06 第04話 初日の野営
黒狼と森狒々の群れを退けた後は、大きな群れには出会わなかったが、単体でも大型の魔物に何度も出会い、その悉くを葬って行った。
さすがに魔素が濃い森だけあって、熊系、虎系の動物系を初め、亜人系、鳥系、爬虫類系、虫系、植物系の魔物に何度もエンカウントした。
レベルを上げたかった俺にはちょうど良かったが、ここまでエンカウント率が高い森なら敢えて誰も入って来ないだろう。追跡を撒くにもちょうど良かったな。
森に入ってから二時間は経っただろうか、そろそろ野営の準備をしないとな。
俺だけなら夜通し歩いても問題ない。むしろ夜は魔物とのエンカウント率が上がるから好都合なのだが、まだこいつらには荷が重いだろう。流石に、こんな森の深い所で置いて行くわけにも行くまい。
「ここらで野営する」
「えっ! こんなとこで寝たら魔物に襲われて死んじゃうよ!」
「そうだよ! さすがにここは無いよ!」
「問題ない。既に魔物には襲われないようにしてある」
既に結界は張ってある。俺のレベルも上がったし、一晩ぐらいなら結界アイテムを使うほどではない。俺の結界魔法で十分だ。
後は地均しして用意するだけだな。
「ギメイが言うなら信じるけど、ホントに襲われない?」
「僕は信じるよ。だってこんなに強いギメイの言う事なんだ。絶対大丈夫なんだよ」
「わかったわ。だったら今日はここで野宿ね。リーダーとして認めるわ」
「もう姉ちゃんがリーダーだなんて誰も思ってないから」
「思ってなくても私がリーダーなの!」
ミャールのリーダーへの拘りは相当大きいようだ。
「ふ~、でもやっと休憩か、ちょっと服も脱ぎたかったのよね。もうキツクなっちゃって」
「それは僕もだ。もう服が小さくなっちゃって、ピチピチだ」
そうなのだ。こいつら、森に入るまでは俺と同じぐらいだった癖に、今は俺より頭一個分以上は大きくなってやがるんだ。
タックなど、かなり大きくなってやがる。筋肉も付いて体格もよくなってるし、どうなって……あっ! こいつらは獣人だったか! 獣人はレベルが上がると体格も子供から大人に変わると聞いた事があるな。実際に見るのは初めてだが、こういう事だったか。
「あれ? ギメイが小さくなった? だったらリーダーはやっぱり私ね」
人間にはレベルが上がったからと言って一日で体格がそこまで異常なぐらい大きくなる事は無いんだよ。
「小さくても強いんだからいいんだよ。もう姉ちゃんは諦めなよ」
「いいえ、諦めるんじゃなくて、既に私がリーダーなの。これは決定事項なの! っていうか、もう服がキツイ! 脱いじゃおっと」
ボフンッ! ブ――――!
「あっ! 姉ちゃん大変! ギメイが頭から煙を吐いて鼻血噴射して伸びちゃった」
「え? なんで?」
「姉ちゃんが急に裸になるからじゃないか! 場所を弁えろよ」
「えっ? あ、そうか、私って急にボインになっちゃったからギメイも私の魅力にやられちゃったのね。私って罪な女ね」
「ボインって……確かに大きいけど、巨乳って言いなよ。おっさんみたいだよ」
「でも、困ったわね。ここは不気味だけど安全ってギメイが言ってたからいいんだけど、お腹がすんごく減ったのよね」
「それは僕も賛成。お腹減ったよね」
二人の視線はアスラムの収納バッグに釘付けだ。気絶したアスラムを介抱する気配も無い。
アスラムは【亜空間収納】を誤魔化すために収納バッグを身につける習慣を持っていた。今もポシェットのような収納バッグを腰に装着していたのだ。
因みにミャールに渡したものは同じタイプのポシェットタイプで、タックには肩下げバッグタイプを渡していた。タックはそれをたすき掛けにして下げていた。
「もう我慢できない!」
「僕もー!」
二人は我慢できずにアスラムのバッグに手を掛けた。アスラムの収納バッグには間違いなく大量の食べ物が入ってるだろうと迷わずに先を争ってアスラムのバッグに手を出した。
バチバチバチバチー! ビリビリビリビリッ!
「「アバババババ~~」」
アスラムが何の仕掛けもせずに持ってるはずがない。
二人仲良く電撃の罠にかかり、予定通り三人で野宿する事になった。結局、誰も夕食は食べられなかったのだが。
目が覚めると朝だった。
昨日は確か……うおっ! なんでこいつら裸で寝てるんだ!
ミャールが俯せで眠っている事に内心ではホッとするアスラムであった。
俺に寄りかかるように眠る姉弟だったが、二人とも服を着ていない。
ビリビリに破れた服の残骸が散らばってる所を見るに、寝てる間にはち切れてしまったんだろうか。
確かに、身体の急成長で服のサイズは合ってなかったからな。
仕方が無い、服ぐらいは作ってやるか。ただ、乳バンドの作り方だけは分からん。作った事も使った事も無いからな。
いや、待てよ。確かドロップ品であったな。【亜空間収納】の肥やしになってたはずだ……『マジカルブラジャ』、これだこれだ。セットで『マジカルパンティ』も……これだな。インナーはこれでいいだろ。後は二人の肌着から作ってやればいいな。
素材は虹蜘蛛の糸でいいだろ。これは肌触りが最高にいいからな。しかも耐久性も優れてるし防汚機能もあるからな。
後は装備だが、こいつらは軽い装備の方が良さそうだから、暴風龍の皮を使った物にしてやるか。武器もそろそろ長手の方がいいだろうから、俺と同じ『ファルコンソード』にして、俺は力が付いてきたからラグナドラゴンの牙から作った『ラグナソード』にするか…いや、黒龍の牙から作った『黒丸刀』にしよう。俺は剣より刀のほうが好きだからな。
【武芸百般】があるから、俺は剣でも刀でも扱えるが、やはり斬れ味のいい刀の方がこのんで使う。
それに、こいつには収納機能が付いてるから収集が楽なのだ。『黒丸刀』自体の収容能力は大した事は無いんだが、【亜空間収納】と連動させられるので俺が使うと実質無限収納と言ってもいい。
攻撃力も2000とまぁまぁ強いから、この辺りの魔物相手ならちょうどいいだろう。
さて、装備は完成したが、まだ起きないな。とりあえずマントでも掛けておいてやろう。
どうせ起きたら騒がしいだろうし、先に飯も用意してやるか。
着替えをそれぞれの横に置き、朝食の用意に取り掛かった。用意と言っても一瞬だ。
【二指風斬り地均し】
樹や雑草を人差し指から出した風斬りで斬り、中指から出した地均で整地をした。
後は机と椅子を並べて料理を出すだけ。
昨日、姉弟に相当食べられたが、まだまだ余裕はある。だが、今日からは素材も豊富な森だから食材だけでも確保していくか。
料理を出すと、匂いにつられて起きたんだろう、姉弟いる方で声がした。
なにやら騒いでる所をみると、着替えに気がついたようだ。
少し待つと、着替えを済ませた姉弟がやって来た。サイズはちょうどよかったように見える。ミャールの胸の部分は、少し窮屈そうに見えるが……ブッ。
「おはよう! ギメイ。こんな高そうな装備、よく持ってたわね。これって貰っていいの?」
「おはよう、ギメイ。インナーは肌触りが最高だし、装備は凄く軽くて丈夫でメチャ嬉しいんだけど、こんなの用意してもらっても僕達には払えないんだけど」
しかし、着るものが他に無いといえ、そんなに値段を気にして…は、いないな、特にミャールは。貰えるものだと断定してるな。それでいいんだが、それなら『ありがとう』だけでいいのではないか?
対人戦闘は得意だが、対話は難しいものだな。対人戦闘と言っても相手は魔族だったがな。
「あら? ギメイ、まだ鼻血が止まってなかったの?」
「ホントだ。鼻血にはダンディライの種を鼻栓すれば治るって言うよ。確か、その辺で見たから取ってくるよ」
鼻血の事は放っておいてくれると助かるのだが……
タックがダンディライの種を持ってきてくれたので、俺は鼻に詰めた。詰める前はフワフワした種だからクシャミが出そうな気がしたが、実際詰めてみると意外と気持ちが良かった。これはちょっと癖になりそうだ。
朝食は昨日の昼食の三倍は出したはずだが、あっさりと完食されてしまった。
身体進化により食欲が増大したと言うが、だったら昨日の昼食は何だったんだと言いたい。
この調子で食べ続けられたら俺のストックも一年もたないかもしれないから、今日からは現地調達、現地調理で行こうと決めるのだった。
姉弟が食べてる間に、先に朝食を終えたので、ミャールのシャツと革の胸当てを作り直した。今度のやつには自動調節機能を付けたからサイズは問題ないだろう。
自分のものしか作った事が無かったから忘れていたのだ。自分の装備なら自動調節機能を使うまでも無いからな。自動調節機能には魔石を使う事になるが、極小の魔石だから邪魔になる事も無いだろう。
「掛けていたマントはそのまま使えばいい。付与として【衝撃吸収】【衝撃HP変換】【魔力吸収】【魔撃MP変換】【存在希薄】を付けている。ある程度の衝撃なら吸収してHPに変換するし、魔法攻撃でもある程度なら吸収しMPに変換するから便利なマントだ。【存在希薄】も付けているから【隠蔽】と併用すると、かなり【隠密】に近づけると思うぞ」
俺の着けているマントの試作型の下位互換のマントだから、ずっと収納の肥やしになってたマントの放出だ。【亜空間収納】は無限収納だから邪魔にはならないが死蔵してても無駄だからな。
攻撃は物理、魔法、共に1000ぐらいまでは無効にしてくれるから、こいつらにくれてやるぐらいでちょうどいいだろう。
食うのに夢中で聞いちゃいねーな。ま、この森では経験値を増やすためにドンドン戦闘をして行くから隠れるつもりはないのだがな。
朝食をあれだけ食ったにも関わらず、姉弟は平然と片付けをしていた。
「今から戦わないといけないから腹八分目で我慢するわ」とかほざいてた。お前達はまだ戦いは一度もしてないのだがな。
だが、食材は今日からは現地調達必須だな。