閑話:森のクマさん
ある~日♪
森の中♪
クマさんに♪
出会った♪
あたしミラクル。今日は天気が良いから森に散歩しに来たんだ~。
「おぃっちにぃ、さんしぃ、にぃに、さんしぃ!」
んん? あれは……クマさんだ。
いったい何してるんだろ?
「もしもしクマさん。こんなところで何してるの?」
「何を言うとるか娘っ子よ。見ての通り身体を鍛えておるんじゃろがぃ。スクワットは一日にしてならず――じゃからのぅ!」
「そ、そうなんですか……」
よく分からないから、テキトーに合わせとこう。
「しかし感心じゃのう。お主の若さでスクワットに興味を示すとは」
「……へ?」
「お主の中に眠るマッスル魂が目覚めようとしている――そうじゃろう?」
「え、えぇ……」
花咲くも~り~の~み~ち~♪
(変な)クマさんにで~あ~った~♪
クマさんの♪
言うことにゃ♪
お嬢さん♪
入りなさい♪
「ワシの名はワグマ。これも何かの縁じゃろうし、当ジムへ入会するがよい」
「ジム――って何ですか?」
「なんじゃ娘っ子、スポーツジムを知らんのか?」
「身体を鍛える場所ですよね?」
「知っとるんじゃろがぃ!」
「だ、だって、トレーニングマシーンとか何も無いじゃないですか。それでスポーツジムとか言われても……」
そもそもここって森の中で、しかも道のど真ん中なんだけど……。
「フン! これだから素人は困る。トレーニングマシーンなんぞに頼っているから、今の若者は貧弱になってしまったんじゃあ。まさかお主もそれに頼ろうとしとるんかぃワレェ?」
「そ、それは…………って、そもそもトレーニングするなんて一言も――」
「かぁ~~~情けない! それでも当ジムの会員か!」
あ、あれ? 何で入会したことになってるの!?
「ええぃ、仕方ない。あまり好きではないが、まずは座学から行うとしよう。そもそもスクワットというものは――」
なんだか自分の世界に入っちゃってるみたいだし、このままこっそり帰っちゃおう。
スタコ~ラ サッサッサッの~サ~♪
スタコ~ラ サッサッサッの~サ~♪
ところが♪
クマさんが♪
あとから♪
ついて来る♪
「うぉぉぉぉぉぉ! 待たんかい、娘っ子ぉぉぉぉぉぉ!」
「ひぃぃ!? なななな何で追ってくるのーーーっ!?」
「そこにお主が居るからじゃろうがぃぃぃぃぃぃ!」
「理由になってなーーーい!」
ズドドドド~ド~ド~ド~ド~♪
ズドドドド~ド~ド~ド~ド~♪
お嬢さん♪
お待ちなさい♪
ちょぉ~っと♪
落としもの♪
「ほれ。これを落としたぞぃ」
「……それ、入会案内書ですよね? 落としてませんし、入る気もありません」
堂々と懐から出しといて何言ってるんだろこのクマさん。
「むぅ……ならばこういうのはどうじゃ? 入会金もいらんし年会費も永年無料。それに今ならワシの特別レッスンをプラスしようじゃないか」
「いえ、結構です。むしろマイナスにしてください」
「なぜじゃい!? お主の貧弱な胸元が、筋肉ムキムキの極上ボディに生まれ変わるのじゃぞぃ!?」
「筋肉ムキムキなんていりません! それと然り気無く胸をディスらないで!」
こんど貧乳扱いしたら張り倒してやる!
「ワシとて強制するつもりはないぞぃ。ただここにサインをしてほしいだけじゃい! ほれ、さっさとせんかぃ!」
「それを強制って言うんですが……」
白いか~み~き~れ~の~♪
入会あ~ん~な~い~しょ~♪
あらク~マ~さん♪
ありが~と~う♪
お礼に♪
入りましょ♪
「――とでも言うと思ったんですか?」
「そこは礼を述べつつ入会するのがお約束というものじゃぞぃ?」
「そんなお約束はしりません!」
「ええぃ、じれったい! こうなれば強制スクワットじゃい! ほれ、全身を大きく曲げるんじゃーーーい!」
「ちょっ――いだだだだだ痛い痛い、痛いですってば! だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!」
ララララ~ラ~ラ~ラ~♪
ララララ~ラ~ラ――
「イヤーーーーーーッ!」ガバッ!
「あ、あれ? ここは……」
「どうしましたマスター? 眠ってたかと思いきや、突然飛び起きたりして」
ゆ……夢?
「ねぇエレイン。魔女の森にスポーツジムが有ったりしないよね?」
「…………はい?」
よかった。この様子だとまだ無いみたい。
正夢にしたくないし、絶対に阻止しなきゃ!
「…………」ギロッ!
「むぅ……最近マスターから頻繁に睨まれてるような気がするぞぃ……」
「汗臭いからじゃないですか?」
森のクマさんEND