31 第29話 北門襲撃
姉弟が静かな内に義弟の情報を聞き出しておいた。今は同じ王都にいてるそうだが、北側の門の守り役の下役として詰めているそうだ。
令嬢と執事の話から、義弟の狙いとは子爵の爵位もそうだが、レイラルダーズ家の領地を狙っての事だと予想していた。
本来、国から子爵位に領地を治める権限は与えられない
だが、領地を与えられている伯爵以上の爵位を持つ者から領地の一部を管理するように、一地方を任されている子爵や男爵は多数存在する。
この世界は魔物が多い。故に、領地内でも飛び地となっている地方も多い。そういった飛び地まで領主だけで管理するのは到底無理なのだ。
レイラルダーズ家も、そういった一地方を任されている貴族のひとつだった。
当主であるレイラルダーズ子爵は気弱ではあるが、不正は一切働かない謹厳実直な性格を買われ、先代までは領主の城勤めだった男爵から、子爵へ陞爵を推薦してもらって地方管理貴族になったのだった。
その後、結婚をし子供にも恵まれたが、長女のアンリエット以降は男児も生まれたが、小さいうちに病で亡くしており、現在の子供はアンリエットただ一人の状態だった。
そこに今回の男児誕生でレイラルダーズ子爵は大いに喜んだが、まだ0歳。成人まではあと十五年もある。
「それで、その義弟が焦ったのだろうな」
俺の予想には執事が答えてくれた。
「はい、跡取り誕生には相当焦っていると思います。今までは屋敷内にいればお嬢様は安全だったのですが、そうも言ってられなくなったようです」
「だが、賊を捕まえたのだ、これで証拠としては十分だろ。そんな奴は殺してしまえばいいのだ」
「それが、そうも行かないのです」
「なぜだ、さっさと吐かせれば相手も失脚する。俺が吐かせてやろうか」
「い、いえ、それには及びません。まだ殺してしまうわけには行きませんから。それに、この程度では失脚させるのは難しいかと」
「難しい? 有力な証拠になると思うがな。それに、殺してしまったら証拠にできないだろ。口だけは聞けるように生かせておくぞ」
「そ、それも心証を悪くしてしまいます。私どもにお任せください」
「ふむ」
何を想像したのか知らんが、この世界では少しやり方が違うのかもしれん。回復魔法は最近マイブームなのだが。
手を斬っては回復、足を斬っては回復。十回も繰り返せば魔王の側近でも大人しく情報をしゃべるのだがな。最終的には元通りにする自信もあるんだが。
まぁ任せろと言ってるのだ、俺は北門にいるという義弟でも見て来るか。
「アスラム様が国境へ行かれるというのも私どもに取っては都合がいいのです」
「どういう意味だ」
「はい、そろそろレイラルダーズ家が任されている統治区へ戻る時期なのです。統治区は国境に一番近い場所にありますので、護衛も依頼したいと思っていましたから」
「ほぉ、それは興味深い」
「この騒動の問題を終わらせてから戻りたかったのですが、アスラム様に護衛して頂く方が安全でしょう。あと三日でできるだけの事をして、できなければ次回に回しましょう。お嬢様の安全が最優先ですので。しかし、今日はあなた方を招いて正解でしたね」
ふむ、俺の出発に合わせたスケジュールを組んだか。この執事は頭の回転も早いし臨機応変な対応だな。
だが、何故そこまでされても我慢しているのだ。あと、一番矢面に立っている当主は安全なのか。
「子爵は安全なのか」
「はい、旦那様には私兵の中でも腕利きを十名つけていますし、王都内で目立った動きをすると相手のバックにいる方でも揉み消せないでしょうからね」
「バック? それが歯切れの悪い答えの理由か。だが、ここにも賊は来たぞ」
「この度の賊の侵入は相手の力と焦りを見誤った私の落ち度でした。相手も相当焦っている証拠ですが、流石に街中で旦那様に直接は仕掛けて来ないでしょう。ですが、早々に対策を講じないといけませんね」
あと三日ぐらいなら、この執事に任せておけば凌げるか。あとは姉弟次第だな。
「おい、いつまでも呆けていないでさっさと動け。時間は無いんだぞ」
「なっ! 誰のせいで悩んでると思ってるのよ! どうやってレオを連れて来るか悩んでんのに!」
「そうだよ、僕だってレオの寝床の用意なんてどこも思いつかないよ」
そんなに難しい問題か?
「レオフラフィを入門させるのには何処の許可がいるんだ。それに、レオフラフィは誰の護衛をするんだ。そこに頼めばいいだろ」
「どこの許可……あっ! 冒険者ギルド!」
「誰の護衛……あっ! ここだ!」
冒険者ギルドが許可を出すのか、それは知らなかったな。だが、それなら話は早いのではないか。あの大雑把な冒険者ギルドの事だ、許可ぐらいすぐに出してくれるだろう。
それに、いくらレオフラフィが大きいと言っても、この屋敷の庭なら十分入れる。庭にレオフラフィを置いておくだけでも十分な牽制にはなるだろうしな。
思い立った姉弟は、すぐに行動を始めた。
ミャールは冒険者ギルドに向かったようだし、タックは執事にレオフラフィの説明をし、庭に入れてもいいか許可を求めている。後は任せてもいいだろう。
ならば俺は北門に様子を見に行くか。
そうして一人でやって来た北門だが、結構な時間が掛かった。普通に歩いて来たのだが、二時間も掛かってしまった。
どいつが義弟か知らないが、悪そうな人相の奴を鑑定して行けば分かるだろう。と思っていたが、俄かに周囲の動きが慌しくなってきた。
門の周辺にいる人々が上を向いて騒いでいたのだ。塀の上にいる見張り兵も上に向かって弓や杖を構えたりしている。何人かは報告のために門から走り去っている者も見受けられた。
なんだろうと周辺探索を広げる前にそれは起こった。
ドゴ――――ン!!
破壊音と共に、高さ十メートルで、五メートルの厚みはある塀の一部が弾け飛んだ。
更に破壊音が続き、見る見る塀が破壊されていく。
入門で並んでいた者達も、緊急事態で兵に誘導され王都内に逃げ込んでいる。入りきれない者は外を逃げ惑っているようだ。
魔物の咆哮が聞こえ、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえる。さっきまで何事も無かったのが嘘のように、いきなり始まった地獄絵図。
しかし、人間の兵士とは、こうも弱いのか。相手に全くダメージを入れられないまま吹き飛んでいくぞ。
相手は空を一面覆う程の龍の群れだった。
もしかしたら、俺が狩った残りの龍達の報復かもしれんな。
龍のブレスや体当たりで北門は現在進行形で破壊され続けている。未だに塀を越えて入ってくる龍がいないのが何故なのかは分からないが、門は既に無くなってしまい、塀も一箇所どころか何箇所も破壊され、早くも原型を留めなくなった場所が増えてきていた。
絶え間なく続く破壊音に逃げ惑う人々の悲鳴。迎え撃つ兵士の怒号。狂瀾怒涛の様子は収集が付かなくなって来ていた。
原因が俺のせいかもしれんし、対処してやるか。倒したとて誰にもやらんがな。
未だに破壊が続く塀に近寄り、龍を迎撃に入る。
だが、龍達は遠くからのブレスと、そのブレスの狭間に塀に体当たりをしてはすぐに戻るヒットアンドウェイを繰り返すため、中々狙いを定めにくい。
倒すのは簡単なのだが、倒した龍が落ちてきた時の二次被害を考えると、倒すタイミングも考えなければならない。
これは少し面倒だな。一気に外に駆け出すか。
そう決めると、門の瓦礫を飛び越えて外に出た。そこには未だに逃げ遅れた人々が沢山いて、相当な数の死傷者も出ているようだ。
ここでは戦えないと判断して、龍の群れに向かって駆け出した。
「いたのじゃー!」
もうすぐで龍の群れに辿り着こうかという時に、聞き覚えのある声が響いた。
「我が主ー! 探したのじゃー!」
群れの中に一際大きな白い龍が叫んでいる。シラアイカだった。
「近くの人間の町にいると思うたが、やはりおったのじゃ! 妾の勘も冴えておるのじゃ」
自慢気に話すシラアイカ。
こいつ、俺を探すためだけに群れを引き連れて王都を襲撃したのか? やはりバカだったか。
「おい、何をしてるんだ」
「“おい”では無いのじゃ」
「お前は一体何をしている」
「“お前”でも無いのじゃ」
「……」
「アイカと呼んでもよいのじゃぞ?」
「……」
面倒くさい…王都に戻るか。これ以上、こいつと話してたら王都襲撃の主犯にされかねんからな。
踵を返し王都に向かい歩き出すと、後ろから付いて来る気配がする。
バッと振り返るとシラアイカと目が合う。隠れる気は無いらしい。シラアイカの後ろには龍群も健在だ。
俺が歩いた分の距離が稼げていない。シラアイカも王都に向かって同じように付いて来ているのだ。
「おい、お前が来ると軍隊が出て来るぞ。さっきも相当な被害が出ている、大規模な戦闘になる。俺には関係ないが、お前達は帰った方がいいのではないか」
「“おい”でも“お前”でも無いのじゃ」
「……」
「それに、我が主をやーっと見つけたのじゃ。もう離れないのじゃ」
好きにしろ、とは言えないな。このまま付いて来られたら、間違いなく俺が主犯にされてしまう。
元々王都は通り過ぎようと思っていたので入れなくても良かったのだが、今は用ができた。王都に入れなくなるのは困る。
なんとか、こいつには帰ってもらう必要があるな。
「シラアイカ」
「なんじゃ? アイカと呼ぶがよいぞ」
「……一旦、棲家に戻ってろ」
「いやじゃ! ずっと一緒にいるのじゃ!」
「ならば、ここでお前達全員を殺さねばならんが」
ゾゾッ!!
シラアイカを始め、龍の群れが一斉にブルっと震えて硬直した。別に今更人間の味方というわけでも無いが、今王都に入れなくなるのは少し困るからな。
商業ギルドカードに冒険者ギルドカードもあるが、国境近くの貴族推薦があれば非常に有利に越境できるだろう。
そのためにも、少し恩を売りたいのだ。
そうなると、この状況は非常にマズい。王都を襲った龍群と係わり合いがあると疑われたくない。
「今夜、行ってやるから大人しく帰って待ってろ」
「わ、わかったのじゃ。では、これを渡しておくのじゃ」
シラアイカは鱗を一枚剥がすと、俺に差し出した。
鱗は俺の手に渡されると、小さな盾に変形した。バックらーよりまだ小さな、直径十センチ程度の盾だ。こんなもので防御できるのか?
「その盾を持ってると我が主が何処にいても#妾__わらわ__#には分かるのじゃ。しかも意思疎通できる優れものじゃ。いつでも呼び出してくれればいいのじゃぞ」
これを持ってると俺の居場所が分かってしまうのか。だが、【亜空間収納】に入れてしまえば分からないだろう。あと三日は大人しく過ごしたい。ここはこいつの言い分を聞いて、大人しく帰ってもらおう。
「分かった。こうやって装備していればいいんだな。確かに小さいから腕に装備していても邪魔にはならんな」
「邪魔とはなんじゃ! それの見た目は小さいが、防御範囲は大きいのじゃ! しかも、打撃防御はおろか、魔法攻撃も防ぐ逸品なのじゃ」
ほぉ、そういう効果もあったのか。ならば以前にレディから貰った『短木剣』も、もしかしたら色々と効果があるのかもな。そういえば、魔法上げる効果があった気がするな。
シラアイカ特製の盾の説明を終えると満足したのか、龍群を引き連れて山へと戻っていくシラアイカだった。




