鈍く光る剣。
いまにも斬りかかりそうな気配のバルカン様に私は訴えた。
「バルカン様! 落ち着いてください! 公爵家の私に王子であるバルカン様がそのようなことをされたら、国を二分する戦争が起きます!」
「なにを、たかが小娘一人斬ったところで、なにも問題は起きん」
他の生徒たちも騒ぐが、剣を持った生徒たちに制圧される。
私はなりふりかわまず叫んだ。
「我が公爵家は国が創立する前より続く古き一族にして、この地の王族の末裔。定期的にこの国の王族と血縁を結ぶことで土地を一つにまとめ、国を治めてきました。それを斬るというのですか!?」
「その古く悪しき習慣があるからいけないのだ! ここで私は新しい世界を作る!」
周囲を見れば、新興勢力の貴族の生徒たち。もしかしたら、これは自分たちの子を使った、親たち貴族による反乱の一歩。内乱をおこして、貴族の中での地位を高める、あわよくば王座を狙って!?
私は必死に考えた。この場を抑え、内乱をおこさない方法を。そのためには……
「わかりました」
騒がしかったホールが私の一言で静かになる。私は額が床につきそうなほど頭をさげた。
「ディアンヌ嬢への嫌がらせ、暴力の数々。そして、バルカン王太子殿下への暴言、不敬の数々。すべて私の不徳がいたしましたこと。申し訳ございません」
長い髪が頬を流れ、床を這う。バルカン様は満足そうに高笑いをした。
「やぁっと、認めたか! よし! その潔さに免じて、苦しまぬよう一撃で首を落としてやろう」
ブン……と剣を振る音がする。見守っていた生徒たちが口々に叫んだ。
「シンシア様!」
「ダメです! シンシア様!」
「お待ちください!」
「バルカン王太子殿下! お考え直しを!」
その抗議の声に私は頭をさげたまま声を張り上げた。
「静まりなさい!」
ホールに静寂が落ちる。
「すべては私が未熟であったことが原因。決して、王家に非はありません。そこを間違えないように。そして、争いがおこらないよう皆で協力して国をまとめてください」
私の言葉が終わり、どこからともなくすすり泣くような声が。悔し混じりのため息や歯ぎしりが聞こえる。
「シンシア様……」
「わかりました」
ホールが一瞬で葬式のような空気になった。
そう、ここで逆らってはいけない。ここで起きたことを他の生徒たちが両親に伝えてくれるだろう。そして、両親は私の意図に気付いてくれるだろう。内乱だけは、おこしていけない。戦争だけは。
私の命でそれが避けられるなら。
音もなく影が落ちる。私の隣に剣を持ったバルカン様が立った。
「なにか、言い残すことはあるか?」
震えそうになる体に力を入れる。ふと蘇る、幼い頃に聞いた言葉。
『生涯、君を愛して守り抜くから。この国とともに』
あの頃に戻れるなら戻りたい。でも、それは無理なこと。ならば、淑女として、このまま優雅に最期を。
「ありません」
スッと剣を振り上げる気配。私は大きく息を吸って目を閉じた。
「そこまでだ!」
ホールにあるすべての扉が開け放たれ、鎧がこすれる音となだれ込む足音で占領される。
「誰だ!? 今は学園の卒業パーティーの最中だぞ!」
バルカン様の発言に私は脱力しかけた。
(ここまでして、これをパーティーと言う? 私の処刑は余興とでも?)
緊張していた糸が切れたせいか、いつも引き締めている顔が緩み、涙腺が崩壊した。
うつむいたままの私の頭上を声が飛ぶ。
「剣を持っている生徒を全員、捕縛しろ! 残りは証言者として別室へ連れていけ! 一人も外に出すな。尋問が終わるまで、外部と接触させるな」
テキパキと指示を出す声。その声は今まで私を罵り、処刑しようとしていたバルカン様の声。けど、そこに。
「やめっ! 貴様ら! 私を王太子と知ってのおこないか!?」
抵抗するバルカン様の声。
(え? え? 指示をしながら、捕まって?)
状況が分からない私は思わず顔をあげた。すると、目の前には片膝をついて、私を心配そうに覗き込む紺碧の瞳……
「……バルカン、さま?」
私の一言にプッと吹き出す目の前の青年。バルカン様とよく似ているけど、バルカン様はこんな風に顔を崩して笑わない。笑うなら人を見下し嘲るような笑い。
それに、バルカン様はディアンヌ嬢とともに兵士に無理矢理連行されている最中。ちなみにディアンヌ嬢は可愛らしさを活かして無実を訴えているけど、兵士に相手にさえされていない。
(だとしたら、この青年は……誰?)
目の前の青年が縛られていた縄を切り、ハンカチを出して私の頬に当てた。
「いつも気丈で淑女の君がこんなになるなんて。助けにくるのが遅くなって、すまなかった」
私は頬にあるハンカチに触れ、そこで自分が泣いていることに気がついた。
「あの、あなたは……」
青年が金髪を揺らして微笑む。バルカン様と同じ碧眼なのに、比べものにならないほど優しく私を見つめる。
「忘れたかな? 昔、君をこの国とともに愛して守るって誓ったんだけど」
唐突に蘇る幼い頃の記憶。でも、あの言葉を言ったのは……
「それは、バルカン様が……」
青年が残念そうに苦笑いをする。
「やっぱり、そう思っていたか。私はバルカンの双子の弟、ヴィン。バルカンの婚約者として育てられていたし、そう覚え違いをしていても仕方ないか」
「ふ、双子!?」
私は思わず後ずさった。この国では双子は不吉な象徴。そのため、片割れは親戚の家などで育てられる。
「そう。それで、隣国の公爵家で育てられていたんだけど、バルカンとその周囲で不穏な動きがあると耳にしてね。探りを入れていたんだ」
「隣国の公爵家って……」
「君の親戚の、ね。だから、君の近況もいろいろ聞いていたよ」
我が家は古い血筋の公爵家であり、近隣諸国にも影響力はそこそこある。そのため、国との繋がりと強くしたい隣国の貴族から婚約を申し込まれて嫁ぐこともあり、隣国の貴族に複数の親族がいる。
けど、まさか、こんなことになっていたなんて!?
呆然とする私の頭をヴィンが撫でた。その優しい感触が、張りつめていた私の心をほぐしていく。
「君がこんなことになっているなんて、肝が冷えたよ。本当に、死ぬつもりだったの?」
「だっ……そ、それが……公爵令嬢として、生まれ……」
緊張が解け、声が震えて涙があふれた。助かったんだと実感する。でも、人前で感情を出すなんて。ましてや泣くなんてあり得ないこと。なのに、鼻水まで!
必死に歯を食いしばり、ハンカチで涙を拭いながら、鼻水も誤魔化す。けど、鼻水って涙と違って粘っこくて伸びる! いや、ちょ、広がらないで!
いつの間にか必死に鼻水と格闘していると、ふわりと温もりに包まれた。懐かしい花の香りが鼻をくすぐる。
私はヴィンの腕の中で驚いたまま顔をあげた。
「ほら、これで周りからは見えないよ」
「えっ、あ、その……ありがとうございます?」
「どういたしまして。でも、君が私の幼い頃にしてくれたことに比べたら、なんてことないけどね」
「幼い、頃?」
ヴィンが私を緩く抱きしめる。まるで存在を確認するかのように。
「双子であった私は忌み子として人から避けられていてね。そんな中、君だけが普通に話して遊んでくれた」
「それは知らなかっただけで……」
「でも、とても嬉しかった」
幼い頃、親と一緒に城を訪れては秘密の花園と呼ばれる庭でこっそり遊んでいた。そこで、ある日。勉強している子どもと出会った。その子はとても物知りで、頭が良くて。私はいろいろ教えてもらった。
「父に聞いたら、神童と呼ばれていて将来を有望視されているから、一緒に遊びなさいと」
「そうだね。それで、逆に王家を疎ましく思っている連中から命を狙われてたんだ。そいつらは双子が国に災いをもたらすと言って。それで私は秘密裏に君の父の協力で国外に逃げた」
「じゃあ、私はバルカン様とあなたを混同して覚えて……」
「あぁ。それで混乱させてしまったようだ。すまない」
衝撃の真実に言葉が出ない私は顔をあげたまま固まった。ヴィンが私の髪を撫でながら話を続ける。
「だが、今回のことで反乱分子を燻り出すことができた。バルカンは操り人形として利用されただけだが、あの間抜けぶりでは王族には置いておけない。ディアンヌとともに、それ相応の処罰が下るだろう」
「はい」
それは当然の結果。貴族内でもかなり勢力図が変わるだろう。
「それで、私が王太子になると思うんだけど。婚約者はシンシア、君でいいかな? 学園の成績が主席で王妃教育も終了している君より優秀な婚約者はいないと思うんだ」
「え? あ、そ、そうですね」
「ただ、一つだけお願いがあるんだけど」
その言葉に私は身構えた。いつもの私に戻る。
「はい。私にできることでしたらお応えいたします」
「私には嫉妬してほしいな」
にっこりと笑って言われたおねだり。美形で眩しくて、それでいてカッコいいけど、内容がソレ!?
「あの、政略結婚に愛は必要ないと思いますが?」
「そうだね。でも、ないよりあったほうが良くない?」
そう言って私の髪を一房手に取り、口づける。その姿に、いついかなる時も動揺しないように教育された私でも顔が真っ赤に。あと、心臓が破裂しそうなほど暴走を始めて。
「か、考えさせていただきます!」
「前向きにお願いするよ」
この日からヴィンの猛アタックが開始され、私は今まで積み上げてきた淑女の威厳を崩されることになる。
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