明かされる史実
翌朝になり、城の開放時間と同時に訪れたために門番をイラつかせながらも、宝物庫へと足を運んだ。
今日こそ失われた5000年(私にとっては)を解き明かそうと意気込んだものの……
「へ~、じゃあカミーユさんはスピード出世したんだね」
「い、いやぁ、それほどでも……」デレデレ
「…………」
私の横でイチャつく二人は今日が初対面。
――にも拘わらず宝物庫でイチャイチャイチャイチャと。
方やセイレーン方やお城の兵士と、いったい何してくれてんのやら……。
「それでそれで? カミーユっちは好きな人とかいないの?」
「好きな人! い、いえ! 自分は仕事一筋でありますから……」
「ま~たまたぁ。そんな事いって実は――」
こっちは真面目に文献を漁ってるってのに楽しそうにもぅ……。
いや、逆に考えれば集中できるから良いのかもしれない。
「ね、ね、アイリもそう思うよね?」
「……そうね」
「ほらぁ、やっぱり~」
私に絡んでこなければたけど……。
「……コホン。しかしアイリ殿は勤勉であられますなぁ。進んで歴史を学ぼうとする冒険者は皆無ではないかと」
「あ、露骨に話を逸らそうとしてる~。やっぱり下心がアリアリなんだ~、このこのぉ♪」
「い、いえ、そういう訳では……」
知識を得ようとする冒険者は少ないってのは、いつの時代も同じか。
逆に一部の勤勉な冒険者は高ランクの冒険者として名を馳せたり――
「ん? 冒険者ギルド総本部?」
文献に前の一文が出てきた。
5000年前の世界に総本部なんてなかったはず。
「冒険者ギルドの総本部を知らないでありますか? 過去に遡れば、グロスエレム教国の崩壊と同時にできたという話ですな」
「という事は、教国のあった場所に総本部があると?」
「はい。グロスエレム砂漠の中心にあり、周辺国は手を出しにくいと聞いております。更に各国の勇者や騎士団長、ベテラン冒険者などが国を捨てて集まっているため、小規模ながらも大国と同等の戦力を保有しているとか。そもそも始まりは――」
物知りなカミーユさんによると、教祖が代わるごとに財政が悪化していき、ついには国家破綻に至ったのだとか。
貴族は逃げ出し平民は難民として離れ、残ったならず者は徒党を組んで周辺国を脅かした。
そこへ颯爽と現れた元勇者がならず者を蹴散らし、冒険者ギルドを立ち上げたのが始まりらしい。
「そこへ退役軍人や引退したベテラン冒険者などが集い、他国がおいそれと手を出せない状況を作りあげた。これが2000年ほど前の出来事ですな」
「なるほど」
冒険者ギルドの総本部ね。
これは一度行ってみなきゃだわ。
「今日はありが――」
「楽しかったね、カミちゃん。また遊びに来てもいい?」
「も、もちろんであります! じじじ、自分でよければいつでもお相手を!」
「マジ? じゃあじゃあ、次のオフは~」
いつまでやってんのよアンタら……。
というかセリーヌ、アンタは年中ぶっ通しでオフでしょうが。
「ほら、さっさと帰るわよ」
グィッ!
「おぅえ! だ、だがらぐびをじめないでっで……」
セリーヌの首を掴んで城を出ると、人気のない所へと移動する。
周囲に誰もいないのを確認し、ナーウィンの街付近へと転移。
冒険者ギルドでアマノテウス攻略の報告を行い、宿で情報を整理することに。
「ねぇ、なんだって国境跨いの街に転移したわけ?」
「一旦落ち着くのと、この街を通ってゴールドキャニオンに渡るためよ。通過記録を残さないと不法入国になるから、後々バレると面倒くさいのよ」
特に商会に所属してると、商会全体がキナ臭い目で見られちゃうわ。
ポフッ
「……で、さっそく昼寝?」
「いいじゃない別に。夕方になるまで文献漁ってたんだから疲れたのよ」
「でもさ~、アイリってば猛スピードでペラペラ捲るだけだったじゃん? あんなんで内容覚えてんの~?」
「ああ、それね。もちろん覚えてないわ」
「……へ?」
「私自身は覚えてなくても、目を通した内容はいつでも思い起こせるのよ」
これは【ミルドの加護】による恩恵で、頭の中に図書館が出来てるって言えばいいかな?
その図書館にはいつでもアクセスできて、知りたい情報を瞬時に引き出せるのよ。
「それって凄くない? まるでお婆ちゃんの知恵袋じゃん!」
「はいはい。セレンの前では言わないでよね」
お陰で大部分の世界情勢も把握できたし、今回は大収穫だった。
但し、不可解な部分もある。
「セリーヌはアイリーンって街を知ってる?」
「アイリーンなら知ってるよ。5000年前にアイリが作った街でしょ?」
「うん正解。じゃあその後どうなったかは?」
「その後? え~と…………あれ? どうなったんだっけ?」
これが不可解な部分よ。
アイリーンはよほど有名だったらしく、5000年経った今でもキチンと記録に残っている。
ところがよ? どうして無くなったとか、どこかに移転したとか、そういった記録が一切ないのよ。
つまり、アイリーンはダンジョンの中にある珍しい街で、色んな種族で賑わってました~って書いてあるのに、じゃあその後はどうなってるの~? って部分がスッポリ抜け落ちてるのよ。
有名なら逐一記録されててもおかしくない。
むしろ記録されてないのが異常なのよ。
「もう一つ質問。今現在アイリーンはどうなってると思う?」
「そんなの、とっくの昔に無くなってるに決まって――あれ? そういえばいつの間に無くなったんだろ?」
はい、コレよ。
有名なはずのアイリーンがいつの間にか無くなってると認識している。
たぶんカミーユさんに聞いてもセリーヌと同じ回答が返ってくるはずよ。
まさか全員がいつの間にか忘れてるなんてあり得ないし、仮に無くなったのなら記述されてなきゃおかしい。
もうね、まるで全ての人の記憶が操作されてるかの――いや、アイリーンそのものが消されたと言ったほうが正しいかもしれない。
これは……
「面倒だけど、世界中を回って一つ一つの史実を繋げていくしかないのかも」
「え? もしかして世界旅行!? なにそれ楽しそう!」
「あ……」
つい声に出してしまった……。
面倒なセリーヌを連れて面倒な旅? ちょっと考えさせてほしい。
「ね~ね~、あたし旅行に行くならダンノーラがいいなぁ」
「あ~、ダンノーラねぇ……」
文献によると、5000年前にレジャーアイランドとして開国したらしく、今では観光先スポットとして大人気なんだとか。
そう、ここで注目したいのは5000年前って部分よ。
ひょっとしたらと詳しく調べたら、裏で画策した人物の中にアイリとバッチリ記録されてやんの。
私はいったい何を仕出かしたのやら……。
「けどまぁ、旅行に行くのはまだ先ね。今はアイリーンを復活させて、キチンと足場を固めなきゃ」
「え"~~~? つまんな~ぃ」
「そんなに行きたきゃ一人で海を越えて行きなさい。セイレーンなら余裕でしょ?」
「だから余裕過ぎてつまんな~ぃ」
ああ言えばこう言う……。
もういっそのことマリーベルのところに預けてこようか?
あの人も大概面倒だし、同類で気が合うかもしれない。
『アイリ様、今よろしいでしょうか?』
おっと、久しぶりにギンからの念話だ。
『どうかした?』
『はい。少々マズイ事が起こったらしく、ミラクルさんが取り乱してるようでして』
マズイ事?
『分かった。なるべく早く戻るようにするわ』
『お願い致します』
商会の運営に不備でもあったのかな?
今日1日はゆっくりするとして、明日にでも帰ろ――
フィキーーーーーーン!
「グッ!?」
まただ、またこの感じ!
あの少女が時を止めたのよ!
「いくらなんでものんびりし過ぎよ」
昨日と同じ格好で現れた、白い仮面の金髪少女。
案の定セリーヌはベッドで横になったまま動かず、その隣で例の少女が座っていた。
「今度は何の用? まさか昨日の今日で戦うつもり?」
「んなわけないじゃない。一つ助言するけれど、ミラクルを助けたいなら今すぐ戻りなさい。じゃないと手遅れになるわよ?」
「……手遅れ?」
「信じる信じないはアンタの勝手よ。ただ一つ言えるのは、今のミラクルじゃ仲間の死は乗り越えられない。救えなかったと気付いたら、永遠に心を閉ざしてしまうでしょうね」
仲間の……死? 永遠に心を閉ざす……。
「アンタには現状を覆すだけの力がある。悔いのない選択をしなさい」
シュン!
「消えたか……」
昨日と同じく仮面の少女はどこかへと転移し、時間が動き出した。
「セリーヌ、すぐにアイリーンへ戻るわ」
「……へ? なんで急に――おぅえ!」
セリーヌの首を引っ掴んで宿を出てゴールドキャニオンへと入国し、人が居ないのを見計らってアイリーンへと転移した。
そんな私を待ち受けていたのは……
「離してエレイン! 早く――早く助けに行かなきゃ!」
「落ち着いてくださいマスター。まだ落ちたと決まったわけではありません」
「その通りですわ。まずは正しい情報入手が先決でしてよ?」
取り乱しているミラクルを数人で必死に宥めている。
ここまで荒れてるのは初めて見たわね。
「落ち着きなさいミラクル。いったい何があったの?」
「アイリぢぁぁぁん!」
号泣しながら私に飛び込んできたミラクル。
やがて顔を上げると、涙ながらに訴えてきた。
「たずげてアイリぢゃん! 聖徳さんが――聖徳さんが――」
「聖徳?」
聖徳って言うと、魔女の森の西側にダンジョンを構えてたダンマスね。
ミラクルとも仲が良いとか。
「ひざじぶりに通信じだら、ダンジョンが無いって表示ざれでぇぇぇ!」
「ええ!?」
ダンジョンが無い――つまりダンジョンが攻略された?
アマノテウスは捕えたはず。まさか他にも魔女の森を狙ってる奴が……。
(今のミラクルじゃ仲間の死は乗り越えられない)
あの少女の台詞が脳裏に甦る。
迷ってる隙はないわ!
ガシッ!
「行きましょ。行って直接確かめるのよ!」
「ア、アイリちゃん!?」
「ちょ、置いてかないでよぉ!」
気付けばミラクルの手を掴み、アイリーンを飛び出していた。
これにて第4章は終わりです。




