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婚約破棄が起こったら

作者: TAKA

作者が令嬢の立場なら、迷わずこうします。

「お嬢様、準備は万端に御座います」


「そう、では参りましょうか」


 いかにもなメイド服を着た少女が促すと、鮮やかな緋色のドレスを身に纏った少女が一歩前に出る。それを見た黒いスーツの男が両開きの重厚な扉を押して開く。

 途端に聞こえる話し声。扉の向こうでは、ドレスを纏った少女達やタキシードを着た少年達が歓談していた。

 扉が開ききった瞬間話し声は一切しなくなりパーティー会場は静寂に包まれた。


 ここは、とある良家子女のみが通える私立学園の卒業記念パーティーの会場である。卒業生が集まるこのパーティーにおいて、婚約者が居る女子は婚約者にエスコートされて入場する決まりとなっていた。

 しかし、彼女は婚約者が居るにも関わらず一人で入場した。メイドも同行しているが、そこはスルーしてほしい。


 婚約者が居る少女が婚約者を連れずに入場した事に、会場に居た者は誰一人驚かなかった。何故ならば、彼女をエスコートするべき少年はすでに会場に居たからである。


 周囲の注目にたじろぐ事なく、少女はお供のメイドを連れて会場内を進む。その先には、彼女をエスコートするべき婚約者が立っていた。


「よくもまあ、この場に顔を出せたものだな」


「あら、卒業生の私が卒業記念パーティーに出ることに不都合がおありですか?」


 怒りを隠そうともせずに怒鳴る少年に対し、少女は扇で口許を隠し穏やかに答えた。言い返されると思っていなかったのか、少年は怒りのボルテージが上がり体が震えている。


「か、考えてみれば良い機会だ。俺は(すみれ)との婚約を破棄する。そして、この麻子(あさこ)と婚約する!」


米男(よねお)さん、嬉しい!」


 婚約破棄を宣言した少年、米男は横で勝ち誇った顔をしていた少女麻子を抱き寄せた。


「そうですか。元々この婚約はそちらの千歳財閥が羽田財閥との繋がりを求めて強引に結んだもの。喜んで応じますわ」


 淡々と感情を乗せずに答えた菫。もう用はないとばかりに踵を返す菫。しかし、米男がそれを許さなかった。


「待て、それだけで済むなんて思っていないよな。土下座して麻子に謝ってもらおうか」


「私が謝る?何故そんな事をする必要があるのです」


「惚けるな!俺と麻子の仲に嫉妬して、彼女に嫌がらせをしていただろう。それだけならば俺も土下座までは言わなかった。だがな、階段から突き落とすのは許せない!」


 某ネット小説サイトで散々使われているパターンである。いくら考えるのが面倒だからとはいえ、作者にはもう少し独創性を出して欲しいものである。


「本来ならば表沙汰にして償いをさせるべきだが、それでは羽田財閥に傷がつく。優しい麻子は、お前が謝れば水に流すと言っているんだ。早く土下座しろ!」


「使いふるされた手口ねえ。一応聞きますが、私がやったという証拠は?」


「麻子が言っているのだ。間違いない!」


 とことんテンプレであった。これでは、読んでくれた物好きな読者様から手抜きだと責められても作者は平身低頭謝るしかないだろう。


「馬鹿馬鹿しいですわ。御輿は軽い方が担ぎやすいとはいえ、次期惣領は考え直さないと千歳の未来は暗いですわね」


「貴様、麻子の優しさがわからぬか。正式に告訴して賠償を求めても良いのだぞ!」


 菫に詰め寄り、大声で怒鳴る米男。菫はため息をついてメイドからスマホを受け取った。


「私は貴方のように甘くはありませんし、暇でもありません」


 スマホの画面に表示された通話先の番号は110。日本人ならば誰もが知っている、お巡りさんの派遣を要請する全国共通の番号だった。

 迷いもなく110番通報した菫に対し、意表を突かれた米男と麻子は何も出来ず見守るのみであった。


「土下座すれば許すというのに、自ら捕まるために警官を呼ぶとは殊勝だな。だが、俺達は刑の軽減を願ったりはしないぞ」


「頭の中お花畑ですか。警官を呼んだのは、貴方達を逮捕してもらうためですよ」


 断罪される立場の菫が、断罪する立場の米男と麻子を逮捕させる為に警官を呼ぶ。それが理解出来ずに固まる二人。


「暴行、脅迫、名誉毀損の現行犯ですからね。証拠もメイドが撮ってますから完璧です。観念するのですね」


「名誉毀損だと?卑怯な苛めを断罪する事が名誉毀損になるはずないだろう。謝罪を迫る事が脅迫とでも言うつもりか!暴行だってふるった覚えはない!」


「やってもいない苛めをやったと公の場で言われたのですから立派に名誉毀損です。それの賠償を求める行為は、脅迫以外の何物でもないでしょう。暴行とは、他者を害する意思を示す行為です。相手に触らなくとも、拳を振り上げたり大声で怒鳴ったりすれば成立します」


 それらは間違いなく米男がやった行為であり、会場にいる生徒全員がその証人である。更に、メイドが全てを録画している為証拠も万全であった。


「通報があったのはこちらですか!」


 菫の説明が終わると同時に、駆けつけた警官が雪崩れ込んだ。菫は事情を説明し、メイドは撮影した動画を警官に見せた。

 動画という動かぬ証拠があった為、麻子と米男は現行犯逮捕された。


「皆様、お騒がせいたしました。ゆっくりとパーティーをお楽しみ下さいませ」


  事情聴取を受けるために警官と共に警察に向かう菫は、そう言い残して会場を後にした。

 だが、同級生二人が眼前で逮捕されるという一生に一度あるかないかの体験をした少年少女にパーティーを楽しむ余力があるはずもなかった。


 その後、麻子と米男は菫の苛めを主張するもその証拠は皆無でそれを示すのは自称被害者の主張のみ。

 それに対して彼らの所業は証言に録画という有無を言わさぬ証拠があり有罪は確定であった。


 高校を卒業したばかりの未成年であった為懲役刑とはならなかったが、少年院へと送られ高校の系列大学への合格は取り消された。

 それぞれの家の中での立場も底辺へと叩き落とされ、少年院から出所しても苦しい人生を送る事となるであろう。


 数年後、婚約破棄される財閥の令嬢が対策を重ねてざまあをするというゲームが羽田財閥系列の企業からリリースされた。

 そのゲームの開発者は羽田財閥の御令嬢だという噂が流れたが、その真偽は誰も知らなかった。

 


 

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[一言] 作者主人公にいわれてるよ… 頑張って
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