流れには逆らえない……
「思った通り、結構並んでるわね」
冒険者やら商人やらと多くの人たちの背中を眺めつつ、順番が来るのを待つ私たち三人。
ゴールドキャニオンからミリオネックに渡るには、この2国を跨いでる街――ナーウィンの中心にある検問所を通るしかない。
「よぉよぉそこの姉ちゃん、順番待ちの間に俺らと楽しいことしようぜ?」
「こっちの小さい方は妹かな? お嬢ちゃんも一緒にどうだい?」
アンジェラが姉で私が妹という設定にしたチャラ男三人組が近付いてきた。
こういう輩がいるからモフモフを召喚したのよ。
「おぅお前ら、俺の連れになんか用か?」
「ああ? 部外者は黙っ――ヒッ!?」
モフモフの厳つい顔を見て、チャラ男たちは途端にへっぴり腰に。
「おぅ、どうなんだ、ああ?」
「しししし失礼しましたーーーっ!」
「すんませんしたーーーっ!」
「僕は死にましぇーーーん!」
堪らず走り去っていくチャラ男三人組。
特にアンジェラが美人だから余計に多いのよねぇ。
ドガッ!
「あ……」
最後の1人が馬車に轢かれた。
自業自得だし諦めてもらおう。
「うむ、よくやったぞモフモフ。褒美に妾が特別レッスンをしてやろう」
「どこがお礼だ! 次からはお前がやれ!」
「つれない奴じゃのぅ」
「はいはい、順番が来たんだからレッスンは今度にして」
何だかんだやってるうちに順番がやって来たらしく、門番に誘導されて身分証の提示を求められた。
「ギルドカードを拝見しよう」
「はいどうぞ」
「…………!? し、しばし待て!」
あれ? 冒険者ギルドのカードを見せただけなのに、慌てて詰所に引っ込んでいった。
カードには名前とランクしか記入されてないし、何も不審な点は……
「待たせてすまなかったな。通っていいぞ」
「あ、ありがとう御座います」
よく分からないまま門を潜り、ミリオネックへと入国した。
けれどそのまま立ち去ろうとしたら、先ほどの門番から一言告げられる。
「お前たち、アマノテウスというダンマスを倒すのに協力してくれるのなら、是非とも冒険者ギルドに立ち寄ってくれ」
それだけ言うと、元の場所へと戻っていった。
なるほど。私を含む三人ともAランクの冒険者だから、ギョッとされたわけか。
「どうするのじゃ主よ。あの者の言う通りにするのかや?」
「一応は行くつもりよ。だけど依頼を受けるかは――う~ん、どうかなぁ……」
大勢で行動するのは好ましくない。なぜなら私たちはAランクの冒険者を遥かに上回ってるから。
できれば三人で攻略するのがベストなんだけど……
「多分だけど、Aランクの冒険者三人が入国したって上層部に報告されてるわね」
「何か理由があるんですかい?」
「アマノテウスに対して一進一退だって話だし、高ランクの冒険者はできるだけ確保したいと思ってるはずよ。状況しだいでは直接依頼してくるかもね」
依頼を受けるかは別として、さっそく冒険者ギルドへとやってきた。
どのみち情報収集をするつもりだったし。
「いい、二人とも? あんまり目立つ行為は避けて――」
「たのもーーーぅ!」
「――って、言ってるそばからソレ!?」
こうして何度も忠告した私の努力は水の泡となり、アンジェラの声に反応して中にいた殆どが私たちへと注目する。
「ここで一番強い奴は誰じゃ? 出て来るがよいぞ」
「おぅ、さっさと出て来やがれ!」
ポキポキと指を鳴らす二人の台詞を聞き、冒険者たちがヒソヒソと話し始める。
「あいつら、いったい何考えてんだ?」
「さぁ? 用心棒でも探してんじゃね?」
「でも指鳴らしてんぞ? 単なる戦闘狂じゃねぇかな」
「でも片方はすげぇ美人だぞ? ちょっと考えちまうな」
声を拾ってみると、案の定な会話がなされていた。
「ちょっと二人とも、何するつもりよ?」
「なぁに、簡単な事じゃ。最初から強さを示せばコソコソする必要もあるまい」
「おぅ、そういう事か!」
「何故そうなる!」
強さをバラしたら面倒だってのに、自ら呼び込んでどうする!
というかモフモフは何も考えずにアンジェラを真似たわね!?
「おうおうおう! どこのどいつか知らねぇがよぉ、ここらで超有名なゴーキ様が居ると知ってて言ってんだよなぁ?」
なんか変なのが出てきた。
上半身裸で鉄こん棒を持ったいかにもな大男よ。
「なんじゃ、お主が一番強いのかや?」
「おうよ。何てったってBランクだぜぇ? 他の連中はせいぜいCランクってとこだ」
鼻高々と自慢気に話すゴーキとかいう男。
他の冒険者が黙ってるところを見ると、言ってることは本当なんでしょうね。
けれどアンジェラの台詞が、ゴーキの顔を歪ませることに……。
「ほほぅ。ならばお主に用はない」
「……あ?」
「Bランクなのじゃろう? ならば妾たちより格下じゃ。相手するまでもなかろう」
「…………」
まさかランクをバカにされるとは思ってなかったらしく、頭に血を上らせてワナワナと震え出し、ついに怒りを爆発させる。
「ふざけんじゃねぇ! 俺をバカにしやがって、ただで済むと思うなぁぁぁ――」
ドスッ!
「ブオッ!? おっ……ご……」
「言ったであろう? 相手するまでもないと」
振り上げた鉄こん棒を手離し、堪らず身を縮こませるゴーキ。
端から見れば勝手に悶えてるように見えるんだけど、実際にはアンジェラの拳が常人には見えない速さで鳩尾に叩き込まれたのよ。
「お、おい、何があったんだ?」
「分からねぇ。気付けばゴーキのやつが苦しんでやがった」
「あの女、ひょっとしてスゲェやつなのか?」
ギャラリーの目にもアンジェラの動きは見切れず――というか、ゴーキより格下なら見切れる訳がない。
「どこのどいつだ? ギルド内で騒ぎを起こしてるやつぁ」
「あそこです、ギルドマスター。あの二人が強者を出せと叫んで……」
「あの二人……む? 見ない顔だな?」
職員に連れられたギルマスが二階から下りてきた。
これでもう注目の的のなるのは避けられそうにない。
どうしてこうなった……。
「お前たちか? コイツをやったのは」
「確かにそうじゃ――」
「はい待った。やったのは確かだけど、先に襲ってきたのはコイツの方よ。あ、一応言っとくけれど、私はこの二人の仲間だから」
手を出してきたのはゴーキである事を最初に伝えてみた。
下手すると喧嘩両成敗にされかねないし。
「……そうなのか?」
「は、はい、それは本当です。顔を真っ赤にしたゴーキがこん棒を振り上げたのを全員が見てます」
「…………」
ギルマスが職員に確認し、問題を起こしたのはゴーキであると告げる。
「ですが強者を出せと言い出したのはこの二人が先でして……」
そして余計な事も告げられた。
できれば空気を読んで欲しかったなぁ。
「なるほどな、おおよその流れは分かった。ひとまずゴーキは地下に隔離しておけ。あれほど問題を起こすなと言ったのにコイツは……」
哀れゴーキは職員に連行されていく。
一部の冒険者からは「ザマァw」という声も上がり、なんだか良いことをした気分に。
「問題児だったんだ。それなら隔離できる口実ができたってことで万事――」
「――解決にはならんぞ?」
「あ~~~やっぱり?」
残念ながらうやむやにはできず、腕組みをしたダンマス(割とデコの広い)が仁王立ち。
「お前たちはこっちだ。マスタールームで詳しく聞かせてもらおうか」
「はい……」
さてさて、何を言われるやら。
★★★★★
私たち三人はマスタールームへと通された。
ん? よく考えたら、問題のある人物をギルマスの自室へ案内するとは考えにくい。
まさか別の要件が……
「さて、ひとまずは礼を言おう。ゴーキの奴はBランクなのを鼻にかけ、しばしば問題を起こしていてな。誰も咎める事ができなかったというのが実情だ」
うん、そこは想像通りだわ。
だけど……
「ん~、礼を言うだけならマスタールームに連れてく必要はなかったんじゃ?」
「ハハッ、鋭いな? ギルド内で他者を挑発した結果、ゴーキが問題を起こしたのも事実。ならば事の発端としてお前たちにも責任は発生する。これは分かるな?」
「う……」
「だが今回は罰するのが目的じゃない。お前たちに依頼を受けてもらうのが本命だ」
はい、これも予想通り。
黙認する代わりの条件ってやつね。
「私たちに何をさせようと?」
「大体は想像つくだろ? 今ミリオネックが躍起になってるアマノテウスの攻略だ」
なんという運命のいたずらか、門番だけに限らず冒険者ギルドからも頼まれてしまった。
「でもねぇ、他人との連携となると――」
「フッ、任せな。アマノテウスだかアマノテラスだか知らねぇが、俺たちがキッチリとなしつけてやらぁ!」
「ちょ、モフモフ!」
この単細胞! 勝手に引き受けて――
「ふむ。たまにはダンジョン攻略もよかろう。吉報を待つがよいぞ」
「アンジェラまで……」
もうこの流れは止められそうにない……。
「すまんな。各冒険者ギルドに国からの依頼が入ってて人数ノルマがあんのさ。このブロード・キースウェイ、心から感謝するぞ!」
自身のフルネームを晒して熱い握手を求めてきたギルマス。
不本意ながらもこの街――ナーウィンの代表として、アマノテウスのダンジョンを攻略することになった。




