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魔法帝国君主論 ー前世の知識を得たら魔法が使えなくなったので、取り戻すために近代化した帝国の帝になりますー  作者: 芥川輪舞(旧:桜月詩星)
第1章 立派な帝になってください(12歳 魔法喪失編)
8/21

第五話「前世の知識」

 結局今日は僕が言語学と数学でどれだけのレベルにあるのか確認する日ということになった。

 今日のことを踏まえてこれからのそれぞれのカリキュラムを考えるらしい。


「ではまずは言語学から見ていきましょう」


 言語学という響きは国語とはかなり違うように思える。

 果たしてどれほどの違いがあるのだろうか。


「言語学では、文法の仕組みを理解する文法学と、論理的な表現方法を理解する論理学を主に扱います。他にもあるのですが、基本的な言葉の使い方を理解するのはこの二つを学ぶことで十分でしょう」


 うーん、要するにやることは国語な気がする。

 今が12歳だから中学生の勉強の先取りを今からやるのだとして、国語でやることといえば、漢字の習得、慣用句、接続語とかの使い方、それらの理解に基づいた読解や作文の実践といったところだろうか?


 そうなのだとしたら、楽にできそうだという希望が少しあった。

 なんせ自分は大学受験の国語で良い点数を取れていたのだ。

 日本語とこの国のロエグランド語とは違うが、それでもニコラとして12年間生きてきた土台がある。

 論理的な言い方に違いは無いだろうし、きっと大丈夫だろう────そう思っていた時期が僕にもありました。


「言語における論理的な表現の仕方はどれだけあるでしょう?」


 12歳にする質問か!?

 そもそも論理的な表現ってなんだ。

 大学受験で出てこなかったぞそんなの……いや、待てよ?

 数学で習ったような記憶が。確か──


「背理法?」

「おお、たしかに背理法は論理的な表現の仕方の一つですな。かなり難しいものをご存じで。では、他には何がありますかな?」


 どうやらそういう答え方で良かったらしい。

 国語のつもりで身構えていたから、想定していない方向から殴られたような気分だ。

 でも、おかげで色々と数学で習ったことを思い出した。


「他は、帰納法、演繹法、後は……なんかあったっけ?」

「それで全てですな。それにしても難しい言い方まで知っておられるとは」


 3つですべてのようだ。

 帰納法は少し難しかった記憶があるし、背理法はそれを使う機会があるのか分からないようなものだった。

 数学で習ったとはいえ、計算がメインじゃない特殊な分野だったし、よく思い出せたものだ。


「では、それぞれ3つがどのようなものか説明してもらいましょうか」


 次のヴィクターの言葉に固まる。

 やばい、上手く言葉で説明できる気がしない。

 仕方ないので紙とペンで説明することにした。


「えーと、確か背理法は命題が真であると仮定したいときに、まず偽であると仮定してそれが矛盾になるから、偽としたのが間違いで、つまり真であると証明するものだっけ」

「はい。命題や真偽、証明までご存知とは、本当に素晴らしいですな」


 何かものすごい勢いで評価が上がってる気がする……。

 自重とか考えた方が良いのだろうか。


「帰納法は……ダメだな、命題でも説明できない。えーと確か自然数に関する命題P(n)が任意の自然数nに対して成り立つ事を証明するために、まずP(1)が成り立つことを示して、任意の自然数kに対して、「P(k)ならばP(k+1)」が成り立つ事を示す、だったっけ?」

「は?」

「は?」


 ヴィクターとの間に沈黙が流れる。

 何かまずいことをしてしまっただろうか……?


「えーと、それをどこでお知りになられましたかな?」


 まっずいまずい。

 二重の意味でまずい。

 どこで知ったなんて言えるわけないし、もしかしたら新しい公式を発見したみたいなことになっている可能性もある。

 かなりまずい状況だ。

 とりあえずなんとかごまかすか。


「えーと、なんかの本で読んだ、かな?」

「本? まだ論文として発表されてから出版などされていないはずでしたが……論文まで読まれていたのですか?」


 もっとまずいことになった☆

 論文なんか読んでないことを知っているセーラからすごい視線を感じる。

 なんて言い訳したものか……。


「うーん、あんまりよく覚えていないから忘れちゃった」


 苦し紛れに言う。

 いやあ、本当に苦しいなあ。


「そうですか、それなら仕方ないですな」


 しかし、僕の予想に反してハッハッハと快活にヴィクターが笑う。

 いや、突っ込まないんかい!

 何で知ったか覚えていない割には内容正確に覚えてんなとか、色々おかしいところあっただろ。

 自分でも苦しいこと言ってんなと思ってたのに!

 まあ突っ込まれないならそれに越したことは無い。

 それよりも今のことで重要なことを聞かされた。

 論文で発表されたばかりの内容だということだ。


「しかしですな、それは数学的帰納法であって帰納法ではありませんな」


 ……は?

 知ったことを整理しようとする前にヴィクターから衝撃的なことを言われて固まる。

 え、数学的帰納法って帰納法じゃないの……?


「個々の事例を見ていくことが帰納法と似通っていることから数学的帰納法と名付けられたものですな。ただ、実際には命題を証明するという時点で演繹法ですな」


 あ、なるほど。名前に騙されていたのか。


「個々の事例を見ていって真の命題を導き出すのが帰納法で、命題から個々の事例を導き出すのが演繹法ってことかー」

「ご名答。ちなみに数学的帰納法自体は昔から知られていましたが、さっき殿下がおっしゃられた説明方法は最近論文として出されたものですな(*1)。それで驚いた次第です」

「へ、へえ……。何で知ったんだろうねえ」


 最先端のことを知っている12歳になってしまった。

 自重した方がいいかとか考えた矢先にこれだよ。

 これじゃ自重できてなくて草とか言って見ていたWeb小説の主人公たちを馬鹿にできないな。


「それにしても、帰納法を答えようとして数学的帰納法を説明したのに、その説明は最近論文で出されたものというのは、中々殿下は面白い方ですな」


 ……自重できていないというよりかは珍獣のような扱いになりそうだな。


 その後の数学でも似たようなことが起こり、日本での教育との差が面倒なことを引き起こしそうだということを実感することとなった。

1)数学的帰納法が現在の形式で定義されるようになったのは1849年、ジョージ・ブールによってであった。


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