卒業パフェ
高校の近くにある「あんずジャム」というパフェを主とした甘いもの系がたくさんある、とあるお店。お値段がちょっと高めの設定で、メインターゲットとなるであろう高校生が通うにはちょっと敷居も高い。
そんなお店にやって来た一組の男女がいた。慣れないスーツに身を包むというより、七五三のように包まれているといったほうが相応しい、新しく社会人となった二人だ。
「ここに稔と来るなんて思ってなかったよ」
頼んだパフェを待ちながら、女が言う。
稔と呼ばれた男は、恥ずかしそうに答えた。
「俺さあ、昔から結構甘党だろ? ずっとこの店、一回は行きたいって思ってたんだ、高校の時に見つけてから」
「でも高校の男子が行くには、確かにレベル高いよねえ」とうなずく女。
「だろ!? 由紀と来るならここは必ずって決めてたんだ」
「何よ、あたしよりここのパフェのほうが目的だったわけ?」
由紀と呼ばれた女が頬を膨らませる。
「すまん。俺たちは同じ高校だったけど、高校にいた時は付き合ってなかっただろ。もし付き合っていたとしたって、二人で『あんずジャム』に行ったら、それを誰かに見られてからかわれるはめになったら嫌だなって、そういう気持ちのほうが強かったと思う」
「確かにそうだね。卒業して、気楽になったとこあるよね」
「俺が好きなのは、由紀も、パフェもどっちもだよ」
「うん、その二股なら許す!」
由紀が優しく笑う。稔も笑った。
「お待たせしましたー」
店員がパフェを二つ持ってきた。フルーツがたくさん乗っていて、それとふわふわのクリームが絡まる。おいしそうだ。
店員が去った後、由紀がぽつっと言った。
「ねえ『卒業パフェ』って知ってる?」
「いいや」
「高校の女子どうしでね、卒業したときに記念に食べに来るの。それを『卒業パフェ』って呼んでたんだよ」
「そうか。女子はいいよなあ、この『あんずジャム』にも友だちどうしで来れて」
「でも、稔も来れたじゃない。おめでとう、今日は稔の『卒業パフェ』だね」
「来るまでに、こんなに時間がかかったなんてなあ。由紀と付き合えて良かったよ」
「これからも、ときどき来ようね」
「ああ。それなら会社で苦労したって頑張れるよ」
二人は幸せそうに笑い合い、パフェを口に運んだ。