制裁
4人を送り込んできた黒幕が判明した。
相手はなんと、フランツの街では老舗といっていいドレッド商会で、食料品から衣類まで幅広く扱っているんだって。あ、武器もあったかな?
「幅広いがため、売上の多くを圧迫していると考えていいだろう。何せこちらの価格は敢えて安値にしてあるんだ、客が流れるのは止められんだろう」
カゲマルさんの言う通り、例えばポーション1つ見ても銅貨30枚と銅貨10枚なら後者を選ぶのは当たり前だよね?
前者は一般的な相場で、後者はレジェンダ商会の価格だよ。
「価格は勿論のこと、品質にも自信がありましてよ? ポーションなら常に同一のものが召喚されますし、武器の耐久も安定してるとなれば、安心安全で更に多くの客が見込めますわ」
質に拘りを持つレミットさんも納得の表情。
一般のポーションだと当たり外れがあるのに対し、こちらのポーションは外れがない。
まだお客さんは気付いてないけれど、そのうち噂が広がるだろうってエレインも言ってるよ。
「それになんと言ってもメイド喫茶だ。あのフリフリな服装は男心を刺激し、この幻王を高みへと導く――ブゲッ!?」
「……幻王はしばらく出入り禁止」
マリオーネさんにワンパンを食らった可哀相な幻王さん。
鼻の下を伸ばしてたし、これは庇ってあげられないかな。
「つまりさ、このままいけば商売繁盛で気ままに生活できるんだよね? ならそれを邪魔する悪い奴らは制裁しないと――うりゃ!」
ゲシッ!
「ありがとう御座います、ありがとう御座います。ついでに言うと、もう少し足を上げていただければ最高です」
「え~と……こう?」
ゲシゲシッ!
「おっほ~~~、いい眺め!」
なぜかムムちゃんに蹴られたブラッシュさんがお礼を言ってる。
よく分からないから放っておこう。
「……コホン。とにかく、やられたのならやり返すのが道理です。ドレッド商会の場所も分かっていることですし、さっそく今から――」
「いや、それは止めた方がいい」
エレインに待ったをかけたのは、意外にもカゲマルさんだった。
「なぜ止めるのです? どうせなら夜襲の方が都合がよいと思いますが」
「夜襲そのものには反対しないが、今はタイミングが悪い。バルドス公爵がお忍びで来ているらしく、襲撃発生となれば街全体に良い印象は持たれない」
それはマズイよね。
バルドス公爵はゴールドキャニオンの最高権力者だし、なによりグラハトーヤ子爵に迷惑をかけるのは心情的にもよくない。
★★★★★
「いらっしゃいませーっ! レジェンダ喫茶へようこそ!」
「4名様、テーブル席へご案な~い♪」
「オーダー入りまーす! 恋散るジェラシーパフェと薄めたポン酢ジュース、ご注文ありがとう御座いまーす!」
「またテメェかよ、いい加減にしやがれ!」
「ああ、いい感じです! もっと強く踏んでください!」
結局のところ襲撃は見送られ、いつも通りの朝がやってきた。
本当は反撃してやりたかったけど、下手なことをして悪評がつけば払拭が難しいって話になったんだ。
だから反撃するのは公爵さんが首都に帰った後になったよ。
「送り込んだ冒険者が戻らなかった時点で失敗したと気付いているはずです。しばらくは警戒して手を出してこないかと」
「だといいんだけどね」
バァン!
「「!?」」
そんなエレインの考えに反するかのように店の扉が荒々しく開けられると、貴族とおぼしき格好をした中年の男の人がノッシノシと入ってきた。
背後には護衛3人を引き連れていて、他の客を押し退けて勝手にテーブル席へと座っちゃった。
「あ、あの……すみませんが、その席は別のお客様が――」
「なんだ貴様。このワシをナメトルケン伯爵と知っての狼藉か?」
「ヒッ!? す、すみません……」
伯爵という地位を出されて、ユーリアさんが尻込みしていく。
「この野郎……伯爵だか何だか知らねぇが、勝手なことを――」
「ま、待ってよレイ、今回は相手が悪い」
「んだよシェーラ。テメェはあんな振る舞いを見逃すってのか?」
「いいからレイは落ち着くです。相手が伯爵ではグラハトーヤ子爵ではどうにもならないですです」
腕まくりをしたレイさんを、シェーラちゃんとシュガーちゃんが必死に宥める。
いつかは来るかと思ってたけど、権力を笠に着る人たちはどこにでもいるからね……。
「おい、貴様!」
「……へ? あ、あたし?」
「そうだ貴様だ。客として来てやったのだ、さっさと注文を取りに来い」
うぅ~、嫌な人に指名されちゃった。
でも行くしかないよね。
「ご、ご注文をお伺いします……」
「なんだそのヤル気の無さは? ドレッド商会の足元にも及ばぬ対応だな。こんなので商売を始めたとは……フッ、お笑い草とはまさにこの事だ」
うっわ~嫌味な人……。
おとなしく従って、早めに帰ってもらお。
「まぁいい。貴重な時間を費やして来たのだし、せっかくだから注文してやろうではないか」
メニューをピラピラと捲り、どれにするかを選んでるみたい。
本来ならここでセットメニューをオススメするんだけど、言ったら言ったでケチ付けられるだろうし、何も言わないのが正解だよね。
というか、貴重な時間ならわざわざ来なくていいのにと思う。
「――以上だ。さっさと持ってこい!」
「は、はいぃぃぃ!」
無事に注文も決まり、ようやく解放された。
あ、でも注文をとった人が持って行かないといけないし、まだあたしは解放前だった……。
「お疲れ様ですマスター」
「うん、まだ昼前なのにクタクタだよぉ……」
もう明日は休んでもいいよね?
「大丈夫ですかミラクルさん? 何だったら僕が――」
「ううん、大丈夫だよルト君。多分だけど、誰が出てもケチ付けられるだろうし、これも経験だから」
場数をこなせってアイリちゃんからは言われてるし、ここで逃げちゃダメなんだと思う。
「はいよミラクルちゃん。気をつけて行っといで」
「うん、ありがとうバーデンさん」
「神よ、ミラクルにご加護を……」
「シンプソンさんもありがとう」
元酒場のマスターだったバーデンさんからトレイを受け取り、伯爵の元へと向かう。
ちょうどカウンター席にいた裏手の教会を管理するシンプソンさんに見送られる形で。
「お、お待たせしました。ご注文いただいた品――薄味カツゲンに萌え萌えオムレツのお子様ランチ、それと燃える闘魂漢のパフェになります」
「…………」
恐る恐るテーブルに並べたけれど、伯爵は黙って眺めているまま。
他の客も手を止めて様子を伺う中、ドリンクを手にとった伯爵が!
バシャッ!
「っ!」
「こんな粗末な物を注文した覚えはない」
あたしの顔におもいっきり浴びせてきた。
勿体ないから舐め取り――いや、止めとこ。
それにしても注文した覚えがないなんて、あたしも間違ってとった覚えはないんだけど。
「こっちのランチは少しはマシかと思ったが、これもダメだダメすぎる――フン!」
ガシャン!
あーーーっ勿体ない! 質素な食事よりよっぽど美味しいのに、床に投げ棄てるなんて!
「トドメはコレか? 漢のパフェだか何だか知らないが、グラスの中でポージングする汗臭そうな男のオブジェだ。コレを伯爵であるワシに食わせようとは恥を知れ!」
ごめんなさい。それは言い訳できません。
「まったく、何なんだこの店は? こんなゴミ同然な物を客に食わせるとは。ドレッド商会ではこのようなことはあり得んぞ!? 少しは見習ったらどうなんだ!」
またドレッド商会を引き合いに出してる。
もしかしなくてもドレッド商会が絡んでるよね。
「ちょっと失礼する」
「ん? なんだ貴様は?」
「私かね? 一部始終を見ていた客だとも」
あ、紳士っぽいオジ様が、あたしと伯爵の間に入ってきた。
一般人がそんな真似をしたら……
「フン、見ていたなら知っているだろう。ワシはナメトルケン伯爵だぞ? どこの馬の骨か知らんが、ワシに楯突いてただで済むと思っているのか?」
パチン!
伯爵が指を鳴らすと、控えていた護衛が剣を抜いた――って、マズイよ! 店内でそんなことしちゃ!
けど慌ててエレインに視線を向けても「大丈夫です」って合図するだけ。
いや、こんな状態で大丈夫なわけ――
「ほほぅ。私に剣を向けるのかね? それがどういう意味を成すのか知っているのだな?」
「ああ? 平民の分際で何をほざくか!」
「ふぅ……やれやれ。また1人バカな貴族が判明したか」
「バ、バカだと!? 貴様、ワシを――」
「捕らえよ」
「「「ハッ!」」」
え? なになに? どういうこと?
平民のオジ様が呼び掛けると、周囲にいた男の人たちが一斉に動き出したよ!?
そして抵抗する間も与えず、伯爵たちを取り押さえちゃった!
「な、なにをする無礼者! その汚ならしい手を放さんか!」
「ええぃ黙れ! 貴様こそバルドス公爵様に対する無礼な振る舞い、断じて見過ごせん!」
え? 公爵様?
確かバルドス公爵って、ゴールドキャニオンの最高権力者だったよね?
「ほへ? バルドス公爵とな?」
「そうだ! 貴様が剣を向けさせた相手はバルドス公爵様であるぞ!」
「フヒッ!?」
伯爵も仰天して口から泡を吹きだした。
そりゃこんなところに公爵様がいるとは思わないもんね。
「大変お疲れ様です、マスター」
「エ、エレイン、どういう事? なんで公爵様がうちの店に?」
「ああ、それはですね――」
「やっほ~、私だよ!」
「あ、マリーベルさん!」
声の方に振り向くと、公爵令嬢のマリーベルさんが明るい笑顔で手を振っていた。
「アイリちゃんから聞いたの。お洒落な喫茶店がオープンするって言うから、お父様に無理を言って来てみたんだよ!」
「そ、そうだったんだ……」
「あとエレインからも聞いたよ。ドレッド商会が裏で手を回してたんでしょ? お父様がキッチリと締め上げてくれるから安心して」
「ありがとう、マリーベルさん!」
これでナメトルケン伯爵とドレッド商会はおしまいだね。
あとはアイリちゃんの方も上手くいってくれるといいんだけど。
幻王「幻王だ。今回は注文した食べ物や飲み物、並べている商品について解説しようと思う」
レジェンダ喫茶でのオーダーは、アイリが召喚した物を取り出しているだけだった!?
幻王「そう、これだ。カツゲンやらパフェやらは、いざ注文が入っても作ることができないんだ。現状できるものは元酒場のマスターによるカクテルと摘まみくらいで、それ以外はマジックバックに保管されている物を取り出すだけ。言ってしまえば料理人いらずだな」
お品書き
・スマイル 銅貨1枚
・記念撮影 銅貨50枚
・同席会話 銀貨1枚(お一人様10分)
幻王「普通のメニューも有るが、上記のは気になるメニューとして上げてみた。これらは他の喫茶店にはないもので、レジェンダ喫茶が人気の理由でもある。例えばスマイルだが、これは客に対して微笑む動作を指す。安値だがこれが中々のくせ者で、気に入ったウェイトレスに対して何度も繰り返す客が多く、あっという間に5枚10枚となっていくんだ。噂では他の喫茶店でも真似をし始めたとか。まぁ至極当然だな」
幻王「次の記念撮影だが、これはデジカメでウェイトレスと撮影したものを客に売るというやつで、ダンジョンコアとリンクした特注のデジカメで撮影すると、ダンジョンコアがプリントアウトするのだ。ちなみにアイリ殿が言うには写真だと面倒な事になるからと、プリントにしたらしいぞ」
幻王「ウェイトレスと客が会話できるご指名タイムだ。ついつい会話が弾んでしまい、飲み食いや延長によりかなりの収入が見込まれ、事実相当な稼ぎになっているぞ」




