6 世界は彩りに満ちている ⑫
「そりゃ決まってるでしょ? 伊沼先生の病気が治って、サヤと幸せになってくれますようにって」
「ちょ、ちょっと! 恥ずかしい事しないでよ~」
「私も行く!」
莉子ちゃんの背中を追って、舞も駆け出していた。私の手を引っ張りながら。
「ねえ、舞ってば! 何するのよ!」
「ここの神社はどんな願いもかなえてくれるんだから、サヤも自分の恋愛がうまくいくようにお参りしないと」
「そうだ! サヤに恋愛成就のお守りも買ってあげようよ!」
「いいね、莉子ちゃんナイスアイディア!」
「ちょ、ちょっとぉ~!」
はしゃぐ二人に振り回される私の叫びは、澄み渡った空に響いていった。
合格祈願と恋愛成就のお守りは、舞と莉子ちゃんの手によって私のカバンにきつく結びつけられた。この縁と想いが切れませんように、と。
次の日、買ったお守りを持って私はお見舞いに行く用意をしていた。お守りがぐしゃぐしゃにならないように慎重にカバンのポケットに入れて。朝からうずうずとしている私を見て、二人がニヤニヤと何度も笑うので、その度に昨日自分の思いを打ち明けた時には感じなかった羞恥心がこみ上げてきた。
放課後、舞と莉子ちゃんに応援された私は早歩きで校門まで向かう。病院に向かおうとしたとき、焦った様子の小雪さんと鉢合わせになった。
「彩香ちゃん!」
「小雪さん? どうしたんですか、こんなところで」
こんな所に来るなんて、珍しい。私がのんびり近づいていくと、小雪さんの額から汗がにじみ出していることに気づいた。
「直人が……」
サッと体から温かさが抜けていく。カバンをぎゅっと握って、私は小雪さんの言葉を待たずに矢継ぎ早に畳みかけていく。
「センセイに何かあったんですか? もっと悪くなったとか、まさか、他の病気が見つかったとか」
「違う、そうじゃないの。……直人がね、いなくなったの。どこかに行っちゃったの!」
「せ、センセイが?!」
「今、祐樹と長谷川先生が探しているところ。多分病院の中にいるとは思うんだけど……」
「そんな……早く行かないと」
小雪さんは私の腕を強く握って、走り出していた。私は遅れないように、小雪さんよりももっと早く走り始める。
もう何も見えていないのに、センセイはどこに行ってしまったのだろう。
変なところに迷い込んで、大けがをしていたら……命に関わるようなことになっていたらどうしよう。
焦りが募るたびに、頭の中で悪い想像ばかりが広がっていく。
どうか無事でいて、私の願いは隣を走る小雪さんの祈りときっと同じだったに違いない。
病院に着き、センセイの病室に向かう。引き戸を開けると、うなだれるようにベッドに座っている川畑さんがいた。いつもならセンセイがそこにいるのに……彼の姿はどこにもなかった。
「直人は?」
そう尋ねる小雪さんの声は震えている。川畑さんは力なく首を横に振るだけだった。
「長谷川先生も探すの手伝ってくれたんだけど、どこにもいなくて。アイツが遠くに行ったとは思えないんだけど」
長谷川先生は他の患者の診察もあるので、看護師に連れていかれたそうだ。
「……三人で、もう一度探そう」
小雪さんの言葉に、川畑さんも私も頷く。