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03 第01話 脱走

 ……

 ……

 ……

 ……

「また来てやったぜ。ほらよっ」


 コロン


 魔石が一つ投げ入れられた。そう、彼は今、檻の中に入れられているのだ。

 最後の刺客が不発に終わった後から、部屋に檻が作られ、その中に入れられている。


「さぁて、今日はどこを狙うかねーっと」


 シュッ   カイン!


領主の三男アーノルドの投げたダーツは四男アスラムの胸に当たって弾かれた。


「なんだ? 今のは当たらなかったか? 偶々横に向いちまったか」

「……出て行け」

「ああ? 今なんか言ったか? ハハハ、お前しゃべれるんだな、初めて声を聞いたぜ」

「…出て行け」

「ああ? やっぱり何か言ってるぜ。俺には出て行けって聞こえたが、お前なにか勘違いしてねぇか? 俺はお前に餌を持ってきてやってるんだぜ? っと!」


 シュッ   カイン!


 言い終わり様にアーノルドが投げたダーツは、またもアスラムの胸に弾かれた。


「なんだぁ? お前何か着込んでんのか? どこでそんな知恵つけたんだ。大人しく刺されてろって。そうすりゃ次もちゃーんと餌を持って来てやっからよ! っと」


 シュッ   カイン!


 次は半袖服で隠れていない腕を狙ったが、やはりダーツは弾かれた。


「チィ、くそ面白くもねぇ。今日は辞めだ! 次の餌が必ず一週間後に来るなんて思うんじゃねぇぞ。反省して次来る時までに刺さるようにしとけ!」

 そう捨て台詞を吐くと、アーノルドは部屋から出て行った。


 アスラムは落ちているダーツと魔石をいつものように・・・・・・・拾うと収納に納めた。


 俺は、彼との融合に成功した。だが、それは奇跡などではなく彼が望んでそうなったとしか思えなかった。俺は彼に成り代わってしまったのだ。

 融合の時、俺はこのまま消滅して魂を少し上乗せするより、少しでも彼のためになればと想いを込めた。二人の魔王を倒した勇者の全ての能力を譲渡したいと願った。

 それは、彼に勇者になれと願ったのでは無く、少しでも生きて欲しかったから。俺の勇者の能力で、少しでも長く生きて欲しかったから……


 結果、俺の能力を譲渡できたのは良かったのだが、俺の記憶まで彼の中に流れてしまったようだ。俺の勇者としての酷い扱いを受けた記憶までが……あの、苦痛の百年の想いが……


 それが、彼の生への執着を断ち切る切っ掛けとなってしまい、彼の心は消えてしまった。否! まだこの身に彼が残っていると信じたい。この身の奥深くで眠っていると信じたい。いつか、彼が生への希望を取り戻した時、現れてくれると信じたい。

 俺の心が彼に流れてしまったように、彼の心が俺に流れて来たのだから。彼の母親が死んでからの非情な扱いや、それすらどうでもいいと思う彼の空虚な心が俺に流れて来たのだから。

 同じだ。勇者となってからの俺と同じ、屈辱の先にある空虚感を彼の中に見た。

俺は、いつでも代わってやれるように、それまでこの身体を守り通す事に決めた。絶対に彼が現れるまで、この身体を滅ぼさないと決意したのだ。




「まずは、ここから出るか」


 鍵開けの呪文もあるが、こんな鉄格子ぐらいなら素手で十分だろう。

 鉄格子を両手でそれぞれ握り、広げる。


 むっ! なんだ? この程度の鉄格子が一向に曲がる気配が無い。まさか……


「ステータス」


 名前 アスラム・ヴァン・ザッツェランド 男 15歳

 レベル 1

 種族 人族

 状態 飢餓

 HP 12/12 MP 9/9

 攻撃力 11 防御力 9 速さ 8

 器用 8 賢さ 20 運 3

 スキル 【武芸百般】【全魔法習得】【多重魔法】【魔力操作】【思考超加速】【多重列思考】【MP消費超減】【詠唱破棄】【身体超硬化】【身体超加速】【身体超強化】【無限再生】【超回復】【痛覚無効】【身体異常無効】【即死無効】【孤独耐性】【予見】【隠密】【察知】【威圧】【料理】【鍛冶】【調合】【結界】【鑑定遮断】【鑑定偽装】【調教師】

 アーツ (体術)Max(盗賊技)Max(暗視)Max(解体)Max(調理)Max(槌打ち)Max(採取)Max(語学)Max(算術)Max

 適正魔法 火・水・風・土・炎・雷・氷・闇・光・回復・空間・重力・合成・付与・日常

 ユニークスキル 【亜空間収納】【鑑定】【周辺探索サーチ】【地図マップ】【翻訳】【限界突破】

 称号 勇者 異世界人 渡り人 踏破者 殲滅者 剣聖 賢者 暗殺者 狙撃王



 …なんだ? スキルやアーツなんかは俺のままで、肉体が彼のものだからレベルが1なのか。

 なんというチグハグな……アンバランスにも程がある。

 ユニークスキルがそのままで、これだけスキルが充実してるのなら、そこそこ強い相手でも戦って死ぬ事は無さそうだが、レベルはある程度上げた方が良さそうだな。このままだと単体相手ならともかく、多数を相手取るのは厳しそうだ。

 だが、称号がそのままなのは助かるな。成長補正の高い『勇者』や『異世界人』などの称号があるのは有り難い。


 俺のスキルは殆どパッシブスキルだから常時発動しているものが多いんだが、それでもこの鉄格子が曲がらないのは基本ステータスが低すぎるのだろう。

 仕方が無い、道具も無い事だし、ダンジョンでよく使っていた鍵開け魔法を使うか。さっきのダーツだけでは少し細工が必要だしな。


 【周辺探索サーチ】スキルで周囲を確認する。どうやらここは地下室で、一階には誰もいないようだった。さっきの男は二階に上がってるようだ。


 難なく鍵を開け、念のため牢の鍵は元の通りに閉めておく。俺の使う魔法は、すべて体内の魔力を使い発動させる。なので、詠唱などしないし、静かに行動したい今の状況には合っている。


俺は階段へと上がると、あたりを物色した。どうやら一階のようだ。今までいた場所は、地下室だったのだな。

金目になるものは手当たり次第に収納した。食料、壁に飾ってある剣や槍。着れそうな服も収納した。


 この収納は召喚勇者は必ず持っているもので、俺も例に漏れず持っていた。

 収納スキルは非常に便利なスキルだ。物に触れるだけで『収納』と念じればいい。どこに飛ばされているのかは分からないが、亜空間だという話だ。植物は入れられるが動物が入れないので確認できた者は未だにいないという。

 収納した物を出したい時には手を前に出し『解放』と念じるだけだ。収容能力など考えた事も無い。いくらでも出し入れできるのだ。量もそうだが大きさも相当大きなものまで入れられる。龍を倒した後、そのまま収納したぐらいだ。体高三〇メートルの龍も余裕で入った。それ以上と言ったら船か。そう言えば長さ五〇メートルの船も収納した事があったな。

 しかも亜空間だからか時間経過しない。とても便利なスキルだ。


 そこで、ふと考えた。今まで俺が収納の中に持っていたものはどうなったのだ? さっきはいつもの癖で魔石とダーツを収納したが、【亜空間収納】の中までは確認しなかった。


 確認してみる。


 ……ある。全部ある。武器・防具はもちろん、アイテム、薬、素材、食材、など、帰還魔法を使う前まで持っていたものが全て【亜空間収納】にそのまま納まっていた。


「ふむ、これは助かるな。初めから最強装備できるのは助かる。だが、今のアスラムだと重い装備は難しいか。革系の防具と、剣はこれだな」


 【亜空間収納】から一本の剣を取り出した。


 『ファルコンソード』


 それほど頑丈ではないが、非常に軽い剣で、特殊効果『ダブル』も備えている。

 『ダブル』とは一振りすると、もう一振り分のダメージを与える事ができる効果で、左右対称攻撃の『ミラー』や、同じ軌道で追加ダメージを与える『シーケンス』などがあり、装備者の力量で色々と使い分けられるようになる。

 もちろん【武芸百般】スキルを持つ俺には完全に使いこなせる剣で、自慢の力作だ。

 作った頃には物足りない武器だったから、あまり使った覚えの無い武器なのだが。


 龍や上位の魔物には大したダメージを与えられないが、重い装備ができない今のアスラムの身体にはこの程度がちょうどいいだろう。


 さてこれからだが、この家からは出た方がいい。今までのアスラムの扱いを見る限り、この家ではアスラムを歓待していないのは分かる。

 殺すにも殺せないから監禁している状態なのだから。

しかし、この家から出るとなると追っ手が掛かるのは容易に想像できる。今まで殺そうと監禁してた奴が逃げたのだ。追わない方がおかしい。

 ならば、町を出て追っ手が掛からないぐらい遠くまで行けばいい。その為にも装備は必要だ。だが、追っ手が掛かるのは遅い方がいい。だから町の中では目立たず行動しよう。

 監禁の原因となっているのは、この黒髪と黒目だと思う。ダーツの男が何度か言っていたからな。ならば隠して脱出しないと後で面倒な事になりそうだな。


 着替える時間も惜しいので、一旦『ファルコンソード』も収納する。

 収納に色々入っているのが分かれば、これ以上家の中を物色する必要も無い。俺は再び【周辺探索サーチ】で周囲を調べる。

 家の外には何人も人がいるようだ。警備の兵士だろうか、規則的な動きでこの屋敷を回っている。


 兵士だと思ったのは、一階の造りや装飾品からの想像で、たぶん俺が魔王を倒した世界と、そう違わない時代背景だろうと想像できた。ならば中世ヨーロッパのような時代背景が同じではないかと推測したのだ。

 しかも、この屋敷はデカイ。この家の事はアスラムの記憶にもあまりないが、それなりの地位の人間なのは分かる。警備もあって当然だろう。

 魔力察知にも引っ掛かるところをみると、魔法もあるようだが、どうも俺の使っている魔法とは違う気がする。そのあたりも追々調べていこう。


 【周辺探索サーチ】を使い、警備がいない隙を縫って屋敷から脱出に成功した。警備というのは外には目が行くが、あまり中へは目が行かないものだ。まして、今は通常警備のようだし、脱出するのは簡単だった。

 次は町からの脱出だが、どこへ行っても高い塀に囲まれていて外に出られない。

 町並みとしては、脱出してきた屋敷周辺は広い通りだったが人通りが少なく、門に近付くにつれて道が入り組んで行き、人も増え始めている。

 【周辺探索サーチ】と【隠密】を使いながら人気を避け、町を囲む塀まで難なく辿りついた。


 俺の能力なら、こんな塀などひとっ飛びだが、今はまだ明るいから目立ってしまうだろう。やるなら夜だな。念のため、塀の上に結界が張られてないか、小石を拾い弱い魔力を小石に纏わせ投げてみた。

 石はなんなく通過したが、兵士が一斉に集結してきた。

 俺はすぐに【隠密】スキルで隠れたので見つかる事は無かったが、壁を越えての脱出は断念するしかなかった。

 無理をして見つかるより、安全に出る方法を考えよう。

 だが、時間もあまり無いのは事実だ。屋敷のものをかなり奪って来たからな。脱出したのがバレるのも時間の問題かもしれん。先に収納の中を確認していれば、あんな事をしなくて済んだのにな。

 今更後悔しても仕方が無い。が、こんなのはピンチにも入らない。さっさとこの町から出る手段を考えよう。



 町を囲んでいる塀を辿り、門の近くで潜み機会を待った。

 どうやって入出門をしているかの確認だ。潜んでる間に着替えも済ませた。ちょっと大きすぎるが袖や裾を折れば着れなくもない。上からフード付きのマントを被れば中は見えないから大丈夫だろう。顔もそうだが、黒髪と黒目を見られないように注意しなければな。このアスラムが監禁されてたのも黒髪と黒目のせいだったからな。


 門を見張ってる間に、食事を済ませる。収納の中にあったもので済ませた。と言っても、収納の中に入れてたものだから、さっき出来上がったようなスープとパンを食べた。

 自分で作って入れていたものだが、十分美味しいし、温かい。飢餓状態のこの身体にはちょうどいい食べ物だっただろう。


 装備も料理も俺が作ったものだ。

 一人で召喚され、仲間も無く協力者もいなかった勇者時代は、全て自分でやらなければならなかった。

 剣も魔法も斥候も探索も武具を作ったり料理を作ったり、すべて一人でやり通し、二人の魔王を倒したのだ。


 そうして門を見張ってる内に、ある傾向に気付いた。大体分かっていた事だが、この世界も同じとは限らないので見張って確認していたのだ。


 入門審査は厳重だ。だが出門に関しては温い。ほぼフリーパスと言ってもいい。

 出門時に声を掛けられてるのは商人と大きな荷物を持っている者たち。そして、フードを目深に被った者たちだった。

 ただ、フードを被っている者でも冒険者パーティの魔法使いには声が掛からない。

 流石にパーティ全員がフードを被っていると止められるようだが、パーティの中でフードを被っている者が一人か二人なら止められないようだ。


 出門に関しては難なく行けそうだが、子供一人では流石に出してくれないかもしれない。それは得策ではない。この門だけは目立たず取り抜けたい。

 このアスラムは十五歳だが、栄養が行き届いてなかったからか、ガリガリで背も低い。十分子供と判断されるだろう。


 そして、ある傾向を見出した。冒険者は全員フリーパスなのだ。なぜ冒険者と分かるかというと、俺も前の世界でやった事があるからだ。

 何人かでパーティを組んでる者が多数派だが、全員の装備が統一されていない。騎士や兵士なら全員が同じ装備をしている。商人や一般人は大した装備はしていない。見ただけで冒険者だと分かった。

 前の世界にも冒険者はいたし、この世界の冒険者も見た目が似ている。ここまで見た目が似ているのなら、この世界にも魔物がいて、その討伐を生業にしている奴らが冒険者で間違い無さそうだ。だったらギルドなんかもあるのだろうな。


 結論としては、冒険者に紛れる事にした。装備は何でもある。理想は五人前後のパーティで、新人のような奴らなら装備さえしていれば紛れ込んでも門兵には怪しまれないだろう。

 【隠密】も発動させれば成功まちがいなしだな。


 この【隠密】スキルだが、俺の持ってるスキルの中でも数少ないアクティブスキルだから、発動させていない時は普通の人同様に存在感はある。

 だが、一度発動させれば凄く影が薄くなる。しかし、消えるわけではない。見えているのに認知されにくくなるだけだ。だから、こんな人の多い門などでは、誰かが俺に気付く可能性もあるのだ。

 見つからずに出門する自信はあるが、念には念をというわけだ。



「あー! 遅刻だ遅刻―!」

「僕は何度も起こしたぞ! 起きない姉ちゃんが悪いんだ!」

「そんな事言ったって、起きれなかったんだもん! 今日は休憩無しで薬草採取を頑張るわよー!」

「えー。そんなの姉ちゃんのせいじゃんかよ! 僕はいつも通りのペースでやるって」

「ダメダメ! そんなんじゃ、今日は野宿になっちゃうよ」

「まさか姉ちゃん! まさか、また……」

「……頑張ればいいのよ頑張れば。そしたら今日の宿代も出るんだから」

「何度言ったら分かるんだよ! あれほどオーク肉は我慢してくれって言ってたじゃん! 何枚食べたんだよ」

「……五枚」

「そ…そんなに食べたの!? 僕だって偶には食べたいと思ってるのに我慢してるんだよ! なんで我慢できないのさ!」


 これはまた騒がしいのが走って来たな。ちょうどいい、あの二人は新人冒険者のようだし、あれに付いて行くか。

 あれだけ騒がしければこちらには注目は向かないだろうと思い、姉弟きょうだいと思われる二人の二メートル後ろにピッタリと付け追走を始めた。俺より頭半分低いし、歳は十二~三歳ぐらいだろうか、人数は二人と予定より少ないが、これだけ騒がしければ行けると判断した。


 【鑑定】をしてみると、予想通り姉弟きょうだいはレベル10にも満たない新人冒険者のようで、今から町を出て薬草採取に行くようだ。行き先の候補が二つあり、今はどちら採取場所に行くか二人で騒がしく揉めながら走っている。

やはりこれも予想通り、出門審査は二人には無さそうな勢いで走っている。恐らく毎日のように薬草採取に町の外に出掛けているのだろう、門兵も微笑ましく二人の姉弟に目をやるだけで、審査のために近寄って来る素振りも見せない。姉弟の方も走るスピードは落とさず、審査に立ち寄る気配は無い。


 門まであと十メートル。よし、これなら行けると思ったその時、急に姉の方が立ち止まった。先頭で走る姉が急に止まったので、弟がそのままドスンとぶつかってしまった。

一体どうしたというのだ?


「ブッ! 痛ぇーな姉ちゃん! なんで急に止まるんだよ!」

 姉が急に止まったので、弟は止まれずにぶつかってしまった。前がそんな状態なら俺も止まるしかない。その距離一メートル、ちょっと近すぎるか。


「クンクン…タック…あんたじゃないわね……クンクン…あれ? あなた誰?」


 !!


 見つかったのか? まさか、こんな低レベルの新米冒険者に俺の【隠密】が見破られたのか!?


「…俺が分かるのか」

「あなたいい匂いをさせてるわよねぇ。何食べたの? ねぇ、どんな美味しい物を食べたの?」


 匂い? さっき食べたスープの匂いか? …まさか、スープの匂いで俺の【隠密】が見破られるとは。こんな事は一度も無かったのだが……


「姉ちゃん! 初対面の人になに失礼な事言ってんだよ!」

「何食べたか聞くぐらい別にいいじゃない。あなただって気になるでしょ」

「僕は別に気にならな……くない! ホントだ! 凄く美味しそうな匂いがする!」


 鑑定結果、この子達は獣人である事は分かっていた。ネコ耳が付いてるから鑑定通りネコ系の獣人で間違いないはずだ。だが、それでも今までは【隠密】がこんな簡単に見破られた事は一度も無かった。

 まさか【鑑定偽造】や【鑑定遮断】で一部を隠してるのかと思ったが、その気配も見当たらない。俺の【鑑定】は異常なほど優秀だから、今まで【鑑定】で見破れなかった事は一度も無い。

とすると、本能で俺を見つけたのか……ネコの獣人、恐るべしだな。


 俺は【思考超加速】と【多重列思考】を駆使し、一瞬で結論を導き出した。

 【思考超加速】は常人の十万倍の速さで思考できる。一秒の間に俺は一日以上の時間をかけて考える事ができるのだ。

【多重列思考】は、その【思考超加速】をできる何人もの俺がいると考えれば分かりやすいか。二人だと別々に違う事を考えられる。だから【並列思考】(二重列思考とも言うが)だと【思考超加速】をしている俺が二人いるようなものだ。

 俺の【多重列思考】は最大七列使える。常人が一秒で考える所を、俺は一週間以上分の時間をかけてジックリ考えられるのだ。


 その【思考超加速】と【多重列思考】駆使し、出した結論は。

「お前達、このまま一緒に門を出てくれたら、依頼も手伝ってやるし、美味いものを腹いっぱい食わせてやるぞ。どうだ? このまま静かに一緒に門を出てくれないか?」

「「ホント!!」」

 俺は黙って肯いた。これ以上、ここで話はしないぞという意思表示でもあったのだが、この姉弟の反応は予想に反するものだった。


「分かったわ。これはパーティ申請ってわけね。歓迎するわ、ようこそ『惰眠を貪る猫スリーピングキャット』へ」

「僕も歓迎するよ。すぐに仕事に行きたいんだね、そういうやる気のあるメンバーは大歓迎さ」

「……」


 手を差し出してくる姉弟きょうだい。その手を握るかどうか逡巡する俺。【思考超加速】と【多重列思考】フル回転させ考える事、二秒。裏や表に考えを巡らせ、思いのほか時間が掛かってしまった。


 俺は差し出された手を握ると、早速行こうと姉弟を促した。

 姉弟は二人共ニッコリ笑って、俺を間に挟んで手を繋いだまま門を潜ってくれた。周りからは微笑ましい光景に見えただろうが、特に注目もされてなかった。

 イレギュラーはあったが、最初の目的はなんとか達成できた。あとは、約束を終わらせて町へ帰してやればいいだろう。

 対人スキルが低いせいか、町を出るだけで想定以上に苦労してしまったな。

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