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22 第20話 別行動


 ……さて、目的の、そう大目標だったAランクにはなれたから、すぐに国境を目指したいところだ。他に何かあったみたいだが、全部忘れる事にした。

それを知った姉弟も着いて来ると言い張る。

 こいつらは、ここで冒険者として活動すればいいのではないかと言ったのだが、王都は獣人には住み辛い場所のようで、姉弟は長居したくないのだそうだ。

 確かに、ギルドでの応対は差別は感じなかったが、飯屋に行った時は周りからの妙な視線は感じた。席も、あえて隅の方へ追いやられた気がする。俺達が田舎者だからかとも思ったが、差別的な意図があったのかもしれんな。

 ならば、元のザッツェランドに戻ればいいと思うのだが、俺に着いて来たいと言うのだ。


 実力的には、まだまだなところはある。姉弟程度なら魔王の側近にも瞬殺されるだろう。だが、森や街道の移動中なら自分の身ぐらいは守れそうだし、自分達の食い扶持も自分達で何とか出来そうだ。

 なぜ俺に着いて来たいのかは知らんが、俺の邪魔さえしなければ問題ない。もう少し鍛え上げたいと思ってたところだし、着いて来ると言うならちょうどいい。戦術や装備も含め、鍛え直してやろう。




「なんで、レオと戦う事になってるのよー!」

「そうだよ! レオは、もう『森の主』なんだよね? 僕達に敵うはずがないってー!」

 そう、今日は朝から装備を一新させ、新しい戦術を叩き込んでいるのだ。


「しゃべってるとレオフラフィの攻撃が来たら避けられないぞ。そら、タックはガードだ」


 タックには、大柄になった体格に合わせ、『大地盾アースシールド』と『嵐斬大剣ストームソード』を持たせている。

 以前の俺でも、大き過ぎてどちらか片方しか持てなかったので殆んど使ってなかったものだが、今のタックにはその大剣を振り回す膂力もあるし、サイズ的に行けそうだ。

 なぜ、そんなものを作ったのかというと、色々と戦術を試行錯誤した時期があったのだ。俺の力に合ったもので戦った方がいいのか、相手に合わせた装備で戦った方がいいのか。遠距離攻撃のものや杖やハンマーなど多種多様に渡り、作り持っている。


 ミャールに持たせた双剣も、その内の一つだ。

 タックには大防御と大破壊を主とした武器を持たせ前衛特化型にし、ミャールにはタックが防ぐとすぐに反撃に出られるように速度重視の装備をさせた。

 『疾風剣ゲイル』と『迅雷剣サンダクラップ』の双剣は、同時に装備すると身体速度上昇効果が絶大な双剣だ。攻撃力1500というのも、十分ミャールの力の底上げに役立ってくれるだろう。通常の剣よりやや短めの双剣は、一呼吸での連撃数アップにも役立つだろう。

 素早く躍り出て斬るというのは、タックの盾役との相性も抜群だろうな。あと、中・遠距離攻撃役と回復役がいれば完璧か。

 回復役ね……いるか?


 レオフラフィには、物理防御効果が絶大の首輪を装着させ、姉弟には最大出力で攻撃させている。

 レオフラフィの見た目が飼い猫のようになってるが、レオフラフィの鋭い攻撃に、姉弟も首輪を気にしている余裕は無いようだ。

 手を抜いて攻撃させてるとはいえ、レオフラフィの攻撃に当たると大ダメージを受けるからな。

 それでもタックはレオフラフィの攻撃を真正面から受け止めているし、ミャールもタイミングよく反撃に転じている。やはり姉弟だけあって息も合うようだ。


 AAAランクになった翌日、森でレオフラフィを相手に丸一日掛けて戦術訓練をし、その日は昨日に続いてまた森での野営になった。昨日は高額な報酬も入った事だし、豪華な宿を取ろうと探したのだが、悉く門前払いを食ってしまったのだ。

 獣人お断りや、冒険者お断りと言われ、全ての高級宿で断られたのだ。

 中級の宿を取るぐらいなら野営の方がいいと姉弟が主張するので、また森でレディの用意する野営となったのだ。

レディの用意する野営を野宿と呼んでもいいのかどうか微妙なところだが、王都に戻って宿を取るより気を使わなくていいかもしれない。不味い料理を食わなくても済むしな。



 翌朝、朝食中にタックから質問を受けた。

「ねえ、アスラム。隣の国にはいつ出発するの?」

「お前達次第だな」

「あー、国境を越えるための許可だね」

「たしか、一ヶ月は掛かるって言われたのよね」


 姉ミャールが言うように、Bランクの姉弟が国境を越えるためには国の許可を得なければならない。

 その申請を出して許可が下りるまで一ヶ月掛かると言うのだ。さすがに、そこまで待つ気は無い。いつ追っ手が来るかもしれない俺には時間が無い、さっさと姉弟のランクをAまで上げたいのだ。


「だから、お前達は冒険者ギルドに行って、どの依頼を熟せばAランクに上がれるかを聞いて、さっさと達成して来い」

「また私達だけで?」

「そうだよ、アスラムも手伝ってよ。その方が効率がいいって」

「俺がいると、俺の評価になってしまうぞ。そうなるとお前達のランクが上がらない。お前達だけで力を示して来い」


 たしかにそうかも。と納得のタック。だが、ミャールは納得が行かないようだ。


「だったら、アスラムはその間なにするの? 隠れて私達を手伝ってくれてもいいじゃない」

「俺は少し用がある」

「またそんな事言って誤魔化す! これはリーダー命令よ! アスラムは私達を手伝う事!」

「姉ちゃん? アスラムにリーダー命令が効かないって分かってるよね? もちろん僕にも効かないけど」

「むぐぅ……」


 悔しそうに押し黙るミャールを無視してタックが尋ねてきた。


「アスラムの用ってなに?」

「大した事じゃない。あの山に行って来るだけだ」

 そう言って、北の山脈を指差す。


「え? あの山って龍の巣があるから誰も近付かないんだよ。まさか、龍退治に行くの?」

 龍退治か。それもいいな。龍は美味いからな。


「そうだな、ついでに獲って来るのもいいな。龍は美味いからな」

「えっ!? 龍って美味しいの?」

「アスラムが美味いって言う龍……ジュル。リーダー命令変更よ! ジュル…アスラムは龍を獲って来る事! これは絶対よ! ジュル」

「ダメだよ、姉ちゃん。いくらアスラムが強いからって、龍には敵わないよ。無理言わないでよ…ジュル」


 タックのセリフには説得力が無いが、姉弟の食い意地も相変わらずだな。

 しかし、この世界の龍は強いのか? 周辺探索サーチで確認できる限りだと、そうでも無さそうだが。


「そうね、美味しい肉は食べたいけど、龍は無理よね」

「当たり前じゃないか。勇者様でも無ければ龍に敵うわけないよ」


 勇者だと龍に勝てるのか。ならば龍に勝ってしまうと勇者認定されるのか?

 どの道、勇者になどなる気は無い。称号には付いてるが、隠し通せるだろう。もし、アスラムが復活して勇者になりたいと思えば、それはアスラムの自由だ。好きにすればいい。そうなった時に俺がどうなってるか分からないがな。


「今のお前達でも亜龍ワイバーンぐらいは狩れると思うが。まぁ、ついでだ。美味そうな奴を獲って来てやろう」

「ホント!? ほらタック、リーダー命令が効いたじゃない」

「いや、今のは命令を聞いたってより、お願いをついでに聞いてもらったって感じだよ。でも、無理しちゃダメだよ、アスラム」

「どっちでもいいの! 美味しい肉が食べられるんなら、それでいいの!」

「それは僕も賛成だけど。じゃあ、僕達は冒険者ギルドに行って言われた事をしよう」

「仕方が無いわね、ドラゴン肉のためだものね。ジュル」

「違うよ! Aランクになるためだから!」



 姉弟を見送ると、俺はある目的の為に北の山脈に向かった。

 前回は、盗賊に襲われていた女性達を救うために、結局行けなかったのだが、そうそう頻繁に起こる事でも無いだろう。

 前回、気になった龍の反応は、未だに動いてない。休眠中なのだろうか。

 龍の休眠は、長ければ百年以上も眠り続けるというから、もしかしたら休眠中なのかもしれない。


 気になる龍の反応は、山頂近くにあるので、ついでに山の向こう側も見て来てやろう。この世界に来てから、まだ海の幸を食ってないので、もし海があれば海の幸も獲りたいところだ。


 勇者時代は過酷だった。肉体的にも過酷だったが、精神的には特に過酷だった。

 そんな過酷な状況を癒してくれるのが美味い食事だった。

 だから、俺は味には煩い。不味いものに癒しは無いから手は出さないが、美味い素材は何としてでも手に入れた。美味い素材の中でも、龍は上位にランクしていた。この世界の龍も楽しみではある。同様に楽しみなのが海の素材だ。

 やはり、肉ばかりじゃなく魚介類も欲しいところだ。海老や蟹も捨て難いしな。


 美味い料理を想像していると、すぐに山の麓に辿り着いた。ここまで一時間程度か。ま、帰りは一瞬だし、少し時間を掛けて山菜を採るのもいいな。時期的には少し遅いが、山の上の方に行けばわらびなどもあるかもしれないからな。


 メインの目的は、やはり龍なのだが、あの動いてない奴が一番強くて良さそうだ。

 ガルーダも良かったが、アッシーは龍の方がいい。攻防力が違うからな。

 速いだけならガルーダの方が速いかもしれんが、それもレベル90を超えるガルーダならばだ。この山で眠っていると思われる、動いてない龍はレベル80はありそうだから、いい移動手段になってくれるだろう。


 山頂を目指すにあたり、思いのほか龍が好戦的だったので一苦労した。数が多いのは分かっていたのだが、仲間意識が強いのか、一体倒すと次から次へと現れるのだ。

 一体目の龍は火龍だった。【一指氷弾アイスバレット】で眉間を一撃で倒した。だが、運悪く近くにもう一体いたのだ。そいつは向かって来るかと思いきや、警戒音の鳴き声を上げやがったのだ。


 それからは、もう次から次へと龍が溢れて来た。これは珍しい、龍に仲間意識あるとは。

 前の世界では、共食いはしなかったが龍が共闘などしなかったのだがな。

 俺としては、美味い食材が向こうからやって来るのだ。これ程有り難い事は無い。

 だが、二百を越えたあたりで飽きた。その後は【隠密】スキルを使ってなければ、未だに龍との戦闘をしていただろう。

 もう、俺一人なら一生龍肉だけを食っても余るほど手に入れたのだ。別に虐殺をしたいわけじゃない、また足りなくなったら狩りに来ればいいだけだ。足りなくなるとは思え……足りなくなるかもな。

 姉弟の顔を思い出し、少し憂鬱になるアスラムだった。


 本当に、ここは最高の料理素材の…いや、龍の宝庫だった。

 火龍を初め、地龍、風龍、水龍、雷龍、氷龍、闇龍、などの中級クラスから亜竜、飛龍などの低クラスまで、種類が豊富だった。

 レベルは20~40までだったが、人間とは基礎ステータスが違うから中級クラスの龍のレベル40だと、人間に換算するとレベル400ぐらいにはなるか。通常はレベル99でカンストだから、400までレベルを上げられるとすれば勇者ぐらいか。

 だが、俺に掛かれば苦手属性の【魔法弾】で一撃だ。一撃で倒さないと美味く無いからな。


 各々の龍に向けて、【十指弾】でそれぞれ属性を変えて放ち、一発で首を吹き飛ばすだけ。得意の【十指多属性弾レインボーフラッシュ】だ。

いくら龍の防御力が高いと言っても、苦手属性なら攻撃は通る。今の俺の【魔法弾】なら攻撃さえ通れば一発で首を吹き飛ばすぐらい楽勝だ。


 ま、話せる奴もいなかったし、古龍クラスに比べれば楽勝だ。レベリングのためのいい経験値にさせてもらった。

 後の素材回収が面倒だったがな。


 【隠密】で隠れて移動してからは龍との戦闘も無くなり、先に気になる山頂へ向かった。もしかしたら、海があるかもしれんからな。



「……こんなところでも運の悪さが出てしまったか」

 山頂に登って景色を見ての感想だ。

 山脈の向こう側は砂漠だった。ずっとずっと砂漠の海が続いているだけだった。海は海でも砂漠の海だった。

 砂漠の向こうには、もしかしたら海があるかもしれないが、この砂漠を越えるのは厳しいな。

 俺だけなら経験もあるから行けなくも無いだろうが、姉弟を連れてとなると、無理だろうな。


 ガッカリと肩を落とし、怒りの矛先を向ける相手を探した。

 少し下れば龍が寝てるだろうから、あいつらで発散させてもらおうか。

 おっと、そうだった。今日の目的は龍をアッシーにする事だった。海を期待したのに真逆の砂漠だったためにショックで忘れていた。まずはそっちの交渉だな、このやり場の無い怒りも含めた俺流でな。


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