6 世界は彩りに満ちている ⑮
「まあ、あれだ……もしお前がこんな俺でも良いっていうなら、高校を卒業した時に、ちゃんと話をしよう」
センセイのその言葉に、私は何度も頷く。センセイは見えてないのに「良かった」と胸を撫でおろすように言っていた。
リネン室を出ようとしたとき、私はセンセイの手を握った。
「おい、三原……」
センセイは振りほどこうとするけれど、私はぎっちり握ったまま。絶対に離そうとはしない。
「だって、危ないじゃないですか?」
「でも、人目があるだろ。離せって」
「嫌です。……私はもう決めたんです、センセイの手はずっと離さないって」
センセイはそっぽ向いていたけれど、耳がまた赤くなっているのが分かった。言葉がなくても、それだけで嬉しくて仕方ない。私はセンセイの手を引いて、ゆっくりとした足取りで病室まで戻った。
「そうだ、私、センセイに渡したいものがあるんです」
センセイはベッドの中に戻っていく。彼のお腹のあたりまで布団をかけたあと、カバンのポケットを開けた。
「何だよ。……変な物じゃないだろうな」
「疑り深いんだから。センセイ、手を出してください」
手を出したセンセイの手を掴み、手のひらを天井に向けさせた。その上に、私は空色のお守りを置く。
「何だ、コレ」
センセイは両手で揉む様にそのお守りの形を探っていく。
「学校の近所の神社で買ったお守りです。センセイの病気が治りますようにって」
「受験生が神社で何祈ってんだよ。俺の事じゃなくて、自分の事だけ考えてろよ」
「もう、素直じゃないんだから。……センセイの好きな、青色にしたんですよ。まるで空の色みたいな」
センセイが持つお守りをつつくと、その手をセンセイが掴んだ。センセイの手の温度が熱くて、胸がどきんと弾む。
「……ありがとう」
小さな言葉は私の耳にすっと飛び込んできた。私はベッドのへりに座って、センセイの手を握り返す。
「このお守りの色を見るのが楽しみだ」
「……はい!」
センセイが笑うと、私も嬉しくなってしまう。互いに笑いあっていると、川畑さんと小雪さんがくたびれた様子で戻ってきた。二人とも驚きのあまり叫んで、一安心した後に……口々にセンセイの事を叱り始めた。センセイは助けを求めるように私の手をぎゅっと握ったけれど、私は「センセイが悪いんですよ、みんな心配してたんですから」と手を柔らかく握り返す程度にとどめて置いた。




