第3話 チャイム
深夜、自宅で仕事をしていると、どこからともなく『夕焼け小焼け』のメロディが流れ始めた。
「…こんな時間に?」
時刻は深夜2時。
『夕焼け小焼け』は本来、夕方の5時頃に流れる町内メロディである。
何かの手違いで放送されてしまったのだろうか。
翌日、同じ町内に住む友人に昨晩の出来事について尋ねてみた。
「いや、聞こえなかったけど」
「寝てて気付かなかったんだろ」
「いやいや、5時くらいまで本読んでたけど聞こえなかったって」
そんなはずはない。
町中に響き渡るほどには、そこそこの音量で流れていた。
「じゃあ見に行くか、今夜」
事実を確かめるため、その日の深夜2時に、私は友人と例のチャイムが鳴るスピーカーの前に行く事になった。
スピーカーは町内にある小さな公園のすぐ近くにある駐車場のど真ん中に立っている。
「そろそろだな」
現場まであと数十メートルというところで、友人が持っていたケータイで時刻を確認した。
2時まで残り1分。
スピーカーの位置する駐車場に差し掛かろうとしたとき、
「あっ」
私は思わず声をもらした。
「どうした」
友人に聞かれるがままに、スピーカーがある方に指をさす。
「…あ」
友人が声をもらすと同時に、深夜の町内に『夕焼け小焼け』が鳴り響いた。
それからのことは、あまり覚えていない。
気が付いたら自宅の玄関で2人して倒れていた。
あの時、駐車場で“何”を見たのか、私も友人もあまり口に出さないようにしている。
あれ以来『夕焼け小焼け』が怖くて聴けない。