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1話 俺が赤ちゃん!?

 きっかけはささいなことだった。


 昨日の夜、街をぶらついてたらエロイ女が俺に声をかけてきたんだ。いわゆる逆ナンってやつだな。だがこの女、実は暴走族の総長の彼女だったんだ。そんなことを知らない俺はまんまとその誘いに乗っちまって……。


 俺は今、暴走族から追われている。


「チッ、クソが。ちょっとくらいヤッたっていいじゃねーか」


 俺は大型バイクで逃げ続ける。もちろん無免許だ。


「さぁぁかぁぐぅちぃいいい。テメェだけはブッコロしてやる!!」


 俺を名前を叫ぶバカな総長。


 その姿があまりにもぶざまだったから、俺は右折する合間に挑発することにした。


「ヘへッ、やれるもんならやって……」



――――ドン



 俺はトラックにはね飛ばされ、そのまま意識を失った。






 目が覚めると、木の天井が見えた。


 なんだここ? 俺は跳ね飛ばされたんじゃ……、ああ、そうか、ここは病院か。……にしても、変だな……。体がどこも痛くねぇ、もう治ったのか?



――ガチャ



 音に反応して振り向くと、茶髪の女が部屋に入ってきたのが見えた。


「あっ、目が覚めた?」


 優しく色っぽい声で俺に話しかけてきた。こいつは看護師か? へへッ、ラッキー。なかなかカワイイ女じゃねーか。そうなりゃいっぱいお世話してもらわねーとな。


「おなかすいちゃったのかな? それじゃあご飯にしましょうね~」


 そう言ってなぜか俺におっぱいを見せつけてきた。……は? 何だこの女? イカれてんのか? いや、きっと俺に魅了されちまったんだな。……上等だ、お前の誘い乗ってやるよ。


「え? ちょっとまって! そんなに焦らないで……」


 クソ、この女やけにデケーな。巨人かこいつは? ヘヘッ、そうじゃなきゃありえねー。


「きゃああああああああ! 誰かぁ、助けてええええええええ」


 ちょっ、まて! こいつ、自分からさそってきたくせになんでこんな騒ぎ出すんだ? まだ始まったばっかりだってのに……






 このあと俺は巨人みてーなおっさんとクソガキにボコボコにされた。返り討ちにしてやろうと思ったが、なぜか体が思うように動かねぇ……。それにさっきからしゃべろうとしてんだけど、まともに話すことも出来ねぇ。


「なんてことしてるんだこの赤ん坊は! 実の母を襲うなんて!」


「父さん、やっぱりこいつは呪われた赤ちゃんなんだよ。だから生まれたときに何もスキルがなかったんだよ」


 は? さっきから何言ってるんだこいつら?


「そうだな。無能で凶悪な子供なんて呪われてるに決まっている!」


「さっさとこいつをアストラ家から追い出そうよ!」


 何勝手に話進めてんだ? それに追い出すって……


「そうだな。よし、ここで宣言する。アストラ・ディベイト、今日をもってお前をアストラ家から勘当する!」


 ……俺は坂口琉斗だ!! そう伝えようとしてもしゃべることが出来ない。


 クソが!!


 そのあと俺は人気のない路地裏に連れていかれ、そこで雑に捨てられた。


 




 外は大雨だった。


 動くことが出来ない俺は、ただただ雨に打たれ続けた。体温がどんどん奪われていくのを感じる。このままだと俺は……。……っていうか、なんで俺がこんな理不尽な目にあわなきゃいけねーんだ! あいつら、今度あったら絶対シバきまわしてやる。


『スキル〈サカグチリュウト〉を獲得』


 突然俺の脳内に変な声が聞こえた。……いったいなんなんだ?


『このスキルによって、サカグチリュウトのあらゆる能力があなたの体に反映されます』


 まだ変なこと言ってやがる。俺の頭おかしくなっちまったのか?


「ったく、勘弁してく……」


 あれ、俺今しゃべれた? 


「あ、あ、あ……」


 やっぱり声が出る。それに、なんかしらんが力が湧いてきた。……この状態ならいける! 俺はなんとか立ち上がった。


「よし、これならあいつらをボコボコに……」


 歩き出そうとしたとたん、激しいめまいに襲われた。


「ッ! あっ……、これマジでヤベぇ」



――ダッダッダッ……ガシッ!



 ……なんだ?


 顔をあげると、黒髪のポニーテールの女がいた。……なんとなくお堅そうな感じの女だな。


「キミ、大丈夫か? ……って赤ちゃんじゃないか!? なんでこんな夜中に1人でいるの!? しかも雨のなか素っ裸で……。 キミの親はいったい何してるんだ? って、そんなことよりもまず……」


 あっ、やべぇ、意識が……


 突然眠気におそわれ、俺は意識を失ってしまった。






「……よかった、熱は出てないみたい」


 うぅ、意識が戻ったか。


「フフフッ、よく眠ってる。かわいいなぁ~。……ちょっとだけほっぺたプニプニしちゃおっと」


 なんだ? 俺はなにをされてるんだ?


「はぁ~。やっぱりモチモチだ。うりうり~」


 チッ、人が寝てるときになんつーことしてんだこいつは!! 


 俺は勢いよく起き上がる。


「うわっ!? びっくりした……。もうっ、急に起き上がらないでよ」


「……おい、てめぇ、いったい何してくれてんだ?」


「ええっ!? あ、あ、あ、赤ちゃんがしゃべった!?」


 何いってんだこのバカ女?


「おりぇはサカグチ・リュウトだ! 赤ちゃん呼ばわりしてんじゃねーよ!」


 チッ、しまった。少し噛んでおりぇとか言っちまった。


「え? え? え? さ、さ、サカグチ・リュウト? え?」

 

 動揺しちまってるな。こうなった女はまともに話をすることができねー。チッ、クソめんどくせーが、落ち着くまで少し待ってやるか。






 ようやくこの落ち着きを取り戻したようだな。


「……おい、ここはいったいどこだ?」


「わ、私の家。きみが雨の中裸でずぶぬれになってたから、私の家まで連れてきたの。ご両親もどこにもいなかったみたいだから……」


「そうか。なんとなくわかった。……世話になったな。おりぇは出てく」


「で、出ていくってもう夜中だよ! 帰るあてはあるの?」


「ねぇ」


「だったらここに泊っていきなさい! 赤ちゃんを一人で外に出すわけにはいかないから」


「……おい、さっきからてめぇ、なんでおりぇのことを赤ちゃん呼ばわりするんだ?」


「えっ、だってどこからどう見ても赤ちゃん……」


「んなわけねーだろ!! さっさと鏡持ってこい、確認してやる!!」


「わ、わかったわよ……」


 バカ女は大慌てで鏡を持ってきた。さて、さっそく確認して……


「ほ、ほら、やっぱり! ちょっと目つきは悪いけど、どこからどう見てもかわいい……」


「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!?」





 そこに映っていたのは、赤ちゃん姿の俺だった。


※次は18時10分ごろに第2話を投稿します。


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