ベルリンの戦い(参)
「あ、ああっ……!」
愛翔は今、自分の行動に驚き、戦慄していた。
自分の手には槍があり、槍の穂先は、天使の兵士の腹に食い込んでいた。
鎧のお陰で天使の腹に、あまりダメージは与えられなかった。
愛翔の行動に天使の騎馬隊は怒る。
「このガキ!」
天使の兵士は馬の上から、愛翔を槍で突き刺そうとする。
愛翔は驚きながら躱すと、そのまま尻餅をつく。
槍を落としてしまう中、天使の兵士は槍で刺そうと……。
刹那、ある物が飛んで来て、それは天使の腕に刺さる。
「うぐっ!?」
天使の兵士は腕に激痛を感じ、そのまま馬から落ちる。
背中から直撃しているのか、背中と、更には腕に激痛を感じ、あまり動けないでいる。
天使の兵士の腕には、短剣が突き刺さっていた。飛んで来た物の正体は、短剣だったのだ。
天使の兵士に致命傷を与えるのではなく、動きを止める為だっただろうか? もしくは、愛翔を守る為に天使の兵士を殺す為だったのだろうか?
短剣を投げた者でしか判らない中、愛翔は。
「……!?」
愛翔は天使を見て、思わず歯軋りした。
いつの間にか槍を手にし、無我夢中で天使に駆けより、彼の顔を槍で……。
刹那、痛々しい音がした。槍の穂先が天使の顔に深く食い込み、頭蓋骨や、その奥の脳にまで深く突き刺さる。
血しぶきが小さく飛び散り、愛翔の顔に掛からない。愛翔の表情は般若のように怒りで満ちていた。
冷や汗を流しながらも目をカッと見開き、歯を食いしばっている。青筋を立てている。その姿は、悪魔——誰もが皆、そう口を漏らす。
彼が天使の兵に怒っているのも、悪魔の兵を殺した事と自分を殺そうとした事。彼は許されない事をしていた。
愛翔も許されない事をしながら、正当防衛と言う理由で殺している。あんなに気弱そうな青年が悪魔のように、天使を初めて殺していた。
周りは気にしない中、愛翔は槍を拾い、近くにいる馬に跨ぐと、そのまま馬を走らせる。
目の間に騎馬隊の兵士であり、槍を手にしている天使がいる。
天使は愛翔に気づく前に愛翔は槍で天使の顔を刺す。天使は顔を刺された直後、馬から転げ落ちる。
愛翔は気にもせず、天使の兵が沢山いる先陣へと馬を使い走り出す。
「フン! タアッ! ハッ!」
目の前にいる沢山の兵士を槍で斬り捨て、刺し殺す。他の悪魔と戦っている天使を、気づかない天使を、迫ってくる天使を全て、視線に捉えた天使を全て殺していた。
表情は怒りはありながら冷や汗を流している。彼は何も知らずに、天使達を殺していた。しかし、そんな彼に、馬が悲鳴を上げながら倒れ掛かる。
愛翔はそれに気づきながら馬を蹴ってジャンプすると、地面に着地し、地面を蹴って走り出す。天使が悪魔と戦っている間、彼は天使なら誰でもいいように槍で殺していくのだった。
表情は怒りがありながらも、悪魔の兵士達と同じように、人を殺して行くのだった……。
「フン!」
一方、ルシファーはキニゴスの援護を受けつつ、近くにいる天使達を太刀で斬り捨てて行く。
表情は目を閉じていながら、眉間に皺を寄せている為に怒っていると判断出来る。天使を沢山殺した事、湧き出てくる兵士に苛立を覚え始めていたのだ。
しつこい奴らだ……! ルシファーはそう感じ始めていた。同時に疲れの色を見せ始めている。このままではじり押しで負ける、敗死する——彼はそう気づき始めた。
「天使の騎馬隊が敗走し始めたぞ——っ!」
遠くから、叫び声が聴こえた。その声に天使達は戸惑いを見せる——その隙にルシファーは叫んだ。
「悪魔共よ押せ————っ!」
ルシファーは悪魔達に叫ぶ。
「おお————っ!!!」
悪魔達も叫ぶ。ルシファーの激昂に奮い立たせていた。天使達は押される中、後陣に控えていた天使の兵士達が突然、退却し始めたのだ。
ルシファーの激昂で士気が下がった訳ではない、悪魔軍の第三陣の両翼に控えていた騎馬隊と、二手に分かれていた第四陣の兵士達が回り込もうと気づき、撤退し始めたのだ。
先陣の、一番前で戦った天使達はその事を知らない中、悪魔達に戦いを挑んでいた。負ける事を知るまで戦っていた。
「くっ!」
キニゴスは矢で兵士を射抜くと、矢筒から矢を取り出そうとした……が。
「っ!?」
キニゴスはある事に気づく。矢が無くなったのだ。多くの兵士を、ルシファーに迫る兵士を射ち続けていたうちに全てを使い切っていたのだ。
弓兵の死を意味し、接近戦に変えなければならない事をも意味していた。キニゴスはそれに気づく中、横から剣を持った天使がキニゴスに迫り、剣を振り下ろそうとす。
キニゴスは弓で剣を防ぐと、そのまま押し合う形になっていた。キニゴスは歯を食いしばり、天使の兵士も歯を食いしばっている。
「キニゴス!?」
ルシファーはキニゴスを助けようとする中、周りの天使兵士達が迫ってくる。ルシファーは歯を食いしばると太刀を一振りした。
「悪魔・能力・業火——終焉の近道」
ルシファーが太刀を一振りすると、彼に迫ってくる天使の兵士達は、身体を横に真っ二つにされた。
ばたばたと倒れ、臓器や血が飛び出る中、ルシファーはキニゴスを助けようとして振り返った瞬間、キニゴスと天使の兵士は未だに押し合う中、キニゴスは押され始める。
キニゴスは目を細めた。殺られる——押し合いに負けて殺される、と。彼はそう思いつつも何とか踏ん張ろうとした。
刹那、天使の首からある物が飛び出て来た。血しぶきと、鋭い刃物が出てきた。
槍の穂先であり、先がボロボロになっている。多くの天使を斬った証拠でもあった。キニゴスはそれを見て目を見開く、何が起きたのか? と。
天使は声を上げる前に白めになると、そのまま全身の力が抜け落ちるように倒れる。穂先は首に吸い込まれるように引っ込まれて行く。
兵士が倒れた時には、兵士の後ろにいたのと、槍の持ち主であり、キニゴスを助けた者が立っていた。黒い鎧には返り血が浴びられており、槍の柄にも返り血が付着している。
キニゴスはその者を見て、驚く。その物はキニゴスが良く知っているのと……。
「天使達よ! 撤退だ————っ!」
天使の誰かが叫ぶ。その声に天使達が逃げ始める。さっきの声は天使達に敗北を意味し、天使達が戦う理由は、無くなった事を意味している。
天使達は逃げ始める——しかし、逃げた先には悪魔達の騎馬隊が回り込んでおり、天使達に斬り掛かる。天使達は何とか戦うが、戦意を喪失している為、抗う力は完全に近い形で無い。
そして、キニゴスを助けた兵士は天使の兵士達を追撃しようとして、走り出そうとする。
「東郷!」
キニゴスの呼ぶ声に兵士は、愛翔は走る前に止まる。
「……ハッ!?」
愛翔は彼の声に反応し、我に返る。
「キニゴ……っ!?」
キニゴスの存在に気づく前に、愛翔は自分が手にしている槍と、近くにいる天使を見る。
彼はその兵士を見て青ざめる——その兵士は既に首を貫かれて死んでいるのだ。今の彼が見たら吐き気がするだろう。
しかし、それ以上に吐き気はしないどころか、ある事に気づく。自分は何故、槍を手にしているのか? それと、何故ここにいるのか、と?
もっと離れた場所に——が、それ以上に愛翔は更にある事に気づく。まさか、そんな……自分が? と疑い始める。
そんな筈はない——彼はそう願いつつ、キニゴスに。
「キ、キニゴスさん……」
彼は青ざめながら、キニゴスに訊ねる。嘘だと思いたかった——その証拠に、近くにいたであろう彼、キニゴスに言ったのも、彼が目撃者ならば、本当かどうかも判るからだ。
愛翔の様子にキニゴスは辛そうに頷く。
「っ……う、ううっ……!!」
愛翔は槍を落とすと、青ざめたまま泣き始める。その様子にキニゴスは辛そうに近づくと、彼の肩を叩く。
そして、ルシファーが駆寄ると、彼等に背を向け、辺りを警戒する。
「何をしている! 気をつけろ!」
ルシファーはキニゴスと愛翔に怒る。二人を思っての事であり、更には守る為に武器を構えていたのだ。 彼の言葉に二人は何も言わない。キニゴスは愛翔を気遣い、愛翔は自分が人を殺した事で罪悪感に苛まれていたのだ。
彼がどうなるのかは、彼が何とかしなければならない——また、立ち直るのはいつになるのかも、彼にしか判らないのだった。
そして、ベルリンの戦いは悪魔軍が五千近くを、天使軍は二万二千の損失を出したのと、ルシファーとバルバトスの采配のお陰で、悪魔軍の勝利に終わるのだった……。
次回、新章。街の女性キャラ、多数登場予定。




