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モノクロームと花束  作者: indi子
6 世界は彩りに満ちている
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6 世界は彩りに満ちている ③

「見捨てたって言ってたけど、お前がそこにいてもどうしようもないだろ。医者でもないんだから、助けようがないし・……いい加減忘れろって。その子だって浮かばれないぞ」




「……私、生きてますけど!!」




 ――浮かばれない。




 その言葉に思わず怒りを覚えた私は、その勢いのまま引き戸をバンッと大きな音を立てて開けていった。センセイの肩がビクッと震えるのと、センセイの友達らしき男の人が大きく目を見開いてこちらを見ていることに気づいて、私の勢いはシュンとあっという間に縮んでいった。なんだか怒りがみるみるうちに小さくなっていって、一気に恥ずかしさがこみ上げてくる。




「……君、誰?」




 センセイの友人と思しき人は、戸惑いながら首を傾げている。




「あ、あの……いや、えっと」




 私が口ごもっていると、まるで見えているようにセンセイが助け舟を出してくれる。




「三原彩香……俺の生徒」


「あぁ~! 直人の学校の!」




 その男の人は、私が着ている制服をまじまじと見つめてくる。センセイは声をする方向を見ながら続ける。




「コイツは、俺の友達の川畑。大学の同期」


「川畑祐樹です、どーぞよろしく」


「み、三原彩香です……。急に押しかけてすいませんでした」


「いいってことよ。彩香ちゃん、ね」




 川畑さんは手を差し出すので恐る恐るそれを握ると、腕をぶんぶんと振った。ちょっとだけ肘が痛くなる。






「それで、さっきのは一体どういう意味?」


「え?」




 私がきょとんと首を傾げると、川畑さんは大きな口を開けて笑った。




「彩香ちゃん、『私、生きてますけど』って元気いっぱい怒鳴り込んできたでしょう? それ、どういう意味かなって」


「あ、あぁ。あのセンセイが見た事故のことですけど……」


「三原、言わなくていい」




 私が川畑さんに話そうとすると、センセイが口を挟んでくる。私が口をつぐむと、川畑さんは不満げに口を曲げる。




「どーして? ……別に、彩香ちゃんに話してもらえなくても、もうこっちだって大体察しがついてる。彩香ちゃんがあの事故の被害者だったってことだろ。直人も俺も、ずっとあの子どもが死んだと思っていたけれど、実はちゃんと生きていた。それなら、直人がこれ以上罪の意識を感じることもないだろ。それなのに、どうしてお前は治療を受けようとしないんだよ」


「そうですよ、センセイ! どうしてですか?」




 私たちが前のめりになってセンセイを問い詰めると、センセイは不機嫌そうにぷいと顔を反らした。川畑さんは諦めるようにため息を漏らして、センセイを見て小さく笑った。その視線は、まるで幼い子どもを見守るように暖かいものだった。




「……ああやってへそ曲げたら、もう話聞かないんだよな、アイツ」


「そうなんですね……」




 二人が過ごしてきた今までの長い時間を私は感じ取っていた。




「彩香ちゃんはわざわざアイツのお見舞いに来てくれたの?」




 川畑さんはセンセイのベッドの下から丸イスを二つ出して、私に座る様に促した。私が腰を下ろすと、川畑さんも私の隣に腰掛ける。

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