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第三章三節『獣耳なお姉さんと、くんずほぐれつ命懸け』

「戦うって……俺達は協力しようってな――!」


「止めておきなさい」


 クレスが叫ぶがそれをレヴァが止めた。


「共闘するにしても、互いの実力を把握しておく必要がある。本当にこの共闘が意味あるものかこちらも見定めるべきでしょう?」


「……なんだと、ヒューマンの女め!」


「我等を侮辱するか!」


 当然と言うべきか獣人の少年二人が文字通りに牙を剥いた。


 レヴァさんは学ばないというかブレないというか、相手を煽るのは無意識なのか。


 ……だが、それも事実なのも確か。


「はいはい。二人はちょーと黙っててねー」


 獣人の女性は彼等を片手であしらって、


「お姉さんは話が分かるね、そういう事。コッチの強さも知らないと、お兄さんも背中は任せられないでしょー? ちなみに今、里で一番強いのは私かなー?」


 不敵に笑う。


 俺を見て、


「それじゃ――私と“遊んで”くれる?」


 腕を頭上に掲げ、その手に“青い粒子が集まっていく”。

 光と共に風が集中し、弾けるとソレは現れた。


 柄の短いハルバートの様な【大斧】。


 幅の広く短い槍部の側面に大剣サイズの鉈状の刀身。逆側には手摺の様にフォアグリップが付いている。

 刃は重厚。

 見るからに取り回しによる連撃ではなく一撃に赴きを置く質量兵器ヘビィウエポン


 彼女はソレを短剣の様に片手で俺に向けた。


 レヴァを見ると、頷かれる。


【神装】を自力で発現させる程の適正者――是が非でもその眼鏡には適いたい。


 その為には、


「――しょうがない、か」


 俺は大きく息を吐き、覚悟を決めて【剣】を召喚して彼女に応えた。


「リュウだ、よろしく」


 彼女は「あ」と一瞬呆けた顔をして、


「私はアーリアの里のノエル。うん、よろしくね」


 互いに苦笑で名乗る。


 ノエルとの距離は数メートル程だが、俺達には零距離に等しいだろう。

 本音を言えば、もう少し距離を開けたい所だが彼女は、ちょいちょいと手で招く。


「互いの得物を合わせるのが私達の”試合”の合図なの」


 ほらほら、と【大斧】で誘われた。

 パワーファイターにインファイトから始めるのは、些か不利だろうがしょうがない。


『郷に入っては~』とも言うし、流儀に合わせる事にしよう。


 だが、彼女の前まで来て妙に不安を覚えてきた。


「……確認だけど、命のやり取りじゃないんだよね? 手加減はしてくれるんだよね?」


「うん! お互い死なない様にはするけど――」


 満面な笑みで、


「本気、でね?」


 中途半端に出した【剣】にノエルは【大斧】を一方的に合わせて――戦う者の表情に変える。


「っ゛――ぉ゛!?」


 本能的な危機感が視覚で判断するより早く、叩き付けられた【大斧】を【剣】の鎧で防いだ。

 全身に衝撃が走る。受け流し切れずに弾き飛ばされた。


「ほら、行くよっ!」


 辛うじて立て直すが視界が揺らぐ。

 他のセリアンスロープや冒険者達を巻き込まない様に俺を狙って弾いた事に気付く時には、ノエルが【大斧】を突き出して跳んで来た。


 間一髪で、前に転がる様にすれ違う。


「このっ!」


 やられてばかりはいられないと【剣】を横薙ぎに振るうが、純粋な武器としては少し大振りな短剣程度。


 少し、身を引くだけで躱される。

 それも鼻先ギリギリに剣先が掠める紙一重を狙われて。


「……!?」


 ノエルと目が合った。

 そして、振り降ろされる重い一撃に【剣】を振り上げて迎え撃つ。


 大気が震える程の鈍い金属の衝突音。


「おっ……もぉ゛っ!?」


 落ちてくる【大斧】の分厚い刃が一瞬止まっただけだが、その隙に身を反らし、今度は俺がギリギリで、なんとか避ける。

 地面にめり込む【大斧】の破壊力は凄まじく地面を大きく抉ってみせた。


 大きく飛び退いて、ノエルの間合いから逃げる。


『神の力』による武器の重量の差か、膂力の強化の差か、そもそも根本的な実力の差か、やはり正面切っては分が悪い。


 ――言い訳になるが、俺の【剣】は対人ではどうも使い勝手が悪いのだ。

 

 光刃が僅かにでも生身に当たれば致命になってしまう。


「こ、殺す気じゃないって言ってませんでしたっけ!?」


「え? そーだよ? それよりも……」


 心臓をバクバクとさせて命の危険を感じている俺を余所にノエルは平然と小首を傾げる。


 寧ろ、どこかつまらなさそうに、


「君、手は抜いてないけど――全然、本気じゃないよね?」


 ――失望した様な表情を見せ、姿勢を低く下げて斧を素振りする様に振り上げた。


 ワンテンポ遅れて轟と風が唸る。

 俺の周囲に大砲でも無数に撃たれた様に地面が抉れ、木が砕けた。


『見えない多段攻撃』 


 一発が立派な木を薙ぎ倒す威力を同時に複数。それもステルス性の飛び道具。

 この手の技のセオリーとしては、中距離で狙いの精度はそう高くない。

 扱いとしてはショットガンに近い――なんて、思うのは余計な先入観だろう。


 もしかしたら、狙い定めた場所が爆発する類なのかもしれない。


 だが、なんにせよ“明らかに外された”のは分かる。


 ――この一撃で何度死んだか解るか?


 と、諭されたのだろう。


「それともアレかな、私には……ゴブリン以外は本気が出せない? それじゃ、しょうがないね。残念だけどこの共闘は――」


 その先は言わせてはダメだ。


 そもそも、この戦いを挑まれた理由はただの酔狂ではない。


『私としては、それも良いかなぁーと思うんだけどねぇ……』


『――幾らゴブリンとかホブとかの首を持って来られても、“セリアンスロープは”納得できないかな――?』



 俺が里最強の彼女と渡り合う事が出来れば、彼女の里に認めさせる事が出来る。

 少なくとも冒険者達にその戦力がある事を誇示できる。


 今まで共闘を躊躇わせていた件の五〇〇年の遺恨を覆すには、その位に見せつける必要があるのだ。


 そのチャンスを彼女はくれていた。


「待ってくれ――!」


 光刃こうじんを【剣】に纏わせる。

 勿論、ロングソード状の刀身が維持できる最大出力だ。


 少しわざとらしいが、俺は改まる。


「どうか、待って欲しいアーリアの里、最強の戦士よ。――先ほどまでの非礼を謝罪する機会を頂きたい」


 俺の『神の力』の向上にノエルは満足そうに微笑んで、


「うん!――凄く綺麗」


【大斧】を担ぐ様にして姿勢を落とす。


 構えた。――構えてくれた。


「俺の『力』を見て、貴女の『力』を見せて欲しい!」


 俺も【剣】を脇に引き寄せる様に水平に構える。


「セリアンスロープの戦士としてその願いを聞き入れよう! 我が名はノエル!」


「――我が名はリュウ!」


「ならば、いざ……!」


 合わせた視線でタイミングを計り、同時に地面を蹴った。


 互いの間合いで、【神装】を振るう。

 光刃と分厚い刃がぶつかる寸前で、一旦止めて――互いを認め合う様に、得物を合わせた。


「――はぁっ!」


 先に攻撃に転じたのは俺だった。

 手首を反して袈裟掛けに振るう。


「っぅ!!」


 ノエルは【大斧】で防ぎ、互いの刃の間で派手に火花が飛んだ。

 真正面からのぶつかり合いでは俺が不利。


 だからこそ、全力位が丁度良い。

 光刃が【大斧】の鉈状の刀身に僅かにヒビを入れた。


「――はは、良いねっ!」


 それが彼女を楽しませた(本気にさせた)のか、獰猛な笑みを浮かべて、【大斧】を反らして往なされた。

 そして、反撃と身を翻しながらの一閃を光刃で迎え撃つ。


 重い衝撃に息が詰まる。光の刀身が乱れ炎の様に大きく揺らめいた。

 その隙をノエルが見逃す訳が無い。


「たあっ!」


 そのまま刃を押し込まれ、光刃が砕かれた。


「――!?」


 追撃を貰う前に、後ろに下がりつつ新たに纏わせた光刃を飛ばす。


「なんのっ!」


 幅の広い斧頭は盾にするのに丁度良いようだった。

【大斧】のヒビが大きくなるが、完全に崩すには至らない。


 青い粒子が【大斧】に吸い寄せられ、損傷が修復されていく。


「やっぱり、群れのボスを倒しただけはあるね。すんごい強いよ、君」


「俺だけで勝った訳じゃないさ。それに貴女も最強というだけはある」


「なはは。あくまで里の中だけだけどね~」


 ノエルは軽く笑うが、


「でも、君もまだまだでしょ?」


 不敵に微笑んで誘われてしまう。


「まぁな……!」


 なら、応えなければ男が廃ろう。


 半身になりながら姿勢を落とし、【剣】を後ろに構え、光刃を纏わせた。

 刀身として整えるよりも純粋な高火力を求めて、粒子を圧縮し放出する。


「勝つ為に……全力で行くぞ――!」


「それに応えるよ!」


 彼女も姿勢を落とし、【大斧】を担ぐ。


 そして、一瞬で肉迫。


「やあっ!!」


 ノエルが俺の光刃に挑もうと、【大斧】を全力で振り降ろす。

 打ち合えば結果は分からない。


 そう――打ち合えば、だ。


「――っ!」


 光刃と斧頭が接触する直前で、光刃を解いた。

 紙一重を見定めて彼女とすれ違う。


『神の力』により引き上げられた膂力と、体重を乗せ遠心力が加わったその重撃が地面を打ち砕き砂煙を巻き上げた。


 肩透かしを食らったノエルの背を見ながら、【剣】を振りかぶる。


 全力の一撃の直後だ、幾ら『力』で強化していても押し通せない無理もある。


「背後、貰――っ!!」


「お腹に力、入れといてね?」


 肩越しに振り返るノエルは、したり顔で呟いた。


 直後、纏わせた光刃が――“脇腹に叩き込まれた痛み”に霧散した。


「た、ぁ゛っ……!?」


 殴られた……?


 だが、ノエルにそんな素振りは無い。それに、この感覚は単純に拳や脚、ましてや【大斧】で殴られた訳では無い。


 硬い何かが、俺に当たって崩れて流れて行く様な感覚は……、


「風の――塊……っ!?」


正解せーかい。私は≪風斧かぜおの≫って言ってる――そのまんまかな?」


 と、ノエルは【大斧】を手放して、俺の【剣】を持つ左手を押さえつつ、逆の手で俺の襟元を掴んだ。


 そして、脚の間に彼女の脚を入れられ――


「にゃらぁっ!!」


 背負われて、そのまま地面に叩き付けられた。その衝撃で、手から【剣】が抜ける。


 息が出来ない、全身が悲鳴を上げる――だとしても、まだ――!


「――まじかよ、坊主が……負けちまった?」


 クレスの呟きに、


「見たか、我等が里の戦士の力を!」


「ヒューマンなど取るに足らぬわ!」


 セリアンの少年達が湧く。


 それを、


「――良く見ろ。未熟者共め」


 静観していた男性が窘めた。


「ん、コレは――引き分けだね」


 ノエルはそう言って俺の襟から手を放す。


“右手で【剣】の鎧部分を彼女の腹に押し当てている”のが皆に露わになった。


「ホント、凄いね君。【コレ】を出すの、結構大変なのにあの一瞬で“一旦消して、また手元に作り直す”なんて」


「――っ、一応……訓練も、したんでね……」


 呻く俺にノエルは手を貸してくれた。


「それで……満足して貰えたですかね?」


「うん、大満足! 君は?」


「もう……お腹一杯です……」


 だが、立っていられずに蹲る。


「あ、えっと――“内なる活力――集え”!」


 レヴァに促されたのだろう、アイリの戸惑いながらの低位治癒術ファストエイドで身体が楽になっていく。


「だ、大丈夫ですか!」


「お陰様で、なんとか……」


 レヴァと目が合い、


「良い立ち合いではありました。ですが、まだ詰めが甘い。勝ちの目が見えたとしても油断しては足をすくわれます。彼女に殺意があれば、既に貴方は死んでいましたよ」


 耳の痛いお叱りを貰う。


「ですが……」


 と、レヴァは一瞬、戸惑いを見せて。


「『力』の運用と機転。最後の気概は目を見張るものがありました。その――立派だった、と思います」


 労ってくれた。


「ふーん」


 そんなレヴァをノエルは考え深そうに見て、


「何か?」


「ううん、別に。ただ、お姉さんこの子の事、好きなんだなって」


 そんな事を言い出した。


「な、何を言い出すかと思えば……。コレはただ、私の責務からの――!」


 レヴァの反論を、ノエルは「へー」と軽く流して、


「それじゃ、里に案内するよー。“私と引き分けた”なら皆も、十分納得できるからさ」


 人の話を聞かない、だと……? なんて、レヴァは表情をするが、俺の気持ちも少しは分かってくれただろうか。


「し、しかしノエルよ! ヒューマンを我等の里に招き入れるなど、未だかつて……」


 獣人の少年の言葉を、


「それじゃー……今度は君が私と“遊んで”みる?」


 ノエルの笑みが止めさせた。


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