23 第21話 龍テイム
山頂から少し下りた地点に、ずっと動かない龍がいる。これは以前から確認していたのだが、未だに場所を動いてない。
強さを見る限り、この山で一番強い龍である事が分かるのだから、死んでいないのは明白だ。眠っているだけだろう。
この山で一番強い龍の近くに来てみると、ゴゴゴゴゴゴと、重低音の大音量が聞こえて来た。身体の芯まで響く音だった。
これは、アレか。龍のいびきか。
龍の息吹なら格好もつくが、龍のいびきとはな。ここまで侵入されても無反応とは、中々平和ボケした龍だな。頂上も守ってなかったところを見る限り、そうなのだろうな。
【隠密】を発動しているから、分からないのも無理はないかもしれない、ここからは【隠密】を解いて行こうか。
ここなら、他の龍が来る事も無いだろうから、余計な戦闘をしなくていいからな。
龍というのは縄張りに煩い。この山にいる奴らは多すぎて仲間意識も芽生えてるようだがな。
だが、流石にこいつのように上位の力を持った龍の所には、下位の龍は近付かないものだ。
まして、こいつは今眠っている。そんな場所に下位の龍がやって来ようもんなら大暴れしやがるからな。
【隠密】を解除した理由は、こいつを起こすためだ。まず、話の出来る龍なのかを確認しないといけない。話せない龍などに用は無い。そんな奴なら即、倒して俺の経験値となってもらおう。話せない龍など面倒なだけだ。命令には従順だがそれだけだ。
その点、話せる龍は色々と教えてくれるからな。
勇者時代も十数体、龍の下僕を持ってたが、地域の事や高級薬草や古代魔法にダンジョン情報など、有用な情報を教えてくれたからな。
龍は窪みの中で寝ていた。
洞穴と呼ぶには入り口が大き過ぎる、窪みと呼ぶのが正解だろう。
山の斜面をゴッソリとそこだけ刳り貫いた場所に大きな龍が寝ている。
地面には高級薬草が生い茂り、眠っている龍の少し脇には大きめの水溜りがある。水が湧き出ているようだ。いや、この匂いは酒か。あれは龍泉酒だな。あれは美味いのだ、あとで謙譲させよう。
龍のくせに、中々ゴージャスな環境にしているようだ。
【鑑定】
名前 ――― ♀ 5433歳
レベル 84
種族 龍(聖龍)
状態 正常(眠)
HP 32256/32256 MP 38852/38852
攻撃力 35123 防御力 33754 速さ 28666
器用 19005 賢さ 42209 運 45000
スキル 【龍眼】【龍術】【龍息吹】【飛翔】【魔力操作】【龍燐】【結界】【魔力壁】
アーツ (爪術)Max(尾術)Max
適正魔法 炎・嵐・氷・樹・聖
ユニークスキル
称号 龍の山の女王 慈愛の母 人間殺し 貯蓄家 大貪眠家
まぁ、デカイからな。これぐらいは予想の範疇だ。
体高も二〇メートルぐらいだから、申し分ない。もう少し大きい方が良かったかもしれんがな。
うっ……こいつ運が高いな……こいつは俺に喧嘩を売ってると見た。さっきの砂漠ショックも合わせて、お仕置きが必要だな。
爪術に尾術とは見慣れんアーツだな。レオフラフィにも覚えさせてみるか。
あとは、まぁまぁの強さを持っているようだが、まだまだだな。今の俺の半分にも満たないステータスだ。これなら武器も魔法も無くても勝てるな。
慈愛の母に人間殺しか。こいつは同族にとっては母なる存在なのかもしれんな。俺には全く関係ないがな。
しかし、ここまで近付いても起きる気配が無いとは……大貪眠家の称号のせいかもしれんな。
「惰眠を貪る大馬鹿か。確かに称号通りだ」
ゴゴゴゴゴゴゴと続いていた鼾がピタリと止まった。
どうやら俺の挑発が効いたようだ。
「なにやら小虫の羽音が煩いようじゃが、妾の聞き違いかのぅ」
美しい女性の声が聞こえた。どうやら話せる龍だな。
ならば瞬殺はしなくていいな、殺さずに利用してやろう。殺さずに倒す、それはそれで面倒なのだが、後の便利さを考えて我慢してやろう。
「ほぉ、やはり話せる龍だったか。お前の力を確認したが、大した事は無いな。だが、安心しろ。その程度の奴でも俺が保護して移動手段として使ってやろう」
「人間など、何百年振りじゃ。本来ならばここまで来た褒美でもくれてやるところじゃが、戯言をほざいて妾を起こした罪は重いのじゃ」
「ほぉ、弱いくせに物言いだけは一人前か。では、その罪にはどんな罰があるんだ」
「其方の死をもって償え」
【龍息吹・氷】
いきなり大量の雪が龍の口から放たれた。雪崩も真っ青な膨大な雪の量に、大量の氷塊を塗した雪のブレスは一瞬でアスラムを覆い尽くした。
アスラムどころか、龍の前方を雪と氷が埋め尽くした。遠くから見ると、山から大量の雪が噴出されたように見えただろう。色が赤ければ、噴火と間違われたに違いない。
だが、アスラムには通じなかった。アスラムの前でブレスが左右に分かれ後方に延びて行く。アスラムは無傷、アスラムの真後ろも全くブレスの影響を受けていなかった。
アスラムは微動だにせず立っているだけ、腰にはレディの木剣はあるが抜いていない。更に言うと、今の装備は駆け出し冒険者の着る皮鎧にしか見えないものを着ている。実際は龍の皮から作られているので防御力は高いのだが、今回のアスラムは装備の能力にすら頼っていなかった。
「バ、バカな。たかがレベル25程度の人間が、妾の【龍息吹・氷】に無傷で立っているなど有り得ぬ」
龍のブレスも龍の体内で練られた魔力での攻撃だ。俺が魔法を放つ方法と同じ原理なのだ。魔力操作が相手より上なら、ドラゴンブレスだろうが簡単に操れる。
今回は相手にそのまま返す必要は無いので左右に受け流した。たかがこの程度のブレスなら方向を変えるぐらい造作も無い。
龍のくせにステータスを確認したのは立派だが、やはりこの程度の奴なら【鑑定偽装】を看破できないか。龍神には見抜かれたのだがな。
「やはり、この程度か。俺は今、ある理由で少し発散したい。死ぬなよ」
一息で倒してしまっては発散ができないと思い、腰の木剣は抜かず鋼の剣を出し手に持つ。
鋼の剣だと龍の防御力に太刀打ちできずに折れるだろう。だが、それでいい。俺の【武芸百般】があれば、ひと太刀分のダメージのいくらか通る。鋼の剣など何本でもあるのだ、こいつが許しを請うまで痛めつけてやればいい。
たとえ、それで死んでしまっても問題ない。次の龍を見つければいいだけだ。
まず、ひと太刀目だ。中級以上の龍と対峙する時には必ず一撃目は逆鱗と決めている。
だいたい、顎下あたりに一枚だけ付いている逆さ向きの鱗の事だ。個体によっては別の場所に付いている場合もあるが、龍は必ず逆さ向きに付いてる鱗を持っている。
龍はそこを攻撃されると激怒するのだ。激怒すると見境無く攻撃してくるので逃げられる心配が無い。だから、ひと太刀目は逆鱗と決めているのだ。
「ふんっ!」
龍までの間合いを一気に詰め、鋼の剣を逆鱗に突き刺す。
予想通り、剣は折れたが剣先は僅かに突き刺さっていた。
鋼の剣だから振ってはダメだ。折れるだけでダメージはあまり通らない。こういう脆い剣は突くに限る。
次の鋼の剣をすぐに用意し、二撃目に移る。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 参った! 参ったのじゃぁぁぁぁ!」
「へ?」
二撃目はまだ入ってない。あまりの降参っぷりに、二撃目を構えたまま固まってしまったのだ。
「は、早く抜いてたも、早く抜くのじゃあぁぁぁぁ! 痛いのじゃあぁぁぁ!」
ぎゃあぎゃあ煩くて話もできないから、逆鱗に刺さった剣先を抜いてやった。
「回復もじゃ、回復魔法もしてたもー!」
「お前もできるだろ」
「はっ! そうだったのじゃ!」
【回復息吹】
龍の口から出たブレスが、俺を通り抜けていく。おお、これは中々気持ちがいい。
「ダメなのじゃ! 妾のブレスは自分には向けられないのじゃー!」
……こいつ、大丈夫か? 色々と心配なのだが……
はぁ、この世界で初めて出会った話せる龍だし、話をするためにも回復してやるか。
【一指回復弾】
身体は大きいが、傷は一箇所だ。これで十分だろ。
「あはぁ~、気持ちいいのじゃ~」
艶のある声で呆ける龍。デカイ龍が呆けて艶っぽい声を出す姿は中々シュールだが、これから俺の移動手段にするには心配にもなってくる。
「おい、龍」
「これは失礼したのじゃ。お見受けした所、貴方様はレベル25と【龍眼】で鑑定されたのじゃが、まるで勝てる気がしないのはなぜじゃ? 妾が見破れぬ偽装など有り得ぬのじゃが」
「お前程度に見破れるようなら、俺はここには立っていない。だが、降参するのが早すぎだぞ」
「妾は勝てぬ勝負はせぬ主義じゃ。とはいえ、妾に勝てる者も少ないのじゃがな。じゃが、貴方様からは圧倒的強者の気配を感じてのぅ、すぐ様降参したのじゃ」
ほぅ、鑑定で見せているレベルやステータスを鵜呑みにせずに降参したか。そこは評価できるな。
「お前程度の龍にしてはやるものだ。褒美に俺の本当の力を見せてやろう」
称号だけは隠し、他は【鑑定遮断】と【鑑定偽装】を解除し、【龍眼】でも本当のステータスが見えるようにしてやった。
俺の口から言うより、自分で見た方が納得するだろう。
名前 アスラム・ヴァン・ザッツェランド 男 15歳
レベル 374
種族 人族
状態 正常
HP 124880/124880 MP 131212/131212
攻撃力 121879 防御力 119921 速さ 122156
器用 140015 賢さ 163382 運 34
スキル 【武芸百般】【全魔法習得】【多重魔法】【魔力操作】【思考超加速】【多重列思考】【MP消費超減】【詠唱破棄】【身体超硬化】【身体超加速】【身体超強化】【無限再生】【超回復】【痛覚無効】【身体異常無効】【即死無効】【孤独耐性】【予見】【隠密】【察知】【威圧】【料理】【鍛冶】【調合】【結界】【鑑定遮断】【鑑定偽装】【調教師】
アーツ (体術)Max(盗賊技)Max(暗視)Max(解体)Max(調理)Max(槌打ち)Max(採取)Max(語学)Max(算術)Max
適正魔法 火・水・風・土・炎・雷・氷・闇・光・回復・空間・重力・合成・付与・日常
ユニークスキル 【亜空間収納】【鑑定】【周辺探索】【地図】【翻訳】【限界突破】
称号 ―――
まだ、魔王を倒した時の1/10程度のステータスだが、着実にレベルは上がってるな。『森の主』や、ここの龍群がいい経験値になってくれたようだ。
だが、なぜ運だけが上がらん、この身体はアスラムのものなのだが……
勇者時代から運だけは上がらなかったからな。アスラムも、俺と同様に運の無いやつだったのか。やはり、運気アップアイテムを開発するしかないな。
「失礼しましたのじゃー! なんなりとお申し付けくださいのじゃー! もう妾は貴方様の下僕ですのじゃー!」
のじゃのじゃ煩いが、俺のステータスが確認できたのだな。
【鑑定遮断】と【鑑定偽装】を再び設定しておく。これからはレベル40にしておこう。




