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22話 スティア、警備隊辞めるってよ③

◇◇◇◇◇◇◇◇



 こいつと初めて出会ったのは俺がまだ幼稚園児だったころ、公園で年上の小学生と殴り合いのケンカをしているときだった。


 ケンカしたきっかけは今でも覚えている。俺の唯一の友達をいじめてやがったからだ。


 相手の小学生は4人。対して俺に味方はいない。一人だけの戦い。そんな圧倒的に不利な状況ではあったものの、このケンカは俺が圧勝した。……思えばこの時からすでに俺はグレていたんだろうな。日ごろからケンカしていることもあって、人を殴るのに一切抵抗がなかった。


 そして全員をボコし終わったタイミングで、パトロール中のこいつにつかまったんだ。


 たしかあの後……俺たちは交番に連れていかれて……






「お前ら、この子達にちゃんと謝るんだ!」


「………ご、ごめんなさい」


「は? 許すわけねぇーだろカスが! テメェら全員ぶっコロして……」



ーーゴンッッ



 頭にゲンコツを食らい、静かな空間に鈍い音が響き渡った。


「いっってぇ!? おい、おっさん。てめぇなにしやがんだ!?」


「ちゃんと謝罪の言葉を聞いてあげなさい。それと、そんな乱暴な言葉を幼稚園生が使ってはいけない」


「は? 何言ってんだ? 俺がこんなゴミ共を許すワケねぇだろ! 俺が裁きを下してやるんだ!!」


「悪人に罰を下すのは我々警察の仕事。キミがやることではない!」


 クソッ、エラそうに説教しやがって。


 どうせお前らみたいな大人は何もしてくれないくせに……


「……キミがやるべきなのは傷ついた人に寄り添ってやることだ。このことをちゃんと覚えておくんだぞ。分かったな?」


「うっせぇわカス! テメェみたいなキモイおっさんの言うことなんか誰が聞くかよ!!!」


「なにっ!? ……まったく、なんて幼稚園児なんだ。これはちゃんと教育してあげないとダメだな」


 こうして、こいつが俺を徹底的にマークされるしんどい日々が始まった。


 特にうざかったのは街中で会うたびに話しかけてくることだ。「元気にしてるか?」だとか「ケンカはしてないか?」とか。あきらかに警察の仕事じゃねぇのに、こいつはやたらと俺に絡んできた。


 そんなわけで、基本的にこいつとは嫌な思い出しかない。だが、たまにラーメン屋に連れて行ってくれたことはうれしかったな。


 こんなやりとりを繰り返してしていくうちに俺たちは仲良くなった……いや、仲良くはねぇな。ケンカもしょっちゅうしたし。


 両親は離婚してて俺は母ちゃんと2人暮らしだったから、こいつのことを本当のオヤジかのように接し始め……いや、やっぱオヤジってほどでもねぇな。良くて親戚のおっさんくらいだな。





 だからこそ、別の警官に交通事故で死んだって聞かされたときはショックだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇



「マ、マジで、あの時の警官なのか?」


「ああそうだ。いやぁ本当に懐かしい。会えてうれしいよ! 元気にしてたか?」 


「ああ、……あのさ、俺」



ーーボワンッッ



 ……チッ、感動ムードぶち壊しだ。


 せっかく何十年ぶりに再会できたっていうのに、こんな姿に戻っちまうなんて……


「えっ!? な、なぜ赤ちゃんがここに……それより琉斗はどこに行ったんだ?」


「おりぇだよおりぇ! おりぇがリュウトだよ!!」


「なに!? そんなバカな……いや、この世界のことだ。ありえないこともないか」


 何勝手に納得してんだよ。


 ……にしても、自分の身体ながら未だに分かんねぇことだらけだし、今度しっかり調べてみるか。


「まぁ……なんていうか、ご愁傷様だな。アハハ……」


「やかましいわボケ!!」


「相変わらずその口調は変わってないようで安心したよ。……リュウトともう少し話をしたいところだが、今はそれよりも優先しなければならないことがある」


「ああ、分かってる」


 今は一刻も早くスティアを探さねぇと。あんな強気な女が泣きながら逃げ出したんだ。きっとめちゃくちゃ傷ついてるに違いねぇ。俺がなんとかしなきゃ、あいつは一生立ち直れなくなっちまう。見つけた後のフォローもどうするべきか考えておくか。


「……すまない。こんなことになってしまったのもすべて私の責任だ。私が部下の管理をしっかりしておけば……」



「んなモン後悔したってどうにもなんねぇんだよ!!!」



「そ、そうだな。確かにその通りだ。申し訳ない」


「スティアのことはおりぇに任せてもらっていいから、おめぇはさっさとそこにいるゴミ共の後始末でもしとけやボケ! ……そんでスティアの機嫌が直ったらおっさんたち全員に土下座させっから覚悟しとけよ!!」


「ああ、分かった。……すまないがスティア隊長のよろしく頼む」


 




「……クソッ、どこにもいねぇ」


 ギルドに酒屋、地下闘技場に賭博場。思い当たる場所全部探してみたがどこにもいねぇ。いったいどこに行っちまったんだ?


「あっ、リュート! やっと見つけた!」


 途方に暮れていたとき、シアナが息を切らしながらこっちに向かって走ってきた。ちょうどいい! こいつにもスティア探しを協力してもらって……


「スティアお姉ちゃんが大変なの!」


 なにっ!? ……やけに慌てていると思ったがそういうことか。これはマジでヤバいかもしれねぇ。やけ酒して大暴れしてるってならまだマシだが、もっと深刻な状態になってるかも……


 これは覚悟して話を聞く必要がありそうだな。


「……いったいなにがあったんだ?」


「えっーとね。なんか泣きながらお布団にくるまって部屋の隅で縮こまっちゃってるの! ……もしかしてリュート、またスティアお姉ちゃんに嫌がらせしたの?」


「ちげぇよ! なんでおりぇを疑うんだよ?」


「だっていつも嫌がらせしてるじゃん……」


 俺がいつスティアに嫌がらせしたっていうんだよ?


 ……って、そんなことは今どうでもいい!


「それより、スティアは今家に一人でいるのか?」 


「ううん。今マリアちゃんがスティアお姉ちゃんを見てるはずだよ」


 マリアが見てるっていうんなら安心だ。


「よっしゃ、それじゃあおりぇたちも急いで家に戻るぞ!」


※次は11月3日の18時20分ごろに第23話を投稿します。

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