11話 孤児院ブレイク④
最悪だ。一番見つかっちゃいけねぇやつに見つかっちまった。
「やれやれ、まったくキミたちときたら……」
呆れた様な物言いをしたあと、マサトは再び話し始めた。
「……2人とも今回だけは許してあげるけど、次にこんなことしたらお仕置きするからね」
「さすがマサト様です! ふつうなら罰を与えてもおかしくないのに、マサト様はすっごくお優しいですね! ますます尊敬しちゃいます!!」
「やれやれ、僕はそんな褒められるようなことしていないんだけどな」
そしてなぜか薄気味悪いシスターとのイチャイチャが始まった。
「……おいマリア、こいつら何してんだ?」
「いつものことです。シスターはマサトさんにえらく心酔しているようで、ああしていつもほめちぎっているんですよ」
マリアはいつもこんなもん見せられたのか。そりゃストレス解消で暴れてみたくもなるわな。
だがちょうどいい。このスキにカギを盗んで……
「おおっと、あぶない! ……リュウト君、キミにカギは渡さないよ。キミを逃がすわけにはいかないからね!」
「チッ、ってか、なんでお前はそこまでおりぇの邪魔するんだ? 自分で言うのもなんだが、おりぇみたいなヤバい奴が孤児院にいたら迷惑じゃねーのか?」
「……確かにそうだね」
「だったらおりぇを解放しろやボケ!!」
「ダメだ!! キミを解放したらスティアさんと会う口実がなくなってしまうじゃないか!!」
……スティナだと!? なんであいつが出てくるんだよ?
「あら、もしかしてマサトさん……」
「なんだ? マリアは何か分かったのか?」
「はい。フフッ、おそらくマサトさんはスティアさんにホの字なんですよ!」
……なるほど、要するに惚れてるってことだな。おりぇがここにいればあいつは孤児院に来てくれるから会うことが出来るってわけか。ったく、なんて女々しい野郎なんだ。
だが、この情報は使える。
「……おい、マサト。お前と少し交渉がしたい」
「交渉?」
「ああ、お前がもしそのカギくれるっていうなら……」
俺は自分の服の中から紫色のパンツを取り出し、それを高々と掲げた。
「スティアのパンツをお前にくれてやるよ!」
「なっ!?」
へへッ、全員ビックリしてんな!
なかなか面白いリアクションが見れたぜ。
「ど、ど、どうしてそんなものをキミが持っているんだ!?」
「へへッ、面会の時の差し入れでもらったんだよ」
「なんだと!? そんな、だって差し入れられたのはおしゃぶりと赤ちゃん用の枕……。ってまさか!?」
「ああ、そうだ。枕の中にスティアのパンツを入れこんでもらっといたのさ!」
シアナには感謝しかないな。まさかあんなガキがパンツ入り枕を差し入れしてくるなんて誰も思わねぇだろうしな。
完全に俺の作戦勝ちだ!
「りゅ、リュウト君! はやくそれを離しなさい! ふ、不潔です!」
「へへッ、嫌なこった。さて、これどうしよっかな~? 誰もいらねぇんなら、おりぇがこれを……」
「ま、待つんだリュウト君! それは僕が……」
「ま、マサト様!?」
へへッ、シスターブチギレてんな。まあ、そりゃそうか。自分が惚れてる男が他の女のパンツを欲してんだから。
……さあ、修羅場の始まりだ!
「どういうことですか? 女性の下着を欲するなんて……」
「アリア違うんだ。これには訳が……」
「問答無用です!!!」
バシッ―――ン
強烈なビンタ音が響き渡る。
そしてビンタされた拍子にマサトがカギを手放した。
俺はそのチャンスを逃さずにカギを盗む。
「よっしゃ、いくぞマリア!」
「は、はい」
シスターにボコボコにされているマサトをしり目に、俺たちは夜の街へと駆け出した。
「よっしゃ!! 脱獄成功だぜ」
「そ、そうですね。……まぁ私は脱獄する必要なかったんですけど」
「そういえばそうだな。へへッ、ワリーな。つい勢いで連れてきちまった」
「フフッ、構いません。すごく楽しかったですし」
ヘッ、ほんとこいつイカれたお子様シスターだな。
「それよりリュウトさん、問題なのはここからですよ! 家に帰るまでが脱獄なんですから! 最後まできっちりやりますよ。 ……スティアさんへの謝罪はどうするか決めてるんですか?」
「いや、全く……」
「それでしたら、お詫びにお花をプレゼントしてみてはいかがでしょう? 女性はお花が大好きですし、伝えづらい言葉は花言葉に乗せるなんてロマンチックなことも出来ますし」
花か。ちょっと古くせー気もするが、スティアみたいな堅物バカ女にはいいかもしれんな。
「っていうか、ここにも花言葉なんてあるんだな」
「はい。っていっても花言葉が出来たのは最近なんです。なんでも新しくできたお花屋さんの店長が考案したとか」
「それならその店の花でも買いに……っていってもおりぇ金持ってないんだよな」
「あいにく私もお金は持ち合わせていません。ですがご心配なく! 私、花言葉に関する知識はたくさん覚えているので、一番いい意味のお花を摘んでそれを渡しましょう」
……めんどくせぇが、そうするしかないか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今頃リュートどうしてるのかな?」
「……さあ」
「スティアお姉ちゃんは寂しくないの?」
「別に。あんな子いなくたって……」
本当はすごく寂しい。リュウトのおかげで私の生活が明るくなったのは事実だし。でも、あの子の粗暴さだけは見過ごせない。このままじゃきっとろくでもない大人になってしまう。そうなる前に孤児院でしっかり教育してもらった方がいい。そう結論付けてはいるんだけど……
―ーピンポーン
ドアのチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう?
不思議に思いながらも私はドアを開けに向かった。
「きっとリュートが帰ってきたんだよ!」
「そんなわけ……」
あった。そしてなぜか小さなシスターまで一緒にいる。おまけに2人とも泥まみれで。
「夜分遅くにすみません。リュウトさんをお届けに参りました」
「そんな子私は知りません。要件がそれだけならお帰り下さい」
「……悪かったよ。お前の金勝手に使っちまって。必ず返すから許してくれ」
……まったく、顔も合わせずふてぶてしい顔しちゃって。
それでも、いつもよりは口調が穏やかでちゃんと反省しているのは伝わってくる。
「ほら、リュウトさん。早くアレを渡してください」
シスターに促され、リュウトはもじもじしながら背中に隠していたものを取り出した。
「……ほら、これやるよ」
リュウトが持っていたのは黄色い花。名前は確かイエローベイビー……
「スティアさん、このお花の花言葉をご存じですか?」
……知ってる。イエローベイビーの花言葉は『反省』『改善』、そして『これからもよろしく』。仲直りしたい相手に渡す一番有名な花。
だけどこの花、かなり貴重でなかなかお店にも出回らないはず……
こんな花をいったいどこで?
あっ、もしかして2人がこんな泥だらけなのって……
「……許してくれるか?」
「これを渡されちゃったら許すしかないじゃない。気持ちは十分伝わりました。リュウト、あなたを許します」
「マジでか!? よっしゃ!! ヒャッホォォーーーーー」
フフッ、すごくはしゃいでる。
それにしても、まさかこの花を持ってくるなんて思いもしなかった。きっとシスターの入れ知恵なんでしょうけど、リュウトが私のためにここまでしてくれるなんて……
なんだかすごくうれしい。この子もちゃんと反省して……
―ーヒラッ
リュウトがピョンピョン飛び跳ねているとき、紫色の布みたいなのが宙を舞ったのが見えた。
「あれ? リュウト、なにか落としたよ?」
「ん? ってああああああああ!? ちょっ、待て、そ、それは……」
「スティアさん、それは見ちゃダメ……」
なんで2人ともそんなに焦ってるんだろう? 私は不思議に思いながら布を確認すると……
「ッ!? ……なっ、なっ!?」
驚いたこと、それは私のパンツだった。
なんでリュウトが私のパンツを!? リュウトは孤児院にいたから私のパンツを盗めるはずない。いや、もしかして……
ふとシアナちゃんを見ると、彼女は汗をダラダ流しながら顔をそむけた。
ああ、なんか分かっちゃった。
ふつふつと湧いてきた怒りをなんとかこらえる。
「少しお話ししましょうか? さあ、二人とも家にはいって」
「い、いや、やっぱおりぇ孤児院に戻るわ」
「わ、私も孤児院に帰らないといけないので……」
「いいから入りなさい!!!」
「お、おう……」「は、はい……」
2人を中に入れて扉を閉めた後、私は激怒した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※次は10月8日の18時20分ごろに第12話を投稿します。
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