25話 婚約破棄された悪役令嬢②
「こ、こうしゃく……なんだって?」
全く聞き覚えのねぇ言葉。そんなに驚くようなことなのか?
「公爵令嬢ですよ! 公爵令嬢! すっごくえらい貴族の方です!」
貴族ってのがどんなんかはよくわからんが、まぁ総理大臣みてぇなもんか……
「ってマジか!? 姉ちゃんすげぇーじゃねーか!」
「……驚いていらっしゃるところ申し訳ないんですが、実はもう私は公爵令嬢ではないんです」
「「ええっ!?」」
……またスティアとマリアがオーバーリアクションしてやがる。
「か、カレン様! そ、それはいったいどうしてなのでしょうか!?」
「昨日の夜、ベイビース王国第二王子のガバイ様に婚約破棄すると……」
「そ、そんな……どうして?」
さっきから言ってることがよくわかんねぇが、これは詳しく話を聞く必要がありそうだな。
彼女から聞いた話はあまりにも横暴なものだった。
第二王子に言われた婚約を破棄された理由。それは姉ちゃんが家臣やメイドにひどい嫌がらせをしていたからだそうだ。他にも公爵令嬢らしからぬ横柄な態度を普段からとっているとか。そういう不満が積み重なって我慢できなくなったと言われたらしい。
だが、それは全部ウソだった。
……ではなぜこんなことになってしまったのか?
実は王子には他に好きな女がいて、王子はその女と結婚したかったらしい。それで邪魔だった姉ちゃんを無理やり悪役に仕立て上げ、貴族の身分をはく奪したそうだ。
身勝手な婚約破棄を受けて自暴自棄になった姉ちゃんは街を出て森の奥に1人に入った後、あのモンスターの群れに襲われた。そんで偶然俺たちに助けられた。
「……というわけです」
「なるほどな。要はバカ王子が姉ちゃんを振り回したってことか。……許せねぇ。今からそいつシバキに行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいリュウト! あなたがケンカを売ろうとしているのは王子様なのよ! そんなことしたら反逆罪で殺されちゃうわよ!」
「ヘッ、どんな奴だろうがこの俺がぶっ潰して……」
―ーボワンッッ
クソッ、これからってときにもう時間切れか。
「えっ? あれ? なんで赤ちゃんが……リュウトさんはどこに?」
「カレン様、さっきの男性は変身した姿で、この赤ちゃんが本物のリュウトさんなんですよ」
(いやさっきのが本物の俺なんだけどなぁ!)
「まぁ、そうなんですか!? ……そういわれると、どことなく雰囲気が似ているような気がしますね」
「ちなみに、赤ちゃんのリュウトさんはおしゃべりすることもできるんですよ!」
「当たり前だ! おりぇを何だと思ってるんだ?」
「ホントにしゃべってる……」
やべぇ、ドン引きさせちまった。
「リュウトのことなんてどうでもいい! 今はカレン様のことを優先しましょう! カレン様、私たちが街まで同行するので、もう大丈夫です」
「い、いえ、あなた方にそこまでしてもらうわけには……」
「今のカレン様をこの森に置いていくわけにはいきません。拒絶されようが無理やりにでも連れていきます」
「で、でも、街に戻っても私の居場所はないんです! 両親からも勘当されてしまいましたし、知り合いからも見放されてしまって……」
そんなにひでぇ状態になってたのか……っていうか、なんで身内の奴らは姉ちゃんのこと信じてやんなかったんだ! 許せねぇ。
「姉ちゃん、おりぇん家に来いよ。何日でも泊めてやんよ」
「あんたの家じゃなくて私の家でしょーが! ……カレン様、事情は分かりました。もしよければ私の家に来てください。歓迎します」
「そ、そこまでしていただくわけには……」
「いいから俺たちに頼れや!!」
「は、はい!? すみません……これからお世話になります!」
「ったく、最初からそう言えって……」
――ゴンッッ
「……いってぇな」
「カレン様になんて口の利き方してんの? ……失礼しました。この子にはもっと敬意を払うよう教育しておきますので」
「いえいえそんな……むしろ敬意を払っていただく必要はありません。私と話すときも普通の口調にしていただけると嬉しいです。それと、私のことは『カレン』とお呼びください。様付けは結構ですので」
「いや、さすがにそれは……」
「お願いします!」
「しかし……」
(……女ってよくわかんねぇ遠慮合戦好きだよな)
そう言ってやろうと思ったが、また殴られるのも癪だしここは黙って待つことにした。
「……わかった。それじゃあ私の家まで戻りましょうか」
「はい!」
……ようやく無意味なやり取りが終わったか。やっと街に帰れる。
「あ、あの……リュウト様も私のことをカレンって呼んでくださいますか?」
「ん? ああ、もちろんだ。これからよろしくなカレン」
「はい!!」
元気な返事と共に、今日1のとびっきりカワイイ笑顔をくれた。
「あっ、そうだ! もうおりぇ戦い疲れちまったし、カレン抱っこしてくれや! それくらいしてくれてもいいだろ?」
「なぁ!?」
「はい、もちろんです! さぁどうぞ!」
グへへッ、これからもカレンに抱っこしてもらって……
―ーヒョイッ
両手を広げて待っているカレンがどんどん離れていく。なんだ? 誰かに持ち上げられた? いったいなにが……って!?
「……お前には頼んでないんだが?」
「べ、別に誰だっていいでしょ! それともなに? カレンに抱っこされなきゃいけない理由でもあるの?」
「フンッ、気に食わねーな。そうやっておりぇの恋路の邪魔ばっかやがって! そんなにおりぇを取られたくねぇーのか? ホントお前って素直じゃねーな」
「ち、違うから!!!」
結局、自力で歩いて帰ることになってしまった。




