7 虹色の奇跡 ⑦《完》
あれは鉛筆で描かれたモノクロの絵だったけれど、この絵は違う。鮮やかな色彩の真ん中に私がいて、窓の向こうには雨ではなく、大きく鮮やかな虹が描かれていた。
「気に入ったか?」
「はい、とても。これ、本当に貰っていいんですか?」
「そりゃ、三原のために描いた絵なんだから。貰ってくれないと困る」
「……うれしいです」
私が絵をぎゅっと抱きしめると、センセイは顔をほころばせた。
「三原には、本当に感謝してる。……もしお前がいなかったら、この光景を見ることができなかったんだから」
センセイがそっと近づいてくる。私が顔をあげると、センセイの顔がとても近くにあった。
「三原と一緒に、見たいものがあるんだ」
私にはすぐにピンときた。
「シャガールの『夢の花束』ですか」
「……それだけじゃない。俺が三原に見せたいと思ったものすべて、一緒に見たい」
センセイは、私の手を取り……私を引き寄せた。センセイの体温や吐息が、とても近い。耳を澄ますと、私と彼の心臓の音が重なり合っていた。センセイもどこか緊張しているのだと伝わってくる。私がセンセイの手を握り返すと、つないでいない方の手を、ゆっくりと私の背中に回す。
私たちの距離は、もうほとんどゼロになっていた。ふんわりと甘いセンセイの香りの中に、絵の具の匂いが混じっている。あの時の虹みたいな花束と同じ香りだった。
私はセンセイにもっと近づきたくて、両手を背中に回してぎゅっと力を込める。耳元で、センセイがポツリと話し始める。
「こんなことを言うのはひさしぶりで、何て言えばいいかわからないんだけど……」
「ふふっ」
「おい、こっちは必死なんだから笑うなって」
「だって、センセイ、顔真っ赤ですよ!」
私が少しだけ体を離す。目に映る彼の姿は、まるで火が付いたように赤くなっている。
「大人をからかうな。……それに、お前だってそうだろ」
センセイの指先が、私の頬に触れたと思ったら……両の手で顔を包み込んだ。
「センセイ?」
センセイの瞳の中に、私が映りこむ。
「……目、閉じろ」
「え、あの……」
「なんだよ、全部言わせる気か? 頼むから、これ以上恥ずかしい事言わせないでくれよ」
「そうじゃなくて……この前失敗しちゃったから、ちゃんとできるかなって」
私が不安を吐露すると、センセイは噴き出した。
「大丈夫、俺がちゃんと見てるから。……これから先もずっと、な」
センセイの言葉は、今までにないくらい優しくて温かい。その安心感に包まれた私は、彼に身を任せるように目を閉じた。
「三原、本当にありがとう。……好きだよ」
センセイの顔が近づいてきて、その距離はやがて、本当のゼロになる。
唇に触れるセンセイの温度は、今まで感じていた何よりも温かくて……瞼の裏に鮮やかな光が広がっていくのを感じていた。
目を開けた私がセンセイに何を伝えるのか。そんなの、もう決まっている。
――私も、好きです。センセイの事が。
これから先も、ずっと一緒にいてください。
~*~ Fin ~*~




