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第三章六節『決戦前夜のどんちゃん騒ぎ』



「はは、食え食えヒューマンの冒険者よ! 今日は良い獲物が獲れた!」


「だはは、飲め飲め獣人の戦士よ! アバウィルの火酒は気持ちよく酔えるぞ!」


 ――陽が完全に落ちてしばらく、時計を見ていないが感覚としては二〇時頃か。


 長が認めたとはいえ、その宣言だけでは冒険者とセリアンスロープ達の先入観からくる距離感は遠いままで、情報の擦り合わせも旨く進まなかったらしい。


 だが、俺とガレスの力比べで、スポーツなんかの対戦チームのサポーター同士が意気投合する様に関係性は幾分、改善された様だ。


 今は皆で、アーリアの里で焚き火を囲んでいる。


 旨い肉と旨い酒は親睦を深めるには丁度良いようだ。

 上機嫌にクレスは里の戦士と酒瓶を片手に肩を組みつつ、


「さぁ、坊主も飲め! 火酒にエールに果実酒、ノーベルから持って来れるだけ持って来たからな!」


「ボウヤも一杯食べて。ヒューマンの調味料ってお肉が美味しくなるのよね。あ、果物もあるのよ」


 隣に座る獣人の女性にも胃に入らない位に勧められた。


 空の酒樽を太鼓に、手拍子と掛け声のリズムに合わせて冒険者や里の女性陣が焚き火の周りで躍り、宴に花を添えている。


「いや、もうお腹一杯。先に休ませて貰おうかな」


 実際に飲んでいる訳では無いが、酒の匂いに妙にフワフワとした感覚になってきた。


 席を立つ際に、「ねぇ、ボウヤ。ウチに来る?」なんて艶っぽい表情で袖を引かれたが、舌なめずりに本能的な危機感を感じ、「いやー、あははー」と愛想笑いで乗り切った。


 里の中心の広場での宴はまだまだ終わる様子は無いが、少し離れると静けさの落差に寂しさを感じてくる。


「……ん?」


 俺達が泊めて貰う事になっているノエルの家の前に先客が居た。


「アイリはもう良いのか?」


「あ、はい。一杯勧められたけどそんなに食べられないし、お酒も飲めないので」


 星を見上げていた彼女は、恥ずかしそうにお腹に手を添える。


「はは、俺も。そういえば、レヴァ見なかったかな? 途中まで一緒に居たんだけど……」


「レヴァさんなら、先に休むってもう中に。ノエルさんはまだみたいですけど」


「まだ、飲んでんのかなー?」


 宴が始まったばかりの時は、飲める連中で飲み比べをしていたが、ノエルがペースを握っていた。

 今もエールだなんだと呷っているのか。


「しかし、連中はいつまで騒ぐつもりなんだ? 明日はゴブリンとの決戦なんだよな、二日酔いとか大丈夫なのか……?」


 会議の結果、作戦という程綿密な物では無いが、大まかな連携と位置関係を決めた。

 決行も明日の早朝の筈なのだが……。


「あはは……」


 眉を顰めると、アイリは苦笑しながらも、


「クレスさん達もセリアンスロープの方々も、言っていました。――これが最後かもしれないから、って」


 答えた言葉に息を飲んだ。


「命を懸けた戦いだから、自分も隣の人も――どうなるか分からない。だから、今を精一杯楽しんで……亡くした人との思い出に浸る――」


 そして、と


「また、皆とお酒を飲む為に生きて帰るって」


「――結局……酒なんだ」


「お酒だそうです」


 自然と笑いが零れた。


 アイリの視線が空に向かい、つられて俺も空を見上げる。


 濃紺の夜空一面に輝く星々と、大きく丸い月。

 手を伸ばせば届きそうな位、立体的に見える。


 アイリは息を吐き、


「――明日にはこの騒動も終わる……勝てますよね?」


 どこか不安そうに呟いた。


「……どう――だろうな」


 必ず勝てる、というべき所だろうがその確信も自信も無い。


「だけど」


 俺は呼吸を一つ置いて、


「俺達がやるしかない。じゃないと――誰にも止められなくなる」


『神の力』を得たホブゴブリンの変異種の恐ろしさは身に染みている。


 アレと同等の化物を放置する訳にはいかない事は確かだ。

 そして、対抗するには同じく『神の力』を持った俺達しかいないのだ。


「――元の世界に帰る為にも……ですか?」


 不意に訊ねられて、呆けた顔になる。


 彼女は躊躇いながらも、


「もし、よければリュウさんが『旅』をする……『命を懸ける』理由を聞いても良いですか?」





「――ごめんなさい。私、簡単に聞いてしまって……」


 俺がこの世界に呼ばれた経緯と奪われた家族を取り戻す為に『再誕の儀式』を行う理由を簡単に説明すると、アイリは申し訳なさそうに謝った。


「気にしなくていいよ。その為にアイリみたいな子を利用しようてんだから――いい迷惑だよな。自分の事ばっかでさ」


 軽く流してくれれば良かったが、


「そんな事は無いと思います。私も……同じ事を神様にお願いしようかと思っていますから」


 アイリは空を見上げながら、


「亡くなった両親に――お父さんとお母さんにまた会いたい。一緒に暮らしたい」


 彼女の願いに胸が締め付けられる思いだった。


「二人は近くの村の流行り病の治療に出た時に、魔物に襲われてしまったんです。この世界じゃ、本当によくある事で――こんな事、言い出したらキリなんてないんですけど」


 ――だけど、願いが叶うというのなら。


 小さな拳を握りしめ、


「私はソレを願いたい。心からの欲望(願い)だから」


 俺を見て困った様に。


「その癖、まだ悩んでいるんです。リュウさん達に着いて行こうか、ここに残るか――私も自分の事ばっかりです」


 互いの苦笑が重なった。


「――無責任だし、時間もそんなに無いけど、色々悩んで、考えて欲しい。後悔……は、どっちにしろあるんだろうけど。これはアイリが自分で決める事だから、その決断に間違いなんて無いことは確かだよ」


 俺はアイリと向かい合い。


「だから、明日は精一杯出来る事をやろう。そして、片付いたらアイリの答えを教えて欲しい」


「――はい。私も、頑張ります」


 頷き合った。


「俺は泉で水を汲んでくるよ。朝に飲んだくれ共の頭にぶっかけるのに必要だしな」


「ふふ。それじゃ、私は先に休ませて貰いますね。あ、そうだ――」


「んー?」


「もしもクレスさん達がソレでも起きなくても、とっても苦い薬草があるので大丈夫ですよ」


 アイリの照れくさそうな笑み。


 作戦延期の心配はなさそうだ――。





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