08 第06話 本当の名前
「あのさ、ギメイ。言いにくいんだけど、もう一つ収納バッグを貰えないかな」
二人が食事をしている間に、先に食事を終わらせたので二人の着替えのインナーを作っていると、遠慮がちにタックから声が掛かった。
「さっきのオークの皮とか、結構嵩張るんだよね。まだ余裕はあるみたいなんだけど、この調子で行くと容量が足りなくなりそうなんだよ」
確かにそうかもしれんな。
タックの要望通り、今持っているものと同じものを三つ出してやった。これだけあれば当分は足りるだろう。
「ありがとう、ギメイ! 助かるよ。でもどうやって下げていこうかな。四つも下げられないね」
「収納バッグに入れればいい」
「あ、そうか! そうだよね。収納バッグを収納バッグに入れればいいんだ。こんなの持った事が無かったから思いつかなかったよ」
「なんだ?」
俺とタックの会話を変な目で見てくるミャールを訝しく思い、つい声が出てしまった。
「いいえ、別に私は一個貰ったからいらないんだけど、ギメイって名前が気になってたのよね」
「ギクッ!」
「ギクッ! って、声に出して言っちゃった? ギメイって強いんだけど結構抜けてるとこもあるよね」
姉ちゃんの裸見て気絶したしね。と続いた言葉は聞かなかった事にした。
「そうね、で? 何を隠してるの? ギ・メ・イ?」
俺は一人が長かったからか、つい独り言を言う癖が付いてるようなのだ。
今のもその影響からか、つい出てしまったようだ。
対人スキルがほしいとつくづく思ってしまうな。
まぁ、こいつらを見る限り密告をするようには見えないし、名前程度なら言っても構わないか。
「ギメイというのは嘘の名前だ。本当はアスラムと言う。それだけだ」
「ふ~ん。ま、そういう事にしましょ。それで私達はどっちで呼べばいい? ギメイ? それともアスラム?」
「どっちでも構わん」
「じゃあ、アスラムにしよっと。いい名前じゃない、どうして偽名なの? あっ、偽名だからギメイ?」
「まさか、いくらなんでも、アスラムのような何でも知ってる人がそんな安易な偽名なんて……」
「……」
「……」
「……」
「ア、ア、アスラムはどこに向かうつもりだったの?」
「そ、そ、そうだね。行き先は決めてたの?」
話題を無理やり変えられてしまった……
「い、いや、行き先は決めてないが、国境を越えたいと思ってる」
「ええ! 国境は反対よ!? この森を抜けると、この国の中心の王都があるのよ?」
「そうだよ、国境に行きたいのなら、この森と反対に行くか、王都を抜けて更に王都の向こう側に行くしかないよ」
なんだと? 国境と反対? ……こういう所に運の悪さが出てしまったか。運補正のアイテムは無かったか……
ガックリとテーブルに突っ伏す俺を気遣ってか、それから二人は黙って食事を続けた。
昼食を終えると、気を取り直して出発した。
悩んでいても仕方が無い。引き返す選択肢は無いから、まずは森を抜けてから考える事にした。
王都に寄るのはマズイかもしれないが、いい移動手段があるかもしれないし、国境を越える許可証か手形が手に入るかもしれない。そういうものが手に入れば楽に国境を越える事ができるかもしれないし、マイナスばかりを考えていても仕方が無い。マイナスは今までいくらでも何度でも経験してきた。これぐらい何て事は無い。
と、自分を慰めるのだった。
食事はいつも賑やかだった。朝も昼も夜も、特に姉が黙って食べない。
いつも文句から始まって、最後は我が侭が通らず拗ねて終わる。大体そんな感じが多かった。
三日目の夕食もそんな感じだった。
「だいたいさ~、今日は楽勝だったけど、Fランク冒険者の二人にいきなりオークの群れに突っ込ませる人っている? ありえないわよね」
「そうだね、楽勝というほどじゃなかったけど、今日はオークキングまで二人で倒せたもんね。でも、いきなりアレは無かったよね」
今日は、またオークの群れを見つけたので前回オーク肉があまり取れなかった事もあり、また殲滅させてもらった。今回は途中で姉にも解体スキルが付いた事もあり、十分にオーク肉を補充させてもらった。
二人の会話は二日目の朝食後にオークの群れを掃討した時の事を言ってるのだろう。
あれのどこがいけなかったのだろうか。
「アスラムは、なんであんな無茶させたのよ」
「今だから僕も言えるよ。なんでなの?」
「勝つと分かってたからだ」
「なんで分かるのよ、だいたいアスラムは私のレベルだって知らないでしょ?」
「そうだよ、オークなんて一対一ならDランクの強さが必要なんだよ? それを僕達みたいなFランクに挑ませるって無茶にも程があるよ」
「なんだ、そのFランクというのは」
「冒険者のランクよ。そんな事も知らなかったの?」
「マジ? アスラムは冒険者の事を知らないの?」
「い、いや、一応なった事はあるが」
そう、勇者時代に素材売却のために冒険者ギルドに登録をした事があり、何度か寄った記憶はある。
パーティ依頼も一度受けたはずだ。だが、ランクなど知らんな。こちらの世界とは違う仕組みなのかもな。
「ランクを知らないって勇者様みたいね」
「ホント、勇者様にはランクは関係ないからね。まず勇者様をランク分けなんて出来ないし」
そ、そういう事情があったのだな……しかも、こちらの世界にも勇者はいるようだ。どこかの国に召喚されたのだろうが、やはり奴隷の首輪を付けられてるのだろうな。
「ランクは分からんがレベルは分かる」
「どうしてよ」
「はっ、もしかして、アスラムってレア持ち?」
「レア?」
「えー! うそ! アスラムはレアスキル持ってるの?」
「そうだよ、絶対そうだよ。そうじゃないと他人のレベルなんて分かるはずがないもん」
「レアスキルとは何か知らんが、【鑑定】はできるぞ」
「マジマジ!? やっぱりレア持ち? だったら私のレベルって分かるの?」
「ねぇねぇ僕のレベルは?」
なぜそんなに必死なのか分からんが、レベルを教えるぐらいはいいだろう。
「二人共、レベル50を少し超えたところだ。姉が52、弟が51だ」
「うっそー! 私がレベル52!? ありえないぐらい嬉しいんだけどー! 凄んごくウケるんだけどー!」
「やったー! 僕がレベル51!? 最高だー!」
二人は飛び上がったり抱き合ったりして喜んでいる。
「【鑑定】はできなくとも、自分のステータスぐらいは見れるだろ」
二人が落ち着いたようなので、俺の常識を聞いてみた。
「できないわよ。最後に見てもらったのも冒険者に登録した時だし、その時は登録に必要って事でタダで見てもらえたけど、レベル9だったもん。あれって結構高いからあまり見てもらう機会も無いのよね」
「銀貨五枚だったよね。銀貨五枚あればオーク肉ステーキが五枚食べられるもんね」
「そう、宿にも二人で泊まれるし、それを稼ぐのに薬草五十ってありえないわよね」
「それは姉ちゃんが起きないからだよ。真面目に採取すれば、薬草五十なんて半日も掛からないよ」
そうか、自分のステータスさえ見れないのか。だが姉よ、出会った時もレベル9だったから銀貨五枚を無駄にせずに済んだと思うぞ。
「そっか、アスラムは僕達のレベルもオークのレベルも見たから勝てるって分かってたんだね」
「そうならそうと言いなさいよね。焦って損しちゃったじゃない」
「でも、アスラムの装備のお陰でもあるんだからさ。それに危なくなったら助けてくれてたと思うよ」
「それはそうかもしれないけど……ねぇねぇアスラム。本当にこの装備をもらっちゃってもいいの?」
「ああ、構わないぞ」
どうせ収納の肥やしになってた物だ、こいつらにやっても何の損も無い。むしろ助かる。
「それはいくら何でも悪いって。だったら、この森で取れた素材で支払えばいいんじゃない? まだ森は続くんだし、僕達も魔物を狩れるようになって来たんだしさ」
「それはいいわね。それで行きましょ、リーダー決定ね。アスラムも文句は無いでしょ」
いや、俺はいらんと言ってるのだが……
この森の魔物で欲しい素材は無さそうだし、有難た迷惑なのだが。それに、もし装備に価格を付けるとしても、いくらで売れるのかも分からん。
「だったら美味い肉だけでいい。素材はいらんから好きにしていい」
「それだと貰いすぎだよ」
「いいじゃない、本人がそれでいいって言ってるんだから」
「いいのかなぁ……」
俺は何もいらんと言ってるんだ。本来なら肉も今日で十分確保できたから肉もいらないぐらいだ。
こいつらといると本当に疲れる。
それから三日で森を抜けた。
この森には俺を脅かす程の魔物は無く、有意義なレべリングができた。俺よりも有意義だったのが姉弟だったかもしれないが。
レベルも十分とは行かずとも、それなりには上がったし、姉弟も単独で森を踏破できるぐらいにはなった。
ミャールは解体だけだったが、タックは解体の他に料理も熟練度が上がった。調味料をふんだんに使ったり俺の調理を見よう見真似でも、真似したのが良かったのだろう。ま、真似できるほどアーツが高かったのも良かったのだろうが、弟には料理の才能があったみたいだ。今では料理アーツがMaxになったからな。料理スキルを手に入れる日も近いだろう。
この付近で活動するなら、これからは二人でやって行けるだろう。ま、やって行けなくても俺には関係ないがな。
名前 アスラム・ヴァン・ザッツェランド 男 15歳
レベル 143
種族 人族
状態 正常
HP 15544/15544 MP 16334/16334
攻撃力 16022 防御力 15881 速さ 16688
器用 15444 賢さ 17321 運 33
スキル 【武芸百般】【全魔法習得】【多重魔法】【魔力操作】【思考超加速】【多重列思考】【MP消費超減】【詠唱破棄】【身体超硬化】【身体超加速】【身体超強化】【無限再生】【超回復】【痛覚無効】【身体異常無効】【即死無効】【孤独耐性】【予見】【隠密】【察知】【威圧】【料理】【鍛冶】【調合】【結界】【鑑定遮断】【鑑定偽装】【調教師】
アーツ (体術)Max(盗賊技)Max(暗視)Max(解体)Max(調理)Max(槌打ち)Max(採取)Max(語学)Max(算術)Max
適正魔法 火・水・風・土・炎・雷・氷・闇・光・回復・空間・重力・合成・付与・日常
ユニークスキル 【亜空間収納】【鑑定】【周辺探索】【地図】【翻訳】【限界突破】
称号 勇者 異世界人 渡り人 踏破者 殲滅者 剣聖 賢者 暗殺者 狙撃王
名前 ミャール 女 16歳
レベル 63
種族 獣人族(マーゲイ・猫種)
状態 正常
HP 2870/2870 MP 2629/2629
攻撃力 2356 防御力 2020 速さ 2787
器用 1989 賢さ 1502 運 3022
スキル 【木登り】【穿突】【隠蔽】【瞬速】【解体】
アーツ (採取)4/10(忍び足)Max(短剣技)4/10(剣技)6/10(危険察知)8/10(気配察知)4/10(魔力感知)3/10
適正魔法 風・土・水
ユニークスキル なし
称号 なし
名前 タック 男 15歳
レベル 62
種族 獣人族(マーゲイ・猫種)
状態 正常
HP 3225/3225 MP 3387/3387
攻撃力 3001 防御力 2905 速さ 3109
器用 2822 賢さ 2773 運 2008
スキル 【木登り】【穿突】【隠蔽】【瞬速】【解体】
アーツ (採取)7/10(忍び足)Max(短剣技)4/10(剣技)5/10(料理)Max(危険察知)8/10(気配察知)4/10(魔力感知)4/10
適正魔法 火・風・水・土
ユニークスキル なし
称号 なし
やはり俺の運が上がらんな……
あと、姉弟はやはりネコだからか、忍者に適した能力が上がってるな。
冒険者としての位置付けは分からんが、生活するには問題ないレベルになったな。
装備ももうワンランク上げてもよさそうだが、そこまでしてやる義理も無いか。この森を拠点にするなら十分な装備だしな。
サイズは自動調節機能を付けたから問題ないだろうが、もうこれ以上は大きくならないと思う。
姉の方は既に俺より頭一個は背が高いし、十分大人の身体になっている。
弟の方など、一八〇以上にはなってるだろう。まだ、大きくなるのだろうか。
それだけ大きくなったにも関わらず、今までの調子で話すのだから、他人から見たら違和感が凄いのでは無いだろうか。
俺もこれが初見だと、こいつらの印象としていいものを持たない自信がある。まぁ、顔を見ると若いのは分かるからギリオッケーかもしれん。それが逆に違和感になってるのだがな。