26話 婚約破棄された悪役令嬢③
帰宅後、昼めしを取りながら今後の話し合いを始めた。
「午後はクエストは中止して買い物にいきましょう! これから一緒に暮らすわけだし、カレンにも替えの服が必要でしょ」
「そ、そんな。わざわざそんなこと……」
「遠慮しなくで。それに私もちょうど買いたかったものがあったし」
「そ、そうですか。スティアさん、ありがとうございます!」
……ホントはもうちょっとクエストで暴れたかったが、まあ仕方ねぇか。
「それで、なんだよお前の買いたいものって?」
「……リュウトには教えてあげない。それと、買い物は4人で行くからリュウトはお留守番して待ってて」
「なにっ!?」
チッ、俺だけ仲間外れかよ。なんでそんなひどいことを……
「あっ、わかった! お前下着買うつもりだろ! だったらおりぇがエロいの選んで……」
――ゴンッッッッッ
「ウガァアアアアアアアアア!?」
強めのゲンコツで殴られ、思わず悶絶する。
「リュ、リュート!? 大丈夫!?」
「さ、さすがにこれはリュウトさんが悪いですね。アハハ……」
「こんなおバカな子ほっといて、私たちはいきましょう!」
苦しむ俺を一人置きざりにし、みんなスタスタと外に行ってしまった。
「チッ、今日はついてないな。女に捨てられるわ賭けにも失敗するわ。……もう散々だ」
留守番してるのも退屈だったから外に出たものの……こっそり盗んだ金も全部使っちまったし、これじゃあ遊べねぇな。
諦めて家に帰ろうとした時だった。
「おい、まだ彼女は見つからないのか!?」
「す、すみません! 多くの兵士たちに探させているんですが、目撃情報が一切なくて……」
「ああっもう言い訳はいい! とにかく絶対に見つけ出せ!」
「は、はい!」
いかにも金持ちみたいなキラキラとした豪華な服を着た男。こいつが街中で部下っぽいおっさんにブチぎれていた。
(ったく、こんな街中で騒いでんじゃねーよカスが)
余計気分が悪くなった。
あんなのほっといてさっさと帰るか……
「おおっ、琉斗じゃねーか! 奇遇だな。こんなところでどうしたんだ?」
「ん? 誰だ……って、あぁ警察のおっさんか。いや、なんか騒がしい奴がいるなって思って見てたんだ」
「騒がしい奴? あぁ……あれは第2王子のガバイ様だな」
「な、なにっ!? あいつがあのバカ王子だと!?」
ま、まさか探してる女って!?
「ば、馬鹿!? 王子の前でそんなこと大声で言うな!」
「うるせぇ! あいつはちょっと分からせてやらねぇと……ングッ!?」
急におっさんに口をふさがれた。
(クソッ、なんでジャマすんだこいつ!?)
必死に引きはがそうと抵抗したが、体格差もあって何もできない。そして俺は人目のつかない路地裏に無理やり連れていかれてしまった。
「……ったく、何考えてんだお前は!! あの方は街のチンピラじゃないんだぞ! ケンカなんかしたら処刑されちまうぞ!」
おっさんのゴツイ手からゆっくりと解放される。
「ブ八ッ!? うるせぇ、あいつはな……」
俺は今日あった出来事をおっさんに語ることにした。
「……なるほど。そういうことだったのか」
「んだよ? そういうことって?」
「いや、我々警備隊もガバイ様から令嬢の捜索を依頼されていてな。どうして行方不明になったのか聞いても一切答えてくれなかったから変な依頼だと思ってたんだ。そしたらまさか、そんな裏事情があったとはな」
「おい、おっさん。まさかおりぇらからカレンを奪おうとか思ってんじゃねーだろうな? だとしたらおりぇも容赦しねーぞ」
「いや、そんなことはしない。……そうだな。琉斗はそのままカレン様を保護してあげてくれ。ガバイ様のことは私に任せてくれていいから。あっ、このことはご令嬢たちには内緒にしておいてくれ。彼女たちに変な心配させるわけにはいかんからな。……分かったかい?」
なに勝手に仕切ってんだ? 警察のクセにエラソーにしやがって。
……まぁでも、このおっさんになんか考えがあるだろうし、ここはメンドウごとをおっさんに押し付けちまうか。
「分かったよ。だがちゃんとあいつボコしとけよ」
「ああ、任せておけ」
「ったく、すっかり遅くなっちまった。おっさん話長すぎなんだよ」
―ーガチャ
扉を開けて家の中に入る。
「ああ! リュート帰ってきた!」
「おかえりなさいリュウトさん」「リュウト様おかえりなさい」
「おう」
ただ一人を除き、みんなが笑顔で俺を出迎えてくれた。
「……ちょっと、お留守番をサボってどこ行ってたのかしら? こっちは何時間も前にあなたを待ってたんだけど?」
……まぁやっぱこいつはキレてるよな。賭けしてたのがバレるとまずいし、なんとか話をそらさねぇとな。
「さ、散歩だよ。そ、それよりお前らはどうなんだ? 欲しいものはちゃんと買えたのか?」
「……ええ。買えたわよ。そうだ、リュウトのお洋服も買ったから、今から着て見せてもらってもいいかしら?」
「ん? ああ、別にいいけど……」
妙にスティアがニヤニヤしてるのが気になった。それに後ろの3人もなんかワクワクしってし……なんか怪しいな。
「それじゃあさっそく着替えてもらおうかしら! はい、奥の部屋でコレ着てきて」
……まぁいいか。
罪が消えるってんならこれくらい我慢して……
「ってなんじゃこりゃぁあああああ!?」
俺に渡されたベビー服。それは可愛らしいクマの顔が刺繍された、モコモコした着ぐるみパジャマだった。
「こ、こんなもんおりぇが着れるか!!!」
「あっそ。だったらこっちはどう?」
次に渡されたのはサンタクロースの着ぐるみパジャマだった。
「な、なんでこんなもんまで……」
っていうか、この国にもサンタっているんだな。
「エへへ、可愛いでしょ! 最近できた新しいお服屋さんで買ったんだよ。他にもいっぱい服が合ってね……じゃーん!! これは私の服。リュウトとお揃いだよ」
意気揚々とシアナが色違いのクマのパジャマを見せつけてきた。
「私も買ってもらったんですよ!」
「じ、実は私もです」
マリアとカレンまでこの服買ったのか。……まあこいつらなら普通に似合うだろうし別にいいか。
「ん? 待てよ。……ってことはまさか!?」
恐る恐るスティアの方をちらっと見る。
「も、もちろん私の分も買ったわよ。……なぁに? なにか問題でもある?」
「い、いや。別に問題ねぇよ。ただな、フフッ……お前もこれ着てるか……アッハッハッハッハ!」
――ゴンッッッッッ!!!
「グガッ!?」
「……絶対あんたにも着てもらうから覚悟しなさい! 嫌がっても無駄だからね!」
「ちょっ、ちょっとま……うわっ!?」
その後俺は無理やり着せ替えさせられ、みんなでクマの恰好をして夜を過ごすことになってしまった。




