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07 第05話 狩ってから食べるまで


 何も邪魔が入らなければ、森を抜けるのに三日だというが、ここは魔物の宝庫の森だ。邪魔が入らないわけが無い。

本来なら鬱陶しいだけだが今回は違う。俺にとっては非情に都合のいい環境と言える。

 【周辺探索サーチ】と【地図マップ】を使い、まずは食材の調達からだ。

 いい具合にオークの群れを見つけた。オーク自体は下から数えた方が早いぐらい弱い魔物だが、それでも昨日の姉弟だっらた一体のオークにでも敵わなかっただろう。

 それが百体はいる。しかも上位種までいるとなると、食材調達のためにオーク殲滅は決定だ。


 さて、姉弟にも戦わせるか。もう雑魚オーク相手なら余裕で勝てるはずだが、変な倒し方をして食材を無駄にされたら大変だ。こいつらが異常なぐらい食うからな。食材は無駄にしたくない。

 グチャグチャにされたら最悪ハンバーグでもいいか。注意事項だけ伝えて経験させないと、いつまで経っても俺が調達係になってしまうからな。自分の食う分ぐらいは自分で確保させないとな。


 音波遮断結界を張り、姉弟に指示を出した。


「この先にオークの群れがいる。お前達が食う分は自分達で確保しろ」

「「オーク!?」」

「ああ、オークの群れだ。オークは焼いてヨシ煮てヨシ加工してヨシ、俺も昔は良く使った食材だ」

「ジュル……いやいやいやいや、美味しいのは知ってるけど、オークと私達が戦うの!?」

「そうだよ、オークだよ! そんなの僕達には無理だよ!」

「それで倒し方だが、首を斬れ。それ以外なら手や足を斬るのは許そう。何度も斬りつけるんじゃないぞ、不味くなるからな」

 これで説明は十分だな。あとは割合だが、こいつらは沢山食うから多めに狩ってもらわないとな。


「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなの私達には無理よ!」

「そうだよ、オークだよ? 僕なんか一体相手でも瞬殺される自信があるよ」

「では、行くぞ」

「ちょ、ギメイ! 聞いてる? 無理だって言ってるでしょ!」

「ギメイ、お願いだから昨日みたいにとどめだけにしてよ」

「さっきの話を聞いてたか? 何度も刺すと味が落ちるのだ。一撃で首を飛ばす。それが一番味が落ちない調達方法だ」

「話を聞いてないのはギメイの方じゃない! 私の…リーダーの話を聞きなさい!」

「調達って、僕達が調達されちゃうって!」


 どうも話が合わんな。こいつらの話が分からん。

 もう面倒だ、さっさと倒さないと次に行けないではないか。


 俺はオークの群れに向かって軽めの【威圧】を放った。

 全力で【威圧】を放てば逃げてしまうかもしれない、それは今回の目的からも得策ではない。軽めに【威圧】を放ってこちらに注意を向けさせるだけにした。

 案の定、何体かのオークが気付き、それに釣られて他のオークもこちらに注意しているようだ。


「そろそろ来るぞ。戦闘体勢に入れ。何度も言うが、斬るのは首を一撃だぞ」

 そう言って姉弟を前面に押し出す。


「ええ! 来るって何が? オーク? オークが来るの?」

「うそー! ダメだって! 姉ちゃん! 逃げるぞ!」

 逃げるなんてさせるはずがない。自分達の食い扶持は自分達で調達しろ。


 俺は二人の後ろに立ち、鎧の腰部分を掴んで離さない。

 本当は首根っこを捕まえたかったのだが、奴らの方が大きくなってしまって腰辺りしか掴めなかったのだ。


 わわわわ。と狼狽える姉弟の前に、偵察なのだろうオークが数体現れた。

 俺が捕まえているので戦うしかないと腹を括った姉弟がようやく剣を抜いた。

ガタガタ震えてるようだが、これは武者震いだな。ようやくやる気になったか。オークはまぁまぁ美味いからな、やる気があってよろしい!


 俺は戦闘のオークが腕を振り上げるまで待ってから姉弟を解放した。こうした方が一気にダッシュできるからカウンター効果もあって首を一撃で斬るにはちょうどいいのだ。


「ヤ――――! ヤヤヤヤヤヤ―――!」

「ダ――――! ダダダダダダ―――!」


 無我夢中で剣を振り回す姉弟。その甲斐あってか、一振り目で腕を切断し、後はグチャグチャになるまで斬りつけていた。

 そこまで気合を入れなくてもいいんだが。いや、自分達の食い分だ、気合が入って当然だな。音波遮断結界を張っておいて正解だ。だが……これはハンバーグ決定だな。

 その後ろから来ていた偵察オークも同じ運命を辿った。

 全部で六体のオークがミンチになった。


 その時点で姉弟を後ろから捕まえ、強制的に止めた。俺のアドバイスが上手く伝わってなかったようだ。


「ちょっと待て」

「ヤー! ヤー! ……え?」

「ダー! ダー! ……え?」

 ホントにお前達は同じ行動を取るよな。が、それは今はいいか。


「俺の話を聞いてたか」

「「……」」

「見てみろ、食材がグチャグチャになってしまってる。これだとハンバーグにしか……」

「え―――! これを私がやったの!?」

「い―――! これを僕がやったの!?」


 騒ぎ出す姉弟を更に押さえつけて黙らせた。

「そうだ、お前達が食材をグチャグチャにしたんだ。首を一撃でと何度も言っただろう。これだとハンバーグぐらいしか作れん」

 ま、他にも餃子やシュウマイ、肉団子など、ひき肉を使った料理のバリエーションはあるがな。


「食材って…そこは『よく倒したな』って褒めるとこでしょ!」

「ハンバーグって何か分からないけど、僕はハンバーグでもいいかな? 美味しそうな響きだし…」


 褒める? これだけ食材を無駄にされて、どこを褒めろと言うのだ。


「もう一度言うぞ。首を一撃で飛ばせ。それと一つアドバイスだ」

「わ、分かったわよ。それでアドバイスって何よ。そういうのは先に言ってほしいんだけど」

「首を一撃だね。ギメイがそれだけ何度も言うんだ、何だか僕にもできそうな気がして来た」

「俺からのアドバイスは一つだけだ。目を開けろ」

「はぅ」「うぐっ」


 姉弟は真っ赤な顔をして俯いてしまった。

 だが、恥かしがってる暇は無い。次のオークもそこまでやって来てるのだ。偵察が戻らないので次の偵察が来たのだろう。


「次が来るぞ。というか、さっさと突撃して来い。上位種は食材を無駄にされると適わんから俺が殺るが、後はお前達が食う分だ。自分達の分ぐらい自分で調達して来い」

「わ、分かったわよ」

「うん、頑張るよ!」


 それからは斥候のオークを何度か斬りつけて倒してコツを掴んだのか、それとも度胸が付いたのか、姉弟は少しずつ群れに入り込んで行き雑魚オークを一撃で首を飛ばせるようになって行った。

 その間に俺は後方から上位種を【周辺探索サーチ】で特定し、そいつらに向けて魔法を放った。


 【十指風斬りカッター

 【十指風穿孔ウィンドドリル


 オークファイターやオークメイジなどの中位種は【十指風斬りカッター】で首を飛ばし、オークジェネラルやオークキングの上位種は【十指風穿孔ウィンドドリル】で頭部をめった刺しにして倒した。

 素材にもなりそうな牙は無傷で済むように、頭部だけを重点的に狙い撃ちした。

 脳みそが珍味だという輩もいるようだが、俺はパスだ。だから頭部は粉々にしても構わない。

 運のいい事に、オークキングは一体だが、オークジェネラルは三体いた。しかもオーククィーンまでいたので、姉弟にはオークを食わせて俺は上位種を堪能する事にしよう。

 中位種ぐらいまでなら振舞ってやってもいいか。


 姉弟の様子を見ると、半分ぐらいは倒したようだが、やはり数が多いからかまだ時間が掛かりそうだ。

 仕方が無いので手伝ってやる事にした。その代わり、この後の解体では更に頑張ってもらう事で手を打つか。


 オーク殲滅が終わると解体の時間だ。姉弟は【解体】スキルを持ってないが、これは慣れていけばすぐに身に付くスキルだ。だからドンドン解体をやってもらう。

 まだ、肩で息をする姉弟の前で解体の見本を見せてやる。


 頭部は事前に用意した大穴の中に捨てる。先に腹部分を切り裂き皮を剥ぐ。手足胴と部位を切り分ける。内臓を取り出し大穴に捨てる。最後に生活魔法のクリーンで綺麗にしてやり完了だ。

 タックから“舌”だけは取っておいてと言われたので纏めて袋に入れて収納したが、何のためにいるのだろうか。大して美味く無かったはずだが。


 後は料理前に切り分ければいいから、解体時には大雑把な切り分けで構わない。

 解体用のナイフセットを二人に渡し、俺は中位種と上位種の解体に向かった。


 俺の分の作業は数も少ないし慣れてるから十分も掛からず終えたが、姉弟はまだ梃子摺っていた。

 解体は慣れこそが大事なので、俺は姉弟の傍で料理の仕込み作業をする事にした。

 こいつらに大量に食われたから、その分の補充だ。今日はいい食材も手に入ったので、料理にも気が乗る。


「ねぇ、ギメイ。こっちも手伝ってよ」

「お前達の食う分だ」

「ギメイ、これってどうやったら上手く解体できるようになるの?」

「慣れだ」

「もう、やってらんない! リーダー命令よ! ギメイ、手伝いなさい!」

「ダメだ。それだと慣れない」

「どれぐらいやったら慣れるの?」

「素質による」


 見たところ、まだまだ解体が荒い。よくて煮物かミンチにしかできないだろう。

「使い物にならないものはミンチにしといてやろう」

 そう言って姉弟が初めに倒したオークと、今まで解体した分を俺作成の大型肉挽き器に次々と放り込んでいった。


「な! 何するのよ!」

「そうだよ! ギメイ、酷いよ!」

「ん? お前達、これを食うつもりだったのか?」

「当たり前じゃない! そのために解体してるんじゃない!」

「そうだよ、美味しそうに解体できてたじゃないか」

「そうか、それは悪かった」

「悪かったじゃないわよ! 手伝わないんだったら、せめて邪魔だけはしないでよね!」

「……ギメイ? もしかして、ダメな解体だった?」

 ずっと怒り続けてる姉とは違って、弟は疑問に感じて尋ねてきた。


「そうだな、俺は食いたいとは思わん」

「ええ! あんなに美味しそうだったのに?」

「そうよ! だったら証拠を見せなさいよ!」

「証拠か…だったら見せてやろう。一体解体してみろ」


 姉弟にそれぞれ解体させて、俺も隣でオークを解体した。

 そして同じ部位を同じ量だけ切り取り、ステーキにして二人に食わせてやった。

 まずは姉のミャールが解体したオークだ。


「う~ん、美味しいじゃな~い。これだからオークは辞められないのよね~」

「うん、僕も普通に美味しいと思うよ。町で食べたオークより美味しいぐらいだ」

 ま、単純な味付けだが、油はオークキングのラードを使ったし、塩コショウはしてる。ガーリックも一緒に焼いているし、俺は【料理】スキルも持ってるしな。


 次は弟のタックが解体したオークだ。

「うん!? 私が解体したオークより美味しい?」

「そ、そうだね。僕もそう思う。嬉しいけどちょっと複雑だね」

 弟の方が丁寧に解体してたからな。そろそろスキルが付く頃かもしれんな。


 最後に俺が解体したオークだ。


「「!!!!!!」」

「「うまっ!!」」


 それはそうだろう。それがスキルというやつだ。


「調理方法はお前達も横で見てたから分かると思うが、まったく同じだ。違うのは誰が解体したかだ」

「たしかにこれじゃ僕達が解体した肉をミンチにされるのも分かるよ」

 ミャールもうんうんと肯くばかりだ。


「だが、ミンチもバカにはできない。簡単なハンバーグを作ってやろう」

 そう言ってサクッとハンバーグを作ってやった。

 材料はさっきミンチしたオーク肉に、収納から出した牛系の魔物ファイアブルのミンチを合挽きにして、コッコルという鳥の魔物の卵と自作のパンで作ったパン粉に野生の玉ねぎを微塵切りにしたものに塩コショウとハーブを少々入れて捏ね合わせ、三つのハンバーグを作った。

 こいつらの食べっぷりを見てると俺も腹が減ってきたからな。


「食ってみろ」

 今回はソースは掛けてない。ハンバーグだけでも十分美味い事を知ってもらうためだ。


「「!!!!!!」」


「どうだ、無駄では無いだろ。だからいくら失敗しても構わん。だが、上手く解体できれば料理のバリエーションが増える。だからもっと上手くなれ」


 それからは真剣に解体に取り組む姉弟だった。

 解体が終わる頃には予想通りタックには【解体】が付いていた。

 姉の分は全て肉挽き器行きで、タックの分も三体分を残し、あとは肉挽き器行きとなった。

 姉のリクエストで昼食はオークステーキとなったが、料理は弟タックに任せた。もちろん姉弟の分だけだ。俺は自分の分は自分で作った。

 タックにも調味料は貸してやった。俺の隣で見よう見真似で作っているが、それを見た俺は、やはり自分の作ったものを食べる事に決めた。


「う~ん、美味しいのよ? 町で食べたのより美味しいんだけど、さっきのを食べた後だとね~」

「そうだね、姉ちゃんゴメン」

 さっきの試食で俺のを食ったせいか、タックの料理には不満のようだ。


「ちょっと貰うわね」

「むっ」

 俺はステーキを食う時は、全部切ってから食べる派だ。その方があとはフォークだけで済むからなのだが、その一切れをミャールに盗られてしまった。

 魔物に対して周辺警戒はしてるが、まさか隣から盗られるとは予想外だったのだ。いつも一人で食ってたのだ、こんなのは全く予想していなかった。


「なにこれ! さっきのより全然美味しいんだけど!」

「やめなよ姉ちゃん! みっともないって!」

「それはオークファイターの肉だからな。さっきより美味いのは当たり前だ」

「オークファイター!?」

「えっ、えっ、えっ、姉ちゃんだけズルーい!」


 これは煩くなる前兆だと思い、タックにも一切れ分けてやった。

「ホントだ! 美味しい~!」

「お前の料理の腕では勿体無いからな。料理アーツがMaxになるか、料理スキルが付けば分けてやろう」

「ホント! 僕、絶対ガンバるよ!」

「うん! タック頑張って!」

「えー、姉ちゃんは料理しないのかよ~」

「だって、私はほら、あの、そう! リーダーだからね。だからそういうのはいいのよ」

「いつもそればっかり、ズルいよ」


 それからは俺もおかわり分のステーキをもう一枚焼き、タックは二人の分のおかわり分を何度も焼き続けた。

 料理スキルは解体ほど簡単には手に入らないが、この調子で続ければ料理アーツは上がって行くだろう。



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