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うちの地元に現れたゾンビがカラッカラだった件について  作者: 島倉大大主
第二章 私と618
18/19

6:終焉 六月二十五日 十三時から現在

 その場所で、我々はゾンビの群れを三回殲滅した。

 負傷者は一切出ない、『作業』としか言いようのない、虚しい戦いだった。


 今は、その場所はコンクリートで一面埋立てられ、慰霊碑が立っている。(勿論この場所は、一段窪んだ形に舗装されており、有事の折は、慰霊碑を移動させ、処理場に変更できる)


 それから一月の間、『はぐれ』が度々確認されたが、それらも迅速かつ、負傷者なしで処理された。


 東京は読者諸君もご存知のように、七月一日に自衛隊が多方面から突入。

 国会、及び各駅を抑える事に成功すると、そこから人員を続々投入し、広い場所を次々と確保。ヘリポート及び、戦略基地を増設し、次々と地区ごとに掃討作戦を展開。生存者をピストン輸送で、都内から脱出させていった。



 ところで、下町と呼ばれる地域は、殆ど被害が無かったことをご存知だろうか?


 下町の住民たちは、駅等が使い物にならないことを察知すると、独自のコミューンを作り、助け合いながら、サバイバルする事に切り替えた。

 彼らは、ゾンビが高所へ登れない事を知るや、屋根や狭い路地の二階などに、梯子や板を置き、建物から建物へと移動する生活に移行。(よって最大の敵は暑さだったらしい)

 更に、廃ビルや駐車場にゾンビをおびき寄せ、閉じ込めたり、焼きうちしたりと、豪快に身の安全を図ってもいたのだった。(中継で、都内各所に煙が上がっていたのは、この為だったのだ!)



 こうして、618事件は、七月の中旬に『事態は沈静化された』、とA首相がテレビで宣言するに至り、終了した。


 勿論、全てのゾンビを殲滅したわけではなく、一年経った今でも、掃討作戦はまだ行われているし、それに関した事件も、度々起きている。(最も多いのが、線路に侵入したゾンビにより、列車が止まる事件である)



 実は私も、先日、妻と一緒に山菜取りに出かけた際に、『はぐれ』に遭遇した。


 山菜取りに出かけた人間が、『ゾンビ』、もしくは『ゾンビを食って人の味を覚えた野生動物』(熊や猪、アライグマに襲われたとの報告もある)に襲撃される事件が頻発しているのは知っていた。


 だが、不思議なもので、自分の身に降りかかるとは露程も思っていなかったのだ。


 とはいえ、読者諸君もご存知のように、鉈やバットは郊外に出かける時の必需品である現在であるから、勿論私達も装備していた。

 だから、茂みの端に佇む、ゾンビを見た時、声を出して驚いたものの、数秒後にはバットでそいつの頭を叩きつぶしていた。

 私も妻も、町に侵入してきた『はぐれ』を何回も処理してきた。

 だが、最後の処理から数か月が経っていた。


 久々の処理は、私達二人の行楽気分を完全に吹き飛ばしてしまったのだった。





 あれから、私達の生活は変化した。


 前述した通り、妻達はゾンビ映画を集まって見始めるようになり、逆に私達はゾンビ映画をあまり見なくなった。

 私達が見なくなった理由は簡単で、その代わりに、618事件の記録映像を見るようになったからである。

 あの臭い、音、そして実際に手で触ってしまったら、映画よりも記録映像の方が、ゾンビ映画で味わっていた、あらゆるものを鮮烈に思い起こすことができるのだ。(最近は618事件を扱ったドキュメンタリー映画が増えてきて、そっちを見ているというのもある)


 逆に妻達は、私達と違って『はぐれ』にしか遭遇していない。それが、かえって好奇心に火を点けたらしく、映画鑑賞へのめり込んで行ったようなのだ。

 妻に、じゃあ、記録映像も見てみたらどうだ、と聞いた事がある。

 だが、妻は――


「だって、記録映像って、ゾンビが歩いてるのを撮ったのが殆どじゃない。あなたと違って、地図とか資料とかと見比べるのも面倒だし、正直、あまり面白くないのよねえ」


 と、笑って肩を叩かれた。



 妻の中では、ゾンビは既に娯楽に戻っていた。



 もっとも、我々の中では、618事件の最中も、ゾンビはずっと娯楽だったように思う。

 本気で嫌なら、『後世に伝える義務』とか『生き残った者の責任』などと述べても、筆は絶対に取れない筈である。


 あれだけ人が死んだのに、私は今も、心の何処かで、『わくわく』しながら筆を取り、映像を見直している。



 さて、勘の良い読者諸君なら、私がこれから何を書こうとしているか想像できるだろう。

 そんな『しみったれた教訓』を読みたくないあなた、お疲れさま。また逢う日まで!

 まあ、いいから書いてみなよ、とニヤニヤ笑っている私の同族達よ!





 私達こそが、人の肉を食らうケダモノ――本当のゾンビなんだ!





 お読みいただき、ありがとうございました。

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