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追憶①

「はいお待ちど~。オークの串焼き三本だ」

「あれ? 頼んだのは二本のはずだけど?」

「ハッハッハッ! お嬢ちゃんが別嬪(べっぴん)さんだから一本はサービスだ」

「私、こんな()()()()()()()()()分かるの?」

「なぁに、長いこと商売やってるとな、美人かどうかは仕草で分かるのさ」


 お、何かいかにも商売人って感じがする。まぁ実際に商売人なんだけどもね。


「ありがとう! でも美人って言うより美少女と言ってくれたら満点だったわ」

「ハハッ! だったら将来美人になってくれ。それで俺の評価は満点だろ?」

「ノリが良いわね。おまけしてくれてありがとう」

「おぅ、また来てくれよな!」


 香ばしい匂いのする串焼きを受け取り露店を離れ、人混みを避けて広場へと移動する。

 目についたベンチに腰を腰を下ろし、疎らに行き交う通りを眺めつつ串焼きを口へ運んだ。


「うん、やっぱり出来立ては最高ね」


 スマホで召喚した串焼きも美味しいけれど、目の前で焼かれちゃ食べないわけにはいかない。

 ――なぁんて言ったらアンジェラっぽいかな? もし本人に見られたら……


(なんじゃ、(しゅ)も妾に似てきたのぅ。だが食い付き方がまだ甘いぞ? どぅれ、妾が手本を見せてやろう。――オヤジよ、あと十本追加してたも)


 うん、絶対こんな感じになって――あ~いやいや、眷族に見られちゃダメなんだった。


 髪を下ろして金髪に染め、加護によって声を変えてる上に仮面を付けてるとはいえ、眷族に見られたらバレる可能性が高いんだとか。

 ミルド様からは、くれぐれも眷族には気をつけるようにと念を押されたっけ。自分の眷族に見つからないようコソコソしなきゃならないとか、ほんっと面倒だわ。

 

「さてと……」


 串焼きを食べ終わり、夕日に染まるフランツの街をテキトーにぶらつく。

 時間帯の影響か、冒険帰りの冒険者と買い出しに出ている住民とで通りが賑わい始めていた。

 こうして見ると、元の世界もこっちの世界も何ら変わらない。


「今日は大収穫だったな」

「ああ。ブッシュラビットの巣を見つけたのがデカかったぜ!」


「この後どこ行く?」

「夕日の見える丘に行きましょうよ」


「ママァ、あれ買って~」

「贅沢言っちゃいけません」


 すれ違う人たちを尻目に複雑な感情が込み上げてくる。

 さっきの冒険者は創られた成果を挙げたに過ぎないし、カップルは創られた雰囲気に流されたに過ぎない。親子連れも創られた感情のままに動いているだけ。

 そう、全ては創られたもので、元の世界とは決定的に違うところ。


「はぁ……、呑気なものよね」


 まさか彼らも街娘にしか見えない私が運命を握ってるとは夢にも思わないでしょうね。

 言ったところで誰も信じないだろうし、簡単に信じるくらいなら詐欺に注意するよう言い聞かせてやりたくなる。


 ツンツン


「……ん?」


 背中をつつかれた気がしたので振り向くと、すれ違ったはずの親子連れの男児が私を見上げていた。


「お姉ちゃん、その仮面ってどこで売ってるの?」

「え……こ、これ? え~と……」 

 

 思わぬ質問だったため、切り返しに戸惑う。


「ど、どこだったかな~」


 まさか召喚したとは言えないし、テキトーに国外を指定して――


「こら! 人様に迷惑をかけちゃいけません!」

「ええ~? だってぇ~」

「だってもなにもありません! ……す、すみません、ウチの子が失礼致しました」

「い、いえ……」


 しょんぼりとしながら母親に連れられいく男児。

 諦めきれないのか、時折こちらを振り向きつつ帰路へとつく。


「あ、もしかしたらダンジョンのお宝なのかも! ねぇママァ~」

「行きませんからね?」


 ごめんね、この仮面はどこにも売ってないのよ。私だけの特注品だから。

 もちろんダンジョンにも有りはしない。


「ダンジョン……か」


 今頃もう一人の私はアマノテウスのダンジョンを攻略し始めてる頃かな? それともすでに攻略を終えて、私みたいにぶらついてるかもしれない。


「…………」


 言い出したら気になってきた。

 ちょっと様子を見るくらいなら大丈夫よね?



★★★★★



「よっと」


 ひとっ飛びしてダンジョンがある山に着地した。

 複数のテントが入口から離れたところでズラリと並び、冒険者や傭兵たちが夕食の準備に取りかかっているのが見える。


「肝心のアイリちゃんはと……」


 どうやらここには居ないらしい。

 ならばとダンジョンに視線を移し、ミルド様から借りたスキルを発動する。


神の目(ゴッドアイ)


 シュイーーーン!


 このスキルはダンジョンや地中深くを見通せるもので、そこにいる生命体全てを確認できるのよ。

 しかもこのスキル、少し先の未来をも見透せる優れもので――ってそんなことはどうでもいいわね。


「あ、いたいた。3階層を進んでるようね」


 アマノテウスのダンジョンは全部で4階層だし、今日中に攻略できるかもしれない。


 ――に、しても……


「随分と楽しそうじゃない」


 もう一人の私がワクワクしているのが神の目で分かる。

 こっちの苦労も知らないで自分だけ楽しむとか、これはちょっと制裁が必要ね。


「チョイチョイ……と」


 肉汁の匂いでアンジェラとモフモフを誘導してやった。

 後はバレないように……


「えいっ――と」

 

 誘導した二人を強制的に元の世界へと送還してやった。

 せっかくのダンジョンなんだし、一人で苦労しなさい。



 なぁんて思考がフラグになったのか、その後すぐにアマノテウスを拘束したものの、コアルームを漁っていた冒険者が戦利品と一緒に時限爆弾を持ち出してしまった。

 それを見たアマノテウスが不適に口の端を吊り上げている。

 神の目で見透すと、数分後にアイリ以外が全員爆死する光景が浮かび上がった。

 眷族二人を送還した負い目もあるし、ここは協力することにしよう。


「もう、しょうがないわね……」


 戯れの時間(オルロージュイー)


 フィキーーーーーーン!


「クッ!」


 不可思議な衝撃がもう一人の私を襲う。

 このスキルは()()()()()時間の流れを極端に遅くするもので、もう一人の私には時間が止まってるように見えるでしょうね。

 もちろんこのスキルもミルド様から借りたやつよ。


「……え? 時間が……止まってる?」


 はい。ご覧の通り、もう一人の私が周囲を見て驚いてるのが分かる。


「これはいったい……」


 さて、そろそろ()()()といこうかしら。


「あ~これね。私がやったのよ」


 こうして私は別人として自分との対面を果たした。


後半部分は第62話と照らしてご覧ください。

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