33 第31話 旅立ち
昨夜は結局、レディの用意してくれた森で寝た。シラアイカのところは煩すぎて眠れなかったのだ。
朝、王都の門が開くと同時に入門し、子爵邸にやって来た。今日も、三〇分程で入門できた。もう慣れたもんだ。
「アスラム様、おはようございます」
「おはよう」
「おはよう、アスラム」
「アスラムだ、おはよう」
「おはようございます」
姉弟は朝食中だった。
まだ、おかわりをするようで、終わりの見えない朝食が続いてるようだ。
その間に、執事が俺の元に来て、今後の予定を教えてくれた。令嬢は朝食は終わってるようだが、姉弟と話をしているので座ったままだ。
「アスラム様、朗報でございます」
「なんだ」
「はい、今朝までに入った情報によりますと、奥様の弟君がお亡くなりになったそうです」
「そんな大きい声で言ってもいいのか。ここの身内なんだろ」
「ええ、問題ありません。奥様はここにはいらっしゃいませんし、お嬢様も特には気にしてらっしゃいませんから。逆に、亡くなってせいせいしてらっしゃるようです」
貴族とはそんなもんだったな。身内でも競争相手なら蹴落とし、踏みにじるような奴ばかりだったな。
「ならば、もう立てるのか」
「それが、誠に申し訳ございませんが、葬式に参列しなければなりませんので、出発は早くても一週間後になります。アスラム様のご予定には間に合いません」
見栄で生きる貴族だから、外向きの体面は整えなければならないから、そうなるだろうな。
「わかった、今回の護衛はキャンセルでいいんだな」
「はい、仕方がありません。危険も無くなりましたし、通例に従い私兵の護衛で向かう事にします」
執事は残念そうだが、俺もそこまで待つ気は無い。危険が激減したのなら私兵だけでも十分だろう。
執事の当初の計画では、私兵で囮を立てて統治区へ向かい、俺の護衛で令嬢を送る予定だったようだ。
だが、義弟が死んだので危険も減り、私兵の護衛だけで十分だと判断したようだ。
義弟が死ぬぐらいだ、他にも被害はあったのだろうな。俺の見てた場所でも怪我をしてる奴は多かったからな。死んだ奴もいたかもしれんな。
「どれぐらいの被害だったのだ……いや、それはいい」
そうだ、誰がどれだけ死のうが俺には関係ない。ただ、俺の知ってる龍が関わってるだけに気まずくもある。俺が関わってたと分かる奴もいないだろうし、変に聞いて余計な詮索も受けたくないしな。
だが、執事は律儀に答えてくれた。
「はい、門の外は思ったよりも少ないと聞いております。それより塀の上や中にいたものに死んだ者が多かったようです。弟君も、塀の中の詰所にいたようです」
そうか、運がいいのか悪いのか。この子爵家にとっては運がよかったのだな。
いや、ちょっと待て。まさか、この執事が……
「なにか?」
「いや、お前も貴族に仕える者なのだと思っただけだ」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
「別に褒めてないがな。なんなら、あいつらを雇ってやるか」
「ミャール様とタック様をですか?」
「食費は掛かるが、実力的にはまぁまぁだ。ここの私兵を全員相手にしても姉弟二人だけで倒せるだろう。あとは、礼儀を仕込むのが大変そうだがな。それに、貴族に憧れてるようだ、色々と教えてやればいい」
「それは妙案ですね。では、交渉をしてまいりましょう」
執事は軽やかな足取りで、未だ朝食中の姉弟の元へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《ザッツェランド領主邸》
「アーノルド、最近の奴の様子はどうだ」
「えっ? あ、あー、地下のあの野郎のことだな。ま、まぁ、問題ないぜ、いつも通りだ」
「そうか……まだ生きておるのか」
やっべー! そろそろバレちまいそうだ。
親父が地下に行く事は無ぇが、もし行ったらすぐにバレちまう。裏で捜索依頼はしたが、もっと大々的に探さねぇといけねぇか?
いや、大々的な捜索をすると、親父にもバレちまう。そうなったら俺もお終めぇだ。ヤバいぞぉ、どうする? どうすりゃいいんだ?
最後に見たのは三週間ほど前だ。その時には奴はいたんだ。だが、その次に見た時にはもぬけの殻になってやがった。一体どうやって逃げやがったんだ。
牢の鍵はかかってたし、意味がわかんねぇ。本当に溶けちまったって事は……いやいや、そのあと食器や装飾品が無くなって俺のせいにされちまってんだ。そのお陰で今月はもう小遣いが貰えねぇ、間違いなくあいつの仕業だろ? だったら、どうやって抜け出しやがったんだ。
いや、それはもうどうでもいい! 今はあいつを見つけなけりゃ、俺が終わるって事がヤベぇんだ。だってよ、あいつの世話係をやってたから、この家でデカイ顔ができてたんだ。親父の押し付けって分かってたからよ。だけど、あいつがいなくなりゃ、俺ぁ破滅だぜ。
どうする? 探しに行くか? いやいや、俺がいねぇ時に親父が地下に行くとは思えねぇが、もしもん時がある。
だったら、探し手を増やすか。それも無ぇ。秘密を知る奴を増やすわけにはいかねぇ。
凄腕を雇うか! それなら一人か二人で済むぞ。いやいや、凄腕っていくらかかんだ? そんなに金は無ぇぞ。
どうする? どうする? まず大事な事は親父に絶対バレちゃならねぇって事だ。
だが、グズグズしてたらドンドン奴が逃げちまう。あんなヒョロヒョロな奴が、そう遠くへ逃げられるわけがねぇ。まだこの町に潜んでんじゃねぇか? おぉ! そうだぜ、奴はまだこの町にいるはずだ。だったら話は簡単だ。俺の息の掛かった奴らに探させりゃいい。
よし! まずは集合かけるか! さっさと捕まえてバレねぇうちに牢に放り込んじまわねぇとな。
ん? 牢の鍵って、どこにあんだろな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ご主人様?」
「どうだった」
「ま、また転移でございますか?」
執事と別れると、その場から森へと転移してきた。
「何か問題があるか」
「い、いえ、まだこちらが慣れないだけで、問題はありません。見張りの件でございますね?」
「そうだ」
「お預かりしたティーカップの紋章の馬車も騎馬も見つかりませんでした。近くの町の中まで探せればいいのですが、今の力ですと森沿いの街道ぐらいしか目が届きませんので」
「なんだ、それは俺への当て付けか。わかった、更に魔改造してやろう」
「はい?」
すぐにレディの本体まで転移し、三千個程度しかない魔石(特大)を五個投入してやった。
前回は魔石(特大)一個で超強化されてしまったが、今回はそれを五個だ。あれから何日か経つし、耐えられるだろ。前回一個しか与えなかったのは、こいつが一個しか耐えられないと思ったからだ。耐えられなければどうなるか、その時は破裂してしまうのだ。
もう見事なぐらい、何も残さず破裂してしまうのだ。
ふむ、耐えられたようだな。ん? これは、シラアイカより強くしてしまったか? まぁいい、俺の下僕をやると言うなら強い方がいいからな。
「おい下僕。もう話ができるか」
「は…い。もう少し…休めば大丈夫です。そ…れと、私は…下僕ではありません。従者です。その…前に、名前でお呼びください」
従者? そうだったか? まぁどっちでもいい。
「話はしなくていいから聞いてろ。今から俺が作った人形をくれてやる。それを使えば森から出る事もできるようになるだろう。あとは【森同調】と【精神支配】が更に強力になってるはずだ。それを使って森の魔物を操り視覚も同調させて見張りを強化しろ。町の中にも探しに行けるはずだ」
レディは肯き了解を示した。
レディが了解するのを確認すると、一体の人形を収納から出した。
勇者時代に作ったゴーレムで、強化させすぎて、土に還すのが勿体無くて取っておいたやつだ。
超特大魔石を内包させ、色々とスキルも使えるように作った。
外装は、俺のパンチを一発は耐えた。一人目の魔王を倒した後だったから、今より十倍は強かった時のパンチを耐えたのだ。龍に体当たりを食らってもヒビ一つ入らないだろう。
顔は無くのっぺらぼうになってるが、ゴーレムに顔は必要ない。背格好は一六〇センチに作ったから、人間に命令する感じで扱いやすかったのだ。
「これを媒体にすればよろしいのですね」
「ああ、今のお前の魔力ならこちらに半分移しても龍より強いだろうな」
「ありがとうございます。これでご主人様に何処までも付いて行くことが出来ます」
「いや、付いて来なくていいんだが」
俺の話も聞かず、レディはスピリチュアルボディを一旦消し、大きな魔力を持ったスピリチュアルボディを出し直した。
そのスピリチュアルボディが、俺の出したゴーレムと合体すると、ゴーレムに変化が現れた。
まずは顔が出来た。レディそっくりな顔だった。肌も土色から真っ白に変わり、長ーい緑色の髪が生えてきた。胸も出てきて腰も括れができ、お尻も丸みをおびてきた。
もう、何処から見ても美しい人間の女性になってしまった。
スピリチュアルが憑依するとこうなるのか。これは知らなかったな。
しかし、裸のままだがミャールの時のように頭に血が上らないな。俺も大人になったという事だ。
「ご主人様、鼻血が出ております」
レディに指摘され手で触ってみると、二筋の鼻血がツーっと出ていた。
なぜだ……こいつは人形なのに……しかも魔物だというのに、なぜ鼻血が出る。
急いで服を作り、さっさとレディに着せた。出来上がるまで着せておいたローブもそのままレディのものとなった。
前回、ミャールに作ってやったので、全部作るのに五分と掛からなかった。
「では、あとは頼んだぞ。今日中に見つからなければ後は見張らなくてもいい。俺は今からここを離れるから、もう見張る必要が無くなる」
「畏まりました」
「では、達者でな」
「……」
まずは、王都のハズレに転移し、そこから国境を目指して歩き始めた。レディから発見の報告が来るまでゆっくりでいいだろう。
アスラムになってから森や山や海には行ったが、平地をゆっくり歩くなど久し振りだからな。
「で…なぜいる」
「……」
「お前の事だ」
「私でございますか?」
「そうだ、お前以外に誰がいる。お前には見張りを頼んだだろう」
「はい、見張りはしております。それと、レディとお呼びください」
「……付いて来いとは言ってない」
「はい、聞いておりません。ですが、従者とは主のお世話をするものです。ご主人様がここを離れるというなら付いて行くのは当然でございます」
こいつ……さっき見た時より強くなってやがる。移し直してから追いかけて来たな。
全ステータスの八割ぐらいをこの人形に移してるぞ。
「森の守りと頼んだ見張りは大丈夫なんだな。レオフラフィは戻ってこないかもしれないんだぞ」
「はい、問題ありません。もし、何かあっても森との往復は一瞬で出来ますから」
「そうか……」
「はい!」
ミャールとタックの姉弟には別れを告げずに出てきたというのに、こいつがいればまた許可証問題が出てくるではないか。
子爵家の短剣を執事がそっと持たせてくれたから何とかなるかもしれないが、困ったもんだな。
「お前は食事はいるのか」
「レディとお呼びください」
「……レディは食うのか」
「いえ、食べません。栄養が必要になったら森に戻って回復します。本体はいつも森にあるのですから。この身体は便利でございますね、転移術も使えるのですね」
そうだった、確かに使えるように作ったな。
「武器はいるのか」
「いりません。魔法もありますし、この身体だけで十分無敵でございます」
「……そうか」
「はい!」
確かに、シラアイカより強くなってるな。
「それで…いつまで付いて来る気だ」
「どこまでも」
「そうか……」
アスラムが戻って来た時のためにも従者は必要かもしれんな。ならばメイド服ぐらい作ってやるか。
行った先にはシラアイカもいるんだ、魔物が一人増えてもいいだろ。見た目は人間だしアスラムも寂しい思いをしなくて済むな。
「ならば、このアスラムに忠誠を誓えよ」
「? …はい!」
最後までお読み頂きありがとうございました。
これでこの物語は終わりです。
王道チートを書きたくて書いてみましたが、予想通りと言いますか、浅いストーリーになってしまいました。申し訳ありません。
また次回作でお会いしましょう。




