ラストバトル
「俺にやらせろ! 防がれたことがねぇ俺のブレスを弾きやがったんだ、二度目はねぇってことを教えてやらぁ!」
「待ってアンジェリカさん、魔物の正体を突き止めるから!」
今にも突撃しようとしたアンジェリカさんを呼び止める。
あたしにはアイリちゃんから貰った最強のアイテムがあるんだ。それを使えば魔物の分析くらい簡単だよ。
「アプリ起動、生体コードスキャン!」
スマホを天に向けて赤い光を照射すると、ピピピピッという音の後に魔物の情報が表示された。
名前:ワールドルンバクリーナー
性別:なし
種族:???
年齢:生後1日未満
備考:不要となった世界を削除するために出現した魔物。シルバーの円盤が本体で、独立した両手は遠隔操作で動かしている。
汚ないもの、不潔ものが苦手。
不要となった世界を削除!? それってこの世界の事だよね!?
例え創られた世界だとしても、この世界はあたしたちの世界。誰にも壊させやしない!
「あの円盤が本体だよ! 両手は無視して円盤を集中砲火して!」
「つっても俺のブレスはあいつ手に邪魔されたんだぜ?」
「大丈夫、方法はあるから」
たった今思い付いたシンプルな方法を伝達する。
「ブラッシュさんとセレンさんで、あの両手を引き付けて。ダメージを与えられなくても攻撃すれば応戦せざるを得ないから」
「承知しました」
「お任せを~♪」
「アンジェリカさんは正面から円盤を。おもいっきり焼き尽くしちゃって」
「俺様が本命ってわけだな。いいぜ、やってやんよ!」
前の二人が飛び道具での牽制に入ると、アンジェリカさんもそれに合わせて飛び上がっていく。
でもごめんなさい。本命は別にあるの。
「グルースさん、ワグマさんを連れて円盤の裏側に回り込んで。今なら隙を突けるはずだから」
「フッ、任せろ」
「うむ。ようやく出番かと、筋肉が喜んでおるわぃ!」
他の三人がルンバ(?)という魔物に挑む中、前の二人が極秘に動く。
本命はワグマさんの一撃。無防備になった背後から決定打を与えるのが目的。
「その不快な右手を焼き払って差し上げましょう――ブラストブレス!」
「左手は~、私が粉砕しますよ~、シャイニングランサ~♪」
ブレスと光魔法が両手めがけて飛んでいく。
けれど埃を払うかのように叩き落とされ、まったく効いてる様子はない。
「へっ、やっぱ俺じゃなきゃダメみてぇだな? バハムートの恐ろしさを思い知らせてやらぁ!」
ドゴォォォ!
直接殴りかかったアンジェリカさんの拳がめり込む。但し、めり込んだのは……
「――クッソォォォ、あと少しだってぇのによぉぉぉぉぉぉ!」
バシィィィ!
「アダッ!?」
惜しくも右手に防がれ、残った左手で叩き落とされてちゃった。
「アンジェリカ、一斉攻撃です。ボクとセレンさんのタイミングに合わせてください」
「あ"あ"っ? 俺に命令するってのか!?」
「お願いしますアンジェリカさん~。ミラクルちゃんのためだと思って~」
「…………」
なぜか横目であたしを見るアンジェリカさん。
「!」プイッ!
あ、目を合わせたら顔を赤くして逸らされちゃった。
「し、しゃあねぇ。ミラクルは妹みたいなもんだし、お前らに合わせてやんよ!」
最後は納得し、三人でルンバに挑む。
……に、しても妹? まさかアンジェリカさんに妹扱いされるとは思わなかった。
それだけ頼り無さそうに見えるってことかな? だったらここで払拭しなきゃだね!
「今一度――ブラストブレス!」
「いきますよ~シャイニングランサ~♪」
「やってやるぜぇぇぇ!」
ブレスと光魔法が両手の邪魔をし、そこへアンジェリカさんの拳が正面から迫る。
ドゴォォォ!
――――――――ミシッ!
拳を起点にして円盤全体にヒビが広がる。
「本体に異常に発生! 本体に異常発生! 直ちに修復せよ!」
バシィィィィィィ!
「だぁぁぁ! よく考えたら叩かれてんのは俺だけじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!」
今頃気付いたアンジェリカさんが再び地上へと落とされた。
「セルフスキャン開始。修復モードに――」
「そうはさせないよ! ワグマさん、お願い!」
「任せんかぁぁぁい!」
いまだに気付かれてないワグマさんがルンバ本体に殴りかかる。
「これでトドメじゃ――パワーストライクじゃぁぁぁぁぁぁい!」
ドゴォッ!
――――ミシッ――ミシッ――ミシッ――
ミシミシミシミシミシ――
「修復――間に合いま――せ――」
ドッパァァァァァァン!
「やったぁぁぁ!」
円盤が派手な音と共に破裂し、独立してた両手も消滅した。
ドスン!
「――っと。どんなもんじゃいグルースよ!」
「ああ。よくやった。俺が居なきゃ飛べなかったがな」
「フッ、もちろんお主のお陰でもあるぞい」
落下途中のワグマさんをグルースさんが回収し、地上へと戻ってきた。
「ワグマさん~、お手柄です~! さすがは脳筋ですね~♪」
「任せんしゃい!」
「んだよ、最後に美味しいとこ持ってきやがって……」
「何を言う。晩飯はまだ先じゃぞい!」
「さすがはワグマ。その汗臭さは伊達ではありませんね」
「おぉう、褒め言葉として受け取っておくぞぃ!」
微妙にズレた言葉を交わしつつも、眷属たちに笑みが見える。
そんな光景を眺めつつ視線を上空へと移すと……
「あ……雪だ。みんな、雪が降ってきたよ」
あたしの言葉に釣られ、みんなが空を見上げる。雪が降り始めたし、本格的に冬がやってきたんだね。
「次元の穴が閉じ、雪が降り始める。世界中の人たちには、単に予言が外れたとしか感じないでしょうね。マスターのお陰だというのに」
「ううん、それでいいよ。この世界が護られたんならそれでいいじゃない」
フェルマーの予言は外れ、この世界は護られた。そう、あたしはアイリちゃん無しでもできるんだ。
「さ、アイリーンに帰ろう。他のみんなも待ってるよ」
「おぅし! 帰ったら雪合戦じゃい!」
「お、雪合戦か。俺の本気を見せてやる!」
「あなた達、そんな子供みたいな――」
「なんじゃエレイン。雪合戦が怖いんかぃ?」
「な!? そんなことはありません。いいでしょう、雪合戦の真髄をお見せ致しましょう!」
あたしは帰還する。アイリちゃんが残してくれた我が家――アイリーンへ。
頼もしくて楽しい眷属と共に。
★★★★★
「――なぁんて事になってたりして」
――というミラの妄想。
というか何でルンバが出てくるのか……
「そりゃもうすぐ年末だし? 年末っていったら大掃除でしょ」
「だからってルンバはないでしょルンバは」
仮面の下でこんな下らない事を考えてたのかと思うと、正直ガックリくる。
戦ってた時はすんごく手強い好敵手だと感じてたのに。
「ところで二人共。そろそろ準備は宜しいですか?」
「「いつでもいいわよ」」
「分かった。では始めるよ」
ベットで横になる私たちに、傍らのミルド様が何らかの措置を施し始める。
やろうとしてる事は私たちを一人に戻そうという試みで、上手くいけば元通りの私に戻れるってわけよ。
なぜ戻すのかというと、私が二人に分裂したのが原因であの世界を創造できてしまったんだとか。
具体的に言うと、ミルド様の加護により幸運の数値が50まで上昇(一般的には10前後)していて、もう一人の私と合わさって100になってしまったのがそもそもの原因らしい。
何せ100という数値は神と同等の数値であり、下界では絶対に存在しえないんだって。
つまり、二人合わせて神になったと。
もうね、今まで散々バケモノ呼ばわりされてきたけれど、まさか神になるとか……。
そこでミルド様が責任をとって元に戻しますよって流れになり、あとは無事成功するのを待つばかり――ってね。
グゥン!
「はい、終わったよ」
「早っ!」
見ればもう一人の私――ミラが消えていて、本当に一人に戻ったんだと実感してきた。
「さてと、上手くいった事だし、ボクはこれで――ん?」
シュワーーーッ
「あ、あれ? なんだか全身が光ってるような……」
「いや、術式は間違ってないし、ミスってもいないよ。しかしこれは……」
最初は僅かだった点滅がしだいに激しくなり、ついに!
シュン!
「おやおや、消えてしまったね。いったいどこに……」
ガチャ
「あら~、アイリちゃんってば、またどこかに転移しちゃったのね~」
「アイナ殿、それはどういう……」
「なんとなくだけどね~、どこか別な世界に転移しちゃった気がするの~。だけど大丈夫~。いずれは戻ってくると思うから~」
「……だといいのですが」
「でもいいな~。私も宇宙に行ってみたかったな~」
「宇宙?」
★★★★★
その頃のアイリ。
ドゴーン!
『全砲門開けぇぇぇ! 敵母艦を沈めろぉぉぉ!』
ドガーン!
『左翼被害甚大! このままでは持ちません!』
ドゴーン!
『撃て撃て撃て撃てぇぇぇ!』
(……どこなのここ?)
本当に宇宙にとばされていた。
次回、【宇宙に誘われしダンジョンマスター、え……宇宙なの!?】をお楽しみに
ユニークEND
ちょうど年度末で完結となりました。
お読みいただきありがとう御座います。
それでは良いお年を!