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気遣いと軍議


 此処はベルリン。今の時間帯は昼であり、快晴であった。草原が広がり、空気も良い。近くには川がある中、その近くには周りが高い城壁で囲まれたベルリン街があった。

 ベルリン街はとても広く、人口は約一万であり、中央にはベルリン城があり、ある悪魔が棲み、この領地を治めていた。

 その悪魔は、パイモン——バエルやバルバトス達と同じ、守護者の一人である。彼は今、ある理由で遠征に向かっており、留守にしている。

 その為、今のベルリン城には兵士達がいない——いるとすれば、将のファウストがいる——彼は今、城の守りに徹している中、ベルリン城の西側に大きな時空間が発生する。

 それは半径五十キロメートルまで広がり、地面には赤い紋章が描かれ、そして……多くの兵が現れる。

 悪魔達の兵であり、その数は二万五千二まで及ぶ。そして、その悪魔達を引き入れているのは、バルバトスとルシファーだった。

 二人は黒毛の馬に跨がっており、其々、武器を携えていた。バルバトスは漆黒に染まった禍々しい弓を、ルシファーは自分と同じくらい長い太刀を腰に携えている。

 二人は互いを見て頷くと、バルバトスは後ろを見る。悪魔の兵士達がおり、皆、険しい表情を浮かべている。

 バルバトスは頷くと、叫んだ。


「皆の者! 城へと入るぞ!」

「おお——っ!」


 兵士達は一斉に叫ぶ。鼓膜が破れる程の騒音に近い叫び声である。バルバトスは深く頷くと、隣にいるルシファーを見る。

 目を外島まであるが彼は微笑みながら頷いていた。バルバトスは頷き返すと、二人は手綱で馬達を歩かせるように動かすと、目の前にあるベルリン城の方へと行軍する。


 後ろの兵士達も歩く中、中には騎馬隊もおり、馬を歩かせていた。城に着くのには時間はかからなかった——バルバトスとルシファーが門の前に止まる意味で馬を手綱で引っ張って止まらせる。

 馬は嘶きを上げながら止まる。後ろの兵士達も止まり、騎馬隊も止まる。


「バルバトス! ルシファー! 援軍に来た!」


 バルバトスが叫ぶと、門が開く。門は両側で開くようになっている中、門の向こう、街には沢山の民達がいた。

 老若男女の民達がおり、皆悪魔であった。皆、門が開き、門の外にいる悪魔の兵士達を見て驚いていた。中には歓声も聴こえた。

 援軍が来た——助けに来た、と喜んでいた。バルバトスとルシファー、その後ろには兵士達がゾロゾロと入ってくる。

 しかし、バルバトスとルシファーは門の向こう、つまり、すぐ近くの所で止まる。街の中へと入らなかった——理由は、自分達の所に、一人の悪魔の兵士が駆寄って来たからだ。

 ベルリン城を守っていた兵士の一人であり、馬に跨がり、弓矢を武器とするバルバトスと、太刀を武器とするルシファーに駆寄り、彼等の前で止まると跪く。


「バルバトス公爵様! ルシファー様! 我等ベルリンの民達の為に、援軍を寄越してくださり、ありがとうございます!」


 兵士達は自分の立場を理解し、守護者であり、将の地位である二人に頭を下げていた。感謝もあれば、気遣いもあったからだ。

 そんな彼に、バルバトスは微笑む。


「頭を上げよ、天使の兵士達を倒す為でもあるが、俺達は民を守りに来ただけだ」


 彼の言葉に兵士は顔を上げ、左手を拳に変え、右手を開かせ、左手の拳を右手の平で包むようにしながら俯く。


「もったいなきお言葉! パイモン様も感謝致しましょう!」

「……パイモンはそういうだろう。彼は今は遠征している——暫くは、俺とルシファーがこの城の守りに徹する」

「はっ! ベルリン城に住まう民達や、城の守りを任せられた我等兵士達もお二方の命令に従います!」


 バルバトスは深く頷く。


「そうか……それと、敵の情報は?」

「はっ! 敵はベルリン城の東の数キロ先におり、一時間後には来ます——将は一人ですが、アラエルとの情報が」

「解った……天使の兵士達は我等で対処する。そちらは城の守り徹してくれ——五千あまりの兵を城の配置にする為に置いとく」


 兵士は驚きながら顔を上げる。バルバトスは言葉を続ける。


「お前達はパイモンの兵士——その命を喪うのは惜しすぎる」

「しかし……!」


 バルバトスは悲しい笑みを浮かべる。


「気持ちは解る——しかし、パイモンが戻って来た時にお前達の無事な姿を見せろ」

「…………」

「それでも否定しても構わない——もしも、お前達がパイモンの為に命を散らすのならば、俺達はそれに従おう」

「……はっ、解りました」


 バルバトスの言葉に兵士は何も言わず、深く頷いた。バルバトスの気持ちや、パイモンの事を考えての事だった。

 本来ならば、暴れても可笑しくない——また、バルバトスは連れて来た兵士達と向き合うように、馬を手綱で操り、向き合わせると、叫んだ。


「これより俺とルシファーは軍議に入る! それまで武器の手入れを怠るな! 五千あまりの兵はベルリン城にて防備に就いてもらう! しかし! ベルリン城にいる兵士達は今回の戦闘には参加しないが、彼等を侮辱する事は許さん! した者は理由なく処罰する! それだけは覚えていろ!」


 バルバトスは怒号を飛ばす。その声に兵士達は険しい表情を浮かべている。彼の言葉には彼なりの気遣いもあるからだった。

 その述べられた言葉に兵士達は「おお——っ!」と武器を掲げる。バルバトスは頷くと、手綱で馬を操ると、兵士に対し、こう言った。


「俺とルシファーは軍議に入る——それと、民家を借りたい——なるべく、兵士達を近づけさせるな」







「軍議を始めよう」


 ルシファーがそう言いだす。ルシファーとバルバトスの二人は今、ベルリン城の、門の入り口付近にある民家にいた。二人は、この民家の一部屋を借りて、緊急の軍議を始めていた。

 本来ならば、ベルリン城で始めればいいのだが、いつ攻めて来ても可笑しくない為、何時でも戦に出られるように、この場所を、この民家の住人に頼んで借りたのだ。

 住民達が否定しても、なるべく彼等の意見を尊重し、ここはやめるようにも考えている。まあ、今はそれどころではないだろう。

 二人の近くには、この民家の住人が食事をする為や、何かをする為のテーブルが置かれている。その上には、この付近の地形が良く解る地図があり、その上には、四角い赤と青の二色の手の平サイズの木の板が十個ずつ置かれていた。

 

「斥候の話によると、敵は横陣で、こう構えている」


 バルバトスは、地図の上にある赤の色の四角い木の板を動かす。

 前に七つの板を横に並ばせ、少し離れた後ろに三つの板も横に並ばせるように動かす。前に七つ、後ろに三つの赤い板が置かれている状態となった。


「敵は歩兵が二万三千、騎馬隊が七千となっている。敵主力の天使の将は一人だが、後ろに構えているだろうな」


 バルバトスは、前に七つある木の板の後ろにある、三つの板が置かれている中の板の真ん中を指差す。ルシファーは目を閉じ、呆れる。


「憶測でものを言うな……兵士を鼓舞する為に先陣にいる事もある——これも憶測だろうな?」

「お前の言う通りかもしれないが、問題は」


 バルバトスは、指していた板の両側を交互に指す。


「この陣の両翼が問題だ——先陣を突破されたら、両側から突破させるだろうな? その後、真ん中の陣が怯んだ我等の軍に止めをさそうとするだろう」

「バルバトスの言い分も解る——しかし」


 ルシファーは前の七つの板の内、両側を指差す。


「この両翼が我々の軍を包囲する危険もある——それに」


 ルシファーは後ろの三つのうち、左右の赤い板を交互に指差す


「後方に控えている敵陣が騎馬隊だった場合、先陣が我等の先陣とぶつかっている間、迂回し、我等の背後を突きかねない」


 バルバトスは深く頷く。


「成る程……此方も騎馬隊で対処しなければならないな?」

「そうなるだろう——此方には五千の騎馬隊がいる——彼等にそれを対処させるか?」


 ルシファーも頷く


「そうするしかないだろう——しかし、我等は魚鱗の陣で対処しよう」

「はっ?」


 ルシファーの言葉に、バルバトスは不意を突かれるように、恍けてしまう。

 彼をよそに、ルシファーは青い板を動かし始める。先陣に青い板を一枚、後ろに二枚、三枚、四枚と三角形を作るように配置させる。

 全て横に並べている中、ルシファーは一番前の板を指差す。


「先陣は動かない——先陣に配置する兵は五百、第二陣が二千だが、先陣を守るように横並びさせた後に動かす意味で、同時に進ませる——後方の三は二千五百、四は一万五千——第三陣には先陣と第二陣の後方を守るように防備を固めさせる」

「一番後ろの陣は?」

「第四の陣の両翼に騎馬隊を配置、騎馬隊には敵の後方に控えているであろう騎馬隊を対処させる——奴らが旋回した場合にだ」


 ルシファーは第四の陣であろう枚の板の内、真ん中を指す。


「バルバトスには後方で指揮を執ってもらう——第三の陣には弓矢部隊を編成させておく——お前の判断で矢を飛ばせ、一回だけでもいい——お前に任せる」

「……ルシファー、お前はどうする?」


 バルバトスの言葉に、ルシファーは頷き、先陣を指差す。


「俺は先陣で切り込む——奴らは俺を見た瞬間、襲いかかるだろう」

「自らを囮にしてか?」

「そうなるな——しかし、話は終わっていない」


 ルシファーは第三の陣の両翼を指差す。


「左右の軍には騎馬隊の横を突くように進ませる。旋回しても、こちらに来なかった場合、我等の横腹を突きにくるだろう——そこで我等も、第三の陣の両翼で横を突く」

「……両側に敵がいた場合、混乱するからか?」

「当たり——敵の騎馬隊が全滅したら、後方の陣を、敵の横腹を突くように旋回させる——それまで、俺は出来るだけ、前線を押す」

「……その采配で良いのか?」


 バルバトスは訝しげに訊ねる。彼の顔を見たルシファーは目を閉じたまま、頷く。


「ああ、主力部隊を全滅させれば勝てる。どの戦でも当たり前の考えであり、直ぐ決着を付ける為にはそうするしかないからな?」

「ルシファー……」


 バルバトスが自分の名を呟くと、ルシファーは寂しく笑う。


「何を言うのは私には解らないが、お前の言いたい事は解る——しかし、ベルリン城にいる民達の不安を一刻も早く、安心させてやらなければならない」

「……そうだな」

「私達の役目は、民達を守る事——私は達は、あの方に選ばれた守護者達——私達の宿命であり、散った者達の為にも……」

「……ああ、それもそうだ」


 バルバトスは身を翻し、この部屋を出ようとした。しかし、不意に、肩越しで彼を見る。


「どうした?」


 ルシファーはバルバトスの様子に気づくと、バルバトスは口を開く。


「お前は俺と同じ奴だ——裏切り者であり、悪魔に身を堕とした」

「……その話は止そう——兵士達を不安にさせる」


 ルシファーは悲しい笑みを浮かべる。その様子にバルバトスは頷くと、ルシファーもバルバトスと共に、民家を出る。


「バルバトス公爵様! ルシファー様、軍議はもうよろしいのでしょうか!?」


 民家の離れた場所では兵士達が待機しており、その内の一人が二人に駆けより、そう訊ねる。

 答えたのは、バルバトスだった。


「終わった——これより、戦の準備に入る! 皆、ベルリン城付近で陣を布く! その陣は魚鱗の……」


 バルバトスはてきぱきと兵士達に指示する。その指示に兵士達は頷き、急いで準備し始める。

 槍を持つ者、弓矢を使う者、剣と盾を持つ者達に其々、布かれる陣の所へと向かうよう、城の外で準備せよ、と。

 ベルリン城の民達は不安そうに見ている中、殆どは勝ってほしいと願っているに違いない。

 天使の軍に負けたら、この城は陥落し、自分達は殺される——そんな考えをしている者達もいる。

 期待もあれば不安もある——自分達の明日は、彼等に託されているからだ。

 自分達に出来る事は見守る事しかない。が、勝利したら料理や酒を振る舞い、更には戦死者達の墓を作る事くらいは出来る。

 民達は兵士達を見続ける中、ルシファーは民達の様子を気にしつつも、自分も、先陣を務める役目があり、天使達を自分達に集中させるよう、気にしながら戦うしかないと考えるのだった。

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