05 第03話 レベリング
森を進むと早速魔物が現れた。
高ランクの魔物が多いと言ってもまだ森の浅い部分だ。攻撃力は平均して二〇〇~四〇〇という所か。姉弟のような一般人のレベルだと瞬殺ものだ。俺もレベルだけ見ると姉弟以下ではあるが全く問題ない。
抜けた強さの奴が前の群れと後ろの群れに一体ずついるようだが問題ない。
狼の魔物の群れが前面に現れ、その背後では遠巻きに猿の魔物が偵察していた。おこぼれにでも預かろうとしているのか、それとも横取りでも狙っているのか。
狼の魔物は賢い。群れのボスの統率力も侮れないものを持っている。
それに対して猿の魔物は狡猾だ。狡賢いのだ。
狼の魔物と猿の魔物が対決すると、平原での戦いなら地力の高い狼の魔物が勝つだろう。しかし、森の中での野戦となると猿の魔物に分がある。
狼の魔物だって先回りや挟み撃ちぐらいの事はやってくる。が、猿の魔物は更にその上を行く。群れの弱い個体を囮にして罠を張ったりもする。もちろん、囮にされた個体は死ぬ事になるのだが、群れのボスはそんな事を平然とやってのける。
逆に、狼の魔物は仲間であれば弱い個体でも守ろうとする。そこで隙が生まれるような事があっても守る。だから攻撃する時の狼の魔物は強いが、守りに入ると脆さが出る。
もし、両者が戦えば双方に相当な被害が出る事も分かっているから、お互いに戦闘は仕掛けない。それが分かっているから狼の魔物も背後には警戒をしていない。目標は俺達だけに絞っているようだ。
先陣は狼の魔物。倒し方次第によって、猿の魔物が追撃に来るか一目散に逃げるかだが、今回は俺のレベル上げにも一役買ってもらわねばならない。ならば逃がすのは得策ではない。狼の魔物を倒して、猿の魔物も倒す。これが理想だ。
俺のMPは今9しかない。が、それは全く問題にならない。【MP消費超減】と【超回復】でどんな魔法でも使用魔力は軽減されるから中級ぐらいまでなら消費MPは1で済むだろうし、五連発の魔法を放っても一瞬でMAXまで回復するだろう。それに、魔物を倒せば経験値が入るからレベルも上がり最大MPも上がって二~三十連発ぐらいすぐに打てるようになるだろう。称号の【勇者】と【異世界人】で成長補正が掛かってるから一体倒すだけでも楽にレベル10を越えるだろうからな。
だが、手前の狼の魔物を一瞬で屠ってしまうと奥の猿の魔物が逃げてしまう。先にある程度狼の魔物を倒して猿の魔物が逃げられないようにするか。
名前 なし
レベル 31
種族 魔獣(黒狼)
状態 正常
HP 544 MP 323
攻撃力 584 防御力 467 速さ 621
器用 387 賢さ 488 運 402
スキル 【ダブルバイト】【遠吠え】【カッターファング】
アーツ (威圧)5/10(統率)6/10
適正魔法 風
ユニークスキル なし
称号 狼リーダー
名前 なし
レベル 36
種族 魔獣(森狒々)
状態 正常
HP 603 MP 481
攻撃力 477 防御力 496 速さ 410
器用 637 賢さ 603 運 443
スキル 【スイングクロウ】【ファング】
アーツ (統率)7/10(装備)2/10(戦略)2/10(投擲)4/10(逃走)8/10
適正魔法 樹
ユニークスキル なし
称号 猿ボス
両方のボスを【鑑定】してみたが、だいたい予想通りだ。#周辺探索__サーチ__#で凡その強さは分かってたからな。
狼の魔物の数が十四、猿の魔物が二三か……
よし、作戦は決まった。まずは黒狼の親玉からだな。
【五本指爆】
もちろん詠唱などしないし、声にも出さない。俺が独学で使えるようになった魔法は元々詠唱を必要としない。体内の魔力を具現化して放出するだけなのに、なぜ詠唱をしなければならない。俺の使える魔法の中には、周囲に漂う魔力を集めて自分の魔力と練り合わせて発動させる魔法がある。それなら詠唱が必要だが、練習で一度しか使った事が無い。一人で戦うには詠唱などしてる暇は無いからな。
【五本指爆】勇者だった頃の俺が、雑魚を相手にする時にもっともよく使っていた技の一つだ。今回は爆を選択した。
俺の広げた右手の指先には、五本ともに炎が浮かび上がる。直径三センチ程と小さいがそれでいい。一つの炎で消費するMPは1。【MP消費超減】のお陰で、この程度の魔法なら一つの魔法発動させるために使う魔力はMP1で済むのだ。
炎が球状に安定するまで0.1秒。
球体になった炎の固まりは次々に俺の元を離れ、超高速で黒狼のボスへと向かった。
指を振る必要も無い。そんな事をすれば、どちらに向かって放つのかバレてしまう。そんなバカな事を俺はしない。これぐらいは【魔力操作】で簡単にできるからな。
ボボボボボッ
全弾命中!
手元を離れた炎球がボスに着弾するまで0.1秒。まだこの身体に馴染めないのか、かなり遅くて違和感を感じる。この程度では魔王城にいた側近にでも避けられてしまうな。
ボゴ―――――ン!!
黒狼のボスに着弾した炎球が体内で爆発した。爆発するまでも無く絶命していたが、初手で失敗すると後手後手に回るため、念のための爆だった。
黒狼のボスを倒した事で俺に経験値が入る。
レベルが上がり、ステータスも上がって行くのを体感する。すぐに【超回復】でHPとMPがMAXになる。
少しのタイムラグはあったが、それ以上に何が起こったか分からず狼狽える狼の魔物と猿の魔物の群れ。
その戸惑いが命取りだったな。俺もHP/MPが全快になるまで待ってやったんだ、一秒ほどだがな。
それに逃がす気も無い。大人しく俺の経験値になってろ。
【十本指凍結】
先に後方の森狒々に攻撃を仕掛ける。
今度は両手の指を広げ、それぞれの指先に直系一センチの氷の塊が浮いて出た。徐々に魔力操作も馴染んできたようだ。
炎球の時より小さい一センチ程度の球体になると、目的に向かって発射して行った。
目標は後方にいる猿の魔物の群れ。
群れの外側に位置する森狒々から順に一発ずつ着弾させ凍らせていく。
【十本凍結】
【十本凍結】
森狒々の群れが凍りついたのを確認すると、今度は黒狼の群れだ。
【十本指爆】
【十本指爆】
【十本指爆】
少し過剰なぐらいがいい。今は少しでもレベルを上げたい。取り零しがあると勿体無いからな。
黒狼が爆散して無残な状況になっている場所へゆっくりと近寄る。
これぐらいの強さの魔物なら、魔道具に使える魔石を持っているだろう。後で何か作るためにも魔石は持っていた方がいいに決まってる。魔石はこの程度の攻撃なら砕けるはずは無いからな。
爆散地帯に来てみると、予想通り魔石はあった。
直径二センチぐらいの十三個の魔石と、直径四センチぐらいの魔石が一個。大きい魔石はボスのものだろう。
さて、次だ。
折角レベルも上がった事だし、今のレベルでどれだけ斬れるか試しておこうか。
氷漬けになってる森狒々の群れに向かおうと思ったが、二人が付いて来ていない事に気付いた。
さっきまでいた後方に目を向けると、樹の陰に隠れようとしたのか、手は樹に付いているが、顔はこっちに向いてるし、身体はまるで隠れてない。
どこかの海賊王の船医みたいになってるぞ。逆だ! 全然隠れてねー! って言いたくなる格好で固まっていた。
しかし、姉弟だな。左右対称だが、同じ格好になってるぞ。
恐らくだが、黒狼を見て隠れようとしたのだろう。そして黒狼が爆散したのを見て固まったのか。
その後は、次々に爆散する黒狼の群れを見て動けなくなっているってとこか。
お前達を見てると、失ったはずの遠い過去の記憶が甦ってくるな……
それがいいのか悪いのか、判断に困るが。
「おい、お前らも少しはレベルを上げておいた方がいい。少し分けてやるから早く来い!」
そう、この森は魔素が濃い。魔素が濃い場所には魔物が集まる。逆に言うと、魔素の薄い所を魔物は好まない。それだけが理由では無いが、魔素が濃い森から魔素の薄い森の外には魔物はあまり出て行かないのだ。
だが、魔素というのはレベルの低い人間にとっては毒だ。この姉弟は、もっとレベルを上げて抵抗力を上げないと、森にいるだけで死んでしまうかもしれない。この辺りはまだ森の浅い部分だからか、それほど魔素も濃く無いが、これ以上奥に入ると姉弟のレベルだと死んでしまうだろうな。
一緒に行くというなら、俺のレベリングついでに、姉弟もレベリングぐらいはしてやるか。
「「……」」
「いつまで呆けてる! 置いて行くぞ!」
やっと俺の言葉を理解したのか、ギギギっと音がするのではないかと思えるほどゆっくりと首を動かし、お互いを確認した姉弟。
顔を見合わせると、用意ドン! とばかりに、必死の形相で駆け寄って来る。猛ダッシュだった。
「なになになになになになになに――――!! 今のなに―――!!」
「へんへんへんへんへんへんへん! 絶対に変だ――――!!」
俺に近寄ると、大袈裟に騒ぎ立てる姉弟。
こいつら、ここがどこか分かってるのか。そんなに騒ぐと別の魔物が寄って来るぞ?
「うるさい。騒ぐと魔物が来るぞ」
「「はぐっ!」」
両手を口に当てて黙る姉弟。姉弟とは同じ仕草をするものなのか? よく分からんな。
「まぁいい。あっちの魔物はまだ殺してない。何体か分けてやるから倒して経験値を稼げ」
両手を口に当てたままコクコクと肯く姉弟。やはり同じ動作だ。姉弟とは不思議なものだな。
氷漬けの森狒々に向かうと、後ろから慌てて姉弟も付いて来る。
そうして森狒々の前に立つと、氷を融かすために炎魔法を放った。
こいつらの実力では、この氷を割る事もできないだろうからな。
【一本指炎】
人差し指から直径二センチ程度の炎が放たれた。
一体の氷漬けの森狒々に着弾すると、ゴオォォォ! っと炎が燃え上がり、氷が融け、中の森狒々が炎に包まれ倒れた。
【一本指水】
俺はギリギリのところを見極め、水魔法で炎を消した。
我ながらいい見極めだ。HPが残り三だな。
「さぁ、いいぞ。こいつはお前にくれてやる。さっさと経験値を稼げ」
「う、うん……」
初めに短剣を構えたのは姉のミャール。瀕死状態で気絶している森狒々に恐る恐る狙いを付け、短剣を振り下ろした。
ガキーン!
「痛―――い! なにこの硬さ! 手が痺れちゃった」
「そ、そんなに硬いの? ぼ、僕も試してみる」
次は弟のタックが短剣を振り下ろした。
ガキーン!
「ぐっ、本当だ! 硬すぎるよー」
姉弟揃って手が痺れてしまったようだ。二人して手を振り回して痺れを取っている。
なぜ、お前達は同じ動作をするのだ。不思議だ。
それから交互に短剣を振って森狒々に突き立てるが、まったく刃が通ってない。
【鑑定】してもHP三から減っていなかった。
「……」
こいつらには無理かもしれない。
それでも必死に短剣を振り続ける姉弟だが、何度か短剣を斬りつけたら、どうやら短剣がボロボロになってしまったようだ。
切っ先は欠けてるし、刃の部分もギザギザになってしまって、短剣は使い物にならなくなってしまった。
森狒々のHPは三。姉弟の攻撃は、全く通ってなかった。
パッキーン!
とうとうミャールの短剣が折れてしまった。
パッキーン!
続いてタックの探検も折れてしまった。
こいつらの腕力って大した事ないのに、それでも何度もやると折れてしまうのか。
「ミャー!! 一つしかない短剣が折れちゃったー!」
「僕も! また出費が嵩んじゃうよー」
はぁ~……
涙目の姉弟に武器を渡してやる。
刃渡り三〇センチのダガー。『トゥルーダガー』短いが貫通力に優れている短剣だ。
短剣術の得意なこの二人には合ってるだろう。
「これを使え」
「えっ、いいの?」
「僕にもあるの?」
「……こんな所で時間を食ってるヒマは無いんだ。さっさとやれ」
「うん、ありがとう」
「ありがとう」
姉弟は俺から『トゥルーダガー』受け取ると、森狒々に一刺しし、止めをさした。
刺した途端に「凄っ! まるで生肉に刺してるみたい!」と感想を漏らしたミャール。
それは間違いなく生肉だぞ。と、密かに心の中で突っ込んだ。
「うわ―――――。力が溢れてくるー」
「えっ、それってレベルがたくさん上がった時のやつじゃないの? ギメイ! 僕もやりたい!」
そのつもりだったからな。言われなくてもやってやるさ。
【一本指炎】と【一本指水】を使い、もう一匹レベリングのための餌を用意してやった。
その間に俺は『ファルコンソード』で凍り漬けのままの森狒々を斬っていく。
レベルアップの身体変化が収まったのか、姉弟がキラキラ目で待っている。
次を待ってるんだな……
二体の森狒々を瀕死にしてやると、姉弟が『トゥルーダガー』で刺す。
その間に俺は別の森狒々を斬る。
二三体の森狒々を全滅させるのに大して時間は掛からなかった。
姉弟が四体ずつ、残りは俺が経験値の餌にしてやった。
解体してもいいが、大した素材も無いし、全て【十本指炎】で燃やしてしまってから魔石を確保した。
姉弟のレベルは二〇を超えたか。元のレベルが低すぎたせいか、何も加護が無い割りには上がった方だな。
因みに俺はレベル六〇になった。ボスは俺が頂いたし、加護もあるからな。
まだ魔王の手下とも戦うには至らないが、もう魔王と戦う予定は無い。この森を抜けるには何とかなりそうだし、森を抜ける頃には更に強くなってるがな。
名前 アスラム・ヴァン・ザッツェランド 男 15歳
レベル 60
種族 人族
状態 正常
HP 2182/2182 MP 2389/2389
攻撃力 2414 防御力 2008 速さ 2588
器用 2989 賢さ 1887 運 30
スキル 【武芸百般】【全魔法習得】【多重魔法】【魔力操作】【思考超加速】【多重列思考】【MP消費超減】【詠唱破棄】【身体超硬化】【身体超加速】【身体超強化】【無限再生】【超回復】【痛覚無効】【身体異常無効】【即死無効】【孤独耐性】【予見】【隠密】【察知】【威圧】【料理】【鍛冶】【調合】【結界】【鑑定遮断】【鑑定偽装】【調教師】
アーツ (体術)Max(盗賊技)Max(暗視)Max(解体)Max(調理)Max(槌打ち)Max(採取)Max(語学)Max(算術)Max
適正魔法 火・水・風・土・炎・雷・氷・闇・光・回復・空間・重力・合成・付与・日常
ユニークスキル 【亜空間収納】【鑑定】【周辺探索】【地図】【翻訳】【限界突破】
称号 勇者 異世界人 渡り人 踏破者 殲滅者 剣聖 賢者 暗殺者 狙撃王
名前 ミャール 女 16歳
レベル 22
種族 獣人族(マーゲイ・猫種)
状態 正常
HP 242/401 MP 51/138
攻撃力 375 防御力 320 速さ 443
器用 303 賢さ 224 運 488
スキル 【木登り】【穿突】【隠蔽】
アーツ (採取)2/10(忍び足)5/10(短剣技)3/10(危険察知)5/10
適正魔法 風
ユニークスキル なし
称号 なし
名前 タック 男 15歳
レベル 21
種族 獣人族(マーゲイ・猫種)
状態 正常
HP 240/435 MP 50/166
攻撃力 400 防御力 296 速さ 423
器用 377 賢さ 390 運 394
スキル 【木登り】【穿突】【隠蔽】
アーツ (採取)4/10(忍び足)5/10(短剣技)3/10(料理)2/10(危険察知)7/10
適正魔法 風・土
ユニークスキル なし
称号 なし
俺の運が異様に低い以外は、二人が【隠密】の下位スキル【隠蔽】を覚えた事か。
恐らく狼の魔物に出会った時に覚えたんだろう。これだけの死地にいれば嫌でも覚えるか。
今で雑魚の黒狼や森狒々程度だな。この調子なら、森を抜ける頃には二人だけで森を踏破できるようになりそうだ。