2話 おりぇの生態
「な、な、なんでおりぇが赤ちゃんになってるんだ!?」
ウソだろ!? なんで俺がこんな姿に? は? なんでだ!? こんなことあり得るはずない……
「ああ、わかった! これドッキリってやつだな! まったく、手の込んだいたずらしやがって! とくしゅメイクってやつかこれ? へへッ」
「き、きみはいったいなにを言ってるんだ……」
「もうバレてんだよ! テッテレー、ドッキリでしたぁ、って言えやゴラ!!」
「えっ!?」
……こいつ、なんでまだうろたえてんだ? この期におよんでまだこんな茶番つづけようっていうのか? チッ、クソだりぃーことを……
―――グウウウウウウゥゥゥゥ
おっといけねぇ。腹がなっちまった。そういえば朝からなんも飯食ってなかったな。
「おい、腹が減ったんだが?」
「え?」
「こんなドッキリかけやがって……。さっさと飯もってこいや!!」
「ッ!? わ、分かったからちょっとまって」
ったく気の利かねぇ女だな。飯の用意ぐらいしとけってんだ。
「このくらいの温度で大丈夫だよね? ……おまたせ。はい、どーぞ」
そう言って俺にほにゅう瓶を手渡してきた。このバカ女、まさかこんなもんで俺が満足すると思ってんのか?
「……バカにしてんのか?」
「え?」
「ミルクなんかで腹がふくれるワケねーだろーが!! 調子こいてんじゃねーぞ!!」
頭良さそうな見た目しておいて、実は頭空っぽのバカなのかこいつは?
「なっ!? だって、きみは赤ちゃんなんだよ! ミルク以外飲めないでしょ!」
「チッ、何言って……」
――スンスン
どっからかおいしそうな香りがした。どこかにうまそうな食いもんが……。あっ! テーブルの上に肉があんじゃねーか!! 俺はすぐに立ち上がり、肉に向かって全力で飛びついた。
「あっ、ちょっと!? それは食べちゃダメ!!」
「へへッ、肉をひとり占めしよーたってそうはいかねーよ!! おりぇがありがたくいただくとするぜ」
―――ガブッ
肉汁がたっぷり出てめちゃくちゃ……
「あぁ!? 食べちゃった……。は、はやくペッてしなさい、ペッて!!」
「ヴォェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
「あーあ、もう、やっぱり吐いちゃった。……わかった? これは赤ちゃんが食べるものじゃないの!」
違う……。何だこの肉……。死ぬほどまずい……。ゴミみてぇな味だ。
「て、てめぇ、よくこんなクソみたいモン食わせてくれたな……。こんなの人間が食う料理じゃねーぞ」
「ッ!? そんなわけない! 私は料理得意なんだから!」
「だったら自分で食ってみろよ!!」
こいつの口に肉をほおりこむ。
「っんぐ!? ……ゴクン。 ……ちゃんとおいしいんだけど?」
「は? んなわけねーだろ! 味覚死んでんのかテメェは?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
ったく、なんなんだこいつは……
「まあいい、代わりになんか果物とか持ってこい。それ食うから」
「わ、わかったわよ……」
そういってこの女は棚からりんごを取り出してきた。
「今すりおろしてあげるからちょっとまっててね」
「そんなことしなくていい! まるかじりすっから」
こいつからりんごを取り上げ、俺はかぶりついた。
―――ガブッ
果物のさわやかな果汁が口の中に……
「ちょっと! それじゃあ呑み込めないでしょ!! はやくペッて……」
「ヴォェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
「……また吐いちゃった。まったくもう……」
いったいどうなってやがる? ……りんごをくったはずなのに、さっきの肉と同じ味がした。
「ハァハァ、……へへッ、おりぇの味覚がおかしくなっちまったのか?」
「そんなわけないでしょ。まったく……」
「そんな……。このままじゃおりぇ、何も食べられなくて餓死しちまう……。何か食えるものは?」
「だーかーら、キミのご飯は最初からこれ!!」
「ングッ!?」
おい!? この女、ほにゅうびんを俺の口にぶち込んできたんだが。イカれてやがる……
それにこの俺がミルクなんかで満足するわけ……
「うめぇえええええええええええええええええええ!!! なんじゃこれ!? めちゃくちゃうめぇーんだが!?」
「ほらいったとおり。やっぱり赤ちゃんにはミルクが一番」
チッ、バカ女のドヤ顔はうぜぇが、言ってることは確かにあってる。
俺はがぶがぶとミルクを飲み続けた。
「ふぅ~。ゲプッ、もう腹いっぱいだぜ」
「そう、それはよかった。それじゃあおなかも膨れたことだし、さっそく話を聞かせてもらおうかしら」
バカ女は急に真顔になって俺に近づいてきた。
「あなたはいったい何者なの? どう見ても普通の赤ちゃんじゃないよね」
「だ、か、ら、おりぇはサカグチ・リュウトだっつってんじゃねーか! 何回いえばわかるんだ!」
「……質問を変えるね。君はどこから来たのかな?」
「あ? どこからってそりゃ……」
そういえばあいつらの家がどこにあるのか覚えてねーな。クソ、これじゃあ復讐しようにもできねーじゃねーか。
「……場所も分かんないみたいね。困ったなぁ。今日はうちに泊めてあげるけど、これからどうしよう……」
「先のこと考えてもしょうがねーだろ。へへへッ」
「まったく、のんきな子ね……って、ああっ!? いけない、忘れてた!!」
突然バカ女が騒ぎ出した。いったいどうしたんだ?
「街の見回りに戻らないと! ……君はここでお留守番しててくれる?」
「あ? 街の見回り?」
見回りってまさかこいつ警察なのか!? ……こいつはちょうどいい。
「おりぇも一緒に行く」
「ええっ!? ……それはダメ! 赤ちゃんをこんな時間に外に出すわけにはいかないから」
「もし置いてったらここで泣きわめいてやる。そしたらお前、赤ちゃんぎゃくたいで訴えられちまうな。へへッ、どうする?」
「なっ……。まったく、キミは悪魔みたいな子だね。……分かった、連れて行くよ。それじゃあリュウト、おんぶしてあげるから背中に乗って」
「自分で歩けるわ!! バカ女が母親ずらすんじゃねーよ!」
この後大ゲンカになっちまったが、俺はなんとか外に出ることに成功した。
※次は18時30分ごろに投稿します。
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