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捜索依頼

「貴方が情報屋さん……ですよね?」

「…………」

「僕の名前はルトと言います。是非捜してほしい人物がいまして……」


 カゲマルがアイリの下についてから数日。

 彼女の眷族であるクロとギンを伴いフランツの街へと戻ってくると、見覚えのない獣人の少年から尋ねられた。


「……人違いではないか? それにこんな治安の悪いスラムなんかに一人でやって来るのは感心しない。早く大通りに――」

「お願いです! 僕の両親を……両親を殺した奴らを捜してください!」

「いや、だから俺は――」

「酒場の裏で酔い潰れていたチンピラが言っていました。黒髪で左の頬に✕印のキズがある男がフランツの街を根城にしている情報屋だと」


(チッ、ここのチンピラ共は揃いも揃って足を引っ張りやがる……)


 確かにカゲマルの左頬には✕の形をしたキズがあり、髪の毛もイグリーシアでは珍しい黒髪である。

 偶然にもルトはスラムへと入っていくカゲマル達を見かけ、この機を逃すまいと追いかけて来たのだ。

 昼間とは言えフランツのスラムは特に治安が悪いと有名であり、余程の覚悟があっての行動だろう。


生憎(あいにく)だが今は先約があるんでな。すまないが他をあたって――」

「あら、よいではありませんか」

「……ギン?」


 意外な事に、ギンはルトの話を聞くつもりでいた。隣のクロもウンウンと頷いており、カゲマルは不思議そうにギンへと視線を向ける。


「せっかくの依頼ですし、引き受けてあげましょう。どのみち情報収集を行うのですから大した支障は出ません」

「し、しかし……」

「大丈夫ッスよ。姉貴に――もといアイリ様に念話で確認したら、困ってるなら引き受けてやれって言ったッス。どこかに移動して話を聞くッスよ」

「…………」


 冷酷無比だと思っていたアイリが、どこの馬の骨かも分からぬ輩に肩入れをするのだという。

 これにより、恐怖を撒き散らすだけの存在ではなかったのだと、カゲマルは考えを改めた。

 

「……()()()()が言うなら仕方ない。……ついて来い、小僧」

「ありがとう御座います!」


 アイリがイェスと答えたなら引き受ける以外に選択肢はない。

 ならばと元ヘルハウンドの拠点へと移動し、詳しい話を聞くことに。



「……それで、両親を殺されたと言ったな? 復讐が目的か?」

「はい。僕の両親は商会を経営しておりまして、商隊を組んでゴールドキャニオンとミリオネックを行き来していました。ですが先月、何者かの襲撃を受け商隊は全滅。調査では盗賊による襲撃で皆殺しにされたと断定され、付近を根城にしていた盗賊が捕縛された事により事件は幕を閉じました」

「すでに終わった事件か……」


 ここまで聞いた限りだと、犯人はすでに捕まりこちらができる事は何もないように感じる。

 しかしルトは、最後のカゲマルの台詞を否定するように(かぶり)を振った。


「盗賊なんかの仕業じゃありません。もっと統率のとれた、軍隊や暗殺部隊が絡んでるに違いないんです!」

「なぜそう言い切れる?」

「引退したとはいえ、両親は共にBランクの冒険者でした。それに当時は複数のベテラン冒険者が同行してましたので、たかが盗賊ごときに全滅しただなんて絶対に有り得ません!」


 冒険者のランクはGからSまであり、当然Sの方が上級者だ。

 しかしSランクの冒険者は勇者と同等レベルため滅多に見かける事はなく、Aランクの大ベテランな冒険者が最上級だと言える。

 つまり、Bランクでも充分ベテランの領域だと言えよう。


「なるほどな。単なる盗賊にベテラン冒険者は荷が重いし、複数となれば余計か」

「はい。ここに当時の契約書があります。僕の力ではこれを入手するのが精一杯で、後は他人に頼る以外にありません。どうかよろしくお願いします」


 1週間後に会う約束をし、ルトは大通りへと駆けて行った。

 残された三人は、さっそく情報収集に動く。


「まずはどこから手を付けるのです?」

「当時契約した冒険者だ」

「いや、冒険者って確か皆殺しにされたんじゃないッスか?」

「記録ではな。だが騎士団や貴族のお偉いさんならいくらでも改ざんできるんだぞ? 記録なんぞ有って無いようなものだ」


 つまりカゲマルは、契約した冒険者の中に襲撃者の手先として紛れ込んだ輩がいるのではと言いたいのだ。

 その手先を放った大元が高い地位に居れば、事件をより隠蔽しやすくなる。


「本来なら各街を縄張りにしている闇ギルドに接触するところだが、ヘルハウンドが消滅した以上それはできん。地道に調べるしかないが、これだと件のダンマスを捜している余裕はないぞ?」

「心配には及びません。それらしきダンマスを見つけたとアイリ様は言っておいでです」


(すでに目星をつけたというのか。まったく、実に優秀なマスターだな)


「こちらはこちらで集中せよとのご命令ですので、さっそく取り掛かりましょう」



 そう言いつつやって来たのは、ヘルハウンドが根城にしていた西スラムから距離のある北スラムだ。

 ヘルハウンドとは別の闇ギルドが存在するためカゲマルは反対したのだが、ギンとクロは()()()()()()と言い、人気(ひとけ)の感じない路地裏へと入っていく。


「待ちな! ここは一般人が立ち入る場所じゃねぇ。ノコノコやって来るたぁ覚悟は出来てんだろうなぁ?」


 入ってから1分も経たず、ガラの悪い男達に周りを囲まれた。

 カゲマルは咄嗟(とっさ)にナイフを抜くも、ギンはそれを手で制する。


「ここを縄張りにしている闇ギルドに用があります。知っているなら素直に話なさい」

「ああ? テメェ頭がイカれてんのか? そんな事――」


 ドスッ!


「ぐおっ!?」

「イカれてるのは貴方です。ふざけてないで質問に答えなさい」


 挑発してきた男の鳩尾に素早く拳を叩き込む。状況を理解した連中は、やや遅れて襲いかかってきた。


「コ、コイツ、よくも――」

「クソッ、やっちま――」

「あ~はいはい、ちょいと痛めつけるッスよ~」


 ドスッ! バキッ! ガスッ! ベキッ!


 台詞を言い終わるまで待たず、ギンとクロは次々とねじ伏せていった。

 見た目は獣人の二人だが、中身はCランクの魔物である。そこらのゴロツキに遅れを取るような事はない。


「自分たちの立場が理解できましたか? 分かったのなら、頭目の所へ案内なさい」

「わ、分かった、こっちだ」


 ボコボコに顔を腫れ上がらせた連中に案内され、さらに奥へと進む三人。

 やがて見えてきたのは、スラムには不釣り合いな立派な邸だ。

 どうやらここの頭目は、随分と派手好きのようである。


「おいお前ら、後ろの連中――」

「あ、ああ、その……」


 ゴスッ!


「ぐぉぉ……」

「余計な詮索はしないように。死にたくなければおとなしく突っ立ってなさい」

「わわわ分かった、分かったから爪を当てないでくれぇ……」


 入口にいた見張りを黙らせ邸へと上がり込む。

 途中で遭遇した連中も同じようにねじ伏せていき、いかにも豪華そうな扉を開く。

 複数の厳つい男の中心に葉巻を咥えたスキンヘッドの男が居り、両脇に美女を侍らせてご満悦な表情を作っていた。

 そのボスらしき男がニヤついた表情のまま口を開く。


「なんだ貴様らは? ここが闇ギルド――デスキャストの根城だと知ってて来やがったってのか?」

「デスキャストだか何だか知りませんが、今日から我々に従ってもらいます。異論は認めません」


 ギンの台詞に目を丸くする頭目。

 今何と言ったか? 我々に従え? 何を血迷った事を。そんな要求を受け入れるバカがどこにいる。

 そう思い指をパチンと鳴らす。


 ザッ!


 合図を受けた幹部たちは、油断なく三人を取り囲んだ。


「ここまで来た勇気は認めてやろう。だが貴様らが思っているほど現実は甘くない。己の勇み足を後悔しながら死ぬが――」



 ズガガガガガガガガガッ!


「ゴフッ……」

「「「!?」」」


 ギンが飛ばした爪がボスを縫い付ける。

 体のアチコチから血が噴き出しており、さほど長くは持たないと誰しもが理解した。

 その様子に堪らず美女たちも言葉を失い、尻餅をついて後ずさる。


「無能な輩に用はありません。アナタ達はどうですか? 従うか死ぬか、好きな方を選びなさい」

「一つ助言しといてやるが、従った方が身のためだぜ? なにせヘルハウンドが俺を残して全滅したくらいだからな」

「「「なっ!?」」」


 カゲマルからのありがたい助言により、デスキャストの面々は顔面蒼白になる。

 よく見ればこの男、情報屋として名の知れたカゲマルではないかと。

 当然カゲマルがヘルハウンドに属している事は知っており、その彼が言うのだから間違ってはいないだろう。


「返答が無いのであれば従わないと断定し、この場で――」

「ま、待て、俺は従うぞ、こんなところで死んでたまるか!」

「俺もだ。ボスには悪いが、心中する気は毛頭ない」

「あたしも従うよ!」

「俺も!」


 結局はボスが死に行く間に幹部全員が従うと誓い、フランツの街にはアイリの諜報部隊が存在する事となった。


「よろしい。ではさっそくですがアナタ達に任務を与えます。この契約書に記されている冒険者の居場所を突き止めなさい。死体でも墓でも構いません。徹底的に調べあげるのです」


 諜報員たちに命令を下し再び三人のみとなったところで、次の作業へと取りかかる。

 デスキャストの拠点を大幅に改良するためである。


「この部屋とアイリーンを繋げます。さすれば移動が楽になるでしょう?」

「そ、そりゃあそうだが……可能なのか?」

「超簡単ッスよ? 転移ゲートを使えば一発ッス」


 転移ゲートとはダンジョンでしか手に入らないと言われている超レアアイテムで、二つで一組の輪っかを任意の場所に設置すると、そこを潜れば一瞬でもう片方の輪っかへと移動できるのだ。


「ついでに悪趣味な骨董品を片付けて、(さわ)やかな見た目にしましょう」

「そッスね。アイリーンから家財道具を運び込むッス」

「…………」


 カゲマルはちょっとだけボスに同情する。

 一日で拠点が別物へと変えられるとは夢にも思わなかっただろう。


「あ、言い忘れてましたが、カゲマル。貴方にも別の任務を与えます」


 そう言ってギンが隅っこに転がっている()()()を指す。


「そのスキンヘッドをゴミと一緒に捨ててきてください。放っておくと腐臭を放ちますので」

「……分かった」


 カゲマルはかな~りボスに同情する。

 まさかゴミと一緒に捨てられるとは夢にも思わなかっただろう。


「さて、我々は吉報を待ちましょう」

「うッス」


 更に数日。フランツの街にある騎士団に潜り込んだ諜報員が、死んだはずの冒険者が騎士団員として勤めているのを確認したのだった。


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