ダンジョンマスター・ミラクル
結界に対して絶大な信頼をよせるブタ国王。
ならその信頼を崩してやらないとね。
「魔法を防げるのは分かったわ。でも物理的に斬りつければどうかしらね?」
「フン、やれるものならやってみるがいい。小娘風情に破られるはずが――」
「そいっ!」
バキィィィン!
「――が、が、が、ががががががが!?」
剣一振で結界が砕け散り、ブタ国王は顎が外れんばかりに驚いている。
残念だけどこれが現実よ。
「ヒィィィィィィ! お、お前達、ははは早くその小娘を倒しなさい!」
「そそそそうよ! 倒した者は新たな勇者として待遇するわ!」
王妃と王女が文官達に命じる。
けれど文官がろくに戦闘できるはずもなく、身を寄せあって怯えるのみ。
唯一戦える近衛兵も、私の力量を知ったのか動く気配を見せないでいた。
「わ、分かった、お主の凄さは充分に伝わった。これからはお主を勇者として迎えようではないか!」
「それがいいですわ! これほどの強さなら、当分我が国も安泰というものです!」
「運が良かったわね。一応アンタの実力は認めてあげる」
そして熱い手のひら返しと……。
ならどこまで本気か見せてもらおうじゃないの。
「そんな口先だけじゃ信用ならないわね。宰相や文官は反対みたいだし、その上嫌らしい目で見てくるしで不快だし、本当にそう考えてるなら処分してちょうだい」
「ももも、もちろんだ! 近衛兵よ、そいつらを殺せ!」
「「「ヒィッ!?」」」
あれ? 本当に実行するんだ……。
「おおお、お助けを――ギャッ!」
「や、やめ――グボォ!?」
「こ、国王さ――グゲッ!」
宰相を始めとする文官達が次々と消され、最後には王族三人と、数名の近衛兵だけが残された。
「こ、これでよいのだろう?」
「……ちょっと予想外だけど、まぁいいわ。でもねぇ、まだ不要な輩が残ってるわよねぇ?」
私の台詞に近衛兵がビクリと肩を震わす。
ブタ国王も私の意図を間違って察し、残忍な命令を下す。
「お前達、その場で自害せよ!」
「「「!」」」
近衛兵らに緊張が走る。やはりそうなのかという感情が顔に出てるわね。
だけど私の思惑とは違うのよ。私が思い描いたのは……
「何を言ってるのよ。不要なのはアンタら三人よ」
「「「……え?」」」
王族三人に指を突きつける。
何が楽しくてコイツらに肩入れしなきゃならなっていうのよ。私を殺そうとしたくせに許されると思っているところが腹立たしい。
「近衛兵、その三人を始末しなさい。従うなら命だけは助けてあげるわ」
さてさて、この場合はどう転ぶのか全く見当がつかない。
王命に従うか自分の命を優先するか、本来なら王命が絶対だけれど。
「ほ、本当に助かるのか?」
「信じていいんだな!?」
「俺はやるぞ、元々今の国王には嫌気が差してたんだ!」
はい、予想以上にブタ国王はアレでした。
日頃の行いが悪いと当然よね。
「ちょ、ちょっと止しなさいよアンタ――」
「俺のために死ねぇ!」
「ヒギャッ!?」
まずは王女。恐怖に顔を引き吊らせたまま心臓を一突きにされた。
「無礼な! 気安くわたくしに触れるなど万事に値し――」
「知るか!」
「――――」
次に王妃。口喧しかったためか首をスポーンと跳ねられる。
「まままま待て待て待て! 金ならある、好きなだけくれてやる、なんだったら今日からお前達が勇者だ! 宰相も居ないし内政でもなんでもやり放題だ、これ以上の好条件はないであろう!?」
プライドも何もないと。その図太い神経を他に生かせれば良かったのに。
でもね、私と敵対した以上は徹底的に潰させてもらうわ。
「何言ってるのよ。アンタが死ねば代わりが必要になるじゃない。言い変えれば、アンタが死んだら他の誰かが王になれるってわけ。この意味分かる?」
「っ!」
意味が分かったらしく、ブタ国王の顔が青ざめていく。
「私はこの国には興味ないし、誰が国王になろうとしったこっちゃない。後は好きにしてちょうだい」
「まま、待て、待ってくれ! このままではワシは――」
「さ、行くわよミラクル。こんな空気の悪いところにいつまでも居る必要はないわ」
「え……え、ええ?」
激しく混乱中なミラクルの手を引き、踵を返して――の前に、一つ忘れてたことを思い出す。
「あ、そうそう。せっかくだからいいモノをあげるわ」
バシュッ!
「ぬぉっ!?」
「神経が10倍過敏になる魔法を掛けといたわ。タンスの角に小指をぶつけただけで激痛が走るから、せいぜい気を付けるのね」
そう言って今度こそ身を翻す。
後ろでブタが喚いてるのを無視し、謁見の間を出たところで「ギャーーーッ!」っていう断末魔が聴こえた気がしたけど、激しくどうでもいい。
次の国王は近衛の中から誕生するんじゃないかな? って言っても二度と関わるつもりはないから、確認しようもないけれど。
「あ、あの……こ、これからどちらへ?」
「まずは色々と聞きたい事があるから、どこか落ち着ける場所に移動しましょ」
シュバッ!
ミラクルの手を引いたまま城から飛び上がり、テキトーな場所を探す。
傍らのミラクルはというと、空を飛んだことかないのか興奮気味にキョロキョロと見渡していた。
「え……と、飛んでる? あたしが空を飛んでる!? す、凄いです、こんな風に飛べるなんて!」
「そうだけど……そんなに珍しい?」
「だって、空を飛べる魔法士なんて、世界中を探しても見つかるかどうか……」
……世界中? いや、そんははずはない。
私のいたイグリーシアという世界には、飛行できる者がそれなりに居たはずよ。
つまり、全く違う別世界に召喚されたって事になるわ。
「わぁ~、鳥の群を見下ろしてるなんて、こんな光景見たことないです!」
どうやらこの子、空の旅がとても気に入ったらしい。もうしばらく飛んでようかな。
「でも、この景色も見納め。この後あたしは、大魔王復活の生け贄にされるんですね……」
「……はい?」
「いいんです。召喚したのはあたしですし、むしろあのまま死ぬよりよっぽどマシです」
「あ、あのねミラク――」
「もう何も思い残すこともありませんし、一思いに……」
ゴツン!
「痛いです……」
「ひとの話を聞きなさい」
例え大魔王が居たとしても、復活なんてさせるつもりはない。
なぜなら何のメリットもないから。
「……で、改めて確認したいんだけど、ここは何て名前の世界なの?」
「あ、す、すみません。あたしが召喚したせいで、世界観が分からないですよね。……コホン。ここはイグリーシアという世界で、さっきまで居た国は――」
「はいストップ」
今イグリーシアって言ったわね? 言っちゃったわね?
なら益々おかしい。イグリーシアには飛行できる魔法士なんてさほど珍しくはないもの。
「妙な話ね。私のいた世界もイグリーシアって言うのよ」
「あの……それって同じ世界なんじゃ……」
「そう思うじゃない? でも私の知る限り、飛行できる魔法士はそれなりに居たし、ミラクルとの認識にズレがあるとしか――って、急に固まってどうしたの?」
「……そ、その……さっきも疑問に思ったんですけど、どうしてあたしの名前を知ってるのかな~なんて……」
「ああ、それね。鑑定スキルを持ってるからよ」
「…………」
――って言ったら、ま~た固まったわ。
「か、か、か、鑑定スキルって言いました? 言っちゃいました!? それってものすご~い事ですよ!」
「……物凄い?」
「だって、鑑定スキルと言えば、数千年前に失われたロストスキルじゃないですか! それを持ってるなんて――」
おかしい……やっぱりおかしい。
鑑定スキルを持ってる奴は確かに珍しいかもしれないけれど、決してロストスキルなんてものじゃなかったはず。
しかも数千年前に失われた? それじゃまるで、数千年後に転移したみたいな――
「ああ凄い、ホントに凄い! こんな女の子がこの世に居るなんて。――ああ、神様!」
ミラクルの言動はどう見ても素の反応。
やっぱりここは……
「まるで5000年前に存在した、恐怖のダンマス――アイリみたいですぅ!」
「はいストップ!」
間違いなく5000年前って言ったわね。
私が最強かどうかはともかく、5000年も経ってれば世界が変わってても頷ける。
更に私が恐怖のダンジョンマスター? それだけ恐れられてるんでしょうけど。
「ねぇミラクル、魔女の森って知ってる? 私がダンジョンを構えてる場所なんだけれど」
「ええーーーっ!? そ、そりゃ知っていますが、魔女の森にはあたしのダンジョンもあるんですけど……」
「……え?」
「あの場所に貴女様みたいな強いダンマスは居なかったはずです。みんなあたしと同等か多少強いくらいじゃないかと……」
つまり5000年後の今は、強いダンマスは居ない? 魔女の森には私の知っているダンマスが何人か居たけれど、簡単に攻略されるほど弱くはなかったわ。
さっきいた国もそうだけど、勇者なんて雑魚レベルだし結界だって手抜き工事レベルよ。
ここから導き出される答えは、以前よりも世界全体が衰退して――
「ヒィィィ! た、大変ですぅ!」
「ちょ、どうしたのミラクル!?」
「あたしのダンジョンが何者かに侵入されてます! このままだとダンジョンコアが!」
それはマズイ。
ダンジョンコアはダンマスにとってもう一つの命よ。
コレを破壊されたらミラクルは助からないわ。
「魔女の森に急ぐわよ!」
「は、はいぃぃ!」
同じ世界なだけあって、魔女の森がどこかは分かる。
まずは邪魔な侵入者を片付けましょ。




