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23話 スティア、警備隊辞めるってよ④

 家に戻ると、薄暗い部屋のなかでマリアが死んだ目をしながら椅子に座ってぼーっと遠くを見つめていた。……まあ、今のスティアと2人っきりにされたら誰だって気は滅入るか。


「あっ、リュウトさん!」


 ……よっほど大変だったんだな。涙目になりながら俺たちのもとにダッシュで駆け寄ってきやがった。


「二人とも遅いですよ! 私、何度も何度も話しかけてたんですけど、スティアさんずぅぅーーーーーと無視するんですよ! すっごくツラかったんですからね! ……リュウトさん、いったいスティアさんにどんな酷いことしたんですか?」


 どいつもこいつもなんで俺を疑うんだ? 


 俺ってそんな信用ないのか?


「……それよりスティアと二人で話すっから、お前らはちょっと外に行っててくれ」


「わ、分かりました」


 2人が出て行ったのを確認し、布団にくるまってるスティアに近づく。


 ……こういう時はほっとくのが一番の優しさなのかもしれねぇが、俺にはそうは思えない。ウジウジして一人で乗り越えられるんだってならいいけど、こいつの場合はそうじゃない。


「おい、さっさと布団から出てこい」


 聞こえてはいるはず。だが返事は返ってこない。


 ……この俺を無視するなんて上等じゃねーか。そっちがその気ならこっちも手加減はしないぜ!


 俺はバサッと布団を引っぺがす。そしてなかから泣きじゃくってるスティアの姿が現れた。


「ヘへッ、お前鏡見てみろよ。目が真っ赤に腫れてひでぇ顔になってんぞ」


「……うるさい。私にかまわないでよ!」


 再び布団にくるまろうとしていたがそうはさせない。


 スティアの腕をつかんで動きを止める。


「ちょっと……離して」


「ダメだ。お前に話があるからちゃんと聞け」


 何度も振りほどこうと抵抗してしてきたが、それをすべて制す。こうしていくうちに諦めがついたのか、目を閉じて黙りだした、


(……やっと話を聞いてくれるようになったか)


 この後俺は今まであったことを話した。隊員たちをボコしたこと、司令官に会ったこと。そしてスティアを探しにここに戻ってきたこと。


 話が終わると、スティアはつむっていた目を開けた。


 だが、その目には全く光がなかった。


「……あっそ。それで話はおしまい? だったらもうほっといてよ」


「まだ終わっちゃいねぇ! 次はこれからのお前についてだ。……また警備隊に戻るか? それともやめるか?」


「ッ!? ……そ、そんなの急に決められるわけないじゃない!」


「ダメだ。さっさと決めろ」


 こういうのはさっさと決めねぇと先に進めない。悩んでいることを放置してたらずっと心の中でもやもやが残っちまう。そうなったらもう前みたいには笑えない。


「……お前がつらい目にあってたのはわかる。同情もしてやる。だが、だからといって逃げさせるわけにはいかねぇ。つらいだろうが立ち向かってくれ。おりぇが全力でアシストしてやっから。……おりぇはこれ以上お前に苦しんでほしくねぇんだ。お前にはもっと笑っててほしいからよ」


「ッ!? リュウト……」


「あっ、もし辞めるんだったらおりぇたちと一緒に冒険者やろーぜ! シアナとマリアもきっと大喜びするぞ。それにお前がいればモンスター退治のバイトも出来るしな」


「……分かった。すぐ決めるからちょっと待ってて」


 そういってスティアは目を閉じて考え始めた。


 まぁ、俺はどっちの選択肢を取ろーが別にどうでもいいんだが……


「決めた。私は……」






 スティアと話を付けた後、俺は一人で警備隊本部の屋上に向かっていた。


 目的はただ一つ。あのおっさんに報告をしに行くためだ。


 屋上ではおっさんの方が先にいて、暇なのかタバコを吸いながら俺を待っていた。


「へへッ、いいモン吸ってんじゃねーか。おりぇも久しぶりに吸いたくなっちまったな。それ1本よこせや」


「これは赤ちゃんが吸っていいもんじゃない。……っていうか、琉斗もタバコ吸うんだな。琉斗は前の世界だと何歳になったんだ?」


「18」


「18ってお前……それタバコ吸っていい年じゃないだろ!」


「知らねぇのか? お前が死んだあと18でたばこオッケーになったんだよ」


「なに!? それは本当か!?」


「ウソだよバーカ」


「なっ!? お前ってやつは……」


 フッ、こういうアホみたいな会話ひさびさにこいつとしたな。なんだか懐かしい……


「……それで、スティア隊長の様子はどうだった?」


「ウジウジしてた」


「そ、そうか……」


 おっさん、まだ自分を責めてるみたいだな。ったく、そんなことしたって意味ねぇのに……こんなんだから交番勤務だったんだよ。


「あっ、そうだ。スティアから伝言預かってたんだったんだわ」


「伝言?」


 


「スティア、警備隊辞めるってよ」




「ッ!? やはりそうか……」

 

 スティアが選んだ選択。それは俺たちと一緒に冒険者になることだった。


 ……まぁ俺は別に嬉しくねーけどクソガキ二人は大喜びしてたし、いい選択だったんじゃないか。


「……彼女は非常に優秀で正義感に満ち溢れていた。だから私は彼女を隊長に任命したんだ。だが少々気が強いのが難点でな。そのせいで集団から孤立してしまっていて……まるで昔の私そっくりだ」


 は? スティアがおっさんに似てる? んなわけねぇ……いや、そういやスティアもこいつみたいに俺をボコボコ殴るやべぇ奴だし、案外似てるのかも知んねぇな。


「彼女のことは琉斗に任せるよ。キミなら彼女と上手くやっていけるだろうし」


「あ? あんな頑固女と上手くやれるワケねーだろ!」


「そうかな? 粗暴な琉斗には真面目な彼女がお似合いだと思うんだが?」


「フン。どうだかな。まぁでも、そういう女ほど心を開いたらエロくなるだろうし、可愛がってやってもいい……」 



ーーボカッッ



 いつも喰らってるこの痛み。……これってまさか!?


「誰を可愛がるですって? 赤ちゃんのクセに生意気言ってんじゃないわよ!」


「げっ!? なんでお前がここにいるんだよ!」


「司令官に話があるからここまできたの!」


 ここにはぜってぇ来ないと思ってたから正直驚いた。おっさんもめっちゃ驚いてるし。


 ……こいつ打たれ弱いのか強いのかよくわかんねぇな。


「ス、スティア隊長……」


「司令官。この度はご迷惑をかけてしまいすみませんでした。……リュウトから聞いたと思いますが、私は警備隊をやめさせていただきます」


「そ、そうだよな。……すまん。私がちゃんとしてないばっかりに……」


「い、いえ、違います! 別に警備隊が嫌になって辞めるわけじゃないんです! ……ただ、リュウト達と一緒に冒険者をやってみたくなってしまったので」


 満面の笑みでそう宣言したスティアは一段と輝いて見えた。


(普段怒ってばっかりの女だからか、ちょっと笑っただけで可愛く見えてしまう……これがいわゆるギャップ萌えってやつなんだろうな)


「そうか、分かった。キミがいなくなるのは残念だが、これから頑張ってくれ!」


「はい!」


 こうしてスティアと警備隊のいざこざは終わりを迎えた。

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