6 世界は彩りに満ちている ⑩
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「あ、ここだよ! 願いを叶えてくれる神社!」
「結構学校から近いのに、こんな所に神社があるなんて知らなかったね」
ある日、私は舞や莉子ちゃんと一緒にとある神社を訪れていた。その神社を見つけ出したのは舞だった。
「ねえ、サヤは知ってた? 学校の近所に、何でも願いを叶えてくれる神社があるんだって!」
スマホの画面を突き出しながら、興奮気味に前のめりになる舞。それを支えながら、私は舞が表示させているSNSのページを見た。
「何これ、ホント?」
「コメント欄見てみなよ! みんな、願いを叶えてもらったって書いてあるじゃん」
舞のスマホを借りて、書き込まれたコメントを見てみる。確かに、恋愛、仕事、安産……様々なお願い事をした人達の感謝の書き込みが多かった。莉子ちゃんは私の真後ろから、同じように画面をのぞき込んでいる。
「すごいね。受験にも効くみたい!」
「そうなの! 私たち受験生だしさ、三人でお参りいかない?」
「行く!」
莉子ちゃんは真っ先に返事をした。私も「いいよ」と頷いて、放課後、三人でその神社に向かった。その神社は普通に歩いているだけでは見逃してしまうくらい、とてもこじんまりとしていた。けれど、絵馬掛け所もおみくじ結び処も溢れんばかりになっている。
「ほら、早くお参りしよ」
手水場で手を清めて、三人並んで賽銭箱の前に並ぶ。それぞれ手を合わせて願い事を頭の中で唱えていくけれど……二人はきっと「志望校に合格できますように」と願っているのだろう。私の願いは、二人とは違っていた。
(……どうか、センセイが治療を受けてくれますように。センセイの目の病気が治りますように)
気づいた時には舞も莉子ちゃんもお参りが終わっていて、二人は私の顔を覗き込んでいた。
「……なに?」
「いや、何をそんなに一生懸命お祈りしていたのかなって。……合格祈願だけじゃなかったりして」
「別に、何だっていいでしょう?」
二人はお守りにも興味しんしんみたいで、私たちは社務所に向かった。
「わ、たくさんあるよ。色もいっぱい」
莉子ちゃんが嬉しそうにそう言う。私も並んでいるお守りを覗き込むと、様々な種類のお守りが並んでいた。私たちは三人おそろいで、桃色の合格祈願のお守りを買った。そして私はもう一つ……どうしても気になってしまうものがあった。
まるで空の色のような、鮮やかな水色をした病気平癒のお守り。私がそれを買っていると、舞はにやりと口角をあげながら近づいてきた。
「ねえ、サヤ」
舞が私の体に擦り寄ってくる。私の肩はぎくりと震えた。
「な、何?」
「それ、もしかして伊沼先生の……?」
舞はまた私の事をからかうんだ。そう思った私はなるべく毅然な態度を取ろうと振り返ったけれど、舞の表情を見た私の頭から、そんなものはあっという間に消し飛んでしまっていた。舞も、その隣にいた莉子ちゃんも……驚きのあまり顔色を失っていたからだ。
「うん、そうだよ」
私ははぐらかすことなく、頷いた。そのお守り分のお金も祓った後、私たちは境内の中にあるベンチに並んで座った。
「伊沼先生のお見舞い、やっぱり行ってたんだね」
舞の言葉に、私は頷く。