まどろみのマリオーネ
フランツから派遣される騎士団がマリオーネのダンジョンに向かうと判明し、彼女と話し合おうと思ったんだけれど……
『あ"~~~眠い……。ミラクルちゃん、何かご用~?』
モニターに映っているのは、眠気眼を擦っていかにも寝てました的な顔を見せているマリオーネ。
緑髪のツインテールは普通の女の子に見えるも、鋭い歯を覗かせてるとこはヴァンパイアっぽさが滲み出ていた。
『うん、実は紹介したい人が――』
『そっか~。また明日にして~~~』
『い、いや、明日って――』
プツン……
「切られちゃった……」
「…………」
なんだろう。今のやり取りだけで、マリオーネの性格がハッキリと分かった気がする。
「ミラクル、もう一度繋いで」
「うん……」
再び呼び出すと、半眼でいかにも眠そうなマリオーネが映り込んだ。
『な~~に~~?』
『だからね、紹介したい人が――』
『え~~~~?』
え~~じゃない! 自分のダンジョンに危機が訪れようとしてるってのに何を呑気な。
『ミラクル、後は私が引き継ぐわ。……で、聴こえてる? そこの眠そうなヴァンパイア』
『聴こえてるわよ~~。貴女はだ~れ~?』
『私はアイリ。訳あってアイリーンに居候してるダンマスよ』
『そっか~~。じゃあまたね~~』
『うん、また明日――』
……アレ?
『――って、待ちなさい! まだ話は終わってないわよ!』
『え~~~~? 早くお昼寝に戻りたいんだけど~~』
『だったらおとなしく話を聞きなさい』
二度寝されても面倒なので、かい摘まんで説明する。
へ~とかほ~とか言いつつも、話が終わったところで……
『じゃあ代わりに撃退しといて~~』
『……は?』
プツン……
『あ、こら、ちょっと、マリオーネ!?』
いくらなんでも危機感なさすぎじゃない?
だいたい代わりに撃退しろって、なんで知り合ったばかりの相手を世話しなきゃならないってのよ。
「相変わらずのマリオーネですわね」
「うん。マリオーネさんならダンジョンがなくなっても寝てそうだよ」
もう眠りの女王とでも名付けてやろうか。
「そんなに昼寝が好きなら通信するのは夜の方がいいかな」
「それだと「夜間に通信してくるなんて非常識でしょ~~?」とか言いますよ? マリオーネ様は夜もキチンと睡眠をとる御方なので」
じゃあどうしろってのよ……。
「さすがに非常識なヤツに非常識とは言われたくないわね」
「ならわたくしの時と同じように、ダンジョンバトルを挑めばよいのですわ。テキトーな餌で釣ることができれば、後は余裕でしょう?」
「でもねぇ……」
三度の飯より寝る事が好きそうな女よ? どうやって釣ったら――
――あ、良いものが有ったわ!
『ダンジョンバトル~~?』
『ええ。もちろんタダでとは言わないわ。アンタが勝ったら、超が付くほどのレアアイテムをあげちゃうんだから』
『別に物とか要らないし~、バトルもなんか面倒だし――』
『そっかぁ、残念だわ~。安眠枕っていうレアアイテムなんだけど、この枕で寝たらとてつもなくグッスリ眠れるんだけれどな~~。謳い文句も【ステキな夢をアナタに捧げます】だって』
ガタッ!
『なななな何その魔法のアイテムは!?』
『あ、気になる? 気になっちゃう? でもねぇ、バトルを受けてくれない相手に譲るのは嫌だな~』
『受ける受ける、いくらでも受けちゃう! だから魔法の枕をプリーズ!』
さっきまでの半眼が嘘だったかのようにカッと見開き、モニターへとかじりつく。
散々寝ておきながら、これ以上の安眠を貪るつもりらしい。
『じゃあバトルの申請を出しとくわ』
『いいよ~~。でもバトルの内容はウチが決めるからね~~』
善は急げとばかりに、数分後には審判が立ち会う事となった。
バトルの会場はマリオーネのコアルームで、お互い一対一の対決で決めるとの事。
「じゃあルールの説明ね~。ズバリ、どちらがより長く寝てられるかを競いま~す」
「……はい?」
「だ~か~ら、睡眠時間の長さを競うの。先に目を覚ました方の負け~」
よほど安眠枕が欲しいのか、絶対に負けないであろう条件を押し付けてきた。
それを聴いていた審判が、何言ってんだコイツ的な顔をしたものの、すぐに仕事の顔へと戻る。
「では双方共に対戦者をお出しください」
「こっちからは当然ウチが出るよ~。じゃあお休み~~~zzz」
さっそくベッドで横になり、直後に寝息を立て始めた。
「ねぇ審判。先に寝ちゃったんだけど、この場合はどうなるの?」
「睡眠時間は正確に計測しておりますので、なんら問題はありません。それより貴女の方も対戦者をお出しください」
残念ながら、反則勝ちは獲られなかった。
こうなったら眷族を出すしかないか。
「アイリちゃん大丈夫? マリオーネさんは一度寝たら三日は起きないくらいだよ?」
「最高で五日間だと豪語してましたわ。勝算はあるんですの?」
「もちろん有るわ。だからちょっと端の方に寄っててくれる? あ、審判の人もね」
なぜ? という顔を三人が作り、理由が分からないまま端へと移動する。
理由は見たら分かるけど、少々場所をとるのが原因なのよ。
ズズゥゥゥゥゥゥン!
「「「!?」」」
「私からはコイツよ」
召喚したのはファイアドレイクのレイク。
三度の飯以外はひたすら寝て過ごしているグータラな眷族よ。
コイツの近くで寝れるものなら寝てみなさい!
「ンゴーーーーーーzzz」
「ク……zzz」
「ンゴーーーーーーzzz」
「ウ……zzz」
「ンゴーーーーーーzzz」
「…………」
「ンゴーーーーーーzzz」
「ググ……」
「ンゴーーーーーーzzz」
「ンギャーーーッ! うるさ~~~い!」
レイクの鼾によりマリオーネが飛び起きた。
この大音量のために、いつも階層ごと隔離してるくらいなのよ。こんなところで役に立つとは思わなかったわ。
「んも~~~、何なのコレ~? うるさくて昼寝どころじゃないわ~~マジないわ~~」
「じゃあ私の勝ちでいいわね?」
「もうそれでいいよぉ……。あ~安眠枕は欲しかったな~~」
今回はレイクのお陰で助かったわ。
ご褒美として、頭の下に安眠枕を入れておこう。
「このバトルの勝者はアイリとします。個人的にはもっとまともなバトルを希望しますがね。では失礼」
勝者を宣言すると、審判はそそくさと帰っていった。
「さてマリオーネ。騎士団が討伐に来るって話は覚えてるわよね?」
「……なにそれ?」
「……コホン。もう一度言うけれど、フランツの街から討伐隊が派遣されるのよ。一番近いダンジョンに向かうって話だから、行き先はこのダンジョンってわけ」
「えええええっっっ!? ななななんでよ! ウチ、何も害を及ぼしちゃいないのに~!」
急に取り乱した。通信でのやり取りは頭に入っていないらしい。
「それをさっきから忠告してたのに、寝る寝る言ってたのはアンタよ?」
「うぅ……だ、だって~、急に攻めてくるなんて思わなかったしぃ……」
「とにかく、攻めてくるのは間違いないから今から対策するわよ。その方法として――」
ようやくまともな話をできそうなので、思いきったアイデアを告げてみる。
「ええっ、ダンジョンの引っ越し~~!?」
「そ。同じダンジョンで過ごしてれば、いつでも助け合う事ができるのよ」
更に眠気が吹っ飛んだかのような反応をしめすマリオーネ。
レミット同様、アイリーンでの共同生活を提案したわ。
「既にわたくしもアイリーンにて御一緒させてもらってますわ」
「マリオーネさんも一緒に過ごそうよ、きっと楽しいよ!」
「で、でも、ウチは寝るのが趣味みたいなものだし――」
趣味かよ!
「夜間の睡眠と午後から夕方にかけての昼寝は欠かせないし――」
欠かせないのかよ!
「御飯の前には食前睡眠が基本だし――」
何その食前酒みたいな単語は……。
「それでも世話してくれるなら……」
こっちが世話するんかい!
まぁ自称メイドもいる事だし、世話役はレミットに任せよう。
「大丈夫、オールオッケーよ」
「ホ、ホントにいいの? 今なら引っ越し祝いも付いてくる!?」
「……特別に安眠枕をプレゼ――」
「行く行く、すぐ行きます! 10分で済ますから、素っぴんでもいいよね!?」
「はいはい、大丈夫よ」
「っしゃあ!」
シュバ!
さっそく衣類をまとめだすマリオーネを横目に、現ダンジョンの全容を確認する。
洞窟タイプのダンジョンで、階層は2つ。
いやいや、2つしかないのは手抜き過ぎるでしょ。よく今まで攻略されなかったわね。
1階層はひたすら直進で3キロ先にボス部屋。
2階層は目の前にボス部屋があって、その次に私たちのいるコアルームがある。
つくづく手抜きが酷いと思う。グータラな生活をしてるとこうなるんだろうか? これはマリオーネにも何かやらせた方がいいわね。
「引っ越し準備オッケー! 早く行こう、新住居!」
「その前に一つ確認。ここはいずれ崩壊すると思うんだけど、その前に色々と改造しちゃってもいい?」
「へ? そんなの好きにしちゃってもいいよ~? どうせ戻るつもりはないし~」
「ありがと」
さてさて、タップリと罠を仕掛けておこうかな♪