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呪殺人形

作者: バルスィ


 これは俺が高2の頃の話だ。


 どういう訳かその年は学校全体で死者が相次ぎ、地元では専ら呪いだの祟りだのの騒ぎになった。

 特に酷かったのが2年4組で、38人中4人が亡くなった。


     * * *


 最初に死んだのは、渦中の4組、おちゃらけ担当である石田。

 何の悩みも抱えていなさそうなアホなのだが、何度も頭を壁に打ち付けて自殺する。


 もっと楽な死に方あるだろというツッコミはさておき。

 子供が自殺したとなれば、当然その両親は学校でのいじめを疑う訳で、授業中の教室に乗り込んできたそう。

 まぁ、俺は違うクラスだったんだけど。


 そんなこともあってか、学校側の対応は早いものだった。

 アンケートやら個別の面談やら。

 石田と喋ったことのない俺まで話を聞かれたよ。

 いい迷惑だぜ。


 しかし、事態は思わぬ方向に進んでいく。

 石田の死から3日程して、またしても4組から死者が出る。

 と言っても今回は事故死。

 学年一の美少女水樹(みずき)ほむらが登校中に看板の下敷きになって圧死したのだ。

 落ちてきた看板は根元が腐食していて、いつ腐り落ちてきても不思議ではなかったそうな。


 この時点で友人のKは

 「2人の死には何か繋がりがある」

 と神妙な顔で語っていた。

 漫画の読みすぎだバカ。

 このときは一笑に付した俺も、次第に笑えない状況になっていく。


 その翌日、4組の西山が喉に大福を詰まらせて窒息死。

 更に翌日、3年で野球部のキャプテンだった堂上が深夜にバイクで暴走して事故死。

 更に更に翌日、4組担任の藤村先生が風呂場で足を滑らせ転倒死。


 ……と、まあここまで来るとオカルトチックな噂の流布は避けられない訳で。


 「お前は誰が怪しいと思うよ?」


 Kは身を乗り出して俺に尋ねる。

 

 「え、何が?」

 「そりゃお前、一連の死亡事件の犯人に決まってるだろーよ」

 「……犯人もなにも、事故死じゃん」

 「おいおい、ただの事故死な訳ないだろぉ? こりゃ間違いなくね、あれですよ。″呪い″。その元凶は間違いなく、4組の高橋だね」


 と言った感じで、まあKに限った話でもないのだけれど、口を開けば誰々の呪いだの、こっくりさんが原因だの、果てはフリーメイソンの陰謀だので話題は持ちきりだった。


 「で、なんで高橋なんだよ?」


 そう聞き返す俺に、Kは待ってましたとばかりに目を輝かせ、鞄から1冊のノートを取り出す。


 「このノートにゃ、今回の事件に関するあらゆる情報が載ってるのさ」


 そう言って、Kはノートを渡してくれる。

 受け取ったノートには死亡者のプロフィールや4組の人間関係をまとめた図が事細かに……って、気持ち悪いなコイツ。


 「知っての通り、石田と西山って高橋と仲良いだろ?」

 「いや、知らないけど」


 知ってる前提で話し始めんなよ。

 てか、陳腐な苗字のオンパレードで、誰が誰だか。

 この中だと唯一面識あるのが石田で、それでもトイレですれ違う程度の関係だ。


 「マ? こいつら、昨年問題起こした有名人たちだぜ?」

 「どんな?」

 「中学生孕ませ事件」

 「……それはヤバくね?」

 「情弱乙。まぁ、今はそんなこと、どうでも良いんだよ」


 いや、良くないだろ。

 どう決着着いたのかメチャメチャ気になるし。

 

 「続けるぞ? それでな、高橋と石田は野球部なんだ。つまり野球部主将の堂上とも接点がある」

 「それで?」

 「そして極めつけ。石田が死んでから水樹さんが死ぬまでの間に、高橋の両親が二人とも事故死してるんだよ。それも別々の日にな」


 話をまとめると、こうだ。

 まず初日に石田が自殺。

 続いて高橋の両親が事故死。

 それから四連続死亡事故。


 そしてこれらの被害者のどれもが高橋と親しい関係にある。


 「確かに、高橋の周りで毎日誰かが死んでいる、のか……」

 「しかも石田以外は全員、事故死・・・だぜ? これが単なる偶然だと思うか?」


 なるほど。

 確かにKの言う通り、高橋を中心に事件が発生している。

 オカルト的なものは全く信じない俺だったが、考えれば考える程、そういうことも有り得るのかも知れ……


 「水樹と高橋はどういう関係なんだ? ……彼女とか?」

 「やめろ! 信じたくない!」

 「ああそうかい」


 あらためてKのノートを見ると、水樹焔のところには〈天使〉とだけ書かれていた。

 なんだこれ。

 ちょっと感心してなくもなかったのに、全てが台無しと言うか、真面目に話を聞いていた俺がバカだったわ。


 「はー(呆れ) で、今日死ぬのは誰よ?」


 若干苛立ちを抑えながらも、俺はKに尋ねる。

 するとKはニヤッと不敵な笑みを浮かべて、俺にノートを返すように指示した。


 「へへ、それもちゃんとリストアップしてるぜ。高橋の親戚とかそういうのを除外すると、次にその身が危険なのは、彼の幼馴染である3組の――」


 と彼が言いかけた所で教室の扉がバーンと勢いよく開かれる。

 俺ら含め、教室に居たほぼ全員がその方向に視線が向かう。

 そこには同じクラスの噂好きの女の子が鬼気とした――ある意味では嬉々とした表情で立っていた。


 「皆、大変! 3組の由乃ちゃんが――」


 その数秒後、俺とKは全身に鳥肌を立てることになる。


     * * *


 それから数日は比較的平和(と言っても1年と3年に不慮の事故死が1人ずつ)だったのだが、その間に俺は部活の用紙を配る為に2年4組に寄らなければならなかった。

 K曰く、高橋と殆ど繋がりのない俺らは問題ないらしいのだが、そうは言ってもあの教室に足を踏み入れるのにはどうにも躊躇いが生まれるものであった。

 肝心の高橋はと言うと学校に来ていないのだから、これ以上の関係など、微塵も持つはずもないのだが。


 そうやって俺が教室の扉の前で足踏みしていると、後ろから声が掛かる。


 「あの、どいて貰っていいですか?」

 「あっ、これは失礼……ッ!?」


 振り返った俺が絶句したのは言うまでもない。

 後ろに立っていたのは異常なまでに真っ黒い人間だったのだから。

 ネグロイド人種とかそういうのではなく、全身に墨汁を塗ったくったかのような黒さ。

 そして、鼻をつまみたくなる生ゴミのような匂い。

 しかし姿形は紛れもなく人間のそれで、ウチの学校の制服を着ていた。

 そんな出で立ちに対して、俺は殆ど無意識に尋ねてしまう。


 「なんでそんなに黒い……の?」


 するとその瞬間、彼は眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、顎が外れんばかりに口を大きく開け、鬼のような顔をして絶叫した。

 思わず俺は後ずさりをしたが、彼は叫びながら何処かへと走り去ってしまった。


 「……何だったんだ、今のは?」


 Kにも話そうかとは思ったが、とても真に受けて貰えるような内容ではないし、その日の事は誰にも言わずに家へ帰った。


     * * *


 その翌日(石田の死から数えて半月ほど)、校長が遠方から有名な霊能力者を連れてきて、学校全体をお祓いして貰えることになった。

 時を同じくして、身寄りを亡くした高橋は遠い親戚の下へ預けられることになり、挨拶もないまま転校していったらしい。

 霊能力者のお陰なのか、高橋が居なくなったからなのか、それ以降学校での不審死事件は発生していない。


 最後の犠牲者は4組の芦澤。

 俺が見た黒い人間その人で、石田と同じく何度も頭を壁に打ち付けて自殺した。


 そしてあの日から、俺の部屋には生ゴミ臭い焼け焦げたテディベア人形が棲みついている。


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