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04 第02話 いつの間にかパーティメンバー


 町の門から一時間ほど走ると、森の入り口に到着した。


「じゃーん! ここが私達がいつも薬草を採ってる森の入り口ね。ここまで走って来たから疲れたでしょ。もう昼食にしない? ね、ギメイもそう思うでしょ?」

「それは姉ちゃんだけだろ! ギメイは仕事がしたいから僕達の仲間になりたかったんだよ? やる気のある人の足を引っ張っちゃダメじゃないか」


 そう、俺はギメイと偽名を使った。我ながらいいネーミングセンスだと思う。

この姉弟が通報するとは思えないが、念のためだ。アスラムと本名を名乗っても良かったのだか、どうせここでお別れするのだ。この姉弟に迷惑が掛かると後味が悪いという意味もあった。因みに姉弟の名は、姉がミャール、弟がタックだった。


「では、こうしよう。俺が薬草を集めてくる。その間に、お前達は昼飯を食えばいいだろう。飯の用意は既にある」


 そう言って、食卓テーブルと少し低めのテーブルを出し、椅子を並べ、低いテーブルには肉がたっぷり入ったスープの大きな寸胴鍋を出し、お玉や食器を並べて行った。

 パンも山ほど出して、更に提案した。


「一時間ほどで一度戻って来る。食事の時間もそれぐらいで終わるだろ。それからもっと必要であれば、それから全員で探しに行けばいいんじゃないか?」

「う、うん…ジュル…そうだね…ジュル」

「そんなの悪いよ…ジュル…みんなで行けば…ジュル…いいじゃないか…ジュル」


 姉弟の目は鍋に釘付けだ。さっきは「超希少な収納魔法!?」とか言って出てくる椅子や机に驚いていたが、今は目の前の料理に完全に心を奪われているようだ。

言葉は俺に言ってるが、もう心は鍋に集中してしまっている。

 そんな姉弟に「じゃあ、一時間後に」と告げて、俺は森に入って行った。

 【亜空間収納】にも薬草は入っているが、この世界の薬草と違うと後々面倒だし、【鑑定】もあるから間違うような事は無い。さっさと終わらせて、町からもっと離れよう。


 薬草採取はお手の物だ。薬草採取から魔法薬の精製・練成まで、自分で全部やって来たのだから。

 ただの低級ポーションぐらいなら、瓶も含めて一分で百個は作れるだろう。一個何秒ではなく、百個をまとめて完成までの工程をひと息にやってしまうのに掛かる時間が一分なのだ。短時間で作れる低級ポーションと言っても、俺の作る低級ポーションは、こいつらぐらいのレベルなら瀕死から全快まで余裕で回復させられるだろう。



 念のため、魔物除けの結界を姉弟の周りに張り、森へと入った。

そして、約束の一時間後に戻って来て唖然とした。

「こ…これは……」

 俺の出した料理が綺麗に無くなっていたのだ。あれは俺の一か月分だぞ? 多い方が説得に成功しやすいと思ったし、残ったら持って帰らせてもいいかと思って出したが、二人でとはいえ、まさか一食で食べきってしまうとは……


 食卓テーブルの横では、パンパンの腹をした二人が苦しそうに眠っていた。

「……く…苦しい、もう食べられない……むにゃむにゃ……」

と寝言まで言ってる始末だ。

「…ス、スープの具にされるー……むにゃむにゃ……」

 どんな夢なんだろうか……


 寝言は寝て言え、を実践してる二人だが、そりゃ苦しいだろうな。食いすぎだ。

 しかし、ここも少ないとはいえ魔物は出るのに、なんて無防備な姉弟なんだ。こいつら、長生きできそうもないな。というか、一時間後に戻ると言ったはずなんだが、こいつらは聞いて無かったのだろうか。


 さて、どうしたものか。

 俺としては、さっさとこの場を出発して町からできるだけ離れたい。かと言って、この姉弟をこのままにもできまい。

 回復や身体異常回復の魔法は持っているが、満腹に効果があるものは無い。それは魔法薬でも同じ事だ。どうせ、これ以上は口にするのも嫌だろうからな。


 仕方が無い、この姉弟が目覚めるまで待ってやるか。

 この森は、さっき行って見た限りだが、かなり深い森のようだし、森を抜けるルートを取るのがいいだろう。この森に入ってしまえば追っ手を撒くのも楽だろうからな。



「あーよく寝たー!」

「んへ? あれ? 鍋が襲って……ここどこ?」

 ようやく二人が起きたが、もう陽が暮れかかっていた。


「……」

「あっ! 薬草!」

「え? ホントだ! なんで?」

 寝起きで、目の前に山と積まれた薬草を見て驚く二人。


「……」

「「……」」

 薬草の山の前にして、顎に手を当てて考え込む姉弟。

 そして顔を見合わせて思い出したように叫んだ。


「「ギメイだ!!」」

「……」

 姉弟は同時にガバッと跳ね起きると、すぐに俺を見つけた。

 そりゃそうだろう、ずっと横で椅子に座ってるのだから。


「ギメイ! これ何! 凄っごく沢山あるんだけど!」

「僕もこんなに沢山の薬草を見たことないよ!」

「……」

 高さ二メートルぐらいの薬草の山を見て驚く姉弟だったが、他に言う事は無いのだろうか……。


「驚いているところ悪いが、俺はもう行く。これは置き土産だ、お前達の好きに使ってくれ」

「え? 置き土産ってどういう事?」

「もう行くってどこへ?」

 姉弟は疑問を口にするが、俺は構わず続けた。


「門を出たかったので利用させてもらったが、俺はお前達のパーティに入るつもりは初めから無い。実際、俺も助かったから、飯も用意したし手土産も用意した。悪いがお前達とはここまでだ、もう暗くなるから薬草を持って早く町に帰れ」

「なに言ってんの? 私も一緒に行くに決まってんじゃない! あんな美味しい料理を見逃すはずが無いでしょ!」

「姉ちゃん! そこは私達でしょ! 僕も一緒に行くって!」


 こいつらは何を言っているのだ。こいつらといると【思考超加速】と【多重列思考】がフル回転だ。


「それにね、ギメイって偉そうすぎるよ。私と年は変わんないでしょ。一体いくつなのよ、私より年下なんじゃないの?」

「でも姉ちゃん、これだけ実力があれば偉そうにしたって……」

「あんたは黙ってなさい!」

「はい……」

 姉の言葉にダメ出しをする弟だったが、一喝されてすぐにシュンとなってしまった。

 そんな事より、こいつらは何の話をしているのだ? 一緒に行く? 誰とだ。俺は今までパーティなど組んだ事が無い。いつも一人だった。


 召喚されてから『奴隷の首輪ネックレス』を装着され、大した装備も与えられず『魔王討伐』の過酷な旅に一人で放り出されたのだ。

 レベル上げも武器や防具の手配も全部自分一人でやってきた。鍛冶も料理も訓練も、何もかも全部一人でだ。

 索敵から討伐して、解体や部位の選別に後処理に料理。武具作りに鍛錬もやって来た。全て一人でだ。


 寝る間も惜しんで過酷な旅の末にようやく魔王を倒した後で、もう一人の魔王も倒せと言われた時には、この国を滅ぼしてやろうかと本気で考えた。

 しかし、『奴隷の首輪』を装着させられてたので、それも叶わず、自殺する事も『奴隷の首輪』のせいで許されない。命令を聞くしかなかったのだ。

 ただ、まだ救われたのは異世界チートのお陰で、スキルやアーツが身に付け易かった事か。スキルを身につけると、すぐにできるようになれたのは有り難かった。それが無ければ未だにあの世界で縛られていただろう。

 そんなボッチな俺に付いて来ると言っているこいつらは何が目的なんだ。


 今までにも臨時パーティに入れてもらった事はある。だが、|ネックレス(奴隷の首輪)には、同行者は最長三日までという制約まで態々付けてくれていたからいつも一人だった。

 あの時の裏切られ方と言ったら、普通でも人間不信になる事間違いなしなぐらいの変わり身だったからな。

 向こうは覚えてないだろうが、こっちは心が真っ黒になってしまったからな。


「付いて来るとはどういう意味だ?」

「そのまんまよ。もう私達はパーティなんだから一緒にいるのは当然でしょ?」

「そうそう。ギメイが自分から言ったんだよ、パーティに入るってね」

 そんな事言ったか? 俺はただ差し出された手を取っただけだ。それが町を出る最善策だと思ったから。


「そんな事は……」

「だからね、これからはギメイが食事担当だよ!」

「異議なーし!」

 俺に話す隙を与えず、次々と決めていく姉弟。

 こいつは中々手強いぞ。本来なら俺の返しも間髪入れずに返事をできるはずだ。それなのに、それ以上の返しをしてくるこの姉弟。この世界の冒険者は強者揃いなのか……


「じゃあ、今日の所は町に帰ろうか。もういい時間だしね」

「そうだね。ギメイ、さっきのって収納魔法だったの? これって収納できる?」

「ああ、できるがちょっと待ってくれ。俺は町には戻らない。戻りたいのならお前達だけで戻ればいい。これぐらいの量なら入る収納バッグも餞別としてくれてやろう」


 【亜空間収納】の中から収納バッグを出して渡してやった。これも自作のアイテムだ。俺には必要なかったが、素材は沢山あったし、作れるものは一通り作っておいたものの中の一つだ。

 あの頃は、もし仲間ができたら渡してやろうと張り切って沢山作ったもんだ。

 後で『奴隷の首輪』の同行者の制約が分かった時の落胆といえばなかったな。【孤独耐性】が無ければ、俺は朽ち果ててたかもしれない。


「おー! 凄―い! いつも羨ましかったんだよね~。高すぎて私達には手が出ないしさ。じゃあ、これはリーダーの私が貰っておくわね」

「あっ、姉ちゃんズルイぞ! 持ち物の管理は僕がやってるんだから、それは僕にくれよー」

「……リーダー?」

 まぁ、二人だから姉の方がリーダーなのは分からなくも無いが、二人でいてリーダーを決める必要はあるのか?


「そう! 私がリーダーなのだ! だからギメイも私の指示に従うのよ」

「そんなの姉ちゃんが勝手に言ってるだけじゃないか。そんな事よりそのバッグをくれよー」

 ……もう付き合ってられないな。もう目も覚めただろうし勝手に出発するか。


「さっきも言ったが俺は町には戻らない。そろそろ出発させてもらうぞ」

「なに勝手に決めてんのよ! リーダーは私だって言ったでしょ! それに町に戻らないんだったらどこに行くつもりなのよ」

「ねえねえ姉ちゃんってば、そのバッグをくれよー」

 弟が煩くて話がしづらい。一人だけ違う話をしてる奴がいると話が真っ直ぐに進まない。

 仕方が無いのでもう一つ収納バッグを出して弟に渡し、姉と話を続けた。


「行き先にアテは無い。だが、早く町から離れなければならないのだ、できるだけ遠くにな。もう追っ手が掛かってるかもしれないから、この森を抜けて行こうと思ってる。いつまでも俺といると仲間だと思われるかもしれんから、それを持ってさっさと町へ帰れ」

「なぁに? 身形や話し方からして奴隷には見えないし、ギメイは犯罪者だったの?」

「ありがとうギメイ。僕が持ってればこのパーティも安泰さ。早速、薬草を集めて回るね」


 犯罪者だと疑うミャールなどお構い無しに、収納バッグを受け取るとさっさと薬草の山を収納にかかる弟タック。タックには俺の素性より薬草の方が大事なようだ。

 薬草の山は一つじゃない。だが、弟の方にはさっき渡した物より収納容量の大きなものを渡したから余裕で収納できるだろう。


 しかし、犯罪者か……確かに家の物を勝手に取って来たから犯罪者と言えなくもないが、家の物だからな。アスラムなら家人だし罪になったとしても、そう重くは無いだろう。追っ手を掛けられるほどでは無いな。

だが、この黒髪と黒目のアスラムを、あの家の者達が放っておくとは思えない。あれだけ長い年月監禁して来たのだ、すぐにでも追っ手を掛けて来るだろう。こいつらの訳の分からん話に付き合うのもおしまいだ、見つかる前に移動を開始しよう。


「事情は説明した。義理も果たしたから俺はもう行く」

「そうね。まぁ、あなたが犯罪者とは思えないし、そろそろ行きましょうか」

「全部、収納終わったよ。凄く入るんだね、この収納バッグ。本当に貰ってもいいの?」

 出発準備はできたようだな。収納バッグも気に入ったようだ。その程度の収納量のものなら沢山ある。【亜空間収納】と同じぐらいのものが作れないか色々と試行錯誤をした時があって、その時にも大量に試作したからな。

姉の方もようやく出発する気になったようだし、これで心置きなく出発できそうだ。


 俺は姉弟に背を向け、森に向かって歩き出した。急ぐのは森に入ってからでいいだろう。

 姉弟と別れた場所から十メートルも行けば森が始まる。

 森に足を踏み入れると声が掛かった。


「それでどっちに行く気? 行き先は決めてないんでしょ? だったらこっちね、進路はリーダーが決めるものだからね」

「まだそんな事言ってんの? いつリーダーって決めたんだよ」

「そんなの『惰眠を貪る猫スリーピングキャット』を結成した時から決まってるわよ」

「決まってるわよって、だいたい『惰眠を貪る猫スリーピングキャット』なんてのも姉ちゃんが勝手に言ってるだけだからね。二人でパーティってのも変だし、パーティ名もパーティ登録も冒険者ギルドではできなかったじゃないか」

「あれは人数制限があって二人だから登録できなかったのよ。でも。、もう三人よ、だからパーティ登録できるでしょ。次の町ですればいいじゃない。もちろんリーダーは私だけど」


 一…二…三…俺も計算に入ってるな。

 いや、そうじゃない! なぜ、こいつらがいるんだ!

 ダメだ、どれだけ考えても答えに辿り着かない。


「……おい」

「おいって何よ! ちゃんと名前を呼びなさい! 私にはミャールって名前があるんですからね! ちゃんと教えてあげたでしょ」

「……」

「違うわね。ミャールの姐御、でもなくて…リーダー……そう、リーダーよ、リーダーと呼ぶのよ、分かった?」

「……」

「ホントにもう…ギメイは姉ちゃんがリーダーなのが気に入らないんだよ。だから返事に困ってるじゃないか」


 こいつらの思考は、俺とどこまでズレてるんだ。まるで言ってる意味が分からないぞ。


 だいたい、お前達レベルでこの森を抜けられると思ってるのか。【周辺探索サーチ】と【地図マップ】で見る限り、お前達だけなら五〇メートルも行けば、楽に殺してくれる魔物がゴロゴロしてるぞ。


 因みに俺の【周辺探索サーチ】と【地図マップ】はユニークスキルだ。

 だから非常に優秀だし、融通も利く。今まで何度となく、このユニークスキルには助けてもらってきた。そのユニークスキルで見る限り、お前達二人はこの森ではダントツで最弱だぞ。


「付いて来るのはいいが、お前達程度ではこの森だと厳しいんじゃないのか?」

「そんなの分かってるわよ。だからー、戦闘担当のギメイがいるんじゃない」

「そこは僕も姉ちゃんに同意だね。今まではこの森の奥までは行った事は無いよ。せいぜい五メートルぐらいかな? ちゃんと自分達の実力は分かってるつもりだよ」

 今もドキドキなんだけどね。と、苦笑いで教えてくれるタック。


 つまりは俺をあてにしてるんだな。俺と一緒に行動する限り守ってはやれるだろうが、こいつらいつまで付いて来る気なんだ。


「言っておくが、俺はレベル1だぞ。お前達よりレベルは低いんだ。自分の事は自分で守れよ」

「「……え!?」」


 こいつらが弱いといっても流石にレベルが1という事は無い。だが、今の俺は、というかアスベルは間違いなくレベル1だ。

 俺には勇者時代のスキルやアーツがあるからこんな森など苦にはならんが、こいつらにはどう足掻いても無理だろうな。例えば、俺がこいつらに最強装備を渡したとしてもだ。




 名前 ミャール 女 16歳

 レベル 9

 種族 獣人族(マーゲイ・猫種)

 状態 正常

 HP 23/23 MP 19/19

 攻撃力 17 防御力 16 速さ 19

 器用 11 賢さ 10 運 9

 スキル 【木登り】

 アーツ (採取)2/10(忍び足)2/10(短剣技)1/10

 適正魔法 風

 ユニークスキル なし

 称号 なし




 名前 タック 男 15歳

 レベル 8

 種族 獣人族(マーゲイ・猫種)

 状態 正常

 HP 24/24 MP 20/20

 攻撃力 18 防御力 17 速さ 17

 器用 13 賢さ 12 運 11

 スキル 【木登り】

 アーツ (採取)4/10(忍び足)2/10(短剣技)1/10(料理)2/10

 適正魔法 風・土

 ユニークスキル なし

 称号 なし



 うむ、弱いな。だが、今のアスラムの方がステータス的には弱い。が、俺には補正がたくさんあるから、すぐに追い抜くのは分かってるがな。



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