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26 第24話 単独で行動


 聖龍のシラアイカと浜辺で別れて転移した俺は、王都の入門で並ぶ列の最後尾にいた。転移魔法は一瞬で思ったところに行けるので便利でいいのだが、行った事の無い場所には行けないのが難点だ。

 冒険者ギルドに転移してもよかったのだが、入門手続きもしてないのに王都の町に入るのも変かと思ったからだ。

 常識的に考えれば出入りのカウントは同じにしておかないといけないと思ったわけだ。

 俺も常識には慣れて来たからな、これぐらいの事は思いつくのだ。

 前に並んでる男が「いつの間に?」と、少しギョッとしてたが、軽い威圧を放つとすぐに前を向いていたので問題ないだろう。それ以降一度も振り返って来なかったから、俺も常識人として振舞えたようだ。


 ようは魔物の扱いと同じだ。大きな威圧を放つと逃げてしまうが、自己主張のための軽い威圧だと縄張りを示すのに留まり、隣人としてうまく住み分けできる事があるのだ。

 交渉決裂の場合は、まぁ戦う事になってしまうのだが、上手く行った場合には便利な場合が多かった。そういう奴に限って意外と強いものだから、他所から来る魔物の防壁になってくれたからだ。

今回は初めて人間相手にやってみた割りには上手くやれたようだな。


 後ろに並んできた奴も同様に「こんな小さいのに一人で大丈夫かい」と声を掛けてきたから軽く威圧してやった。

 入門まで何の騒ぎも起こらず、常識人として振舞えたようだ。

 後ろとの間隔は少し開いてたので、何度か入って来ようとする輩がいたが、そういう横入りをするような奴らには強めに威圧を放って追い出してやった。


 入門の列に並ぶ事一時間半。ようやく町に入る事ができた。

 その間、前を並ぶ男が何度かふらついていたから、気付かれないように【一指回復弾ヒール】を撃ってやった。

 一度、崩れるように座り込んだ時に【一指回復弾ヒール】を撃って立つのに手を貸してやった時は、俺の手が触れた途端、驚くほど素早く立ち上がったので元気な様子が確認できた。

 俺の回復魔法の威力も順調に上がって来ているようだな。


 王都の町にやって来たのは冒険者ギルドに寄るためだ。

 俺が用があるのでは無いのだが、時間もまだ早いから姉弟のランクがどうなったのか聞いておきたかったのだ。

 もし、姉弟のランクがAランクになってたのなら、今日か明日にでも出発を考えていたからだ。

 別に姉弟を連れて行かなくてもいいのだが、一緒に来ると言ってるし、俺としても戦術を指導した手前、もう少し成長を見届けたいと思ってるからな。


 冒険者ギルドに入ると、中途半端な時間のせいだろう、中はガラガラだった。

 朝の依頼争奪戦の時間帯と、夕方以降の達成報告や買い取りで混み合う以外は意外と空いてるようだ。

 今日も三つある受付窓口のいつもの窓口に向かう。

 そしていつもの受付姉さんが受け付けてくれた。


「あら、今日はやっぱり別々だったのね。あなたが裏でフォローしてるんじゃないかと思ってたんだけど」

 今日、受けた依頼のことだな。姉弟にはAランクになれる依頼を受けて来いと言ったのだが、ちゃんと依頼を受けたようだな。

 しかし、この受付姉さんには偽装のレベルを見られてるはずだが、俺が強い事は分かってるみたいだな。『森の主』の件で今更ではあるか。


「それは奴らも考えていたが断った。俺も用があったんでな」

「あなたが別行動で用ね……あまり聞きたくないわね」

「別に言うつもりは無いが、特に隠す事でも無いがな。食材の調達で山と海に行って来ただけだ」

「海!? 海ってここからだと一日で往復できる場所に無いんだけど……山もこの辺じゃ龍の山しか無いし……やっぱり教えてくれなくてもいいわ」


 聞き取り拒否をする受付姉さんだった。


「それで、用はなに? 依頼を受けてくれるの? それとも買い取り?」

「どちらでもない。あいつらのランクが気になって聞きに来ただけだ」

「あら、残念ね。あなたの出してくれたシャークダラーが好評でね、今回は凄く儲かっちゃったの。他にも無いかと思ってたんだけど」

「ほしいなら出すぞ」

 シャークダラーもまだ解体前のものもあるし、今日狩ったものでもいいだろう。多すぎるからな。


「ホント!? だったら後で買い取り窓口に寄ってね。何度か会ってると思うけど、熊獣人のグーマがいるから後は二人でやってね」

 私を巻き込まないでね。と、続けた受付姉さんだった。

何に巻き込むのか分からないが、こっちとあっちは完全に別になってるのだろうか。同じ冒険者ギルドだと思うのだが。

 そして熊? の名前がグーマか、もうクマでいい気がするな。


「あと、あの子たちのランクだったわね。今日の依頼を上手く熟せばAランクに昇格できると思うわよ」

「ほぅ」

「あなた達、盗賊団から女性を救ったんだってね。そういう事はちゃんと言ってくれないと査定に入らないのよ? 今回は偶々依頼が来て分かったから良かったものの、本来なら報告不備でランク降格ものよ?」


 盗賊の件は報告が義務なのか。今、ランク降格は困るから助かったな。

 だが、見つけたのではなく、排除したからいいのではないのか?


「報告? しかし、盗賊は全て倒したぞ。攫われてた女性達も無事だったはずだが」

「そういう問題じゃないの! 冒険者には盗賊の発見報告と討伐した場合の報告も義務付けられているのよ。冒険者ギルドの規則をリーダーから説明されてないの?」


 説明か。ミャールから説明は受けたが、薬草採取の説明しか受けてない。

 聞けば、姉弟はFランクだった事もあり、冒険者ギルドでは薬草採取の依頼しかしたことがなかった。魔物で討伐した事があるのは、薬草採取の時に出てくるネズミの雑魚モンスターぐらいだった。

 雑魚ネズミモンスターの討伐方法も薬草採取の注意事項で聞いたが、役に立った事は一度も無い。


 ならば、奴はなぜ俺が登録をした時に説明不要と言ったのだろう。自分こそリーダーとして説明を聞いておかねばならなかったと思うのだが。

 多少は弟のタックが知ってはいたが、所詮はFランク。大した情報は持ってない。

 盗賊なども自分達とは無関係だと思っていたのだろうな。出会った頃の姉弟だったら逃げられれば御の字なぐらい弱かったからな。


「説明か……なにか紙に書いた規則書は無いのか」

「紙? 紙なんて高級品があるわけないでしょ。樹の薄皮か、魔物の皮を薄くなめした魔皮紙ならあるけど、それでも規則を書いたものは高いのよ」

「なんだ、ここでも紙は高級品か。ならば、これを売ってやろう」


 ドンとカウンターに魔道具を置いてやった。プリンタのような箱を収納から出したのだ。


「これはなに? 話の流れからして紙に関係あるのかしら?」

「うむ、察しがいいな。これは紙を作る魔道具だ。こうやって、ここに樹属性の魔石をセットするだけで紙が出来上がるのだ」


 実践して、樹属性で直径一センチ程度のクズ魔石をセットした。

 そしてスタートレバーを倒すと、下からA4サイズのコピー用紙のような真っ白な紙がどんどんと出てくる。

 直径一センチのクズ魔石で、だいたい千枚の紙を製造する魔道具だ。


「か、紙!?」

「そうだ、紙を作る魔道具だ。これがあれば紙などいくらでも作れる」

「買った――――――!!」


 受付姉さんは「買った!」と叫ぶが早いか、紙製造魔道具を抱きかかえてしまった。

 その間も、シャコーシャコーと下から紙は出続けている。

 落ちた紙を拾いたいが、魔道具も手離せなくてアワワとなってる受付姉さん。

 仕方が無いのでカウンターに乗り上げ、動作レバーをOFFにしてやった。

 冒険者ギルドが空いてるのが幸いしたのか、騒ぎを聞きつけた隣にいた受付姉さんもやって来て紙を拾い集めてくれている。

 高品質な紙に驚きつつも、落ちた紙はすべて集められた。


「いくらなの」

「あん?」

「この魔道具をいくらで売ってくれるの?」

「今更だが、俺はお金の価値はあまり知らん。そっちで決めてくれ」

「……分かったわ。大金貨五〇枚でどう? 私の全財産よ」


 全財産? 個人で買う気か。大金貨五〇枚というのが多いのか少ないのか分からないが、金貨五〇〇枚分だから個人の財産としては多いのだろうな。


「冒険者ギルドで買うんじゃないのか」

「いいえ、私個人で買うわ。これだけの品質の紙をその程度の魔石で作り出せるのなら、すぐに償却できるもの。でも、私の見立てでも大金貨五〇枚だと少ないわね、貢献度も付けましょう。それと、今日の依頼で失敗する事は有り得ないとは思うけど、もしあの子達が今日の依頼に失敗してもAランクは保証するわ。依頼達成ならAA。あなたもSランクに昇格。これでどう?」


 個人で買うなら冒険者ギルドへの貢献度は付かないと思うが。


「公私混同だな」

「いいえ、私達受付とグーマにはギルドマスターから権限をもらってるの、ランクアップやダンクダウンのね。この魔道具は冒険者ギルドのためにもなって私のためにもなる。これ以上の貢献度はないわ!」


 胸を張って宣言する受付姉さんだが、自分のためにしかなってないと思うのは俺だけだろうか。


「それと、規則を書いたものだったわね」

 魔皮紙に書かれた規則書を出してくれた。


「これもサービスでつけるから、この魔道具は私のものでいいわよね」

 その規則書も、冒険者ギルドのものだから横領にはならないのか?


「俺は構わないが……」

「よし、決まりね! そうそう、あなたの事だから、まだ持ってるとか言いそうね」

「ああ、持ってるぞ」

「やっぱり……それを他所で売っちゃダメよ。もし売ったりしたらランクダウンさせるからね」

「あ、ああ……」


 やっぱり公私混同じゃないか。しかも“私”の部分が強すぎる。

 売る予定は無いが、ランクダウンも困る。ここは大人しく言う事を聞いておこう。

 大金貨五〇枚と規則書をもらい、買い取り窓口へと向かった。

 何か忘れてる気もするが、そのうち思い出すだろう。


「よぉ、小僧。今日は一人かい」

 買い取り窓口では、俺を見つけた熊? から声が掛かった。名前はグーマだったか。熊の獣人とか言ってたし、今後はクマだな。


「ああ、美味い食材が入ったからお裾分けだ」

「ほぉ、それは解体前か」

「そうだな、まだ解体はしてない」

「よし! 裏の倉庫に行くぞ! 付いて来い!」

 よほど嬉しかったのか、スキップで倉庫へ向かうクマ。タックよりデカいクマがスキップ……シュールだな。


 倉庫ではシーサーペント五体とクラーケン一体に飛龍ワイバーン亜龍ロウワードラゴンを五体ずつ出してやった。

 リヴァイアサンを出す気は無いし、火龍や地龍などの中級クラスも出す気は無い。美味いものは過剰でも持っておきたいのだ。


 それでもクマは大喜びで解体を始め出した。「お前ぇはSランクにしてやるぜ!」って言われた。さっき受付でも同じ事を言われたのだが、そんな簡単に決めてもいいものだろうか。


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