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if ~畏怖~  作者: 升宇田
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第5話 ガラケー

「うわ、懐かしい」




 休日に実家の押し入れを整理していたら、ボロボロのダンボールから古いモデルの携帯電話が出てきた。




 まだスマートフォンが出る前の、開閉式の携帯電話が全盛期だった頃のもの。




 所謂ガラケーである。




「まだ動くかなぁ」




 あまり期待はしてなかったが、専用の充電器も同じ場所に収納してあったので試しに起動してみた。




 しばらくすると、縦長の小さな長方形のディスプレイが少し明るくなり、横文字でロゴが浮かび上がった。




『久々くま~』




 待ち受け画面が映し出され、小さなマスコットキャラがお出迎えしてくれた。




 このマスコットはガラケーの各機能のガイドとして設定されているものであるが、単純に一体のキャラクターとして当時はユーザーに広く愛されていた。




「懐かしいなぁ」




 当時の思い出に浸りながら、色々とデータファイルを確認していった。




 アプリゲームや着メロ、写真など、今のスマートフォンの技術と比べるとどれも見劣りするが、確かにそれらは私の大切な思い出だった。




 何よりも、それが今でも消えずに残っているということに感動した。




「捨てないもんだなぁ」




 自分の物持ちの良さに感心しつつ、ケータイをあちこち弄っていると、メールのファイルに行き着いた。




 当時の自分のメールなんぞ恥ずかしくて読みたくはなかったが、若い頃の私はどういうテンションで、どんな文章力だったのかは少し興味があった。




 思いきってメール欄を開いてみる。




 そこには、当時付き合いがあった中学時代の同級生数人の名前が羅列していた。




 今となってはもう連絡すらも取ってはいないが、当時はとても仲が良く、いつも数人固まって一緒に遊んでいた。




 私はメールを古い順から一通一通読んでいった。




『学校だるすぎ』




『休みの日ゲーセン行こ~』




『部費の集金明日だから忘れんなよー』




 他愛のない話から、学校の連絡網、部活の愚痴などが殆どだった。




「まぁ、こんなもんか」




 思ってたより恥ずかしいやり取りはしてなかった事に胸をなで下ろしたが、怖いもの見たさで開いたこともあって少しガッカリもした。




 その後も半ば作業的にメールを開いて行き、とうとう残り最後の一通というところまで来た。




 この履歴で一番最新のメールということになる。




 私は流れでケータイの決定ボタンを押した。




『明日、夜の1時に公園ね。』




 その一文が、友達からの最後の受信メールだった。




 今まで和気藹々としていたやり取りとは打って変わって淡々とした一行。




「何これ」




 意味がわからないので、自分の送信メールも確認してみることにした。




『私は行かない』




「いや、何が?」




 当時の記憶が全くと言っていいほど無いので、この会話からは何も思い出せない。




 この時の友人に確認を取りたいが、生憎連絡先を知らない。




 その時、私はふとケータイから顔を上げて虚空を見つめた。




「そういえば、友達の顔…全然思い出せない」




 当時通っていた学校の教師や他のクラスメートの事は顔も含めて辛うじて思い出せるものの、このケータイでやりとりをしていた友達数人の顔や素性など、メールに記載されている名前以外の事は何一つとして記憶に残っていなかった。




 改めて写真が保存されている画像フォルダを確認する。




「…やっぱり無い」




 保存されていたのは自撮りしたものや風景ばかりで、友人との写真は一枚もなかった。




 段々と気味が悪くなり、咄嗟に待ち受け画面に戻した。




 すると、そこで待機していたマスコットが何故か正面を向いたまま微動だにせず、その近くのフキダシで表示されたメッセージウィンドウには短く、




『もう遅い』




 とだけ書かれていた。



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