闇ギルド・ヘルハウンド
深夜になりアイカを過去へと送りかえすと、アイリーンを飛び出して北に向かって飛行する。
どこに向かってるかって? 目的地はゴールドキャニオンという商業国家で、その国にあるフランツという町よ。
ここには闇ギルドの構成員であるカゲマルって奴が潜伏してるから、冒険者をアイリーンに誘導した理由を問い詰めてやるわ。
ちなみにここまでミラクルに世話を焼く理由は、私を召喚したのを祝して誰もが恐れるダンジョンマスターにしてあげようって試みよ。
「闇ギルド――ヘルハウンドのアジトは西のスラム街だったわね」
上空から難なく侵入すると、一般人に混ざって西へと進む。
事前にダンジョン通信を使って情報を仕入れたから、間違いはないはずよ。
仮に間違ってたら、偽情報を流した奴を(物理的に)吊し上げるだけね。
「ようお嬢ちゃん、こんな夜中に一人歩きとは無用心だぜ?」
「俺たちが護衛してやんよ」
あ~マズッた。
夜更けに女の子が1人だと、こういう輩に付け狙われるわよね。
しょうがないから眷族を召喚しとこう。
シューーーン!
スマホをチョチョイと操作して、自慢の眷族を召喚した。
今回召喚したのはBランクのワイルドホークとリザードマンキング。但し人化した状態よ。
じゃないとエライ騒ぎになるし。
ちなみにBランクとはベテランの冒険者パーティが命がけで挑むほどで、そこらのならず者がどうこうできるレベルじゃないわ。
「な、なんだコイツら、どどどどうやって現れた!?」
「コイツ魔法士か!」
正確にはダンジョンマスターだけど、一々説明する義理はないわね。
「ホーク、ザード、ウザい奴がいるから追い払って」
「お安いご用や。ワイらに任せとき!」
「我が主に手を出そうとする愚か者は貴様らか?」
ギリリリ!
「イデデデデデ! わ、悪かった、謝るから手を離してくれ!」
「己の愚、天誅に値すると心得よ」
「「す、すんませんでしたーーーっ!」」
チンピラっぽい2人組は風のように逃げ去っていった。
赤毛のチャラ男と青い鎧兜で武装した凸凹コンビだけれど、この2人がいれば何かしようとは思わないでしょ。
「んで、今回は何をするんや? 5000年後の世界ちっちゅうこって、めっちゃテンション上がるで!」
「これから闇ギルドにお邪魔するからちょっと付き添ってほしいのよ」
軽く状況を説明しながら西のスラムへとやってきた。
ゴミがそこらに散乱していて、浮浪者が寝ている姿がチラホラと視界に入り込む。どことなく臭いもクサいし、できれば長居したくはない。
「手っ取り早く、そこらのチンピラに聞いてみましょ」
通路の先でたむろしているチンピラ集団に接近していく。
こちらに気付いた連中は一瞬驚きを見せるものの、鴨が来たとでも思ったのかニヤニヤとイヤらしい目付きに変えた。
「よう嬢ちゃん、貴族の使用人かい?」
「ここは嬢ちゃんのような可愛い子が来るところじゃないぜ?」
「だが来ちまったなら仕方ねぇ。歓迎会と洒落込もうじゃねぇか」
逃げられないように取り囲んできた。
けれど雑魚がやったところで意味はないのよ。
「ホーク、ザード、情報を聞き出すんだから殺しちゃダメよ?」
「っしゃあ、任せとき!」
「承知!」
まさか応戦するとは思ってなかったのか、チンピラ共が一瞬怯む。
けれど私たちの前でそれは命取りよ。
ま、怯まなかったとしても……
「久々の喧嘩やオラァ!」
バキッ!
「ぐはっ!?」
「刀の錆びにしてくれようぞ!」
ザシュ!
「ギェェェ!」
コイツらに勝機はなかったでしょうね。
――というかザード、斬り捨てたらダメじゃないの……。
「クソッ、こうなりゃ仕方ねぇ、護衛2人は殺しちまえ!」
「「「おぅ!」」」
残りは12人。
生き残りは多い方がいいし……
「ザード、不殺でお願い」
「無論に御座る――セャッ!」
ザシュ!
「ギャッ!」
「いや、だから――」
「ヒャッハァ! ウィンドカッターや!」
スパスパスパッ!
「「「ヒギェッ!」」」
「だからアンタたち――」
「ベノムスラァァァッシュ!」
ズッパァァァン!
「「「ギョェェェッ!」」」
「アンタたち話を――」
「今度はエアバーストや!」
バシュゥゥゥ!
「「「グッハァァァッ!」」」
「いい加減に――」
斬撃やら風魔法やらでチンピラの殆どが死に絶える。
久々でテンション上がるのは仕方ないにしろ、目的が遂行できないじゃないの!
そしてとうとう――
「しなさーーーーーーい!」
ゴキッ!
「――――」
「……あ」
しまった、勢い余ってチンピラの首をへし折っちゃったわ。
今度から力加減には気をつけないと。
「ヒ、ヒ、ヒィィィィィィ!?」
「生き残りが逃げるわ、捕まえなさい!」
「よっしゃ!」
「承知!」
妙に速い四つん這いで逃げようとしたチンピラを捕らえ、路地裏へと引きずり込む。
貴重な生き残りだし、今度こそ殺さないように気をつけないと。
「さっそくだけど、ヘルハウンドって闇ギルドを探してるのよ。何か知らない?」
「…………」ブンブンブン
無言で首を横振り。
ふ~ん? この期に及んでとぼけるんだ。地元のヤツが知らないわけないじゃない。
「ホーク」
「ホイきた!」
ボキッ!
「んぎゃぁあ!?」
「嘘つくたびに手の指を一本ずつ折ってくさかい、はよぅバラした方がええで?」
ホークは眷族の中でも拷問が大好きな変態野郎だからね。
本音ではもっと嘘をつけと思ってるに違いないわ。
「わわわ分かった! 教えるから止めてくれぇぇぇ!」
「なんや、根性ない奴やなぁ。もっとぎょうさん粘れや!」
ほ~ら、本音が出た。
「す、すぐそこに見える地下水路を北に進むんだ」
「すぐそこ――って、石の格子で仕切られてるじゃない。ホーク」
「ホイきた」
「まままま待て待て、嘘じゃねぇ! その格子は外せるようになってるんだ! 外して奥に進んでくと幾つかの分かれ道があるから、左、真っ直ぐ、右、左、真っ直ぐ、真っ直ぐ、右、真っ直ぐ、の順に進めばヘルハウンドのアジトにたどり着けるぜ」
随分と複雑で面倒な構造ね。覚えるのも大変だわ。
「2人とも覚えた?」
「無論。しかと心に刻み込んでそうろう」
「ワイも覚えたで。上上下下左右左右――っちゅう感じやったろ?」
「アンタはテキトーすぎ!」
なんのコマンドか知らないけれど、鳥頭のホークはあてにならないのが分かった。
迷ったらザードをあてにしよう。
「ご苦労さん。もう帰っていいわよ」
「おおおお恩に着るぜぇぇぇ!」
四つん這いとは思えない猛スピードでチンピラが逃げていく。
でも念には念を入れとかなきゃね。
「ホーク」
「了解や!」
私の意図を察したホークがチンピラの後を追っていく。
騙してる可能性もあるし、一応は監視をさせとこうと思ったのよ。
「私たちはアジトを目指しましょ」
「承知」
道を覚えてるザードを先頭に立たせ、地下水路を進んでいく。
最初は左、次は真っ直ぐ、次に――っと、どうやらギャラリーが湧いてきたみたい。
『ザード』
『こちらの様子を窺っている輩で御座ろう? 無論把握しているで御座る』
きっとヘルハウンドの構成員ね。通路の先でこちらを監視してるわ。
ま、気にせず進んで、向こうから襲ってきたら反撃するつもりよ。
「ここは右で最後に真っ直ぐ――あ、あの洞穴みたいなのがアジトね」
通路の突き当たりにある壁が崩されてるのが見えた。その奥にアジトがあるんだわ。
監視していた構成員は背後に回り込んでいて、場合によっては帰さないつもりなんでしょうね。
「待ちなぁ!」
洞穴に入ろうとしたところで前後から6人に挟まれる。
手にはそれぞれ得物を持っていて臨戦態勢が整った状態で、リーダー格らしき中年男が口を開いた。
「ここは一般人が迷わずたどり着ける場所じゃねぇ。何しに来やがった?」
「人を探してるのよ。カゲマルって人物なんだけど、この辺りに居るって聞いてね」
「ああ、情報屋の事か。ここに居るのは間違っちゃいねぇぜ?」
「じゃあ――」
「だが、ここに来たのは間違いだったな」
おっと、殺気が膨れ上がったわ。
どうやらアポ無しで乗り込むのはダメだったらしい。
「奴とはここ以外で会うのがルールなんだ。運が悪かったと思って、今世は諦めなぁ!」
その台詞と共に一斉に飛びかかってくる構成員たち。
でも遅い――遅すぎる!
「ベノムスウィング!」
ズバァァァン!
「「「グハァッ!」」」
周囲を大回転する横薙ぎにより5人が絶命し、運が良かったのかリーダー格だけは範囲から逃れた。
「お粗末!」
「リーダー格だけは生きてるし、上出来よザード」
「恐れ入りたてまつる」
さて、石像のように固まったリーダー格に尋問開始よ。
「もう一度聞くけれど、カゲマルを探してるのよ。素直に話してくれたら――」
「は、話す、話すから助けてくれぇ!」
「……じゃあカゲマルのところまで案内しなさい」
「い、今すぐは無理だ。ヤツは今、魔女の森にある拠点にいる。ダンジョンコアを手に入れる算段があるとかで、一週間前から隠れてやがるんだ」
つまりアイリーンのダンジョンコアは、かなり前から狙われてたって事か。
「ここからじゃ急いでも3日はかかる。それでも構わねぇなら案内するが」
「そこまではいいわ。情報提供ご苦労様」
「じ、じゃあ助けてくれるん――」
ザシュ!
「グガッ!? な……なぜ……」
「何故って……助けるなんて一言も言ってないわよ? 素直に話してくれたら楽に死なせてあげようとは思ってたけれど」
「そん……な……」
バカね、敵対した闇ギルドの構成員を生かしておくわけないじゃない。
手駒にしても雑魚すぎるし、使えないなら始末するだけよ。
「せっかく来たんだし、ここにあるヘルハウンドの拠点は潰しておきましょ」
「御意」
一応ギルマスとは話してみるけれど、使えなさそうなら……