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20話 スティア、警備隊辞めるってよ①

「テメェら全員ブッ殺してやる!!!」


 警備隊本部の一室で俺は隊員たちを次々とブチのめしていた。





 事の発端は数時間前にさかのぼる。


 ナオミチとの激闘を終えた翌日、俺は病院に行くことになった。


(ったく、スティアが検査に行け行けってうるせぇから……)


 たしかに昨日のバトルで大ヤケド負ったが、赤ちゃんに戻ったらそれはすっかり治っていた。だから行く必要がねぇ。何度もそう説明したんだがな……


 結局何時間もかけて診察をすることになった。


「検査の結果………特に異常はありませんでした。健康そのものです」


「ッ!? いやいや、そんなわけないじゃないですか!? 昨日すっごい大やけどを負ったんですよ!」


「いや、しかしホントに何もないんで……」


 ったく、医者まで困ってんじゃねーか。きっとこういうやつが年取った時クレーマーのババアになるんだろうな……



―ーボコッッ



「おい、なんで今おりぇ殴られたんだ? なんもしてねぇだろぉが!」


「なんか失礼なこと考えてたでしょ? リュウトが考えてることなんてすべてお見通しなんだから!」


 エスパーかこいつは……


「やれやれまったく。とにかく、本当に異常はないので今日のところはもうお帰り下さい!」


 ほとんど追い出されるような形で俺たちは病院を後にした。






 スティアといがみ合いながら家に帰ろうとしていた時、一人の男がスティアに話しかけてきた。


「スティア隊長。副司令長がお呼びです。急いで警備隊本部に向かってください」


「えっ? わ、分かった。すぐに向かいます!」


 男は伝言を言い終わるとすぐに立ち去ってしまった。


「それにしても、いったいなんの用だろう?」


 ……なんか怪しい。直感的にそう思った。


 思い返すとあいつ、なぜか別れる直前でニヤッと笑ってやがった。これはなにか悪いことが起こる予感がする。


「仕方ない。それじゃあ本部に行くからリュウトは先に帰って……」


「いや、おりぇも一緒に行く」


「ええっ!? そ、それはちょっと……」


「良いから連れてけ! もし拒んだりなんかしたらここで大騒ぎしてやっからな!」


「わ、分かったからそれだけはやめて!」


 こうして俺はスティアと一緒に警備隊本部に向かった。





 

 警備隊本部。まぁいわゆる警察署みてぇなとこだな。堅苦しく面白味のねぇただの灰色の建物。建物のなかもいかにもって感じで、シンプルでつまんねぇ部屋ばっかり。可愛くてエロいねぇちゃんもいねぇ。おっさんだらけのしけた職場だ。


「そういえばお前、隊長って呼ばれてるみてぇだけど、お前の役職って何なんだ?」


「うーん。そうねぇ……」


 この後スティアから警備隊について説明された。


 そもそも警備隊ってのは指令長、副指令長を筆頭にできた街の治安を維持するために活動する組織らしい。そしてそいつらの下に7つの隊があって、スティアはその隊長の1人らしい。


「へぇ。ってかお前まぁまぁ高ぇ地位にいるんだな……すげぇ」


「まぁね。でも、そのせいでちょっと困ってることもあるんだ」


 スティアはそう切り出し、少し暗い顔をしながら悩みを打ち明けてきた。


 どうもスティアは異例のペースで出世したらしく、そのせいで部下に反感を買われてしまったそうだ。


 現にスティアは隊長の中でも一番若く、他の隊長とも20歳は年が離れている。


「要するにお前に嫉妬したアホが大勢いて悩んでるってことか。前にも言ったが、んなモン気にしなければいいだろ! お前の好きにすればいいじゃねーか」


「リュウトはまだ赤ちゃんだから分かんないかもしれないけど、こういう組織だと気にしなくちゃいけないの!」


 ケッ、めんどくせぇ組織。


 前に俺が総長やってた暴走族じゃ、文句言ったやつは徹底的にシバキ回してたんだけどな。


「よくそんなめんどくせぇしがらみのある組織にいられるな。そんなのさっさとやめちまえばいいのに」


「……それはダメだよ。リュウトも大人になればわかるよ。我慢しなくちゃいけないこともあるって」


 なんだそりゃ? わけわかんねぇ。


 お互い黙ってしまい、気まずい雰囲気のまま副指令長のいる部屋まで歩き続けた。






―ートントンッ



「どうぞ」


「失礼します」


「ん? ああ、スティア隊長か……ってその赤ちゃんは?」


「あっ、えっーと……」


「フン、まあいい。とにかく座りなさい」


 クソデブの副指令長が座るよう促してきた。ふてぶてしい態度に若干イラついたが、ここは大人しくしておくか。


「えっーと、副指令長。私に何か要件があるそうですが、いったい何でしょう?」


「ああ。スティア君。悪いんだけど………」





「キミには警備隊をやめてもらう」





「えっ……」


 スティアはひどく驚いた様子で、しばらく固まっていた。あまりに予想外のことを言われたから反応に困っているだろう。


「ど、どうしてですか!?」


「キミ、冒険者のナオミチ君に傷を負わせたそうだね?」


「えっ? いや、それは……」


「それにね、以前から隊長のキミに不満の声が多数上がっていたんだ。今まではキミの功績を考慮して許していたが、今回の一件で許容できなくなった。だからキミには責任を取ってもらう」


「そ、そんな! そもそもですね……」



―ーガチャ



 扉のドアが開き、制服を着た警備隊の連中が10人ほど入ってきた。


「あ、あなたたち……」


「我々はこれまで、スティア隊長に散々ひどい仕打ちを受けてきました。まるで我々を人間として扱っていないかのように。これはとても許容できるものではありませんでした!」


「な、なにをでたらめなことを……」


「そうそう。必要以上に怒ってばっかり。私たちすっごく我慢してたんですよ! 隊長は自覚がないみたいですけどね」


 隊員たちからの罵詈雑言の嵐。


 こいつらの言っていることがもし本当だとしても、この仕打ちはいくらなんでもひどすぎる。


「テメェらいい加減に……ングッ!?」


 突然口を塞がれる。


(なっ!? スティアの奴、なんで止めるんだよ?)

 

 ふと顔を見る。彼女は今にも泣きそうだった。


 ……なんでここまでされてまだ我慢できんだよ? こいつらに文句の1つでも言ってやればいいのに。


「というわけだ。キミには警備隊をやめてもらう。……言っておくけど、これは強制命令だ。返事は?」


「……分かりました」


 一言そういった後、泣きながら走って部屋を出て行ってしまった。


(おいてかれちまったな。……さて、この後どう慰めてやるべきか)



「クククッ……アッハッハッハ!!!」



 突然部屋にいる全員が笑い出した。


「……いやぁ、よかった。副司令官のおかげで僕らやっと仕事をサボれますよ」


「ハッハッハッ、別にかまわんよ。私も彼女をうっとうしく思ってたんだ。いかんせん彼女は真面目すぎる。こんな仕事なんかテキトーにやっておけばよかったものを」


「フフッ、これで仕事中も彼氏とデートできるし、いいことだらけですね」


 なるほど。そもそもこいつらは仕事なんかする気はなかったのか。それで注意してくるスティアを邪険に思ってこんなひどい仕打ちをしたってことか。


「それにしても彼女、泣きながら立ち去るなんて。あんな厳しい人でも泣くんですね」


「ホントホント! 私笑いをこらえるのに必死でしたよ」



――ブチッッ



 こいつらに対する明確な殺意。俺はそれを抑えきることが出来なかった。 


「……テメェら腐ってんな」


「えっ!? い、今この赤ちゃん喋って……」


「トランス・フォームⅠ」


 副司令長の真っ白な部屋が深紅色に染まるのに時間はかからなかった。

※次は10月29日の18時20分ごろに第21話を投稿します。

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