フェルマーの予言
「大丈夫だったミラクル?」
「うん! セレンさんやグルースさんのお陰で助けられたよ。今のはちょっと危うかったけど、またアイリちゃんに助けられたね」
解放軍の様子を見に来たら、城の上部が消えてんだもの。
何事かと急降下してみりゃま~たGAの仲間でしょ? ホント間に合ってよかったわ。
「……で、そこのDOって奴、さっさと仲間の援護に行ったほうがいいんじゃない? あの親子は獰猛だから」
「なるほど、GAたちが襲われてるのは貴女の差し金ってわけね。なら仕方なく退くけれど、せめてお礼くらいはさせてちょうだい」
お礼という似つかわしくない台詞を吐き、DOの左目が蒼く光る。
「フフ、そのうち城の外が騒がしくなるわ。彼らに言葉は通じないから、急いだほうがいいかもね~」
「……彼ら?」
「街に散らばってる無人兵器があるじゃない? 彼らに対してちょ~っとばかし遠隔措置を施したのよ」
まさかコイツ!
「じゃあね~♪」
意味深な言葉を残し、城の隅で膝を抱えてた仲間を連れて飛び去った直後、上空を旋回していたセリーヌから急報が入る。
「大変大変! ギアⅢがあちこちで暴れ始めたわ!」
「やっぱり!」
まさかとは思ったけど、無人機まで動かせるとはね。
「グラップ、手分けして撃破するわよ! セレンも手伝って!」
「うむ。直ちに向かおう」
「お任せを~♪」
「ミラクルとセリーヌにはエルマイヤ陛下の護衛をお願いするわ」
「うん、分かった!」
「了~解」
傍らの少女を鑑定したら新皇帝って出てたのよ。多分グラップたちが担ぎ上げたんでしょ。
城が半壊して手薄だから放置して死なれても困るもんね。
――っという事があった翌日。
難なくギアⅢを破壊し尽くした私たちは改めて城に招かれ、新皇帝のエルマイヤさんにお礼の言葉を受け取った。
「此度の助力、まことに感謝致します。皆様が居なければ今も獄中で過ごし、帝国の危機を目にすることなく生涯を終えていたかもしれません」
「こっちにもダンマスの救済っていう打算があったし、まぁ成り行きですよ」
「ですが助けていただいた事に変わりはありませぬ。それがしも再び宰相として元に収まりましたし、本当に感謝しておりますぞ」
エルマイヤさんと宰相さんに深々と頭を下げられた。
本当は滅ぼしてもいいかなくらいに思ってたんだけど、こうして感謝されるのは悪い気はしない。
今まで皇帝だった奴も城の外で死んでるのを確認したし、滅ぼすのはなしね。
あ、ギアⅢを量産していた研究機関のマギールって奴は牢にブチ込んどいたわ。
使われてない独房を勝手に使ったから看守に気付かれずに死んじゃうかもだけど、その時はその時ね。
「い、いや、その……ま、まぁ、あり、あり、あり、ありりりり」
「グラップさん落ち着いて……」
「そ、そうは言うがミラクル、女王陛下だぞ女王陛下。これが緊張せずにいられるか!」
――とまぁ、出来の悪いロボットのようにぎこちないグラップ。
理由はというと、陛下直属の特殊部隊に任命されたからよ。
アサルトライフルも追加で渡しといたし、ギアⅢなき後の最大戦力といったところかしらね。
……どうでもいいけどグラップ、女王じゃなくて女帝よ。
「それにしても先日の魔物。セレン殿に対抗できるほどの恐ろしい存在でしたわ」
「まったくですな。ラーズヴォルトの台詞ではありませぬが、奴らこそフェルマーの予言を引き起こさんとする悪魔に違いありませぬ」
宰相の言うフェルマーの予言。
実はアンジェラとアンジェリカの親子喧嘩を収めたあと、ダンノーラ帝国――現ダンノーラレジャーアイランドに行ってきたのよ。
そしたらレジャーアイランドとして生まれ変わらせた人物の中にフェルマーという考古学者がいて、そいつが500年前にある予言をしたのよ。
『今から500年後。天より現れし者により、世界は滅びの道を歩まん』
――ってな事を言ったんだとか。
元から数々の古代遺跡をめぐり様々な文献を解読してみせたことから、当時は信じる人が多かった。
なぜ過去形かというと、貴族から金を受け取って都合のいい予言をするようになったから信用はガタ落ち。
今では殆どの人が信じてないらしいけど……
「再びあの魔物が現れないとも限りませんし、わたくしとしてはミラクル殿にも協力していただきたかったのですが……」
この話はミラクルにキッパリと断らせた。
あの連中は放置できないにしろ、軍門に下るのは別の話だからね。
「ごめんね、エルマイヤさん――じゃなかった、エルマイヤ様!」
「フフ、さん付けで結構ですよ。今はわたくし達しか居ませんから」
「……そうなの? じゃあエルマイヤさん、傘下には入れないけど、またあの魔物が出たらすぐにでも駆け付けるよ」
「ありがとう御座います。その時は是非ともお願いしますね。もしかしたら封印の地からやって来た悪魔かもしれませんし」
封印の地? またまた気になる地名が出てきたところで脳内辞書を引っ張り出す。
え~と、封印の地封印の地……
あったあった、封印の地ガルドラ。
かつて魔道国家ガルドーラがあった場所で、周辺国を脅かした恐るべき悪魔が封印されている場所らしい。
ごく一部では、フェルマーの予言はこの悪魔の復活を指しているのでは――とも言われてるんだとか。
これは調べる必要がありそうね。
「どうしたのアイリちゃん。難しい顔してるよ?」
「ん? いや、なんでもないわ。考え事してただけだから」
一休みしたら調べに行こうと考えつつアイリーンに戻ってきた。
セレンとセリーヌはど揃ってこかへお出かけし、アンジェラとアンジェリカは間食の奪い合いを始めたところで、久しぶりギンから念話が届く。
『アイリ様、冒険者ギルドがアイリ様に対して賞金を懸けました』
『……は?』
『なんでもフェルマーの予言の元凶である可能性が高まったとかで、多数の冒険者がレジェンダ喫茶に詰めかけて来たのです』
『ちょ! 私はいいけどそっちは大丈夫なの!?』
『ご心配なく。金に目が眩んだ連中は、ブラッシュが一掃しましたので』
ふぅ……なら大丈夫かな。
『いかが致します? 冒険者ギルドを潰しに参りますか?』
『いや、今は放置しといて。私が直接乗り込んでやるから』
『了解しました』
――ったく、今度は冒険者ギルドか。
次から次へと忙しい……。
これにて第7章は終わりです。