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第三章四節『同盟』

「待て、ノエル。その者達は何だ?」


 ノエル達の案内で森を進む事、一時間弱。


 彼女達の里――アーリアに辿り着いた。


 その里の入り口……といっても、森との明確な境界は無いらしく、どこまでが『里』と言えるか謎だが俺達は、そこで武器を携える獣人の男達に行く手を阻まれた。


 彼等の後ろに見える住宅はどれもこじんまりとしていて、ログハウス調――というか、なんとか丸太や木板なんかをそれっぽい形に組んだ、手作り秘密基地の様な印象だ。


 実際、木の上に無理やり建てているものもある。


「この人達は私のお客さんなの、通してもらえる?」


「何をふざけた事を……里の掟を忘れたか! 何よりその異臭を放つ荷車はどういうつもりだヒューマン共め!」


 軽く言うノエルに男達は眉を吊り上げ、剣を抜き、槍を構える。


「お前ら、奴さんを刺激すんな。ノエルの姉さんに任せとけ」


 冒険者達がそれに反射的に各々の武器に手を掛けるが、クレスが止める。


 俺も強面の獣耳なお兄さんに槍を向けられたが、


「その子は怒らせちゃダメだよー。皆じゃ絶対勝てないから」


 ノエルが雑に窘めてくれる。


「……ほう、我等がヒューマンの小僧にか――面白い事を言うな!」


 獣人の彼の額に血管が浮き出た。


 あれ、ノエルさんも煽るのが上手な人かな?


 引き攣る表情が更に突っ張った。


 と、


「うん、私と引き分けだったし」


 なんてまた軽く流すノエルに彼等は「何だと?」と呆けてしまう。


 続けて、


「あと、ヒューマンの冒険者さん達からお土産だって」


 戸惑いながら冒険者達が荷車の被せを取る。

 何度見ても趣味の悪いグロい塊がこんにちは。


「――これは……どういう、事だ――?」


 色々と、理解が追い付かない獣人の戦士達にノエルは、


「まぁーまぁー、詳しい説明は後で。先におさに通してくれる? 後、ガレスもねー」


 それじゃ荷車はこっちに運んでー、とノエルは先に里に入り俺達を手招いた。


 頭上に『?』を浮かべる戦士達に俺達は、「あ、すみませーん、失礼しまーす。通りまーす」とバツの悪さを感じつつ、里にお邪魔させて貰う事にした。





「――我等、セリアンスロープと貴方方あなたがた、ヒューマンの冒険者達と……同盟を結びたい、と申すのですな?」


 耐震性度外視な簡素な住宅の中でも、大きめで円形に整えられ大型の熊の様な毛皮が敷かれた小屋。


 おさ――年老いた長い白髪の獣人の男性が胡坐あぐらを掻きながら、丸まった背を支える様に短い杖を突いていた。


 その左右にノエルと、筋骨隆々の褐色の肌と灰色の短髪と狼の様な耳と尾を持つ大男――ガレス。


 ノエルは先ほどまでの明るさを隠し、祭事を執り行う様に厳かだった。

 

 対して、ガレスは俺達に向ける敵意……いや、殺意を隠す気など毛頭無いらしい。彼は、俺達がこの里に居る事、自体が許せない様だ。

 彼にもクレス程度には『神の力』が宿っている。【神装】は発現出来なくても、身体強化は十分に可能だろう。


 この里のナンバーワンとナンバーツーを控えされた長は、柔らかい声色と顔全体に深いシワやたるみが出来ていて弱々しい印象があるが、鋭い眼光で俺達を見る。


 決して、明確な敵意があり睨んでいる訳では無い。

 純粋な戦力とは別の威圧感。多くの戦士の長たる貫禄、という奴だろうか。


 俺とレヴァ、そしてクレスがそれを受ける。


 アイリは里の怪我人をヒーラの冒険者達と治療に出て、他の冒険者達は小屋の周囲に待機――というか、獣人の方々に見張られているのだ。


 外からもピリピリとした空気感が漂い、呼吸がし難い様な気がする。


 その中で、


「無論。我等の村がゴブリンの頭目に襲われた……即ち、奴等もこの戦の決着を早々につけるつもりだろう事は明らか」


 クレスは胡坐の膝の上で拳を握る。


「何より、既にその頭目の片割れを討った。片割れが残りの全軍を率いて押し寄せてくるのは時間の問題だ。――そうなれば、この里も蹂躙されるだろう」


 ガレスの眉間のシワが深くなり、発せられる敵意がより大きくなる。


 狼狽える事なくクレスは呼吸を一つ置き、


「誇り高き獣人の里の長よ――どうか、決断を願いたい。我等は……いや、俺達は、もう誰も死なせたくない!」


 力強く告げた。


 長は短く唸り、瞳を閉じる。


 ……しばらく、沈黙が続く。


 ノエルも、ガレスも……クレスもそれ以上は何も言わない。


 彼等もこの状況を理解しているのだ。その上での長の決断で大きく流れが変わる。


 ――どの位か、


「――……」


 長は震えながら杖を置き、


「今こそ……先祖達の遺恨、晴らす時なのかもしれませぬ――」


 拳を床に着ける。


「我等とて――儂とて、これ以上、同胞達が弄ばれて堪るものか……!!」


 クレスと同様……いやそれ以上に力強い静かな叫びだった。



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