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守護者達の会話


 「もうすぐ、帝国に着くぞ——っ!」


 愛翔がサウトと言う青年を気にする中、馬車の外から男性の声が聴こえた。

 その声に、周りの兵士達は安堵し、喜ぶ。


「やっと着いたみたいだぜ〜〜っ」

「ゆっくり寝られるぜ〜〜」

「女抱きてえ〜〜っ」

「飯だぜ、飯〜〜ッ」


 兵士達は其々考えていた事を口に出す。目的は違えども、皆、『帝国』と言う場所を帰る場所だと認識している。

 あそこには自分の家族、恋人、友人がいる——そう言った人達がいるだろう。さっきまで天使と戦っていた——兵士としての役目であり、帝国に命を捧げているからだろう。

 周りが賑やかになる中、愛翔は困惑していた。帝国? ——それは一体、どんな場所なのか、と。愛翔は未だ、この世界を良く知らない。

 天使と悪魔の存在は知りつつも、情報が少ない。もっと知りたいのと、自分が何故、この世界に居るのかを、死んだ筈の自分は何故、生きているのかを、知りたいのだ。

 我が儘と思いつつも、愛翔は帝国の事を知らない。そんな彼にキニゴスは。


「おい、お前はこれから俺と来てもらうぞ」

「えっ?」


 愛翔は目を見開く中、キニゴスは呆れるように言葉を続けた。


「お前は……診てもらうからな」


 刹那、大きな歓声が響くのだった……。



 帝国の、とある場所の中の通路。そこは薄暗く、部屋の壁に付けられている明かりが通路内を明るくさせていた。

 黒い大理石を使った壁に紅い高級絨毯——如何にも、貴族が住むような場所にある造りをしていた。そんな場所を、戦場から帰還したバエルとブエルがいた。

 バエルは兜を外しており、ブエルは白衣を纏ったままであった。

 バエルは険しい表情で、ブエルは少し微笑みながら歩いていた。二人はある場所へと向かっていた。そこは彼等、悪魔を統べる責任者達にとって、大切な場所。

 緊急か定例、もしくは用件などで踏み入れる場所——兵士達が踏み入れる事は出来ず、緊急以外で踏み入れた場合、処罰を受ける。

 中には、責任者達が処罰を決める為に会議などをする事もある。そこはそう言った場所であり、彼等が悪魔達を統べる者達としての責任と義務があるからだ。

 二人は歩き続ける中、ある扉に辿り着く。とても、とても大きな紅い扉だった。高級そうな造りであり、扉の両側の壁には骸骨の顔を模したランプがあった。

 二人は互いを見て頷き、バエルが扉を開ける。


「……!」


 扉の向こうは大広間となっていた。紅い床に白い大理石。天井には高級なシャンデリアが吊り下がっていた。通路とは違い、明るい空間を醸し出している。更には、数人の悪魔がいた。扉に反応し、一斉に扉の方を見る。

 一人は、壁に凭れ掛かりながら腕を組む三十代くらいの男性——黒のショートに左目を隠す長い前髪に右目には吊り上がった琥珀色の瞳が二人を捉えていた。 

 左肩には鷲の頭部を模した肩当てがあり、そこから出すように灰色の外套を羽織っている。上下には黒い鎧を纏っているが軽装に特化している。


「戦での勝利、大儀だったなバエル、ブエル」


 その男は二人に先の戦を指摘し、褒める。


「バルバトス、そちらも帝国の護衛、大義だ」


 バエルが男を、バルバトスと呼ぶ。彼の名はバルバトス——バエル、ブエル、周りの者達と同じ、守護者達の一人であり、キニゴスが師と尊敬し、彼を目指すべき存在として見ている男。

 バルバトスは軽く笑みを零す。


「ふっ……俺は俺の役目を果たしただけ——お前達が戦に出ている間、俺は留守を任されただけだ」

「それでも感謝している——我らが一人でも欠けたら、あの方を守る者達がいなくなるからな」

「安心しろ——俺達は欠けよう何て事は考えていない——俺達はあの方の為に生きなければ……」


 刹那、ブエルは拍手するように手を叩く。バエルとバルバトス、周りにいた数人の悪魔はブエルを見やる。

 彼は優しい目をしながら微笑んでいる。その行動は何かを意味している——二人の会話を快く思っていないようにも思える。


「バエル将軍、バルバトス侯爵——それ以上は止しましょう。私達の誰かが欠ける等、縁起の悪い事です——あの方を悲しませる事は、絶対に止しましょう」

「ブエル——フッ、そうだな」

「そうですよ」


 彼の発言にバルバトスは頷き、壁から離れる。ブエルも頷き返すと、周りを見渡す——ブエルはキョトンとしていた。


「会議を始める前に——今回はこれだけですか?」


 彼の言葉にバエル、バルバトス、他の悪魔達も互いを見あう。


「他の皆は多忙——故にこれだけしか集まらなかった」


 一人の悪魔がそう呟いた。その言葉を周りは聞き逃さず、呟いた悪魔を見やる。

 二十代前半くらいの男性であり、整った顔立ちに白銀色の長い髪に、ゴムで一束に纏めている。目を閉じており、どんな色の瞳をしているのかは判断出来ない。

 背中には翼がある中、それは天使の象徴でもある白い翼であり、左側がもがれ、焼かれたように萎れている。悪魔でありながら、天使——初めて見た者は皆、そう思うだろう。

 問題は、瞳の色は未だ謎である——判るとすれば、その瞳を良く知る者は、彼の後ろにいる巨躯の男。屈強な身体をしており、歴戦の猛者を意味するかのように躰中傷がある。

 三十代くらいで深紅の瞳に吊り上がった短い黒髪。右胸に黒い胸当てを着け、裾の無い黒い上着を着ている。腰には、巨大な赤黒い金棒を携えている。

 その男は呆れる。目を閉じた男性にではなく、この場にいない者達に対してだ。


「会議大事、会議目的、近況報告、大事絶対」

「バティン——私達を含め、参加する者達は皆、治める地域を守る為に頑張っている——彼等の事も理解してくれ」

「自分主君、納得否定、大王不安、出席絶対」


 彼の言葉にバティンと言う男は指摘する。実は彼等の他にも、守護者達はいた——参加しない理由は、それぞれ治める地域の為に不参加する事が多い。

 しかし、バティンから見れば、近況報告は大事な事——しないのは、忠実な部下である事を放棄している。あの方を侮辱している。

 自分達は選ばれし守護者達——あの方の為に働き、天使との戦いを制する為。数百、数千、数万の悪魔達の頂点に君臨する者達としての役目もある。 

 彼等はその役目を務めている——バティンもその一人である一方で、バルバトスが口を開いた。


「止せ、バティン——お前がそう思っても、ルシファーも内心、不安なんだよ」

「守護八番、主君会話、邪魔禁止」

「……ったく」 


 バルバトスは頭を掻く。彼の性格を良く知っている故、あまり話をしたくない——言葉が足りないのもそうであり、それを理解するのは、彼が主君として尊敬しているルシファーだけ。

 他にもいる中、バティンを理解しているのはルシファーと言う事が当たり前になっていた。忠誠心も高く、悪魔の中では珍しい程だった。

 バルバトスはバティン、ルシファーの二人を見る。バティンはルシファーを気遣うように困惑しており、ルシファーは彼を慰めつつも目を開こうとはしない。


 彼等は、体格の良い男がバティン。バティンの前に立ちながら、目を閉じているのがルシファー。

 彼等も守護者達の二人であり、かなりの実力を持つ者達。


「別に良いんじゃない、二人の絆は固いんだし?」


 ある悪魔が笑いを堪えながら、バルバトスに指摘する。その声にバルバトスは視線を、声がした方へと向けた。

 ある悪魔がいた——二十代前半の、幼さが残る顔立ち——華奢な身体をしており、腕や腹が露出している黒い鎧を——否、裾の無い上着に良く似た鎧を羽織るように着ていた。

 腰には腰当てを着けおり、ショートパンツを穿いている。何時でも動けるように軽装にしていた。胸には、紺碧色の水着を着けている。悪魔としては珍しく、女性の悪魔だった。

 差別する訳ではない、この場所に集まる悪魔達の中にいると言う事は、彼女もまた、高い地位にいる事を意味している。

 その女性は背中まで伸びている水色の長い髪に蒼い瞳をしている。女性の悪魔はバルバトスに対し、ルシファーとバティンの絆の事を指摘する中、バルバトスは軽く頭を抱える。


「ウェパル——その格好……我らの王に失礼だぞ?」

「あら? 私は、海を管理する悪魔よ? 重い鎧を着たら泳げないし——魚達と戯れないじゃない?」

「……場所を考えろ、場所を」


 ウェパルは無邪気に笑いながら、彼に近づく。彼女の名はウェパル、守護者の一人であり、海付近を警護している。


「フフッ、バルバトスは私の美貌に見とれたのかしら? それとも、私の格好が気になるの?」


 ウェパルはバルバトスを揶揄う。彼は頬を紅くしながら目を逸らす。


「ふ、巫山戯るな、俺はそんな誘惑に……」

「そこまでにしてください、二人とも」


 ブエルが微笑みながら両手を叩く。彼の言葉と行動に気づき、二人は見やる。バルバトスは助かったと言わんばかりに顔を覆い隠す。

 一方、ウェパルはブエルを見て、顔を真っ赤にしつつ、両手をブエルに向けながら振る。


「ぶ、ブエルさん! わ、私はそんなつもりではありません!」

「違うのですか? 私はただ、バルバトス公爵を揶揄う貴女を止めようとしただけですよ?」

「わ、私はバルバトスを揶揄ったんじゃありません! 彼を揶揄うよりも、そのぉ……」


 ウェパルはもじもじする。目を伏せながら逸らしている。その仕草は何かの感情があるように思える。

 その感情は、特別な異性に向けている——その異性は、否、ウェパルしか解らないだろう。彼女が自ら告白しない限り、解らないだろう。

 ウェパルは恥ずかしそうにブエルから顔を背ける——ブエルは心配になり、彼女に近づこうとした。


「止せ、ブエル」


 バルバトスがブエルの前に立つ。その表情は呆れているのか、どう言っていいのかが判らないように頭を抱えていた。


「バルバトス公爵?」


 バルバトスはウェパルを手で指す。


「……奴は多分、アンタに対しては特別な感……」

「ちょっ、止めてよ!」


 ウェパルは顔を真っ赤にしてバルバトスに叫んだ。その声にブエルはキョトンとし、バルバトスは片手で顔を覆い隠す。


「自分爆笑! 判断可能!」

「……止めろバティン——私も判るから」


 バティンは笑い、ルシファーは笑いを我慢している。周りはウェパルの好意が丸わかりである事に笑みを零していた。彼女は恐らく、ブエルの事が——ずっと前に知っている。

 彼女なりに頑張っているのだろう。応援したい——しかし、それを話題に出さないようにしている。二人の事は彼等自身で解決しなければならない。

 手助けも出来る——それでは解決にならず、なるべく、彼等自身で突破しなければならないのだ。ウェパルは顔を真っ赤にしながら、ブエル以外の面々に怒る。

 ブエルは困惑しつつも、ウェパルを落ち着かせる。


「…………」


 そんな彼等のやりとりを、バエルは静かに見ていた。バルバトス、ブエル、ルシファー、バティン、ウェパル——自分を含め、多忙で参加出来なかった者達を含め、全員、あの方を守護する者達。

 実力は折り紙付きであり、それぞれ、特殊な能力を持っている——また、それぞれ、哀しき過去を抱えている。

 当たり前だった日常を奪われ、理不尽な世の中で哀しみや怒りがあったのかもしれない。だからこそ、彼等は其々の過去を乗り越え、この場所に集まっている。

 多忙の身でありながら、実力を持ちながらもそれを忘れようとはしなかった。バエルは周りを見て、軽く目を閉じ、笑みを零す。


「バエル将軍、どうかなされましたか?」


 ウェパルを宥めていたブエルがバエルに気づき、訊ねる。周りも、バエルを見やる。バエルは目を閉じながら笑みを浮かべている中、ゆっくりと目を開く。


「なんでもない——ただ、我らはあの方に選ばれた守護の者達——戦の世になっても尚、こうして懐かしい顔触れを何度見た事か」


 バルバトスは溜め息を吐く。


「バエル——俺とブエルは兎も角、他にも守護者は、この帝国にいる——そいつ等とは良く、バーで酒を呑み交わすだろう? あいつ等は多忙と言っても、目と鼻の先にある、この城に参加出来ないのも可笑しい」

「まあ、あいつらにも仕事はある——同時に遂行出来る筈もない」

「……俺は、参加しないあいつ等を咎める気はない——あいつらなにり」

「まあまあ、バエル将軍にバルバトス公爵、その辺にしましょう」


 ブエルが二人を止める。彼は笑みを浮かべている——何も考えていないのではない、バエルとバルバトスの会話は長引くと思ったのだろう。

 彼の言葉にバエルとバルバトスは彼を見やると、フッ、と笑みを零す。


「そうだな……今は会議をやらなければ……」


 刹那、周りは気配を感じ、一斉に気配がした方を見やる——同時にある人物が風のように現れた。


「ひっ!?」

「っ!?」

「自分愕然!」


 周りは愕然としていた。その人物は、一人ではない——二人だ。しかし、それが問題だった。一人は自分達と同じ悪魔——もう一人は、天使の女性だった。

 天使の女性は黒い布で目隠しをされ、口元を猿ぐつわで喋られないようにされている。瞳の色は判らない中、その女性は肌が白く——黒い髪が特徴的だった。

 こんな場所に、あの方を守る者達が集う場所にいるのは、死刑を意味する。女性は殺される運命かつ、それを覆す理由もない。

 悪魔達は天使の女性を見て戦慄しているのではない——その女性は、全身汗だくで一糸纏わぬ姿をしていた。両手には手枷が填められており、逃げられないでいる——更には、豊満な胸を鷲掴みにされている。

 女性の後ろには、ある悪魔がいた。三十代くらいの男性であり、長い黒髪に、血のような真っ赤な目をしている——不気味な笑みを浮かべている。

 黒い鎧を纏う中、背中には黒く淀んだコウモリの羽を生やしている。腰には、鞭を携えていた。その悪魔は天使の女性を嬲っていた。

 その光景を、バエル達は戦慄してみていた。その悪魔を知っていた。彼は、ソロモンの守護者の一人。

 彼の名はアスモデウス——色欲の悪魔であり、天使の女性達を慰めものにしている悪魔でもあった。アスモデウスは天使の女性を愉しそうに嬲っている——天使の女性は泣きながら抗おうとしていた。


「アスモデウス……! 貴様、何を考えている!?」


 バルバトスは怒る。ブエルは怯えているウェパルを背中に隠し、バティンは怒りの形相で、ルシファーを隠す——バエルも額に青筋を立てながら目を見開いていた。

 アスモデウスは周りを見て笑う。


「何って、愉しんでいるんだぜ? 邪魔をするなよ?」

「だからって何しに来た!?」

「ただの会議参加——それだけだぜ?」


 アスモデウスは天使の胸を鷲掴みにする手に力を入れる。


「っ〜〜!」


 天使の女性は声を上げようとしていた。猿ぐつわをされている為、声が出ない。出来る限り出そうとしても無駄だった。周りは更に戦慄する中、バティンが怒る。


「色欲愚者! 我等眼前! 女性強姦! 自分激怒!」

「あん? バティンは黙ってろよ? お前の説明は判りづれぇからよ?」

「自分激怒! 思想不能! 神聖場所! 汚物行動!」

「だからわから……」


 刹那、天使の女性が何者かに奪われる——アスモデウスから助けられる意味でもあった。


「あん?」


 アスモデウスは気づかない筈もない。彼は視線を、天使の女性を奪った者に気づく。その者は天使の女性を横抱きしながら、アスモデウスとは離れた場所で片膝を突いていた。

 そん行動を周りは見逃さなかった。驚きもあれば、良くやったとさえ思っていた。それ以上に驚いているのが、バティンだった。


「自分主君!?」


 バティンはその者がルシファーだと気づく。周りも気づく中、ルシファーは天使の女性を見ている。目隠しをされていながら泣いていた。

 余程、怖い思いをしたのだろう。ルシファーは天使の女性を見て目を閉じながらも微笑んでいた。


「大丈夫だ」


 その一声で天使の女性はルシファーを見る。目隠しをされている為にどんな表情を、瞳をしているのかはどちらも判らない。

 ルシファーは微笑むのを止め、ある事を口にする。


「ブエル、白衣を貸してくれ。ウェパル——悪いが彼女を介抱してくれ、会議には参加出来ないかもしれないが、頼む」


 その言葉にブエルとウェパルは互いを見合わせる。


「判りました」

「え、ええ! 会議よりもその人が心配だからね!」


 二人は決意したように頷き、アスモデウスに近づかないように回り道しながら、ルシファーの所へと駆寄る。

 ブエルは白衣を脱いで、天使の女性の身体に掛ける。ウェパルは女性を支えながら立たせる。

 ルシファーはと言うと、天使の手枷を引きちぎる。大きな音がする中、天使の女性はブエルの白衣を掛けられ、ウェパルに引かれるように部屋を出る。


「大丈夫よ、大丈夫」


 ウェパルは気遣うように、天使の女性を連れていく。そんな様子を、アスモデウスは呆れながら。


「おい、そいつは俺が今晩」

「アスモデウス」


 ルシファーが彼を呼ぶ。自分の名を呼ばれたアスモデウスは彼を見る——ルシファーは怒っていた。眉間に皺を寄せており、そして……目を開けた。


「彼女には手を出すな——もしも、出せば……!」


 ルシファーは目をカッと見開く。瞳の色は真っ黒だった——不気味な程、真っ黒であった。ルシファーは彼に、アスモデウスに対し、戦いを挑もうとしていた。

 こんな神聖な場所を汚した事にではなく、天使の女性を慰め者にした事に怒っている。敵でありながらも守ろうとしている。

 立派——とは言え無い。他の悪魔達から見れば、彼女は天使と言う事、つまり敵である事が理由だろう。それでも、ルシファーはアスモデウスに対し、戦いを挑もうとしている。

 ソロモン王が見たらどう思うだろうか——仲間同士での内乱は彼を悲しませる事になるだけだった。


「自分主君! 大王眼前! 内乱否定!」


 バティンがルシファーを止めようとする。


「主君処罰! 確率高大! 自分否定!」

「そうだぜ? バティンの言う通りだぜ?」


 アスモデウスはバティンの言い分に納得する。


「色欲愚者! 会話邪魔! 自分嫌悪!」

「おいおいバティン、俺はお前の言う通りだって言ったぜ? お前はルシファーの肩を持つのか?」

「主君無罪! 色欲有罪! 自分願望!」

「バティン、止めろ……」


 ルシファーはバティンを止める。バティンは何かを言いたげである中、ルシファーは視線をアスモデウスに向けたまま、言葉を続ける。


「さっき言いそびれたが、もしも手を出せば、俺は止める——そう言っただけだ」

「……ほぉう? お前はそれだけ言いたかったのか?」

「私は無益な戦いを好まん。それに、周りを見てみろ」


 ルシファーの言葉にアスモデウスは周りを見渡す。バルバトスは懐から何かを取り出そうとしながら構えていた。バエルは青筋を立てながら、睨んでいる。

 ブエルは天使を支えながら部屋を出ようとするウェパルを守るように前に立っていた。ウェパルは天使の女性を連れて、部屋を出ると、ブエルも部屋を出る。バティンは腰に携えている金棒に手を伸ばそうとしていた。

 周りはアスモデウスに怒りを感じている——彼の行動に怒りを隠しきれないでいる。誰一人、アスモデウスが動いたら一斉に戦おうとしていた。


「周りはお前に怒りを覚えている——当たり前とは言え、同時に手を出せないでいる」

「あの方の前——だからか?」

「……そうなるな」


 ルシファーの言葉にアスモデウスは呆れる。


「あ——あ——っ、止——めたっ。お前達に挑んでも、こんな場所で暴れてもあの方を悲しませるだけだしな?」


 アスモデウスはニヤリと笑う。ルシファーは目を閉じる。


「兎に角、今は止めろ」


 ルシファーはそう言いながら、バティンの所まで行く。バティンは彼を気遣うように駆けよると、彼を守るように、アスモデウスの前に立ち、睨む。

 バエルとバルバトスは構えるのを止める。アスモデウスは周りを見渡すと、笑った。


「まあ、会議はもうすぐだし、暫くは寛ぐか」


 アスモデウスはそのまま、壁に近づき、背を向けると、壁に凭れ掛かる。その様子をバエル、バルバトス、ルシファー、バティンは苦々しそうに見ていたが、アスモデウスは気にもせずに鼻で笑うのだった。


 そして、ブエルが戻るまで、会議は出来ないのであった——同時に、アスモデウスのせいで、室内は重苦しくなっていたのだった。

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