伝説になっていた私
「ここがあたしのダンジョンです。アイリーンって言うんですよぉ」
コアルームまで案内されてビックリ、やって来たのは私のダンジョン!
――が、あった場所だったりする。いったいどうなってるやら。
10畳ほどある内装はというと、土で覆われた壁に岩でゴツゴツした地面。それに天井まで僅か2メートルという高さに、当時の面影はまったく感じない。
けれどアイリーンって名前が残ってるのは嬉しいわね。
これは私が名付けたもの――ではなく、名付け親はアイカだったりする。
まぁそれはいいとして、なんと、階層は15階まであるという驚異の厚さで、5階層には街がある――ってそんな事は後でいいわね。今は侵入者を撃退しないと。
「ミラクル、侵入者の対処を急いで」
「ハッ!? そ、そうでした!」
ハッとなったミラクルが、黄金色に輝くコアに触れる。
どうでもいいけどコアの色まで変わってるのね。私の時は赤く光ってたのに。
「エレイン、侵入者の様子は!?」
「現在2階層を攻略中。各小部屋の宝箱を漁りつつ、ボス部屋へと接近しております」
このエレインという名のダンジョンコアの声は、まさにアイカそのものだった。
但し、感情というものが一切感じられなく、とても冷淡に感じられる。
こっちも後で確認するとして……
「ミラクル、このダンジョンは何階層まであるの?」
「全部で3階層です。でも罠は殆どなく魔物も居ないため、そのままボス部屋にたどり着かれると思います」
ダメじゃないの……。
「そもそもDPが少ないので、ボス部屋にしか魔物を配置できていないんです。それで何とかしようと思って外に出たら……」
「さっきの国の連中に捕まったと」
「はい……」
四面楚歌ってやつね。
なら直接撃退するしかないか。
「まずは侵入者を倒してDPを獲得しましょ。そうすれば色々と召喚できるだろうし」
「どうやって倒すんですか?」
「ま、今回は私がやってあげるわ。次からは自分で対処できるように頑張るのよ?」
「分かりました!」
「じゃあエレイン、侵入者を映してちょうだい」
あれ?
「エレイン?」
「なぜ他人の貴女に命令されなければならないので? マスターならともかく、部外者のくせに気安く呼ばないでほしいですね」
言い方がイラッとくる。
あのアイカだって、ここまでトゲはなかったはずよ。
「せめてお願いするならエレイン様とお呼びなさい」
更にイラッときた。
ここまで高圧的な態度はアイカにはなかったはず。このコアは別物ね。
「はぁ……ミラクル、コアに侵入者を映すよう命令して」
「分かりました。――エレイン、侵入者の様子を映して」
「仕方ないですねぇ……」
やる気のなさそうなエレインが仕方なく応じた。
コアの真上に設置されたモニターには男四人の冒険者パーティが映され、罠も魔物もいない洞窟を雑談しながら進んでる。
『なんでぇ、しけたダンジョンだなぁ。このままじゃ収穫なしだぜ』
『まったくだな。魔物もいなけりゃ罠もねぇ。挙げ句に宝箱は空ときたもんだ。これじゃあマジで骨折り損だぞ?』
『こうなりゃダンジョンコアだけでも持ち帰ってやろうぜ。ちったぁ金になるだろ』
『ファッキンファッキン!』
随分と舐められてるわね。
内容から察するに初めて入ったらしいけれど、これは偶然? それとも……。
「あ、あんな事言ってますぅ! もうおしまいですぅ!」
「落ち着きなさいっての。ちょっと尋問してくるから待ってなさい」
慌てふためくミラクルを尻目に、2階層のボス部屋へと転移する。
そこにいたのはゴブリン2匹で、これじゃあ突破されるのは間違いない。
ちなみにダンジョンの構造上ボス部屋は必ず存在し、そこにいるボスを倒すことで先に進めるようになるのよ。
「グギャグギャ!」
「グギャギャ!」
「うるさいわね。もうすぐ侵入者が来るんだから、おとなしくしてなさい」スチャ……
ビクッ!
「「グ、グギャ……」」
剣を抜くと同時に威圧を放ちゴブリンを黙らせる。
あとは侵入者を待つだけね。さっきの映像だと、もうすぐ着くはずよ。
バタァーーーン!
――と、噂をすればってね。
「おいルモンド、一人で突っ走りすぎだぜ?」
「心配ねぇって。どうせここのボスだってゴブリンだけ――あ?」
「どうしたルモンド――ん? もしかして他の冒険者か?」
勢いよく扉を開け放ったルモンドという男に続いて、他3人もなだれ込んできた。
「おいガキ、ここのダンジョンコアは俺らが貰う。怪我したくなかったら今すぐ――」
「まぁ、まてバロデロ。よく見りゃけっこうな上玉じゃねぇか。コイツを売り飛ばした方が儲かりそうだぜ」
「それは言えてる。相手は一人だし、目撃者さぇいなけりゃ問題はねぇ」
「ファッキュー!」
冒険者のくせに犯罪に手を染めるのは抵抗がないと。
ダンジョン内で死んだ場合、死体とアイテムは吸収されてDPへと変換される。証拠隠滅は簡単だから、この手を利用した犯罪は昔から存在するのよ。
けどコイツら、自分たちも同じ目にあう可能性は考えてないらしい。
何が言いたいかというと、完全にダンジョンというものを舐めてるわね。
ダンジョンがいかに危険かを教えてあげましょうか。
「へへ、おとなしくしやが――」
ザシュ!
「まずは1人」
「ぎ、ぎ、ぎ……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
汚ならしい手を伸ばしてきたので、素早く肩から斬り落としてやった。
「コ、コイツ、ただ者じゃ――」
「ないわよ? でも気付くのが遅すぎたわね」
ドズッ!
「グエェェェ……」
「はい2人め」
慌てて手を引っ込めたけれど、それで許すほどお人好しじゃない。
隙だらけの土手っ腹に突き刺すと、すぐに意識を失った。
「ヒィィィ!」
「ファッキンルモンド! テメェ一人で逃げやがっ――」
ズバン!
「グギャァァァ!?」
「はい3人め」
ルモンドを追って逃げようとした男を背中から斬りつける。
他2人も含めて生きてるようだけれど、逃走したルモンドを捕まえないとね。
「アンタたち、この3人を仕留めといて」
「「グギャ!」」
なぜか「了解」という二文字に聴こえた通り、ゴブリンが嬉々として襲いかかる。
「や、やめろ、やめ――ギャァァァ!」
「ゴ、ゴブリンなんかに――ゴボォ!?」
はい、御愁傷様。
死体蹴りをしているゴブリンを尻目にボス部屋を飛び出すと、逃げたルモンドを追いかけた。
「なんだよあのガキ、ただの小娘かと思ったらとんだバケモノじゃねぇか!」
――等とぬかす、ルモンドとかいうむさいオッサン。
足場の悪いの通路を一生懸命走っているんだけれど、ステータスの差が激しいために余裕で追いついてるのよねぇ。
「で、誰がバケモノですって?」
「だからあのガキが――」
「ンッッッヒィィィィィィ!?」
目玉が飛び出るかと思えるほどの驚きようを見せ、ルモンドがスッ転ぶ。
「さて、アンタには聞きたい事があるわ。素直に話すなら――」
「話す話す! 何でも話すから助けてくれぇぇぇ!」
エレインより素直でよろしい。
「じゃあ最初の質問。何しにこのダンジョンに来たわけ?」
「そ、そりゃ金目の物があるって聞いたからだ。じゃなきゃ魔女の森なんてわざわざ入ったりはしねぇ」
察するに、好き好んで魔女の森に入る者は少ないと。
私がいた時代は交易が盛んだったのに、随分と変わったものだわ。
「次の質問。その話は誰に聞いたの?」
「カゲマルって言う闇ギルドの構成員だ。奴は【ヘルハウンド】っていう組織に所属してて、情報屋としても有名なんだ。特にダンジョンコアが手に入ったら高く買い取るって……」
すでに判明している通り、ミラクルのダンジョンはDPが枯渇寸前で、冒険者の気を引くようなアイテムを設置する余裕はない。
つまり、最初からダンジョンコアが目的でコイツらを焚き付けたと考えていいわ。
「もう一つ質問。そのカゲマルって奴は、なぜこのダンジョンの事を知ってるの?」
「そこまでは知らねぇ。だが噂によると、国を跨いで複数の貴族と繋がってるらしく、更にはダンジョンマスターとも繋がりがあるとか囁れてるな」
ライバルによる蹴落としか。あり得ない話じゃないわね。
「じゃあ最後の質問。今から5000年前に存在した、アイリというダンジョンマスターを知ってる?」
「も、もちろん知ってるぜ。最強にして最悪のダンジョンマスターで、その気になれば世界征服もできたんじゃないかっていう伝説のダンジョンマスターだろ? それを知ってるからこそ魔女の森には近付きたくなかったんだ」
最強はいいとして、最悪とは失礼ね。
だけどそのお陰で魔女の森にいるダンマス達は安全ってことになるわ。
けれど、それを脅かす奴が現れたと。
ソイツは後々見つけ出すとして……
「なら容姿なんかも伝わってるわよね?」
「ああ。黒髪でポニーテールで、その当時はアンタくらいの歳で――――え……あ……」
「どういうわけか、私もアイリっていう名前なのよ。黒髪でポニーテールなところも同じね。これについてどう思う?」
「あ、う、な……がふ……」
あらら、気絶しちゃったか。
でもおおよその事は分かった。ミラクルは何者かに誘導され、外に出たところをクソ勇者に捕まった。
その隙にダンジョンコアを奪おうと現れた冒険者も、同一の奴が差し向けたのよ。
まずはカゲマルって奴を捕まえて洗いざらい吐かせよう。
『こら~、もう1人の私! いったいどこほっつき歩いてるのよ!』
しまった、あっちの私に話すのを忘れてた!
――とは言え、物理的に帰れないし、当分は念話でのやり取りになるわね。